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大シラン帝国崩壊
第1章-5 絶対守護絶体絶命
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9時になった。
大シラン帝国から通信はなかった。
リアクションはあった。
絶対守護周辺の宇宙戦艦と、元宇宙戦艦の浮遊砲台の再配置だ。シラン本星では予告された攻撃対象から民間人・・・貴族を避難させ、軍人は迎え撃つ準備に余念がない。
総司令部のあるシラン本星と衛星軌道上の絶対守護が、密に大容量データをリンクして防衛に当たる。特に敵軍の進攻、兵器、戦術のデータ収集は絶対守護の重要な役割を担っている。球状かつ、大気のある惑星上では、どうしても各監視衛星との通信が不安定になるからだ。
つまり、最新の戦況をいち早く把握できるが、絶対守護の中央オペレーションルームなのだ。
そのオペレーションルームも、まるで最前線の戦場のようだった。
「いえ、間違いではありません。資源採掘用小惑星がシラン本星へ向かっていますっ! このままなら大気圏に弾かれて突入しないでしょうが、人為的な動きのようです」
シラン本星との通信担当のオペレターの一人が総司令部と通話していた。
『現在の予想コースなら大気圏に突入しないな』
「そうですが、人為的な動きです。それにシラン本星の各施設が攻撃対象と予告されています。まず大気圏突入すると推察されます」
シラン本星との通信担当の内、更にもう一人のオペレーターが報告を上げる。
「確認された小惑星の数は約50。他にも小さめの小惑星が多数移動している模様」
「複数の小惑星の進行方向が・・・」
同じデータを共有しているため、総司令部の担当者にも小惑星の目的地点が理解できた。
『ここにも・・・落ちる?』
シラン本星の23ヶ所が攻撃目標であると、オセロット王国軍から通告にあった。
「計測できた小惑星の直径は、いずれも10キロメートル前後になります。おおよその計算結果ですが、落下地点に深さ50キロメートル、半径200キロのクレーターができます」
小惑星衝突の衝撃計算結果に戦慄する。
『いちいち言わんでも、ディスプレイを見れば分かる』
「最短落下予定時刻は22時41分。それから約34時間に亘り、小惑星がシラン本星に衝突するとAIシミュレーションが予測」
『計測、計算、分析、シミュレーションは、そっちに任せる。しばらく通話できん』
総司令部のオペレーターは、シラン本星の緊急事態に絶対守護との通話を一方的に切り上げた。通常は常時通話しいてるのだが、総司令部内への報告が最優先と判断したのだ。
総司令部との通話が途絶えても、最前線にいる絶対守護内の中央オペレーションルームが静寂に包まれることはない。中でも顕著なのは、艦隊司令部を兼任している部署であった。
「第一艦隊。突撃位置まで30分。接敵予測時刻まで1時間」
大シラン帝国軍も1艦隊を宇宙戦艦約100隻で編成している。
第一艦隊はシラン本星防錆の最精鋭部隊であり、オセロット王国軍への攻撃の最先鋒となる。
「第二艦隊。迎撃位置まで、後15分」
第二艦隊もシラン本星防錆が担当の艦隊であり、オセロット王国軍への迎撃というよりも、遊撃の役割を期待されている。
「第三艦隊。迎撃位置に移動完了」
第三艦隊は、修理の間に合った宇宙戦艦を集めて艦隊を編成した。
云わば寄せ集めの即席艦隊である。
艦隊司令部は、第三艦隊を艦隊としての機能を諦めた。5隻単位で行動するように定め、防衛宙域を艦隊司令部が随時命令する形式にした。絶対守護の盾であり、最終防衛ラインとしての役割を担う。第三艦隊を突破されると絶対守護が直接戦闘に参加することになる。
「第四艦隊。補給部隊による弾薬の積込み完了。補給部隊は絶対守護に帰還します」
第四艦隊は、便宜上艦隊と呼称しているだけだった。
艦隊所属の宇宙戦艦は、境界突破航法装置を積んでいないどころか、大半はメインエンジンが壊れていて、戦闘するには推進力が足りない。サブエンジンや外部推進装置を取り付け、絶対守護の周辺に配置されたのだ。つまり浮遊砲台兼ビンシー、グーガンの補給用全線基地として、絶対守護と連携することになる。
