エレメンツハンター

kashiwagura

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第3部 ルリタテハ王国の空人の本気

第2章-3 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい

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 カウントダウンが始まる直前、ネルソンはアキトのシミュレーター後部の大型ディスプレイの前に来た。指揮官の適性が高く、将来的にサムライの大隊以上の部隊長になる気でいるネルソンは、アキトの作戦指揮を見学するつもりなのだ。
 サムライの標準機体”ラセン”を選択したアキトは、主兵装を大型レーザービームライフル”遠雷(エンライ)”にする。予備兵装はレーザービームライフル”雷(イカヅチ)”とし、接近してきた敵の対策を施していた。つまり機体と兵装は、遠距離で指揮するための、基本に忠実な構成になっている。
 しかもアキトは、自陣の後方で戦場全体を見渡すように、全方位索敵表示システム”全索表シス”を設定していた。
 サムライの全方位球体ディスプレイをシミュレーター後部の大型ディスプレイで再現できない。故にパイロットから見える範囲を表示している。
 しかし、全索表シスはパイロットと同様に球体状の3次元ホログラムで、大型ディスプレイの前に全く同じものを再現している。
 自分の目指す方向と同じパイロットのシミュレーター後部が、一番勉強になる。己の実力を伸ばし、自分の価値に相応しい処遇を貪欲に求めているネルソンにとって、アキトのシミュレーター後部が一番勉強になるはずだった。
 通常の戦闘シミュレーションであれば、ネルソンの想像通りの役割分担になる。しかし才能の塊ゆえ、新開家の期待を裏切り続けた男”新開空人”。相棒は、人生という名の舞台を自由に生きる男”宝翔太”。2人はネルソン如きの期待なぞ、紙ペラより容易に破ってみせるだろう。
「コクトウ?」
 ラセンの兵装ステータスの中で、目新しい文字を見つけ、ネルソンは思わず呟いた。
 シミュレーターの右横に回り込み、ラセンの外見の映像を呼び出した。
「後ろ腰に刀を佩いている。あれは、今年から実戦配備された最新兵装だったか・・・」
 ダークエナジーと高周波を併用した最新の兵器”コクトウ”は、今年になって王国軍に正式装備として採用されている。正式採用前にジンが、ミルキーウェイギャラクシー帝国の人型兵器”コスモナイト”を両断して実戦デビューを果たしてはいるが・・・。
「刀なんて宙の戦場で使い物になるのか? それなら命中率が下がるのを甘受して、雷に銃剣を装備した方が良いのでは? まさか、ただ単に使ってみたかったとか?」
 人型兵器同士の戦いにおいて、距離を詰めつつレーザービームを撃ち合っていると、稀に近接戦闘になる。その際は、レーザービームの砲身下部に装着した銃剣を使用することもある。
 しかし、上腕と向こう脛に収納してある高周波ブレードで戦うのが主となる。腰の両側に標準装備の砲身可動式一門の短距離レーザービームを使用したりもするが・・・。
 ただし、短距離レーザービームではサムライの斥力装甲を貫けない。
 そもそも短距離レーザービームは人型兵器と戦うための武器ではない。陣地内の施設や戦艦内部で、敵を制圧する武器なのだ。
 斥力装甲に覆われていない部分に、ピンポイントで命中させられればダメージを与えられるので、一応使用される程度である。
 人型兵器同士の近接戦闘でコクトウを使用する教範は存在しない。それは、こらから戦闘演習を通して体系化され、教範となるからだ。当然、士官学校のカリキュラムに、コクトウを使用したサムライの戦闘演習はない。
 アキトがコクトウを使用した戦闘演習をしていたこと。しかも、ジンによる手解きであったことなどネルソンは知る由もない。
「エレメンツハンター学科なんていう新しい学問の教授になるぐらいだから、新しいモノ好きで、とにかく使ってみたいという感じか。自分より若いし、新しいオモチャ感覚なのか? 兵器なんだが・・・」
 ネルソンは溜息を吐いた。
 生マジメな性格だけに、お宝屋のカラーとは肌が合わず。そのお宝屋と仲の良い少年教授のアキトとも距離を置いていた。講義はマジメに受講し、ある程度アキトのスキルや知性、能力を評価している。しかし精神的に未熟すぎるため、積極的に親しくはなるまいとネルソンは考えていた。
 自分の年齢が20歳で、17歳のアキトと3歳しか違わないのに・・・。
 アキトの実戦経験と研究開発成果を知らないのに・・・。
『翔太、じゃあ全部任せっから』
 5秒のカウントダウンが始まった時、アキトが翔太に通信したのだ。
『うんうん、全然ホントに全く以って、一向に構わないさ』
 両拳を力いっぱい握り締めたネルソンの視界は、激情で朱に染まった。
 絞り込んだ声量には、濃く憤怒が滲んでいる。
「クソがっ! アイツら舐めやがって。ふざけてんのか」
 ネルソンは中央にある講義用スペースに戻り、扇要の上空に浮かぶ巨大ディスプレイを睨みつける。扇要にいるゴウ達は、講習者席の上空に浮かぶ巨大ディスプレイを眺めていた。
 講義スペースに浮かぶ2つの巨大ディスプレイは、全く同じ内容を表示する。2つあるのは、講師用と受講者用だからだ。
 ただし、シミュレーターのディスプレイとは表示される内容が異なる。巨大ディスプレイには、シミュレーション用コンピューター群の人工知能が選択した見るべき戦闘と、把握すべきステータスが表示されるのだ。
 全てのディスプレイに”5”が表示され、カウントダウンが始まっていた。
 翔太のセンプウ1機は自陣の宙域外縁部で、全ての動力を停止していた。
 選抜軍人のセンプウ小隊が、ゆっくりと自陣の宙域外縁部へと移動している。
 STARTが表示されると同時に、センプウ4機が派手で奇妙な動きをしている翔太のライデン6機の塊へと向かった。01率いる選抜軍人のライデン編隊は、02率いるセンプウ編隊と相対座標を保つように進む。なお、ライデン編隊の機体コードは01、03、04、05で、センプウ編隊は02、06、07、08である。
 センプウ編隊が敵陣に接した瞬間、翔太のセンプウが動力が始動し、選抜軍人のセンプウ編隊へと砲撃しつつ突撃したのだ。不意を衝かれたセンプウ4機は編隊を乱した。しかし全索表シスに感知されない距離だったため、センプウ4機に反撃する暇があった。
 センプウ編隊から4条の光線が嵐のように、翔太のセンプウに降り注ぐ。しかし、翔太の操縦するセンプウの軌道を捉えきれていない。
 翔太のセンプウからの砲撃も命中しなかった。だが翔太の攻撃は、センプウの機体を破壊するのではなく、編隊の破壊を目的としていた。
 互いの攻撃が命中しないまま、翔太のセンプウは中央突破した。中央突破されたセンプウは動きがバラバラとなり、追撃できない。その間隙を縫うように、翔太のセンプウは選抜軍人のライデン編隊へと転進した。
 センプウ編隊とライデン編隊の間に翔太のセンプウが入ったため、相打ちを恐れた選抜軍人は攻撃できない状況に陥った。
 翔太のセンプウ1機に搔き乱された選抜軍人たちは、戦場で死と直結する隙を公開していた。
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