上 下
35 / 36
大シラン帝国崩壊

第1章-7 絶対守護絶体絶命

しおりを挟む
 大シラン帝国軍は最大戦速で、シラン本星へ向かう小惑星群の側面に回り込もうとする。一次報告では小惑星の数約50であり、大きさは直径10キロメートル級だった。しかし、10キロメートル級の後方に1キロメートルから5キロメートルの小惑星が隠れていた。
 小惑星の総数は約200。
 高速宇宙艇の偵察結果によると、大シラン帝国軍艦隊の想像通り、小惑星に取り付けられた推進装置の破壊は難しい。
 小惑星を掘削して推進装置が埋め込まれているのだ。破壊するには掘削孔の真上から、推進装置の推力を上回るエナジーぶつけるしかない。宇宙戦艦数隻の主砲のレーザービームを集束させれば不可能ではないだろうが、命中させられる位置がとれない。
 前方から中間の小惑星を破壊するには、小惑星群の中に入らざるを得ないのだ。それは自殺行為に他ならない。オセロット王国軍は小惑星を誘導し宇宙戦艦を破壊しようとする。衝突を回避しながら推進装置を破壊するのは不可能。しかも通常の小惑星帯と異なり、小惑星群は間隔を密にして移動しているのだ。
 後方の小惑星を攻撃するには、大シラン帝国軍2艦隊が回り込むという長距離移動が必要になる。ただでさえ不利な艦隊運用を強いられている大シラン帝国軍は、移動の間に追尾してきたオセロット王国軍の3艦隊によって削りきられるだろう。
 選択肢は小惑星の破壊、もしくは軌道を逸らすしかない。
 破壊には大量のミサイルを小惑星に叩き込むしかない。しかし、2艦隊が積載しているミサイル全弾を命中させたとしても、小惑星群の2割の破壊が精々だろう。つまり、シラン本星への小惑星群の落下は防げないのだ。
 大シラン帝国軍の艦隊司令部は、小惑星の破壊は不可能だと早々に諦め、軌道を逸らし大気圏で弾くシミュレーションを実行した。主砲の攻撃によって小惑星約200の軌道を次々と逸らし、大気圏突入角度を浅くできるとの解析結果がでた。
 宇宙戦艦主砲のレーザービームの高エナジーが、小惑星の命中個所を溶解し孔を穿つ。とはいえ、レーザービームが小惑星を突き抜けることなく、孔が穿たれた以外のエナジーは運動エナジーへと変化する。その運動エナジーが小惑星の軌道を変えるのだ。
 衝撃によって小惑星から砕け、分離した破片の行き先までは予測不能。大きな破片が大気圏に突入し、シラン星に衝突するかも知れない。
 そこで誘導ミサイルの出番となる。
 大きな破片は誘導ミサイルで破壊し、なるべく小さな破片にする。そうして、大気圏突入の摩擦熱で燃え尽きさせるのだ。
 大シラン帝国軍の絶対守護2個艦隊で、宇宙戦艦175隻、宇宙空母31隻、ビンシー約5千機、グーガン約8千機。
 絶対守護の艦隊司令のあるコンバットオペレーションルームから、各艦各処へと作戦を実行のため様々な命令が飛ぶ。
「全艦の主砲管理者へ、主砲の継続発射用意」
 主砲のレーザービームを継続発射すると、砲身の冷却が間に合わず歪みが生じる。砲身の歪みが大きくなればなるほど、破壊対象へ向かうエナジーが減少し、砲身へと向かう。最終的には砲身が融解し使用できなくなる。
 そのため、冷却が完了しないとレーザービームが発射できないよう制御されている。しかし、その制御を停止させ、砲身を犠牲にしてでも小惑星の軌道を逸らす。
 ただ制御停止は、一括で実施できない仕様になっているので、主砲毎に継続発射の準備をするのだ。
「分艦隊毎に対象小惑星の割り当て完了。データ送信。各担当者は確認」
 分艦隊は10隻単位。
 5キロメートル級までなら1分艦隊で対処可能だが、10キロメートル級の小惑星の軌道を逸らすには、4分艦隊が必要との分析結果が出ている。先行している10キロメートル級の小惑星の軌道を4分艦隊で逸らしてから、5キロメートル級に取り掛かる計画が立案されたのだ。
「副砲。各砲台の判断でオセロット王国軍を攻撃。敵人型兵器は撃破せよ、敵宇宙戦艦へは牽制になれば良い。敵宇宙戦艦は小惑星が破壊してくれるのだからな」
 大シラン帝国軍の副砲はレーザービームとレールガンである。敵人型兵器”キセンシ”は主にレールガンで攻撃し、視覚的にも目立つ敵宇宙戦艦はレーザービームで牽制する。敵宇宙戦艦の進攻方向を計算すると、外れた攻撃は小惑星群へと向かう。
「ミサイル班は、大気圏突入の破片を見逃すな。地表に届きそうな破片は、悉く破壊するのだ」
 破片であればミサイルで破壊できる。誘導ミサイルなので、まず撃ち漏らさないだろう。
「ビンシー隊は2キロメートル以下の小惑星に取りつき、全ての推進装置を使い軌道変更」
 宇宙戦闘機”グーガン”は小惑星を押すのに不向きである。しかし人型兵器”ビンシー”であれば、小惑星の軌道を逸らすために取りつき、押すのが容易である。
「グーガン隊は敵戦艦を自由にはさせるな」
 グーガン隊はスピードと数で、敵宇宙戦艦に嫌がらせをするのだ。むろん隙があれば撃破を狙うが、目的は小惑星排除の邪魔をさせないことだ。

