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第1部 ルリタテハ王国の特殊な職業
終章
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オレはヒメシロでの平和な数日間・・・というより、ユキヒョウで軟禁されて過ごしていた。今日になって漸くユキヒョウから解放されたのだ。
風姫が史帆というエンジニア・・・としてではなく同性の話相手を得たので許可が下りたのだ。そこで出発前に、喫茶『サラ』で情報収集とコーヒー豆の購入の為に立寄った。
そこには毎度おなじみ、お宝3兄弟がいて、地下室に連行された。
「あたし、あんなの初めてで・・・。なんて言ったらいいのか?」
「アキトよ。千沙にここまで言わせたんだ。男としての責任の取り方をしてもらおう」
アキトは詰問されていた。
「僕は、君が弟になるのを歓迎するよ」
話の展開についていけず、思わず己の意図と異なった反応をしてしまう。
「ちょっと待て。オレのが早く生まれてんだから、オレが兄貴だぜ」
「いやいや、そうじゃない。僕の妹の旦那になるんだ。だから君は僕の義弟になるんだよ」
「翔太、今まで通りでいいじゃない。別に、アキトくんとあたしが夫婦になったって・・・」
「そうだぞ、翔太。重要なのは、アキトがお宝屋に復帰することだ。どっちが義兄で、どっちが義弟かなんて些細なことだ。期待してるぞ、アキトよ」
微妙に話がずれてきた。アキトは話題転換の必要性を感じ、大声をだす。
「勝手に話を進めるな! そもそもオレは、千沙と結婚なんかしないぜ」
「この期に及んで見苦しいぞ。結婚しないで、どうやって責任とるんだ、アキトよ?」
両手を胸の前で合わせて、祈るように千沙は祈るように両手を胸の前で合わせていた。
「ゴウにぃ。大丈夫だよ。アキトくんとあたしの気持ちは、一つになったの。だから・・・。あたし待てるよ。ずっと・・・、ずっと待ってる」
「まず、千沙に何があったか訊いてみろや」
千沙は頬に手をあて耳から首にかけて真っ赤になった。
「そんな・・・。あたしの口から? ・・・その、あのね・・・。あたし、男の人に抱きしめられて、一緒になろうって言われたの、初めてで・・・」
恥ずかしそうに話した千沙に、ゴウが肯く。
「うん、まあ、少し想像と違うが・・・。アキトよ、おとなしく宝船まできてもらおうか」
「そうそう、アキトは乗る船がないだろ。僕ら4人、宝船という舞台で物語を綴ろう。人は皆、等しく主人公。君も僕たちも宇宙劇団の人類という一員。そして物語はお宝屋。僕は君がお宝屋に復帰することを希望するよ」
「一緒になろうっていった覚えはねーな。それに、オレは明後日トレジャーハンティングに出発するぜ」
「なぜだ? ライコウは念入りに破壊したはず・・・」
「ダメだよ、ゴウにぃ」
聞き捨てならない台詞だった。
「なん、だと?・・・」
「あのね、アキトくん。ゴウにぃは悪気はなかったの。ちょっと・・・間違って、レーザーが発射されちゃって。それで・・・、本当に、たまたまなの、それがライコウにあたっちゃって・・・」
いいや、絶対ワザとだ。
理由もわかるが、絶対に感謝はしない。ライコウごと破壊したのは事実だ。
視線を千沙からゴウに移すと、ゴウは眼を逸らした。
攻守逆転。アキトが攻め込む
「へー、宝船のレーザーは簡単に発射すんだ。オレがいなくなったあと改造したのか? 装備基準を満たしてるのか? 航宙整備局にタレコンでやろうか」
宝船の装備基準はルリタテハ王国の恒星間宇宙船の規約にギリギリで通るはずだ。逆に言えば、航宙整備局の調査が入ると念入りにチェックされるだろう。そうなれば1週間は船を出せなくなる。もちろん、その期間に仕事ができない分の補償金はでない。
