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突破脱出行
第1章ー1 ソウヤ、ジヨウ、クロー、レイファ 「主役はオレだぜ!」
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ソウヤとレイファの2人は、目的のゲームセンターに到着した。
そこは3階建てで、すべてのフロアが大小さまざまなゲームで埋め尽くされた巨大ゲームセンターである。
今日は、チーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦が開催される予定だ。
この大会は絶対守護内の各ゲームセンターと接続した大掛かりなもので、優勝チームには多額の賞金が出る。
1チーム4人までなのだが、ソウヤたちは前回大会まで3人で参加していた。しかし、4人1チームを想定しているだけに、3人では明らかに戦力不足だった。
それでも初回大会から3回連続決勝進出していて、今回は優勝の最有力といわれている。
だが、ソウヤたちはゲームセンターに入らなかった。
ゲームセンター横の広場に、人だかりができていたからだ。
嫌な・・・ホントは愉しそうな・・・予感がする。
予想どおり、知っている声が人だかりの輪の中心から聞こえてくる。
「我はファイアット家29代目にして、中興の祖となるクロース・ファイアットだぞ」
「はぁ? オメーは何者だってんだ? オレたちと同じ3等級臣民じゃねーのか。3等級臣民に姓はねーんだ。お高くとまってんじゃねー」
輪の中心で、ソウヤたちの知り合い2人が言い争いしている。その雲行きはかなり怪しく、いつ殴り合い・・・いや、立合いが始まってもおかしくない雰囲気だった。
その緊張感あふれる空気の中、レイファは対峙している2人の間を抜け、向こう側へと嬉しそうに走っていった。
レイファの行動によって言い争いは止まったが、それでも緊張感は薄れていない。
その緊張感の真っただ中を、次はソウヤが片手を挙げ、ゆっくりと歩いてレイファの後を追う。
レイファとソウヤが通り抜けると、2人は何事もなかったかのように言い争いを再開した。レイファとソウヤの行動は、2人とって普段通りのことだからだ。
レイファが走って近づいた先に、端整な顔立ちに隙のない姿勢で立っている男がいた。
存在感のある男ではあるのだが、成人男性の標準身長より背が低い所為か凄みに欠ける。
「ジヨウにぃ。クローとウェンハイは、どうしたの~」
魂が引き合うのか? それともブラコンだからなのか? レイファは人の輪から、兄であるジヨウをすぐに見つけていた。
理論の人”ジヨウ”はレイファの二つ上の兄で、外見は栗色の髪の毛を短髪にし、レイファの顔を鋭利にする。そして落ち着いた態度をとらせると、ジヨウが出来上がる。
ジヨウは腕組みしたまま、レイファに事情説明を始める。
「最初は、今日の決勝戦の話だったんだがな・・・。いつの間にか、いつもの議論になったんだ。人としての誇りはないのかというクローに、現実を見つめろというウェンハイの主義主張の平行線だ。交わることのない議論だな・・・」
「人だかりになってんのは、何でだよ?」
ソウヤが口を挟むと、ジヨウが素っ気なく言い捨てる。
「知ってるからだろ」
当然ソウヤとレイファも知っている。
ソウヤは嬉しそうな表情をし、レイファは整った眉を少し顰める。
「やっぱりかよ」
「そうなっちゃうのかな~」
人だかりの連中は、期待に満ちた顔で成り行きを見守っている。
中心にいる2人の言い争いは、すでに罵り合いへと発展していたのだ。
「ゲーム開始も近いから、早くした方がよさそうだな」
ため息を吐き仕方ないという表情で、ジヨウがクローとウェンハイの間に、手を叩きながら入って行く。
「はいはい。いいか、防具がないから目突き金的禁止。他は大和流古式空手の立合いルールだ、いいな。はい、それでは始め」
ジヨウは手慣れた様子で、2人の立合いをスタートさせた。
