第二次サイバー世界大戦

kashiwagura

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第10章 ソルジャー躍動(2)

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 ドローンを破壊する少し前、CICの壁面ディスプレイの中央に、第3観測班から送信されてきた映像が表示されていた。
 想定されていなかったイレギュラーに対し瞬時に判断を下す。三枚堂は自分の口許マイクのスイッチをオンにし、現地司令部へ命令する。
 指揮命令系統を遵守するあたり、三枚堂は自衛隊で組織運営の重要性を学んだらしい。ただ人間の本質は、そうそう変わるものでなく、あくまで表面上のことだろう。三枚堂は自分の目的に都合の良い時だけ、指揮命令系統を遵守するのだ。
「現地司令部へ。こちら三枚堂だ。ドローンを完全破壊せよ」
『三枚堂閣下。了解しました。第1、第4、第6電磁波班。試作レーザーを照射』
 佐瀬が西川に食って掛かる。
「試作レーザー? 試作レーザーって言うたよ。レーザー兵器なんてサイバー作戦隊に必要ねえだろ?」
「サイバー作戦隊が、電磁波照射兵器を持っているのは当然だが。ドローンのジャミングに内蔵電子機器の破壊。何せサイバー作戦隊は電磁パルス攻撃の対応も関係部署と対策している。ネットワーク内だけが防衛範囲じゃない」
「サイバー作戦隊がレーザー兵器持ってる説明になってねえが」
「自衛隊内で決定することであって、量子計算機情報処理省には関係ないだろ?」
 回答できずに佐瀬は一瞬固まった。
 しかし頭の回転が早い佐瀬は、別口の攻め方を考え付いた。
「くっ。そうだとしても、実戦訓練に試作レーザー兵器使うか? どうすんだよ、自衛隊がレーザー兵器使用したって世間にバレっろが」
「佐瀬よー。違うだろ」
 しかし同じように頭の回転の早い西川には通用しなかった。
「何がだ?」
「お前が言いたいのは、量子計算機情報処理省が困るからだ。量子計算機情報処理省の監査室室長として困るからだ。実戦訓練で試作機を使用して、作戦時で運用できるか試さないで、いつ試すっていうんだ」
「サイバー作戦隊だって困っろっ!」
 佐瀬と西川が口論している横で、三枚堂は我関せずと、第3観測班に直接質問する。
「きれいか?」
 指示命令ではないので、命令系統の逸脱や越権行為とはならない。ギリ問題ないが、三枚堂は自分に必要と思えば、いつでも指揮命令系統を無視するだろう。
『惚れ惚れする切断面であります』
「試作レーザー装置はどうだ?」
『異常ありません。すぐにでも第二射可能であります』
 試作レーザー装置の報告に、三枚堂の表情が険しくなる。
「・・・目標があればなぁー」
 悩んでいたのは試作レーザー装置についてではなく、ターゲットが見当たらないことだったようだ。
「三枚堂閣下。情報操作する量子計算機情報処理省の佐瀬監査室室長の苦労が増えますので、さすがに不適切かと・・・」
「ちょい待ち。おいが隠蔽すんのかい」
「あーあー。それじゃ仕方ねぇーかぁーーー」
 三枚堂は口の中で呟いてから、声にだして指揮命令系統に則って命令する。
「次の事案まで試作レーザー装置は待機させよ。現地司令部へ、作戦計画に戻れ」
『現地司令部、了解しました。作戦計画に戻ります』
 マイクのスイッチをオフにしてから、三枚堂が佐瀬のに答える。
「隠蔽は必要ない。サイバー作戦隊の仕業とは誰も分からんからな。佐瀬、情報操作は任せる」
「・・・どうせれと?」
「そんなの簡単なこと。すべて不具合を起こした欠陥ドローンの所為にすれば良いんだぞ。いいか、欠陥ドローンの持ち主は我々の味方だ。そこを前提にして考えれば容易い話だろ」
 あー、他の省庁にも同じんかね要求してんな。しかも簡単に解決策が出てくるとは、かなりの経験・・・回数、実戦訓練してんだろな。
 盛大な溜息を吐き項垂れてる佐瀬に、西川は優しい声をかける。
「佐瀬、さっきからずっと訛ってる。どこの出身だっけ?」
「新潟だよ。それが何か?」
「いいや、だたの雑談。興味本位だよ」
 CIC内の極々一部の緊張感の欠けた会話とは異なり、現場からは緊迫感に溢れる応答が飛び交っている。
『現地司令部より第3観測班、第4、第6電磁波班へ。予定ポイントに急行されたし』
『こちら第3観測班、了解した。第2ポイントに急行する』
『こちら第6電磁波班、了解だ。第10ポイントに急行する』