「そんな脅しにのると思うか? アキトよ」
「どう念入りに破壊したんだ?」
トレジャーハンターに貸与されているGE計測分析機器は、ルリタテハ王国の門外不出の機密の塊である。トレジャーハンティングに危険はつきもの。もしGE計測分析機器を持ち帰れない場合は、完全に破壊せねばならない。そうしなければ、トレジャーハンターの資格を剥奪される。
「ライコウの格納庫とライチョウ、シデンを跡形もなく完全破壊だ!」
GE計測分析機器はライコウは格納庫の搭載している。トレジャーハンティングする際は、ライチョウかシデンに載せている。
ジンに手を回してもらっているが、これなら安心だぜ。
ただ、ゴウにもジンにも、全く恩に着たりしないが・・・。
2人は視線を交錯させ、笑みを交わした。その様子を千沙は顔を綻ばせるながら見ている。
「そういえば、ヒメシロに戻ってくるのが随分とゆっくりだったな。なんでだ?」
「僕たちはトレジャーハンターだよ。ならば、やることは1つだけさ」
「劇団お宝屋のコムラサキ公演。開催場所は、グリーンスター劇場ってとこか?」
「いやいや、アキト。それは君の邪推だよ。僕たちは君をキャストから外すつもりはないさ。だから安心してほしい」
アキトは心の中で『そんな邪推した覚えはないし、安心したくもない』と呟く。
「それに宝船への新設備導入という、君への報酬も用意したよ」
「ふっはっはっはっはぁあぁーーーー。聞いて驚け、アキトよ。水龍カンパニーの索敵システムを導入するぞ。オリハルコン探知も可能なモデルだ」
アキトがモンシロ星系第四惑星で宝船を修理した際に、オリハルコンを宝船の外殻装甲板に張り付けた件への対抗策だった。
そのオリハルコンは、30時間に亘って船外で強力な重力を発生させていた。そう、宝船をワープできないようにするためだった。
ゴウは済んだことをネチネチと責めるタイプではないが、『その手はもう通用しないぞ』と言外に宣言したのだ。
「それとな。今回の対モーモーランドとの反省を込めて、ミサイルを装備する予定だ!」
それは、自分の趣味を全開にしているだけだぜ。他国と戦う機会なんて普通はない。
「そ、それにね。キッチンもグレードアップするの」
千沙のは、もの凄くどうでもいい情報だった。
ただ、お宝屋の金庫番の千沙が、ゴウの趣味を許した意味は・・・。
「この短期間で随分と儲けたな。参考までに教えてくれねーか?」
「グリーンスターの親切な人達が、有望な鉱床のある場所を教えてくれたの」
「だれがグリーンスターに訊いたんだ?」
「ゴウにぃだよ」
「それで、その親切な人たちをどうした?」
「えっ?・・・」
「グリーンスターの連中はどうなったんだ?」
同じ内容の質問を繰り返したが、千沙は何を問われたのか分からないようだった。しかし、翔太が質問へ意図を理解した上で、曖昧な答えを返す。
「大丈夫だよ、アキト。君が心配しなくても、彼らはちゃんと戻って来れるさ」
グリーンスターのメンバーとゴウとの会話が目に浮かぶようだ。
グリーンスター全員をヒメシロまで連れ帰ってやる、と誤解させて現地に置き去りにしてきた・・・。そうに違いない。
「ルリタテハ王国軍の宇宙戦艦が、迎えに行ってる頃だ。それより七福神ロボを新しくしなくてはならないのだ。今なら、アキトの好きな機種を選択できるぞ。それに前回の戦いでの反省から、七福神ロボを強化する。・・・そう、変形合体機能だ!」
トレジャーハンティングに、変形合体機能なんざいらねーぜ。
それに、好きな機種を選ばせてくれんじゃねーのか?