クローとウェンハイ、それにジヨウとソウヤは、大和流古式空手を習っている同門の仲だった。無論、大和流古式空手も他の武術道場同様に喧嘩を禁止している。しかし同門同士の立合いは修練の一環として禁止していない。
主義主張の違いから、クローとウェンハイは頻繁に立合いという名の喧嘩をしていた。
身長はクローの方が10センチ以上高い。だが、ウェンハイは筋肉量が多く、クローより体重がある。また、持久力でもウェンハイに軍配が上がる。
型と技の派手さではクローだが、不器用なウェンハイは強くなるため、多種多様な技を修得するより、少ない技を極めんと修行していた。
そして対戦成績は、圧倒的にウェンハイが上だった。
速射砲のごとく矢継早に正拳突きを繰り出すウェンハイに対して、クローはサイドステップで避けるだけで有効な攻撃を出せていない。
しかしクローは、ウェンハイの正拳突きの撃ち終わりに反撃に転じた。
右斜め後ろへとバックステップしてから、右下段廻し蹴りを放つ。ウェンハイは左脚を少し浮かして脛で蹴りを受ける。
だがクローの反撃は止まらない。クローは右脚を戻し地に足をつけた瞬間、左膝蹴りをウェンハイの顔へと飛ばす。
その場でウェンハイはクロスアームブロックで受けきると、左脚を踏み込み左ロングフックをクローのボディーへと叩き込んだ。
よろけるクローに、ウェンハイは追撃の正拳4連撃を放つ。
だが、クローは姿勢を立て直し、華麗なステップでウェンハイを中心として円を描くように躱す。
金髪碧眼で彫りが深く、クロースは紳士的振る舞いを信条としている。それ故に大和流古式空手の技も、優雅とか華麗とかの基準で修練する技を選んでいた。
技の選り好みはしても、クローは修練を重ねている。
クローは勢いをつけて、重い左前蹴りを放つ。
その威力をウェンハイは再度クロスアームブロックと鍛え上げた下半身で抑え込む。蹴りを受けきり、反撃の下段蹴りをクローの軸足に叩き込んだ。
慣れない足技のせいか、ウェンハイは次の技への連絡が上手くいかなかった。しゃがみ込んだクローへの追撃にもたついてしまったのだ。
その隙を逃さずクローはしゃがみ込んだ姿勢で足払いをかけ、ウェンハイを転がす。
距離をとって対峙するや否や、2人は同時に動き出し、更に激しい技の応酬を繰り返す。
ソウヤたちの間近で、いつ終わるともしれない足技と手技の見応えある攻防が続く。
野次馬たちの様子は、興奮から熱狂へと変化していた。
5分以上に及ぶ一進一退の立合いに変化を求めたのか、ウェンハイが上段右廻し蹴りを放つ。それをクローはバックステップで後ろに躱してから、左廻し蹴り、そして後ろ蹴りに繋げる。
ウェンハイはクローの後ろ蹴りを拳で弾きつつ受け流す。
前のめりになって、クローの体勢が崩れた。
絶好のチャンスだ。ウェンハイの右正拳突きがクローの顔面を襲う。
しかし意気込み過ぎたのか、それともクローの蹴りによるダメージの影響か、軸足が定まらずウェンハイも体勢を崩してしまう。
無理に倒れないようにすると、却って大きなケガを招くことがある。
ウェンハイはそのような愚を犯すまいと、前方に回転して立ち上がる際には大きく前へとジャンプしてクローとの間合いをとった。
その行為は、対峙している相手に対しては正しかった。だが、周囲に対しては正しくなかった。
ウェンハイは勢いよく見物人の輪に突っ込むことになったのだ。
そして、その位置にレイファがいた。
立ち竦むレイファをソウヤは後ろから抱き寄せ半転し、ウェンハイの突進を背中で防御する。
猛烈な勢いでウェンハイがソウヤの背中に衝突したため、ソウヤはレイファの柔らかい体を強く抱きしめることになった。
レイファは頬だけでなく耳朶まで朱に染め、両手を頬に添え放心している。
「ウェンハイ! 気をつけやがれ!!」
ソウヤはレイファを抱きしめたまま、険しい顔で叫んだ。ソウヤの声は、意外にも耳に心地よい透明な声質をしていて、見物人の喧噪にかき消されることなく、周囲に響く。
「周囲を巻き込むな。レイファが怯えてんだろうが!」
「ぜってぇー違う!」
怒鳴り声で応酬したウェンハイの意見に”うんうん”と野次馬の大多数が首肯している。