 各オペレーターは担当している部隊へと指示を出した後も密に連絡をとるため、担当部隊との通信回線をオープンにしてある。兵士たちは戦闘準備の最中、緊張を解す為か戯言を良く口にする。
『小官はヤン大佐だ。全グーガン機に告げる。我らグーガン隊は後方の敵1個艦隊に、全機でグーガンウェブを仕掛ける』
 ヤン大佐の台詞に各部隊長たちが、次々と軽口を叩く。
『総隊長殿。嫌がらせは得意であります』
『せめて行動制限と・・・』
『しっかりとグーガンの巣に拘束してみましょう』
『束縛プレイ・・・ゾクゾクしますな』
『恐怖でか?』
『はっ、全く以って下品な連中だ。封家に仕られるぐらいの言葉使いを身につけたまえ』
 見下す声色に自然体の気障な言い回し。封家に連なるグーガン機のパイロットが嫌味を口にし、部隊の同僚をいつものようにバカにした。
 いつもなら部隊内の空気が悪くなり、誰も話をしなくなるのだが、今回は異なっていた。
『グーガンのパイロットは封家に仕えてる訳じゃねーなぁあ』
『お上品な封家様よぉー、口でなく腕で示せや。敵艦の近くに束縛してきちゃうよ、ボクゥー。恐怖で口も利けなくなるかもなぁ』
『最後は、物理的にも口が利けなくなるかもねぇー』
 大シラン帝国の身分制度に亀裂が入り、拡大しつつあったのだ。
 幻影艦隊との戦闘で、連敗に次ぐ連敗を喫し、オセロット王国軍には大シラン帝国本星まで進攻を許している。
 大シラン帝国は多大な人的損害により、もはや国の形を維持できない状態になってきているのだ。たとえオセロット王国軍を退けたとしても、大シラン帝国の社会制度は崩壊するだろう。その小さな兆しが、大シラン帝国軍の第一、第二艦隊のグーガン隊で顕れていた。
 しかし封家の出身でもあり、絶対守護第一艦隊の司令官は、大シラン帝国が続くのを前提としていた。その認識のままで、士気を高め作戦の成功率を上げようと演説したのだ。
「絶対守護第一、第二艦隊。総員に告ぐ。逸らした小惑星の殆どの進行方向は、追尾してきたオセロット王国軍艦隊へと向かう。本作戦はシラン本星を護ると共に、我らをも護る。この戦争での武勲を絶対守護第一、第二艦隊にて、全て独占してやるぞ。そして、大シラン帝国の歴史に、絶対守護第一、第二艦隊の成した奇跡を刻み、我らは永遠に語り継がれる存在となるのだ。兵士諸君、使命を果たせ! 我が大シラン帝国を護るのだ!!」
 司令官の演説は将兵の殆どに響かず、大シラン帝国の崩壊は止まらない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

3024年宇宙のスズキ

神谷モロ
SF
 俺の名はイチロー・スズキ。  もちろんベースボールとは無関係な一般人だ。  21世紀に生きていた普通の日本人。  ひょんな事故から冷凍睡眠されていたが1000年後の未来に蘇った現代の浦島太郎である。  今は福祉事業団体フリーボートの社員で、福祉船アマテラスの船長だ。 ※この作品はカクヨムでも掲載しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