しかし、ツッコミを入れたらオレの負けだ。
お宝屋に戻りたいと受け取られかねない。いいや、絶対に、必ずといっていい、ホントは、そう思っていないくても、曲解して受け取る。
だから、話の流れに沿って、お宝屋に確認する
「散々協力させた上で、置き去りにしてきたんだな」
口には出さないが、ゴウの表情で丸分かりだった。翔太は視線を逸らし、千沙は分かり易く下を向く。
友達の前では正直なヤツらだった。
ホント、どうして赤の他人には、あんなに悪人になれるのか・・・。
「しかし不思議ねー。お宝屋がヒメシロ星系で1、2を争うほど収益率の高いトレジャーハンターだなんて・・・。信じられないわね」
ようやく誤解がとけて、地下室から解放されてきたアキトに、沙羅が話しかけてきた。
「見た目通りの筋肉ダルマじゃなくて、悪知恵が働くんだゴウは。意外と考えてる。強引な交渉なら一流だし、不器用だけど、人の為に案外いいことをしてるぜ」
やられたら、必ず徹底的にやり返す。
グリーンスターは見事に、道化の如くゴウにやり返された。
「そうなのー。あまり賢そうじゃないのに。それに自由にしてるように見えるのにねー」
沙羅の驚愕はゴウに対してあまりにも失礼な反応だ。兄弟3人とはいえトレジャーハンティングユニットの代表を務めて、7年間も第一線のトレジャーハンターをやっている。
トレジャーハンターは高度な技術と多岐にわたる知識、優秀な頭脳、それに迅速な状況把握に的確な判断力を有さないとできない職業なのだ。沙羅の中でトレジャーハンターは一体どんな位置づけなんだろうか・・・。
「翔太君はどうなの? 顔と調子の良さが一流なのは分かるわよ」
このぐらいの認識か・・・。
「あらゆるマシンを扱い、操縦できる天性のドライバーだ」
「あら、そうなの? それなら千沙ちゃんは?」
「そんなの訊いて、どうすんだ?」
「あら、お客様のこと知ろうとするのはおかしくないわよね」
「どっちの客としてみてるかが、問題だ」
「私は喫茶サラの店員よ」
情報屋としてではなく、喫茶店の店員として、とは白々しいにも程がある。
能面老師が知らないことは、他人の心の中だけとまで言われる所以は多くの情報網があってのこと。沙羅がその情報網の一つであることは、秘密にもなっていない公然の秘密である。
「・・・ふーん? まあ、千沙は後方支援だ。会計に経理、それに支出に関する全ては千沙のOKがいるんだ。千沙がいなければお宝屋は借金だらけだな。ゴウと翔太が好き勝手に買い物したら宝船は、トレジャーハンティング用の恒星間宇宙船じゃなくて、宇宙戦艦になっちまうさ」
アキトが注文していたコーヒー豆を用意しながら、沙羅は感想を口にする。
「さっきの部屋での話を聞いていると、劇団お宝屋の方がトレジャーハンターよりお似合いに思えるのよねー」
どうやら地下室での話を聞いていたらしい。さすがは情報屋だ。
「人を見かけで判断すると痛い目にあうぜ」
それで、つい最近痛い目にあった。風姫に出会って・・・。
そんなオレが忠告を口にしても、説得力に欠けるのは承知している。
しかし沙羅は、何となく納得したような表情をみせた。
能面老師”桂木オーナー”が丁度スペシャルな接客を終えた。オレはブレンドのスペシャルを依頼した。
そこで、オレの訊きたかった情報は粗方仕入れることができた。
モーモーランドはトレジャーハンターのみが貸与されるGE計測分析機器を手に入れ、使用方法をグリーンスターから習得するのが目的だった。
コムラサキ星系で受け渡し、GE計測分析機器を使用したら有力な重力元素が発見したのだった。それで、コムラサキ星系を実効支配の下に治めようとしよう目論んだということらしい。
喫茶サラで充分な収穫を得て、アキトはコーヒー豆を片手にシャトル乗り場へと向かった。
史帆の乗船が決まった一週間後。
ユキヒョウは出港する運びとなった。
ヒメシロの軍用スペースドッグに水龍カンパニーヒメシロ支店一同が、ユキヒョウの出港の見送りにきていた。
その見送りで、アキトと速水工場長の心温まる会話があった。
「おう、アキト。カミカゼの納品は悪かったな。だが史帆にはいい勉強をさせてもらった」
「オレはもう気にしてねーぜ。おやっさんには、ライコウの時や、何やで色々協力してもらったんだ」
「そうか・・・。それはそれとして、だ。史帆とは、エンジニアとパイロットとして仲良くやってくれ」
「ああ、もちろんだぜ。命がかかってんだ」
「いいな。くれぐれもエンジニアとパイロットとしての関係、だ。それ以外で仲良くなりたかったら、まずワシとバーさんに話を通してからにしろ!」