2人の周囲の人間にすら察せられるのに、ソウヤは全く察することが出来ていない。
「バカ言うなっ。顔真っ赤にして、震えてんだろうが。オレは、テメーを許さねぇーぜっ!!」
ソウヤはレイファの体を離すと、ウェンハイに猛烈な勢いで襲いかかった。
飛ぶように左前蹴りを放ち、左脚が着地した瞬間、跳ねるように右上段廻し蹴りを放つ。そこから、半回転して後ろ下段蹴りへと繋ぐ。
クローのことを舐めていた訳ではなかったのだろうが、ソウヤが相手ということでウェンハイの気合いが上昇する。
「ぐおぉおぉー、普通は青くなる。どりゃあぁぁぁーー」
ウェンハイの指摘は100%正しい。
レイファはソウヤに抱きしめられ、照れていたのである。
しかし、熱くなったソウヤが冷静な判断をできるはずもない。
ウェンハイ得意の近接の間合いに入ってもソウヤは、アッパーにフック、飛び膝蹴りと流れるように技を連絡させる。
堪らず間合いを取ったウェンハイを追うように、ソウヤは次々多彩な技を繰り出す。
実際のところ、ソウヤはクローとウェンハイの立合いを見物していて、ウズウズしていた。
レイファの危機は、ソウヤに立合いへ参加させる絶好の口実となり、その機会を逃さなかったのだ。
「そんなこと知るかぁー。せぇいやぁー」
ソウヤの暴言にウェンハイが律儀に応じる。
「訊いたのはオメーだー。ぐぅおりゃー」
ソウヤの左上段回し蹴りをダッキングで躱し、ウェンハイは左正拳突きで応戦する。だが、ソウヤは左正拳突きを右腕で外へと弾き、その流れで右膝蹴りをウェンハイの胸に炸裂させた。
「黙って死ねやぁあああーー」
ソウヤは右膝蹴りの勢いにのって更なる攻勢をかける。
ウェンハイは防御を固め鎧のような筋肉で耐える。
ソウヤの流麗にして重たく、虚実を織り交ぜた連続攻撃をウェンハイは防ぎきった。
仕切りなおすようにソウヤは一旦距離をとり、ウェンハイと対峙する。
「いいか、2人とも。目突き金的禁止で、大和流古式空手の試合ルールだからな」
本来、ジヨウは審判としてソウヤの乱入を防ぐ義務があるはずなのだが、全く止める気配がなかった。妹を危険な目に合わせたウェンハイを許していない、という分かり易い理由からだ。
だが、野次馬は誰も気にしていない。
それどころか、ソウヤ対ウェンハイのスピーディーな技の応酬に目を奪われている。
野次馬の中でソウヤとウェンハイを知っている者は、期待以上の展開に胸を躍らせている。
なぜなら、昨年”絶対守護”内で開催された総合格闘技大会18歳以下の決勝カードだからだ。
クローは不満そうな表情を浮かべていたが、大きく肩で息を吐き地面に座り込んでいる。
ソウヤの攻防一体の流れるような動作に対して、ウェンハイは武骨で直線的な攻撃に、鉄壁の防御で対抗している。
素人目にも素晴らしい攻防が展開されているのが分かる。
しかし、素人には分からないかもしれないが、2人とも虚実を織り交ぜ戦っている。
そのハイレベルな攻防は、玄人も満足させる立合いであった。
4週間前。
帝国3等級臣民街の大型ゲームセンター各店に、突如として一辺3メートルにも及ぶ立方体4台1セットで設置された。立方体は1人乗りの対戦型ネットワークゲームである。
その中に入ると外からの音は一切聞こえず、宇宙で本物の人型兵器”ビンシー6”を操縦し、戦っているかのようにな感覚が実現されている。
何より操縦席は、ビンシー6を完全に再現したと謳われていて、それまでの対戦型ネットワークゲームとは比べ物にならない臨場感があった。
どう、何もかもゲームの範疇を越えていたのだ。
ただ一つ、既存のゲーム以下となのは、ゲーム名がないぐらいである。
使用する人型兵器の名からビンシーとか、あのゲームとか、みんな適当に呼んでいる。そもそも、ゲームメーカーが何処かも明かされていない。
こんな怪しげな対戦型ネットワークゲームだが皆を夢中にさせる魅力があった。それは、ゲームの内容でも機械の性能でもなく、週に一度開催される大会の賞金だった。
3等級臣民の平均月収の5倍を超える額の賞金が優勝チームに支払われる。