絶対守護内部は、すでに戦闘が始まったかのような騒ぎになっていた。
オペレーターから指示が出されるたび、現場の兵が文字通り飛び回っている。絶対守護内部の殆どの場所で、重力制御を停止しているためだった。
戦時対応のため、内部で兵器や物資の移動をさせる。必然的に軍用の通路だけでは輸送量が限界に達するため、市街地の大通りも利用すているのだ。兵器は装備されている小型推進装置、物資は外付けの超小型推進装置、兵士は背中にランドセル型のエアージェット。それぞれに適した移動手段で、自在に絶対守護内を移動している。
「F703からF715砲撃小隊。A1での砲撃準備」
「補給部隊。中央武器庫からB1、E1へ誘導ミサイルを積み上げろ」
「グーガン整備部隊の半数はD1の81から90滑走路へ。そこをグーガンの修理必要機体の帰投専用滑走路に指定する」
「B072ビンシー大隊はC1へ移動。市街地1007号通り通行を許可する」
「B022ビンシー大隊はF1へ移動。軍用0011にて移動」
兵士からは移動場所が遠いだの通路が狭くて機体の移動が大変だのと、文句の声が上がる。しかしオペレーターは一切の反応も示さない。命令したら、別の部隊に次の命令を伝えなければならないからだ。特に中央オペレーションルームのオペレーターは、無駄口を叩く精神的な余裕などない。
刻一刻と迫るオセロット王国軍。それに伴い膨大なデータが収集され、敵戦力の情報分析が進む。彼我の戦力差が明らかになってくる。時計の針が進むたびに戦力差が開いていくのだ。そして今や、計算した限りでは絶望的な差となっている。
宇宙戦艦の複合装甲の2倍近い厚み。宇宙戦艦の主砲の2倍以上の出力。宇宙戦艦100隻以上の誘導ミサイルの同時発射能力。人型兵器ビンシーと戦闘機グーガンの出撃カタパルトは合わせて200以上ある。しかも、どの方向からの攻撃でも対応できる。それがシラン本星の静止軌道に浮かぶ人工衛星”絶対守護”。
艦隊戦で負けても絶対守護は負けない。そう心のどこかで、オペレーター達は楽観していた。
その考えは幻想だったと、戦略戦術コンピューターが弾きだした情報が、客観的事実で突きつけてくる。
少しでも勝率を上げるため、全方位に分散させていた絶対守護内部の戦力配置を、敵の進軍方向へとシフトしているのだ。
戦力差が絶望的となった原因は、ワープしてきたオセロット王国軍の艦隊にあった。
その艦隊の所為で、シラン本星の総司令部から無茶苦茶な指揮命令が、絶対守護へ押し付けられた。
『第一、第二艦隊を以って小惑星を破壊せよ』
「総司令。それでは絶対守護が無防備になってしまいます」
『死守せよ』
「今の宙域から第一、第二艦隊を転進させますと、後方よりオセロット王国軍の攻勢に遭います。そうなりますと艦隊は甚大な損害を受けます」
『そこを何とかするのが、艦隊司令たる貴官の役目だ。時間が惜しいのだ。今、即座に実行せよ』
「総司令からの当初の命令は、絶対守護でオセロット王国軍の艦隊を惹きつけ、然る後に撃滅せよ、でした。敵戦力は想定以上であり、現状でも絶対守護の死守が難しいと予測されています。第一、第二艦隊が転進すれば、絶対守護は持ち堪えられません。ご再考を!」
『神聖にして不可侵の大シラン帝国の本星が攻撃を受けてはならん』
「ちょっと、お待ちを! シラン本星の航空戦力を以って、敵艦隊に対抗し得るため、第一、第二艦隊は無用であるとも・・・」
『敵は艦隊でなく、小惑星と戦況に変化があったのだ。戦術を変更するに何を躊躇する必要がある。直ちに命令を受諾し、実行せよ。以上だ』
通話が一方的に切られたしまった。
虚飾に塗れた総司令の言い訳に、通話を聞いていたオペレーターたちは脱力し、戦意が挫かれる。
無数の理不尽に耐え絶対守護の指揮官になった男は、唇をかみしめ拳を握り締めた。自分自身とオペレーターに活を入れ生き延びるために声を張り上げる。
「第一、第二艦隊は転進の上、小惑星を破壊。絶対守護は第一、第二艦隊の帰還まで死守だ。攻勢は禁止する。防御に徹するぞ。いいなっ!」
オペレーター達からは弱弱しい返答しかない。しかし、ここで立ち止まると、本当に動けなくなる。指揮官は怒声をもって
「各自っ! 全力を以って絶対守護を死守。各々の役割を果たすぞ。オペレーションだ!」