整備中や技術論を話すときの速水の迫力は、アキトが知るエンジニアの中でも隋一だったが、この時の迫力たるや、いつもの3倍増しだった。ヴァイオレットの瞳が青白く燃えていた。
アキトは速水から感じる圧力を逸らすように、ツッコミをいれてみる。
「そ、そこは。両親に話を通してじゃねーのか?」
「ワシとバーさんにだ!!」
技術の鬼、速水崇志でも孫娘は可愛いらしい。
アキトは黙って肯くしかなかった。
出港からしばらくして、中央指令室にユキヒョウの全乗員、アキト、風姫、ジン、彩香、史帆が集まった。ささやかな儀式のためだった。
「アキト。今より、あなたがユキヒョウの船長だわ」
「アキト。汝の船長デビューだ」
風姫の魅惑の台詞と声に心が躍り、ジンの言葉に気持ちが高揚した。
「了解。目的地ヒメジャノメ星系」
アキトは気持ち良く、行先を宣言した直後に『ピーピー』という通信の受信コール音がした。
「船長。オープンチャンネルで通信が入ってます」
彩香がアキトを船長と初めて呼んだ。それだけでも怖いのに、この通信は嫌な予感がした。全力で拒否したい思いに囚われ、口を開こうとする。
その刹那、凛とした風姫の声がコンバットオペレーションルームに響く。
「チャンネル接続したわ」
アキトは「船長はオレだ」と抗議する間もなく、突然メインディスプレイに、白いTシャツとジーンズ姿で、筋骨隆々の無精髭の男が大写しにされた。
そして、鼻の途中から上が画面に入りきっていなかった。
アキトの予想通りだった。
「ふっはっはっははーーー。アキトよ。いいか、お・・・」
アキトは通信を切った。
できれば全チャンネル通信拒否にしたいぐらいだったが、宇宙船乗りの矜持が許さなかった。「全力加速でヒメシロ星系を脱出する」
新しい宝船は、まだ納入されていないはず。だから、スペースステーションの有料通信ルームからの連絡だろう。一刻も早く、お宝屋から離れねばならないと、オレのカンが最大限の警鐘を鳴らしている。
ユキヒョウは、全力加速で漆黒の宙へと、輝く未来へと飛び出す。
心躍る冒険の旅へと。
風姫が史帆というエンジニア・・・としてではなく同性の話相手を得たので許可が下りたのだ。そこで出発前に、喫茶『サラ』で情報収集とコーヒー豆の購入の為に立寄った。
そこには毎度おなじみ、お宝3兄弟がいて、地下室に連行された。
「あたし、あんなの初めてで・・・。なんて言ったらいいのか?」
「アキトよ。千沙にここまで言わせたんだ。男としての責任の取り方をしてもらおう」
アキトは詰問されていた。
「僕は、君が弟になるのを歓迎するよ」
話の展開についていけず、思わず己の意図と異なった反応をしてしまう。
「ちょっと待て。オレのが早く生まれてんだから、オレが兄貴だぜ」
「いやいや、そうじゃない。僕の妹の旦那になるんだ。だから君は僕の義弟になるんだよ」
「翔太、今まで通りでいいじゃない。別に、アキトくんとあたしが夫婦になったって・・・」
「そうだぞ、翔太。重要なのは、アキトがお宝屋に復帰することだ。どっちが義兄で、どっちが義弟かなんて些細なことだ。期待してるぞ、アキトよ」
微妙に話がずれてきた。アキトは話題転換の必要性を感じ、大声をだす。
「勝手に話を進めるな! そもそもオレは、千沙と結婚なんかしないぜ」
「この期に及んで見苦しいぞ。結婚しないで、どうやって責任とるんだ、アキトよ?」
両手を胸の前で合わせて、祈るように千沙は祈るように両手を胸の前で合わせていた。
「ゴウにぃ。大丈夫だよ。アキトくんとあたしの気持ちは、一つになったの。だから・・・。あたし待てるよ。ずっと・・・、ずっと待ってる」
「まず、千沙に何があったか訊いてみろや」
千沙は頬に手をあて耳から首にかけて真っ赤になった。
「そんな・・・。あたしの口から? ・・・その、あのね・・・。あたし、男の人に抱きしめられて、一緒になろうって言われたの、初めてで・・・」
恥ずかしそうに話した千沙に、ゴウが肯く。
「うん、まあ、少し想像と違うが・・・。アキトよ、おとなしく宝船まできてもらおうか」
「そうそう、アキトは乗る船がないだろ。僕ら4人、宝船という舞台で物語を綴ろう。人は皆、等しく主人公。君も僕たちも宇宙劇団の人類という一員。そして物語はお宝屋。僕は君がお宝屋に復帰することを希望するよ」
「一緒になろうっていった覚えはねーな。それに、オレは明後日トレジャーハンティングに出発するぜ」
「なぜだ? ライコウは念入りに破壊したはず・・・」