その賞金の高額さから、エントリーするチームは大会を重ねる毎に増えていった。
大会にエントリーすると、まずゲームのコンピューターと4対4の対戦をする。その対戦でのポイント上位80チームが大会本選へと進める。エントリー期間は3日間で、挑戦は1チーム1回のみ。しかも1人1チームのみにしか所属できないルールになっている。
大会本選も同様に3日間に亘って実施される。本選へと進んだチームは、4ブロックに振り分けられ、チーム対チームのトーナメント形式で争われる。勝利条件は、1時間内で敵を全滅させるか、損害ポイントで上回ることである。
ただ、3日目の決勝では、各ブロックを勝ち抜いてきた4チームによるバトルロワイアル形式で、3チームが全滅するまで続けられる完全決着ルールになっている。
誰が何故、何の目的で実施しているのか様々な憶測が流れている。
しかし、ゲームの魅力と賞金の高額さから詮索は後回しにされ、若者の間ではゲーム攻略の話題が中心になっていた。
そこは3階建てで、すべてのフロアが大小さまざまなゲームで埋め尽くされた巨大ゲームセンターである。
今日は、チーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦が開催される予定だ。
この大会は絶対守護内の各ゲームセンターと接続した大掛かりなもので、優勝チームには多額の賞金が出る。
1チーム4人までなのだが、ソウヤたちは前回大会まで3人で参加していた。しかし、4人1チームを想定しているだけに、3人では明らかに戦力不足だった。
それでも初回大会から3回連続決勝進出していて、今回は優勝の最有力といわれている。
だが、ソウヤたちはゲームセンターに入らなかった。
ゲームセンター横の広場に、人だかりができていたからだ。
嫌な・・・ホントは愉しそうな・・・予感がする。
予想どおり、知っている声が人だかりの輪の中心から聞こえてくる。
「我はファイアット家29代目にして、中興の祖となるクロース・ファイアットだぞ」
「はぁ? オメーは何者だってんだ? オレたちと同じ3等級臣民じゃねーのか。3等級臣民に姓はねーんだ。お高くとまってんじゃねー」
輪の中心で、ソウヤたちの知り合い2人が言い争いしている。その雲行きはかなり怪しく、いつ殴り合い・・・いや、立合いが始まってもおかしくない雰囲気だった。
その緊張感あふれる空気の中、レイファは対峙している2人の間を抜け、向こう側へと嬉しそうに走っていった。
レイファの行動によって言い争いは止まったが、それでも緊張感は薄れていない。
その緊張感の真っただ中を、次はソウヤが片手を挙げ、ゆっくりと歩いてレイファの後を追う。
レイファとソウヤが通り抜けると、2人は何事もなかったかのように言い争いを再開した。レイファとソウヤの行動は、2人とって普段通りのことだからだ。
レイファが走って近づいた先に、端整な顔立ちに隙のない姿勢で立っている男がいた。
存在感のある男ではあるのだが、成人男性の標準身長より背が低い所為か凄みに欠ける。
「ジヨウにぃ。クローとウェンハイは、どうしたの~」
魂が引き合うのか? それともブラコンだからなのか? レイファは人の輪から、兄であるジヨウをすぐに見つけていた。
理論の人”ジヨウ”はレイファの二つ上の兄で、外見は栗色の髪の毛を短髪にし、レイファの顔を鋭利にする。そして落ち着いた態度をとらせると、ジヨウが出来上がる。
ジヨウは腕組みしたまま、レイファに事情説明を始める。
「最初は、今日の決勝戦の話だったんだがな・・・。いつの間にか、いつもの議論になったんだ。人としての誇りはないのかというクローに、現実を見つめろというウェンハイの主義主張の平行線だ。交わることのない議論だな・・・」
「人だかりになってんのは、何でだよ?」
ソウヤが口を挟むと、ジヨウが素っ気なく言い捨てる。
「知ってるからだろ」
当然ソウヤとレイファも知っている。
ソウヤは嬉しそうな表情をし、レイファは整った眉を少し顰める。
「やっぱりかよ」
「そうなっちゃうのかな~」