『第4電磁波班、了解。第14ポイントに向かう』
『現地司令部より第1電磁波班へ。予定変更する。第1ポイントに急行されたし』
『こちら第1電磁波班。第1ポイントには第3電磁波班が待機しているが間違いないか?』
『こちら現地司令部。間違いない。先の事態より、人工知能の攻撃が、想定を上回る可能性がある。危険地帯の駅前ロータリーの防衛を強化する。対象が第2ポイントを超えたら、作戦計画へと復帰せよ』
『こちら第1電磁波班。意図を理解した。命令を受諾。対象が第2ポイントを超えたら、第21ポイントへと急行する』
 突然、佐瀬の背後に気配があらわれた。
「どうですかな? 三枚堂閣下」
 好々爺然とした雰囲気を纏っているが、制服の上からでも分かる引き締まった肉体と厳つい顔の60前後の男性が、三枚堂の横に立っていた。
 三枚堂は、視線を全面ディスプレイ固定したまま答える。
「全ての機器は想定通りの性能を発揮している。良い仕上がりだ。しかも、このタイミングで試作レーザーの実戦データが収集できるとは、まさに僥倖。門倉に感謝せねばな」
「そうですか。色々と持っている男なんですな。自分も俄然興味が湧いてきました。次回には工作が間に合わないでしょうが、再来年の4月にはここに来てもらいましょう。愉しみですな」
「ちょーっと、その話は後にしようか」
 三枚堂は佐瀬に視線を飛ばす。その視線を追った60前後の自衛官は、理解の表情を浮かべ肯いた。
「失礼しました。自分はサイバー作戦隊ではないのですが・・・陸上自衛隊の大野と言います」
 席から立ち上がり、佐瀬も挨拶を返す。
「お邪魔してるのに、挨拶が遅れて申し訳ありません。量子計算情報処理省監査室の佐瀬だ」
「お気になさらず。今日は三枚堂閣下の貸し切りです」
 大野は笑顔で、気にしないようにと手を振ったのだ。
「それでは、三枚堂閣下、大野閣下。私は佐瀬と作業に戻ります」
「ああ、任せた」
 西川と佐瀬は簡易敬礼をし、割り当てられた席へと向かう。
「誰だ?」
 足を進めながら、佐瀬は西川に尋ねた。
「大野陸将補だよ」
「陸将補だって・・・何者だ?」
「人事の人」
「ん? 何で人事の人がサイバー作戦隊の非公式作戦の見学にくるんだ」
 三枚堂のさっき視線に引っかかりを感じていた佐瀬は、西川に食い下がるように質問を重ねた。
「興味があるからだろ」
「なるほど、そうか・・・」
 佐瀬は立ち止まり、納得のいかない表情を浮かべた。
「情報操作よろしくな。オレはオペレーションに戻る」
 無表情の西川は佐瀬の肩を軽く叩き、席へと歩き出した。しかし、西川の表情と行動は、佐瀬の違和感を増加させ疑惑を芽生えさせた。
「何隠してる?」
 大きくはないが鋭い佐瀬の声が、その場に西川の足を縫いつけた。
「ふぅー。お前ら量子計算機情報処理省が、カドくんを正当に評価しないのが悪いんだよ」
「どんげなことだ」
 西川は佐瀬を睨みつけ、厳しい口調で話す。
「サイバー作戦隊でのカドくんの評価が高い。とりわけ三枚堂さんは、カドくんの実力と勘の良さを高く評価してる。他省庁との人事の窓口の親玉が大野陸将補だ。大野陸将補は、温厚な表情で好々爺然としてるが、かなりの剛腕だ。今オレは、陸上自衛隊サイバー作戦隊に所属しているから、これ以上言えない。あとはお前ら、量子計算機情報処理省の問題だ」
 西川は門倉と大学が一緒だけでなく、研究室まで一緒だった。門倉の現状に憤り以上の感情を持っている事が察せられる。
「あーあーあーっと、助かった。カドくんは量子計算機情報処理省に所属したったいだろうな。おいは、カドくんは量子計算機情報処理省のカドくんだて思うてる」
「そう思っているなら、他の省庁が手出しできないよう形式も整えるんだ。2UPは、必要だろうけどな」
 そう言うと西川は席へと足を進めた。
 事なかれ主義の官僚は、問題発見したがらねえ。問題発見しても、自部署以外の管轄に押し付けらんねえかと画策さえする。門倉は自分の業務でのうても問題嗅ぎ付け、首突っ込んでしまうのだ。
 そのためか・・・いや、その所為で昇進が止まってる。
 部長待遇まで昇進させんば陸上自衛隊サイバー作戦隊にムリヤリ出向させられ、転籍となるのだろう。さっき大野陸将補は、再来年の4月と漏らしたった。
「今回の功労者で特別。来年の4月に定例。・・・なんとかしんばな」
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