「ダメだよ、ゴウにぃ」
聞き捨てならない台詞だった。
「なん、だと?・・・」
「あのね、アキトくん。ゴウにぃは悪気はなかったの。ちょっと・・・間違って、レーザーが発射されちゃって。それで・・・、本当に、たまたまなの、それがライコウにあたっちゃって・・・」
いいや、絶対ワザとだ。
理由もわかるが、絶対に感謝はしない。ライコウごと破壊したのは事実だ。
視線を千沙からゴウに移すと、ゴウは眼を逸らした。
攻守逆転。アキトが攻め込む
「へー、宝船のレーザーは簡単に発射すんだ。オレがいなくなったあと改造したのか? 装備基準を満たしてるのか? 航宙整備局にタレコンでやろうか」
宝船の装備基準はルリタテハ王国の恒星間宇宙船の規約にギリギリで通るはずだ。逆に言えば、航宙整備局の調査が入ると念入りにチェックされるだろう。そうなれば1週間は船を出せなくなる。もちろん、その期間に仕事ができない分の補償金はでない。
「そんな脅しにのると思うか? アキトよ」
「どう念入りに破壊したんだ?」
トレジャーハンターに貸与されているGE計測分析機器は、ルリタテハ王国の門外不出の機密の塊である。トレジャーハンティングに危険はつきもの。もしGE計測分析機器を持ち帰れない場合は、完全に破壊せねばならない。そうしなければ、トレジャーハンターの資格を剥奪される。
「ライコウの格納庫とライチョウ、シデンを跡形もなく完全破壊だ!」
GE計測分析機器はライコウは格納庫の搭載している。トレジャーハンティングする際は、ライチョウかシデンに載せている。
ジンに手を回してもらっているが、これなら安心だぜ。
ただ、ゴウにもジンにも、全く恩に着たりしないが・・・。
2人は視線を交錯させ、笑みを交わした。その様子を千沙は顔を綻ばせるながら見ている。
「そういえば、ヒメシロに戻ってくるのが随分とゆっくりだったな。なんでだ?」
「僕たちはトレジャーハンターだよ。ならば、やることは1つだけさ」
「劇団お宝屋のコムラサキ公演。開催場所は、グリーンスター劇場ってとこか?」
「いやいや、アキト。それは君の邪推だよ。僕たちは君をキャストから外すつもりはないさ。だから安心してほしい」
アキトは心の中で『そんな邪推した覚えはないし、安心したくもない』と呟く。
「それに宝船への新設備導入という、君への報酬も用意したよ」
「ふっはっはっはっはぁあぁーーーー。聞いて驚け、アキトよ。水龍カンパニーの索敵システムを導入するぞ。オリハルコン探知も可能なモデルだ」
アキトがモンシロ星系第四惑星で宝船を修理した際に、オリハルコンを宝船の外殻装甲板に張り付けた件への対抗策だった。
そのオリハルコンは、30時間に亘って船外で強力な重力を発生させていた。そう、宝船をワープできないようにするためだった。
ゴウは済んだことをネチネチと責めるタイプではないが、『その手はもう通用しないぞ』と言外に宣言したのだ。
「それとな。今回の対モーモーランドとの反省を込めて、ミサイルを装備する予定だ!」
それは、自分の趣味を全開にしているだけだぜ。他国と戦う機会なんて普通はない。
「そ、それにね。キッチンもグレードアップするの」
千沙のは、もの凄くどうでもいい情報だった。
ただ、お宝屋の金庫番の千沙が、ゴウの趣味を許した意味は・・・。
「この短期間で随分と儲けたな。参考までに教えてくれねーか?」
「グリーンスターの親切な人達が、有望な鉱床のある場所を教えてくれたの」
「だれがグリーンスターに訊いたんだ?」
「ゴウにぃだよ」
「それで、その親切な人たちをどうした?」
「えっ?・・・」
「グリーンスターの連中はどうなったんだ?」
同じ内容の質問を繰り返したが、千沙は何を問われたのか分からないようだった。しかし、翔太が質問へ意図を理解した上で、曖昧な答えを返す。
「大丈夫だよ、アキト。君が心配しなくても、彼らはちゃんと戻って来れるさ」
グリーンスターのメンバーとゴウとの会話が目に浮かぶようだ。
グリーンスター全員をヒメシロまで連れ帰ってやる、と誤解させて現地に置き去りにしてきた・・・。そうに違いない。
「ルリタテハ王国軍の宇宙戦艦が、迎えに行ってる頃だ。それより七福神ロボを新しくしなくてはならないのだ。今なら、アキトの好きな機種を選択できるぞ。それに前回の戦いでの反省から、七福神ロボを強化する。・・・そう、変形合体機能だ!」
トレジャーハンティングに、変形合体機能なんざいらねーぜ。
それに、好きな機種を選ばせてくれんじゃねーのか?