ノロノロとだがオペレーター達は動き出したのだった。
大シラン帝国から通信はなかった。
リアクションはあった。
絶対守護周辺の宇宙戦艦と、元宇宙戦艦の浮遊砲台の再配置だ。シラン本星では予告された攻撃対象から民間人・・・貴族を避難させ、軍人は迎え撃つ準備に余念がない。
総司令部のあるシラン本星と衛星軌道上の絶対守護が、密に大容量データをリンクして防衛に当たる。特に敵軍の進攻、兵器、戦術のデータ収集は絶対守護の重要な役割を担っている。球状かつ、大気のある惑星上では、どうしても各監視衛星との通信が不安定になるからだ。
つまり、最新の戦況をいち早く把握できるが、絶対守護の中央オペレーションルームなのだ。
そのオペレーションルームも、まるで最前線の戦場のようだった。
「いえ、間違いではありません。資源採掘用小惑星がシラン本星へ向かっていますっ! このままなら大気圏に弾かれて突入しないでしょうが、人為的な動きのようです」
シラン本星との通信担当のオペレターの一人が総司令部と通話していた。
『現在の予想コースなら大気圏に突入しないな』
「そうですが、人為的な動きです。それにシラン本星の各施設が攻撃対象と予告されています。まず大気圏突入すると推察されます」
シラン本星との通信担当の内、更にもう一人のオペレーターが報告を上げる。
「確認された小惑星の数は約50。他にも小さめの小惑星が多数移動している模様」
「複数の小惑星の進行方向が・・・」
同じデータを共有しているため、総司令部の担当者にも小惑星の目的地点が理解できた。
『ここにも・・・落ちる?』
シラン本星の23ヶ所が攻撃目標であると、オセロット王国軍から通告にあった。
「計測できた小惑星の直径は、いずれも10キロメートル前後になります。おおよその計算結果ですが、落下地点に深さ50キロメートル、半径200キロのクレーターができます」
小惑星衝突の衝撃計算結果に戦慄する。
『いちいち言わんでも、ディスプレイを見れば分かる』
「最短落下予定時刻は22時41分。それから約34時間に亘り、小惑星がシラン本星に衝突するとAIシミュレーションが予測」
『計測、計算、分析、シミュレーションは、そっちに任せる。しばらく通話できん』
総司令部のオペレーターは、シラン本星の緊急事態に絶対守護との通話を一方的に切り上げた。通常は常時通話しいてるのだが、総司令部内への報告が最優先と判断したのだ。
総司令部との通話が途絶えても、最前線にいる絶対守護内の中央オペレーションルームが静寂に包まれることはない。中でも顕著なのは、艦隊司令部を兼任している部署であった。
「第一艦隊。突撃位置まで30分。接敵予測時刻まで1時間」
大シラン帝国軍も1艦隊を宇宙戦艦約100隻で編成している。
第一艦隊はシラン本星防錆の最精鋭部隊であり、オセロット王国軍への攻撃の最先鋒となる。
「第二艦隊。迎撃位置まで、後15分」
第二艦隊もシラン本星防錆が担当の艦隊であり、オセロット王国軍への迎撃というよりも、遊撃の役割を期待されている。
「第三艦隊。迎撃位置に移動完了」
第三艦隊は、修理の間に合った宇宙戦艦を集めて艦隊を編成した。
云わば寄せ集めの即席艦隊である。
艦隊司令部は、第三艦隊を艦隊としての機能を諦めた。5隻単位で行動するように定め、防衛宙域を艦隊司令部が随時命令する形式にした。絶対守護の盾であり、最終防衛ラインとしての役割を担う。第三艦隊を突破されると絶対守護が直接戦闘に参加することになる。
「第四艦隊。補給部隊による弾薬の積込み完了。補給部隊は絶対守護に帰還します」
第四艦隊は、便宜上艦隊と呼称しているだけだった。
艦隊所属の宇宙戦艦は、境界突破航法装置を積んでいないどころか、大半はメインエンジンが壊れていて、戦闘するには推進力が足りない。サブエンジンや外部推進装置を取り付け、絶対守護の周辺に配置されたのだ。つまり浮遊砲台兼ビンシー、グーガンの補給用全線基地として、絶対守護と連携することになる。
絶対守護内部は、すでに戦闘が始まったかのような騒ぎになっていた。
オペレーターから指示が出されるたび、現場の兵が文字通り飛び回っている。絶対守護内部の殆どの場所で、重力制御を停止しているためだった。
