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第8章 量子コンピューター研究開発機構のソルジャー(7)
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「撤収完了」
プレミアムコンパートメント席に戻った3人は、監視作業に移行する。
「良し。カメラ、センサーのデータ受信は良好。現時刻1307(ひとさんまるなな)予定通り」
「カメラ、センサー共に規定値以上の性能であることを確認」
「監視を密にせよ」
長沼が班員に周知すると、直ぐさま返答がある。
「「「了解」」」
何処からどう見ても立派な自衛隊員だ。
たとえ身体つきが貧相で色白、かつ迷彩服が全く似合わず、行動にキレがなくとも・・・。
「R4班からCICへ。カメラ、センサーの生データ受信。CICへ配信を開始しました」
長沼がCICに報告すると、西川が答える。
『CIC了解。データ受信は良好。こちらでも監視する』
R4班の全員が席に戻った今、班内の報告は通信回線を使っていない。骨伝導イヤホンから聞こえてくるのは、他の班の報告よりも、CIC内の会話内容だった。
『リニアモーターカーには手が出せる』
三枚堂の言葉に、R4の加瀬が大きく反応した。
決意を顔に表し、R4班班長の長沼に告げる。
「班長。CICに説明する許可を申請いたします」
「良し、許可する。三枚堂閣下、R4班の長沼です。加瀬より佐瀬さんに疑問点の説明をさせることを具申します」
『うむ、分かった。加瀬に任せよう』
「加瀬」
「はい、ありがとうございます。それでは佐瀬さんに説明させていただきます」
R4班は、事件発生時の対処要員。
リニアモーターカーの速度は人の認識で監視不可能。
そのため陸上自衛隊サイバー作戦隊の監視プログラムが動作し、CICで状況確認できるようにしてある。加瀬が監視業務をせずリニアモーターカーの説明を始めても、何ら問題がない。
なので加瀬は、遠慮なく佐瀬に対して説明という名の講義を始めたのだ。
リニアモーターカーの客室、連結部などの人が立ち入れる場所は気密仕様となっている。それは、トンネル内が富士山の山頂ぐらいの0.65気圧になっているからだ。
空気抵抗をすくなくなると、同じ電力でもリニアモーターカーの走行スピードがあがる。
また、走行時の空力の影響を減少でき、車両の浮遊高さなどの安定性が良くなる。
しかし、トンネル内での事故。リニアモーターカーがトンネル内で立往生したりすると大変なのだ。座席にある非常用小型酸素ボンベを使用して、トンネル内のメンテナンス通路へと避難するのだ。
メンテナンス通路へのドアは100メートル置きに存在するが、酸素ボンベになれていない乗客が0.65気圧の中を移動するのだ。トンネルや施設は安全でも、乗客のパニックなど人的な事故が起こり得る。
真田と児玉をトンネル内に閉じ込めるにはセンサー類を誤認させ、リニアモーターカーの安全装置を働かせれば良い。
中央統合情報処理研究所の人工知能が、真田と児玉にどこまでするのか分からない。殺害なのか、隔離なのか? いずれにせよ、トンネル内でリニアモーターカーを停止させられれば、2人に手出しするのは容易になる。
人知れず事故を未然に防ぐ。
それが今、陸上自衛隊サイバー作戦隊に枷られた任務なのだ。
『加瀬さん。あなたの職務に対する知識の深さは理解しました。もう充分だ。それに、そろっと岡山県に入るでしょう。撤収準備もあるでしょうけ、業務に戻っていただいて構いません』
「自分は鉄ヲタであります。またR4班は、終点までリニアモーターカーでの作戦を実行します」
『んん?』
「リニアモーターカーが新岡山駅に到着するまで、自分たちは撤収作業に着手できません。そのため、最低でも次の停車駅まで、R4班はリニアモーターカーから降車不可能であります」
『んんんん??』
「三枚堂閣下。説明しても宜しいでしょうか?」
『許可する、加瀬。存分に語るが良い。新岡山駅より先でも、量子計算機情報処理省の監査が必要なのだ。故に各省庁からの問合せは佐瀬に一任する』
『いやいや、量子計算機情報処理省の協力要請は真田君と児玉君の安全確保のみですよ。いくら何でも拡大解釈しすぎだ。各省庁からの苦情抑えるにも限度ってものが・・・』
「佐瀬さん、拡大解釈ではありません。2人の帰還までが作戦です。退路の安全確保上、西日本縦断リニアモーターカー全線の安全確認は必須事項であります」
佐瀬の唖然とした表情が、画面からでも良く伝わってきた。