しかし、ツッコミを入れたらオレの負けだ。
お宝屋に戻りたいと受け取られかねない。いいや、絶対に、必ずといっていい、ホントは、そう思っていないくても、曲解して受け取る。
だから、話の流れに沿って、お宝屋に確認する
「散々協力させた上で、置き去りにしてきたんだな」
口には出さないが、ゴウの表情で丸分かりだった。翔太は視線を逸らし、千沙は分かり易く下を向く。
友達の前では正直なヤツらだった。
ホント、どうして赤の他人には、あんなに悪人になれるのか・・・。
「しかし不思議ねー。お宝屋がヒメシロ星系で1、2を争うほど収益率の高いトレジャーハンターだなんて・・・。信じられないわね」
ようやく誤解がとけて、地下室から解放されてきたアキトに、沙羅が話しかけてきた。
「見た目通りの筋肉ダルマじゃなくて、悪知恵が働くんだゴウは。意外と考えてる。強引な交渉なら一流だし、不器用だけど、人の為に案外いいことをしてるぜ」
やられたら、必ず徹底的にやり返す。
グリーンスターは見事に、道化の如くゴウにやり返された。
「そうなのー。あまり賢そうじゃないのに。それに自由にしてるように見えるのにねー」
沙羅の驚愕はゴウに対してあまりにも失礼な反応だ。兄弟3人とはいえトレジャーハンティングユニットの代表を務めて、7年間も第一線のトレジャーハンターをやっている。
トレジャーハンターは高度な技術と多岐にわたる知識、優秀な頭脳、それに迅速な状況把握に的確な判断力を有さないとできない職業なのだ。沙羅の中でトレジャーハンターは一体どんな位置づけなんだろうか・・・。
「翔太君はどうなの? 顔と調子の良さが一流なのは分かるわよ」
このぐらいの認識か・・・。
「あらゆるマシンを扱い、操縦できる天性のドライバーだ」
「あら、そうなの? それなら千沙ちゃんは?」
「そんなの訊いて、どうすんだ?」
「あら、お客様のこと知ろうとするのはおかしくないわよね」
「どっちの客としてみてるかが、問題だ」
「私は喫茶サラの店員よ」
情報屋としてではなく、喫茶店の店員として、とは白々しいにも程がある。
能面老師が知らないことは、他人の心の中だけとまで言われる所以は多くの情報網があってのこと。沙羅がその情報網の一つであることは、秘密にもなっていない公然の秘密である。
「・・・ふーん? まあ、千沙は後方支援だ。会計に経理、それに支出に関する全ては千沙のOKがいるんだ。千沙がいなければお宝屋は借金だらけだな。ゴウと翔太が好き勝手に買い物したら宝船は、トレジャーハンティング用の恒星間宇宙船じゃなくて、宇宙戦艦になっちまうさ」
アキトが注文していたコーヒー豆を用意しながら、沙羅は感想を口にする。
「さっきの部屋での話を聞いていると、劇団お宝屋の方がトレジャーハンターよりお似合いに思えるのよねー」
どうやら地下室での話を聞いていたらしい。さすがは情報屋だ。
「人を見かけで判断すると痛い目にあうぜ」
それで、つい最近痛い目にあった。風姫に出会って・・・。
そんなオレが忠告を口にしても、説得力に欠けるのは承知している。
しかし沙羅は、何となく納得したような表情をみせた。
能面老師”桂木オーナー”が丁度スペシャルな接客を終えた。オレはブレンドのスペシャルを依頼した。
そこで、オレの訊きたかった情報は粗方仕入れることができた。
モーモーランドはトレジャーハンターのみが貸与されるGE計測分析機器を手に入れ、使用方法をグリーンスターから習得するのが目的だった。
コムラサキ星系で受け渡し、GE計測分析機器を使用したら有力な重力元素が発見したのだった。それで、コムラサキ星系を実効支配の下に治めようとしよう目論んだということらしい。