人だかりの連中は、期待に満ちた顔で成り行きを見守っている。
中心にいる2人の言い争いは、すでに罵り合いへと発展していたのだ。
「ゲーム開始も近いから、早くした方がよさそうだな」
ため息を吐き仕方ないという表情で、ジヨウがクローとウェンハイの間に、手を叩きながら入って行く。
「はいはい。いいか、防具がないから目突き金的禁止。他は大和流古式空手の立合いルールだ、いいな。はい、それでは始め」
ジヨウは手慣れた様子で、2人の立合いをスタートさせた。
クローとウェンハイ、それにジヨウとソウヤは、大和流古式空手を習っている同門の仲だった。無論、大和流古式空手も他の武術道場同様に喧嘩を禁止している。しかし同門同士の立合いは修練の一環として禁止していない。
主義主張の違いから、クローとウェンハイは頻繁に立合いという名の喧嘩をしていた。
身長はクローの方が10センチ以上高い。だが、ウェンハイは筋肉量が多く、クローより体重がある。また、持久力でもウェンハイに軍配が上がる。
型と技の派手さではクローだが、不器用なウェンハイは強くなるため、多種多様な技を修得するより、少ない技を極めんと修行していた。
そして対戦成績は、圧倒的にウェンハイが上だった。
速射砲のごとく矢継早に正拳突きを繰り出すウェンハイに対して、クローはサイドステップで避けるだけで有効な攻撃を出せていない。
しかしクローは、ウェンハイの正拳突きの撃ち終わりに反撃に転じた。
右斜め後ろへとバックステップしてから、右下段廻し蹴りを放つ。ウェンハイは左脚を少し浮かして脛で蹴りを受ける。
だがクローの反撃は止まらない。クローは右脚を戻し地に足をつけた瞬間、左膝蹴りをウェンハイの顔へと飛ばす。
その場でウェンハイはクロスアームブロックで受けきると、左脚を踏み込み左ロングフックをクローのボディーへと叩き込んだ。
よろけるクローに、ウェンハイは追撃の正拳4連撃を放つ。
だが、クローは姿勢を立て直し、華麗なステップでウェンハイを中心として円を描くように躱す。
金髪碧眼で彫りが深く、クロースは紳士的振る舞いを信条としている。それ故に大和流古式空手の技も、優雅とか華麗とかの基準で修練する技を選んでいた。
技の選り好みはしても、クローは修練を重ねている。
クローは勢いをつけて、重い左前蹴りを放つ。
その威力をウェンハイは再度クロスアームブロックと鍛え上げた下半身で抑え込む。蹴りを受けきり、反撃の下段蹴りをクローの軸足に叩き込んだ。
慣れない足技のせいか、ウェンハイは次の技への連絡が上手くいかなかった。しゃがみ込んだクローへの追撃にもたついてしまったのだ。
その隙を逃さずクローはしゃがみ込んだ姿勢で足払いをかけ、ウェンハイを転がす。
距離をとって対峙するや否や、2人は同時に動き出し、更に激しい技の応酬を繰り返す。
ソウヤたちの間近で、いつ終わるともしれない足技と手技の見応えある攻防が続く。
野次馬たちの様子は、興奮から熱狂へと変化していた。
5分以上に及ぶ一進一退の立合いに変化を求めたのか、ウェンハイが上段右廻し蹴りを放つ。それをクローはバックステップで後ろに躱してから、左廻し蹴り、そして後ろ蹴りに繋げる。
ウェンハイはクローの後ろ蹴りを拳で弾きつつ受け流す。
前のめりになって、クローの体勢が崩れた。
絶好のチャンスだ。ウェンハイの右正拳突きがクローの顔面を襲う。
しかし意気込み過ぎたのか、それともクローの蹴りによるダメージの影響か、軸足が定まらずウェンハイも体勢を崩してしまう。
無理に倒れないようにすると、却って大きなケガを招くことがある。
ウェンハイはそのような愚を犯すまいと、前方に回転して立ち上がる際には大きく前へとジャンプしてクローとの間合いをとった。
その行為は、対峙している相手に対しては正しかった。だが、周囲に対しては正しくなかった。
ウェンハイは勢いよく見物人の輪に突っ込むことになったのだ。
そして、その位置にレイファがいた。
立ち竦むレイファをソウヤは後ろから抱き寄せ半転し、ウェンハイの突進を背中で防御する。