三枚堂の顔は画面から見切れている。そのため表情は分からないが、高笑いが聞こえてきているので、加瀬の説明に満足しているが伝わってきていた。
プレミアムコンパートメント席に戻った3人は、監視作業に移行する。
「良し。カメラ、センサーのデータ受信は良好。現時刻1307(ひとさんまるなな)予定通り」
「カメラ、センサー共に規定値以上の性能であることを確認」
「監視を密にせよ」
長沼が班員に周知すると、直ぐさま返答がある。
「「「了解」」」
何処からどう見ても立派な自衛隊員だ。
たとえ身体つきが貧相で色白、かつ迷彩服が全く似合わず、行動にキレがなくとも・・・。
「R4班からCICへ。カメラ、センサーの生データ受信。CICへ配信を開始しました」
長沼がCICに報告すると、西川が答える。
『CIC了解。データ受信は良好。こちらでも監視する』
R4班の全員が席に戻った今、班内の報告は通信回線を使っていない。骨伝導イヤホンから聞こえてくるのは、他の班の報告よりも、CIC内の会話内容だった。
『リニアモーターカーには手が出せる』
三枚堂の言葉に、R4の加瀬が大きく反応した。
決意を顔に表し、R4班班長の長沼に告げる。
「班長。CICに説明する許可を申請いたします」
「良し、許可する。三枚堂閣下、R4班の長沼です。加瀬より佐瀬さんに疑問点の説明をさせることを具申します」
『うむ、分かった。加瀬に任せよう』
「加瀬」
「はい、ありがとうございます。それでは佐瀬さんに説明させていただきます」
R4班は、事件発生時の対処要員。
リニアモーターカーの速度は人の認識で監視不可能。
そのため陸上自衛隊サイバー作戦隊の監視プログラムが動作し、CICで状況確認できるようにしてある。加瀬が監視業務をせずリニアモーターカーの説明を始めても、何ら問題がない。
なので加瀬は、遠慮なく佐瀬に対して説明という名の講義を始めたのだ。
リニアモーターカーの客室、連結部などの人が立ち入れる場所は気密仕様となっている。それは、トンネル内が富士山の山頂ぐらいの0.65気圧になっているからだ。
空気抵抗をすくなくなると、同じ電力でもリニアモーターカーの走行スピードがあがる。
また、走行時の空力の影響を減少でき、車両の浮遊高さなどの安定性が良くなる。
しかし、トンネル内での事故。リニアモーターカーがトンネル内で立往生したりすると大変なのだ。座席にある非常用小型酸素ボンベを使用して、トンネル内のメンテナンス通路へと避難するのだ。
メンテナンス通路へのドアは100メートル置きに存在するが、酸素ボンベになれていない乗客が0.65気圧の中を移動するのだ。トンネルや施設は安全でも、乗客のパニックなど人的な事故が起こり得る。
真田と児玉をトンネル内に閉じ込めるにはセンサー類を誤認させ、リニアモーターカーの安全装置を働かせれば良い。
中央統合情報処理研究所の人工知能が、真田と児玉にどこまでするのか分からない。殺害なのか、隔離なのか? いずれにせよ、トンネル内でリニアモーターカーを停止させられれば、2人に手出しするのは容易になる。
人知れず事故を未然に防ぐ。
それが今、陸上自衛隊サイバー作戦隊に枷られた任務なのだ。
『加瀬さん。あなたの職務に対する知識の深さは理解しました。もう充分だ。それに、そろっと岡山県に入るでしょう。撤収準備もあるでしょうけ、業務に戻っていただいて構いません』
「自分は鉄ヲタであります。またR4班は、終点までリニアモーターカーでの作戦を実行します」
『んん?』
「リニアモーターカーが新岡山駅に到着するまで、自分たちは撤収作業に着手できません。そのため、最低でも次の停車駅まで、R4班はリニアモーターカーから降車不可能であります」
『んんんん??』
「三枚堂閣下。説明しても宜しいでしょうか?」
『許可する、加瀬。存分に語るが良い。新岡山駅より先でも、量子計算機情報処理省の監査が必要なのだ。故に各省庁からの問合せは佐瀬に一任する』
『いやいや、量子計算機情報処理省の協力要請は真田君と児玉君の安全確保のみですよ。いくら何でも拡大解釈しすぎだ。各省庁からの苦情抑えるにも限度ってものが・・・』
「佐瀬さん、拡大解釈ではありません。2人の帰還までが作戦です。退路の安全確保上、西日本縦断リニアモーターカー全線の安全確認は必須事項であります」
佐瀬の唖然とした表情が、画面からでも良く伝わってきた。
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