エレメンツハンター

kashiwagura
SF
 「第2章 エレメンツハンター学の教授は常に忙しい」の途中ですが、3ヶ月ほど休載いたします。  3ヶ月間で掲載中の「第二次サイバー世界大戦」を完成させ、「エレメンツハンター」と「銀河辺境オセロット王国」の話を安定的に掲載できるようにしたいと考えています。  3ヶ月後に、エレメンツハンターを楽しみにしている方々の期待に応えられる話を届けられるよう努めます。  ルリタテハ王国歴477年。人類は恒星間航行『ワープ』により、銀河系の太陽系外の恒星系に居住の地を拡げていた。  ワープはオリハルコンにより実現され、オリハルコンは重力元素を元に精錬されている。その重力元素の鉱床を発見する職業がルリタテハ王国にある。  それが”トレジャーハンター”であった。  主人公『シンカイアキト』は、若干16歳でトレジャーハンターとして独立した。  独立前アキトはトレジャーハンティングユニット”お宝屋”に所属していた。お宝屋は個性的な三兄弟が運営するヒメシロ星系有数のトレジャーハンティングユニットで、アキトに戻ってくるよう強烈なラブコールを送っていた。  アキトの元に重力元素開発機構からキナ臭い依頼が、美しい少女と破格の報酬で舞い込んでくる。アキトは、その依頼を引き受けた。  破格の報酬は、命が危険と隣り合わせになる対価だった。  様々な人物とアキトが織りなすSF活劇が、ここに始まる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

DEADNIGHT

CrazyLight Novels
SF
総合 900 PV 達成!ありがとうございます! Season 2 Ground 執筆中 全章執筆終了次第順次公開予定 1396年、5歳の主人公は村で「自由のために戦う」という言葉を耳にする。当時は意味を理解できなかった、16年後、その言葉の重みを知ることになる。 21歳で帝国軍事組織CTIQAに入隊した主人公は、すぐさまDeadNight(DN)という反乱組織との戦いに巻き込まれた。戦場で自身がDN支配地域の出身だと知り、衝撃を受けた。激しい戦闘の中で意識を失った主人公は、目覚めると2063年の未来世界にいた。 そこで主人公は、CTIQAが敗北し、新たな組織CREWが立ち上がったことを知る。DNはさらに強大化しており、CREWの隊長は主人公に協力を求めた。主人公は躊躇しながらも同意し、10年間新しい戦闘技術を学ぶ。 2073年、第21回DVC戦争が勃発。主人公は過去の経験と新しい技術を駆使して戦い、敵陣に単身で乗り込み、敵軍大将軍の代理者を倒した。この勝利により、両軍に退避命令が出された。主人公がCREW本部の総括官に呼び出され、主人公は自分の役割や、この終わりなき戦いの行方について考えを巡らせながら、総括官室へ向かう。それがはじまりだった。

高校生とUFO

廣瀬純一
SF
UFOと遭遇した高校生の男女の体が入れ替わる話

法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『修羅の国』での死闘

橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった その人との出会いは歓迎すべきものではなかった これは悲しい『出会い』の物語 『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる 法術装甲隊ダグフェロン 第三部  遼州人の青年『神前誠(しんぜんまこと)』は法術の新たな可能性を追求する司法局の要請により『05式広域制圧砲』と言う新兵器の実験に駆り出される。その兵器は法術の特性を生かして敵を殺傷せずにその意識を奪うと言う兵器で、対ゲリラ戦等の『特殊な部隊』と呼ばれる司法局実働部隊に適した兵器だった。 一方、遼州系第二惑星の大国『甲武』では、国家の意思決定最高機関『殿上会』が開かれようとしていた。それに出席するために殿上貴族である『特殊な部隊』の部隊長、嵯峨惟基は甲武へと向かった。 その間隙を縫ったかのように『修羅の国』と呼ばれる紛争の巣窟、ベルルカン大陸のバルキスタン共和国で行われる予定だった選挙合意を反政府勢力が破棄し機動兵器を使った大規模攻勢に打って出て停戦合意が破綻したとの報が『特殊な部隊』に届く。 この停戦合意の破棄を理由に甲武とアメリカは合同で介入を企てようとしていた。その阻止のため、神前誠以下『特殊な部隊』の面々は輸送機でバルキスタン共和国へ向かった。切り札は『05式広域鎮圧砲』とそれを操る誠。『特殊な部隊』の制式シュツルム・パンツァー05式の機動性の無さが作戦を難しいものに変える。 そんな時間との戦いの中、『特殊な部隊』を見守る影があった。 『廃帝ハド』、『ビッグブラザー』、そしてネオナチ。 誠は反政府勢力の攻勢を『05式広域鎮圧砲』を使用して止めることが出来るのか?それとも……。 SFお仕事ギャグロマン小説。

未来への転送

廣瀬純一
SF
未来に転送された男女の体が入れ替わる話

処理中です...