猛烈な勢いでウェンハイがソウヤの背中に衝突したため、ソウヤはレイファの柔らかい体を強く抱きしめることになった。
レイファは頬だけでなく耳朶まで朱に染め、両手を頬に添え放心している。
「ウェンハイ! 気をつけやがれ!!」
ソウヤはレイファを抱きしめたまま、険しい顔で叫んだ。ソウヤの声は、意外にも耳に心地よい透明な声質をしていて、見物人の喧噪にかき消されることなく、周囲に響く。
「周囲を巻き込むな。レイファが怯えてんだろうが!」
「ぜってぇー違う!」
怒鳴り声で応酬したウェンハイの意見に”うんうん”と野次馬の大多数が首肯している。
2人の周囲の人間にすら察せられるのに、ソウヤは全く察することが出来ていない。
「バカ言うなっ。顔真っ赤にして、震えてんだろうが。オレは、テメーを許さねぇーぜっ!!」
ソウヤはレイファの体を離すと、ウェンハイに猛烈な勢いで襲いかかった。
飛ぶように左前蹴りを放ち、左脚が着地した瞬間、跳ねるように右上段廻し蹴りを放つ。そこから、半回転して後ろ下段蹴りへと繋ぐ。
クローのことを舐めていた訳ではなかったのだろうが、ソウヤが相手ということでウェンハイの気合いが上昇する。
「ぐおぉおぉー、普通は青くなる。どりゃあぁぁぁーー」
ウェンハイの指摘は100%正しい。
レイファはソウヤに抱きしめられ、照れていたのである。
しかし、熱くなったソウヤが冷静な判断をできるはずもない。
ウェンハイ得意の近接の間合いに入ってもソウヤは、アッパーにフック、飛び膝蹴りと流れるように技を連絡させる。
堪らず間合いを取ったウェンハイを追うように、ソウヤは次々多彩な技を繰り出す。
実際のところ、ソウヤはクローとウェンハイの立合いを見物していて、ウズウズしていた。
レイファの危機は、ソウヤに立合いへ参加させる絶好の口実となり、その機会を逃さなかったのだ。
「そんなこと知るかぁー。せぇいやぁー」
ソウヤの暴言にウェンハイが律儀に応じる。
「訊いたのはオメーだー。ぐぅおりゃー」
ソウヤの左上段回し蹴りをダッキングで躱し、ウェンハイは左正拳突きで応戦する。だが、ソウヤは左正拳突きを右腕で外へと弾き、その流れで右膝蹴りをウェンハイの胸に炸裂させた。
「黙って死ねやぁあああーー」
ソウヤは右膝蹴りの勢いにのって更なる攻勢をかける。
ウェンハイは防御を固め鎧のような筋肉で耐える。
ソウヤの流麗にして重たく、虚実を織り交ぜた連続攻撃をウェンハイは防ぎきった。
仕切りなおすようにソウヤは一旦距離をとり、ウェンハイと対峙する。
「いいか、2人とも。目突き金的禁止で、大和流古式空手の試合ルールだからな」
本来、ジヨウは審判としてソウヤの乱入を防ぐ義務があるはずなのだが、全く止める気配がなかった。妹を危険な目に合わせたウェンハイを許していない、という分かり易い理由からだ。
だが、野次馬は誰も気にしていない。
それどころか、ソウヤ対ウェンハイのスピーディーな技の応酬に目を奪われている。
野次馬の中でソウヤとウェンハイを知っている者は、期待以上の展開に胸を躍らせている。
なぜなら、昨年”絶対守護”内で開催された総合格闘技大会18歳以下の決勝カードだからだ。
クローは不満そうな表情を浮かべていたが、大きく肩で息を吐き地面に座り込んでいる。
ソウヤの攻防一体の流れるような動作に対して、ウェンハイは武骨で直線的な攻撃に、鉄壁の防御で対抗している。
素人目にも素晴らしい攻防が展開されているのが分かる。
しかし、素人には分からないかもしれないが、2人とも虚実を織り交ぜ戦っている。
そのハイレベルな攻防は、玄人も満足させる立合いであった。
4週間前。
帝国3等級臣民街の大型ゲームセンター各店に、突如として一辺3メートルにも及ぶ立方体4台1セットで設置された。立方体は1人乗りの対戦型ネットワークゲームである。
その中に入ると外からの音は一切聞こえず、宇宙で本物の人型兵器”ビンシー6”を操縦し、戦っているかのようにな感覚が実現されている。
何より操縦席は、ビンシー6を完全に再現したと謳われていて、それまでの対戦型ネットワークゲームとは比べ物にならない臨場感があった。