戦時対応のため、内部で兵器や物資の移動をさせる。必然的に軍用の通路だけでは輸送量が限界に達するため、市街地の大通りも利用すているのだ。兵器は装備されている小型推進装置、物資は外付けの超小型推進装置、兵士は背中にランドセル型のエアージェット。それぞれに適した移動手段で、自在に絶対守護内を移動している。
「F703からF715砲撃小隊。A1での砲撃準備」
「補給部隊。中央武器庫からB1、E1へ誘導ミサイルを積み上げろ」
「グーガン整備部隊の半数はD1の81から90滑走路へ。そこをグーガンの修理必要機体の帰投専用滑走路に指定する」
「B072ビンシー大隊はC1へ移動。市街地1007号通り通行を許可する」
「B022ビンシー大隊はF1へ移動。軍用0011にて移動」
兵士からは移動場所が遠いだの通路が狭くて機体の移動が大変だのと、文句の声が上がる。しかしオペレーターは一切の反応も示さない。命令したら、別の部隊に次の命令を伝えなければならないからだ。特に中央オペレーションルームのオペレーターは、無駄口を叩く精神的な余裕などない。
刻一刻と迫るオセロット王国軍。それに伴い膨大なデータが収集され、敵戦力の情報分析が進む。彼我の戦力差が明らかになってくる。時計の針が進むたびに戦力差が開いていくのだ。そして今や、計算した限りでは絶望的な差となっている。
宇宙戦艦の複合装甲の2倍近い厚み。宇宙戦艦の主砲の2倍以上の出力。宇宙戦艦100隻以上の誘導ミサイルの同時発射能力。人型兵器ビンシーと戦闘機グーガンの出撃カタパルトは合わせて200以上ある。しかも、どの方向からの攻撃でも対応できる。それがシラン本星の静止軌道に浮かぶ人工衛星”絶対守護”。
艦隊戦で負けても絶対守護は負けない。そう心のどこかで、オペレーター達は楽観していた。
その考えは幻想だったと、戦略戦術コンピューターが弾きだした情報が、客観的事実で突きつけてくる。
少しでも勝率を上げるため、全方位に分散させていた絶対守護内部の戦力配置を、敵の進軍方向へとシフトしているのだ。
戦力差が絶望的となった原因は、ワープしてきたオセロット王国軍の艦隊にあった。
その艦隊の所為で、シラン本星の総司令部から無茶苦茶な指揮命令が、絶対守護へ押し付けられた。
『第一、第二艦隊を以って小惑星を破壊せよ』
「総司令。それでは絶対守護が無防備になってしまいます」
『死守せよ』
「今の宙域から第一、第二艦隊を転進させますと、後方よりオセロット王国軍の攻勢に遭います。そうなりますと艦隊は甚大な損害を受けます」
『そこを何とかするのが、艦隊司令たる貴官の役目だ。時間が惜しいのだ。今、即座に実行せよ』
「総司令からの当初の命令は、絶対守護でオセロット王国軍の艦隊を惹きつけ、然る後に撃滅せよ、でした。敵戦力は想定以上であり、現状でも絶対守護の死守が難しいと予測されています。第一、第二艦隊が転進すれば、絶対守護は持ち堪えられません。ご再考を!」
『神聖にして不可侵の大シラン帝国の本星が攻撃を受けてはならん』
「ちょっと、お待ちを! シラン本星の航空戦力を以って、敵艦隊に対抗し得るため、第一、第二艦隊は無用であるとも・・・」
『敵は艦隊でなく、小惑星と戦況に変化があったのだ。戦術を変更するに何を躊躇する必要がある。直ちに命令を受諾し、実行せよ。以上だ』
通話が一方的に切られたしまった。
虚飾に塗れた総司令の言い訳に、通話を聞いていたオペレーターたちは脱力し、戦意が挫かれる。
無数の理不尽に耐え絶対守護の指揮官になった男は、唇をかみしめ拳を握り締めた。自分自身とオペレーターに活を入れ生き延びるために声を張り上げる。
「第一、第二艦隊は転進の上、小惑星を破壊。絶対守護は第一、第二艦隊の帰還まで死守だ。攻勢は禁止する。防御に徹するぞ。いいなっ!」
オペレーター達からは弱弱しい返答しかない。しかし、ここで立ち止まると、本当に動けなくなる。指揮官は怒声をもって
「各自っ! 全力を以って絶対守護を死守。各々の役割を果たすぞ。オペレーションだ!」
ノロノロとだがオペレーター達は動き出したのだった。
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