喫茶サラで充分な収穫を得て、アキトはコーヒー豆を片手にシャトル乗り場へと向かった。
史帆の乗船が決まった一週間後。
ユキヒョウは出港する運びとなった。
ヒメシロの軍用スペースドッグに水龍カンパニーヒメシロ支店一同が、ユキヒョウの出港の見送りにきていた。
その見送りで、アキトと速水工場長の心温まる会話があった。
「おう、アキト。カミカゼの納品は悪かったな。だが史帆にはいい勉強をさせてもらった」
「オレはもう気にしてねーぜ。おやっさんには、ライコウの時や、何やで色々協力してもらったんだ」
「そうか・・・。それはそれとして、だ。史帆とは、エンジニアとパイロットとして仲良くやってくれ」
「ああ、もちろんだぜ。命がかかってんだ」
「いいな。くれぐれもエンジニアとパイロットとしての関係、だ。それ以外で仲良くなりたかったら、まずワシとバーさんに話を通してからにしろ!」
整備中や技術論を話すときの速水の迫力は、アキトが知るエンジニアの中でも隋一だったが、この時の迫力たるや、いつもの3倍増しだった。ヴァイオレットの瞳が青白く燃えていた。
アキトは速水から感じる圧力を逸らすように、ツッコミをいれてみる。
「そ、そこは。両親に話を通してじゃねーのか?」
「ワシとバーさんにだ!!」
技術の鬼、速水崇志でも孫娘は可愛いらしい。
アキトは黙って肯くしかなかった。
出港からしばらくして、中央指令室にユキヒョウの全乗員、アキト、風姫、ジン、彩香、史帆が集まった。ささやかな儀式のためだった。
「アキト。今より、あなたがユキヒョウの船長だわ」
「アキト。汝の船長デビューだ」
風姫の魅惑の台詞と声に心が躍り、ジンの言葉に気持ちが高揚した。
「了解。目的地ヒメジャノメ星系」
アキトは気持ち良く、行先を宣言した直後に『ピーピー』という通信の受信コール音がした。
「船長。オープンチャンネルで通信が入ってます」
彩香がアキトを船長と初めて呼んだ。それだけでも怖いのに、この通信は嫌な予感がした。全力で拒否したい思いに囚われ、口を開こうとする。
その刹那、凛とした風姫の声がコンバットオペレーションルームに響く。
「チャンネル接続したわ」
アキトは「船長はオレだ」と抗議する間もなく、突然メインディスプレイに、白いTシャツとジーンズ姿で、筋骨隆々の無精髭の男が大写しにされた。
そして、鼻の途中から上が画面に入りきっていなかった。
アキトの予想通りだった。
「ふっはっはっははーーー。アキトよ。いいか、お・・・」
アキトは通信を切った。
できれば全チャンネル通信拒否にしたいぐらいだったが、宇宙船乗りの矜持が許さなかった。「全力加速でヒメシロ星系を脱出する」
新しい宝船は、まだ納入されていないはず。だから、スペースステーションの有料通信ルームからの連絡だろう。一刻も早く、お宝屋から離れねばならないと、オレのカンが最大限の警鐘を鳴らしている。
ユキヒョウは、全力加速で漆黒の宙へと、輝く未来へと飛び出す。
心躍る冒険の旅へと。
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大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
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百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
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