どう、何もかもゲームの範疇を越えていたのだ。
ただ一つ、既存のゲーム以下となのは、ゲーム名がないぐらいである。
使用する人型兵器の名からビンシーとか、あのゲームとか、みんな適当に呼んでいる。そもそも、ゲームメーカーが何処かも明かされていない。
こんな怪しげな対戦型ネットワークゲームだが皆を夢中にさせる魅力があった。それは、ゲームの内容でも機械の性能でもなく、週に一度開催される大会の賞金だった。
3等級臣民の平均月収の5倍を超える額の賞金が優勝チームに支払われる。
その賞金の高額さから、エントリーするチームは大会を重ねる毎に増えていった。
大会にエントリーすると、まずゲームのコンピューターと4対4の対戦をする。その対戦でのポイント上位80チームが大会本選へと進める。エントリー期間は3日間で、挑戦は1チーム1回のみ。しかも1人1チームのみにしか所属できないルールになっている。
大会本選も同様に3日間に亘って実施される。本選へと進んだチームは、4ブロックに振り分けられ、チーム対チームのトーナメント形式で争われる。勝利条件は、1時間内で敵を全滅させるか、損害ポイントで上回ることである。
ただ、3日目の決勝では、各ブロックを勝ち抜いてきた4チームによるバトルロワイアル形式で、3チームが全滅するまで続けられる完全決着ルールになっている。
誰が何故、何の目的で実施しているのか様々な憶測が流れている。
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ワイルド・ソルジャー
アサシン工房
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時は199X年。世界各地で戦争が行われ、終戦を迎えようとしていた。
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旅の途中、人間離れした強さを持つ大柄な軍人ハンニバル・クルーガーにスカウトされ、マティアスは軍人として活動することになる。
ハンニバルと共に任務をこなしていくうちに、冷徹で利己主義だったマティアスは利害を超えた友情を覚えていく。
世紀末の荒廃したアメリカを舞台にしたバトルファンタジー。
他の小説サイトにも投稿しています。
スペースシエルさんReboot 〜宇宙生物に寄生されましたぁ!〜
柚亜紫翼
SF
真っ暗な宇宙を一人で旅するシエルさんはお父さんの遺してくれた小型宇宙船に乗ってハンターというお仕事をして暮らしています。
ステーションに住んでいるお友達のリンちゃんとの遠距離通話を楽しみにしている長命種の145歳、趣味は読書、夢は自然豊かな惑星で市民権とお家を手に入れのんびり暮らす事!。
「宇宙船にずっと引きこもっていたいけど、僕の船はボロボロ、修理代や食費、お薬代・・・生きる為にはお金が要るの、だから・・・嫌だけど、怖いけど、人と関わってお仕事をして・・・今日もお金を稼がなきゃ・・・」
これは「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」に投稿している「〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜」の元になったお話のリメイクです、なので内容や登場人物が「リーゼロッテさん」とよく似ています。
時々鬱展開やスプラッタな要素が混ざりますが、シエルさんが優雅な引きこもり生活を夢見てのんびりまったり宇宙を旅するお話です。
遥か昔に書いたオリジナルを元にリメイクし、新しい要素を混ぜて最初から書き直していますので宇宙版の「リーゼロッテさん」として楽しんでもらえたら嬉しいです。
〜隻眼の令嬢、リーゼロッテさんはひきこもりたい!〜
https://www.alphapolis.co.jp/novel/652357507/282796475
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