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前編
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「貴方とは婚約破棄ですわ」
第二王女の言葉に、 彼女の婚約者たるリュートは狼狽える。
「何故ですか!?」
「だって貴方、私よりもモフモフの方が好きなのでしょう?」
「それは、」
そのモフモフの世話係なのだからモフモフと過ごす時間が多くなるのは当然だ、とリュートは言おうとした。しかしその前に、第二王女が微笑んで告げる。
「私の代わりにモフモフを差し上げますから、二度と私の前に現れないでくださいまし。これはお父様も了承していることよ」
「……承知いたしました」
リュートはそう言って去るしかなかった。モフモフを抱いて、城を出ていく。
モフモフは第二王女が街中で拾ってペットにした動物だ。もふもふしているからという理由で安直に「モフモフ」と名付けられたのだが、何の動物かよく分からない。
ため息を吐きながらとぼとぼと歩くリュートの腕の中で、モフモフは楽しそうにキュウと鳴いた。
リュートが王都の外れにある実家に帰ると、両親が待ち構えていた。
父親は告げる。
「庶子に過ぎず、大した才能もなく、王家との繋がりを持つという役目すら果たせないお前は、公爵家に相応しくない。勘当だ」
「そんな……」
モフモフを抱く手に力がこもる。どうにか事情を説明しなければ、と思うが、言葉がまとまらない。
立ち尽くすリュートに、血の繋がらない母親が冷酷な声を浴びせた。
「あんたなんて、ここから遠く離れた田舎でのたれ死ねば良いのよ。ほら、さっさと消えなさい。今後もし王都で見かけるようなことがあれば、殺してやるわ」
「お前、そこまでしなくて良いだろう」
公爵が呆れたように言うが、公爵夫人は言い返す。
「旦那様の慈悲深さには頭が下がりますわ。しかし、陛下からの書状にも『リュートを王都から追放しろ。リュートが王都にいるところを誰かが見たら、家ごと潰す』と書かれていたではありませんか!」
「そうは書かれていなかっただろう」
「言葉は違いましたが、結局はそういう内容でしたわ! だから絶対に、リュートが王都にいてはならないのです!」
「それはそうだが……」
公爵は困った顔をしつつ、リュートを見つめた。
「そういう訳だ。王都から出てくれるな? 辺境へ行ってくれるのが望ましい」
「……はい。期待に添えず申し訳ありませんでした」
リュートは諦めたようにそう言って、踵を返す。
幸い、行くあてはあった。学生時代の親友が辺境の地で暮らす貴族で、「何かあったらいつでも頼ってくれよ!」と言ってくれていたのだ。
落ち込んでいても仕方がない。辺境でスローライフを満喫しよう。そんなリュートの思いに応えるように、モフモフはキュ! と鳴いた。
こうして、3週間かけて辺境へと足を運んだリュートは、親友とその家族から歓待を受け、その屋敷でモフモフの世話をしながらのんびり楽しく暮らすことになったのだった。
第二王女の言葉に、 彼女の婚約者たるリュートは狼狽える。
「何故ですか!?」
「だって貴方、私よりもモフモフの方が好きなのでしょう?」
「それは、」
そのモフモフの世話係なのだからモフモフと過ごす時間が多くなるのは当然だ、とリュートは言おうとした。しかしその前に、第二王女が微笑んで告げる。
「私の代わりにモフモフを差し上げますから、二度と私の前に現れないでくださいまし。これはお父様も了承していることよ」
「……承知いたしました」
リュートはそう言って去るしかなかった。モフモフを抱いて、城を出ていく。
モフモフは第二王女が街中で拾ってペットにした動物だ。もふもふしているからという理由で安直に「モフモフ」と名付けられたのだが、何の動物かよく分からない。
ため息を吐きながらとぼとぼと歩くリュートの腕の中で、モフモフは楽しそうにキュウと鳴いた。
リュートが王都の外れにある実家に帰ると、両親が待ち構えていた。
父親は告げる。
「庶子に過ぎず、大した才能もなく、王家との繋がりを持つという役目すら果たせないお前は、公爵家に相応しくない。勘当だ」
「そんな……」
モフモフを抱く手に力がこもる。どうにか事情を説明しなければ、と思うが、言葉がまとまらない。
立ち尽くすリュートに、血の繋がらない母親が冷酷な声を浴びせた。
「あんたなんて、ここから遠く離れた田舎でのたれ死ねば良いのよ。ほら、さっさと消えなさい。今後もし王都で見かけるようなことがあれば、殺してやるわ」
「お前、そこまでしなくて良いだろう」
公爵が呆れたように言うが、公爵夫人は言い返す。
「旦那様の慈悲深さには頭が下がりますわ。しかし、陛下からの書状にも『リュートを王都から追放しろ。リュートが王都にいるところを誰かが見たら、家ごと潰す』と書かれていたではありませんか!」
「そうは書かれていなかっただろう」
「言葉は違いましたが、結局はそういう内容でしたわ! だから絶対に、リュートが王都にいてはならないのです!」
「それはそうだが……」
公爵は困った顔をしつつ、リュートを見つめた。
「そういう訳だ。王都から出てくれるな? 辺境へ行ってくれるのが望ましい」
「……はい。期待に添えず申し訳ありませんでした」
リュートは諦めたようにそう言って、踵を返す。
幸い、行くあてはあった。学生時代の親友が辺境の地で暮らす貴族で、「何かあったらいつでも頼ってくれよ!」と言ってくれていたのだ。
落ち込んでいても仕方がない。辺境でスローライフを満喫しよう。そんなリュートの思いに応えるように、モフモフはキュ! と鳴いた。
こうして、3週間かけて辺境へと足を運んだリュートは、親友とその家族から歓待を受け、その屋敷でモフモフの世話をしながらのんびり楽しく暮らすことになったのだった。
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