NG-wor『L』d

YUYU

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一章

二話 日常のおわり

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 ――――それから数十分後。


 美男美女カップルの様子を何度か確認したけれど、特に怪しい動きはなく、ドリンクを飲みながら静かにおしゃべりしているだけだった。
 彼らがアザーズかもしれない、だなんてただの思い過ごしだったようだ。


 チン、とレジカウンターに置かれた店員呼び出しベルが鳴り、手隙だった私はそちらへと向かう。

「お待たせいたしました」

 会計待ちをしているのは、瑞樹の嘘に利用された10番テーブルの一人客だった。
パーカーのフードを深くかぶって、相変わらずどんよりとした空気を身にまとっている。
 
「お会計、5500円でございます」

 口にしながら、細身のわりにずいぶんと大食いだなと驚いた。
 ひとりで利用して5000円超える客はあまりいない。

  財布を出すそぶりもなく、男正客はうつむいたまま。
 

(あれ。お会計じゃなかったのかな?)

 内心首を傾げていると、男がゆっくり口を開き、

「…………しろ」

 ぽつり呟いた。

 お金が足りないから外に下ろしに行きたいというお客さんはたまにいる。
 この人もそうかも知れない。
 とはいえ、決めつけるわけにはいかないので、念のため小声すぎて聞こえなかったセリフを聞き直してみることに。
 
「おそれいりますがお客様、もう一度よろしいですか?」

「……だにしろ」

「え?」
 
「タダにしろ!!」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。

 少しの間ぽかんとしてしまったけれど、すぐに店員として目の前のお客に接する。


「申し訳ございませんが、それはできかねます。お支払いください」

 丁寧な口調で、あくまで穏やかに。
 何を言ってるんだこいつは? ……などと、間違っても本音を面に出してはいけない。

「うるせえっ!」

 急に声を荒げた十番テーブルの男が、身を乗り出して私の腕をつかむ。
 

ーーーー!?

 見た目からは想像できないほどの強い力。
 凶暴そうには見えなかったのに……。
 男の変貌ぶりに戦慄する。
 怖い。
 けれど、悲しいことに女性らしい悲鳴の上げ方を知らない私は、
 
「離して」

 と、地声で抵抗。
 次の瞬間、男は驚いたような顔をして私から手を離した。
 

…………?


 何……今の反応。
 私、そんな怖い声出してた?


 お化けでも見たような男の反応を不思議に思いながらも、まっすぐ相手を見据えて言い放つ。
 

 お支払い頂けないのなら警察を呼びます
 茫然としていた男がようやく顔を上げる。私を睨み見ると、片腕を前に伸した。

 そして――――

 かざした手のひらに電気を発生させた。


 刹那、近くで見ていたお客が叫び声をあげる。

「きゃあああっ」
「アザーズよ……!!」

「逃げろ!」
「うわあああっ」



う――――ウソでしょ……!?

 

 はじめて見た超能力を前に、私は恐怖と驚きで動けなかった。

 嫌な予感はしていたけれど……。

  アザーズなのは十番テーブルの客ではなく、美形カップルの方だと思っていた。

  まさか、この人だったとは。




 と、その時。
 
 強い衝撃に襲われる。




――――え。

 今、何が起こったの?



 気がついたら地面に倒れていた。
 体じゅうがビリビリしびれて、アザーズの男が発生させた電気にやられたのだと気づく。

 かすむ視界の中で、男が壊れたレジから金を盗むのが見えた。


 しびれはするが動けないわけではない。
 これがただの強盗なら取り押さえていたところだけれど、相手はあの『他人の命を簡単に奪う』と悪名高いアザーズの一員だ。

 下手に抵抗すべきではないだろう。  
 

(今はとにかく店員としてやるべきことをしなくちゃ……)
 
 金をポケットに突っ込むことに夢中になっている男の目を盗んで起き上り、カウンター裏の緊急用通報装置を押す。

 それから客がちゃんと避難できているか、店内の様子を確認した。

 

 皆さん、落ち着いて。こちらに!
 瑞樹が他のスタッフと一緒に、お客たちを裏口へと案内している。


ーーーーおお。やればできる子だって信じてたよ、瑞樹!


 そんな場合じゃないのに、ふだんは頭の中お花畑な後輩の、頼もしい姿につい感動してしまう。
 

 ん?


 瑞樹が困ったように、キョロキョロとまわりを見まわしている。


 何をしているのかわからなかったけれど、彼女の視線があるテーブルに向かっているのに気づいて、例のカップルを探しているのだと察した。





――――あの人たち、いないの?


 トイレも確認しただろうから、騒ぎになってすぐ店を出たのだろうか。

……違う。そんなわけない。

 裏口は閉まったままだったはずだし、正面から出たのなら私が見ているはず。



ーーーーだったら彼らはどこに?


 内心首を捻っていると、いつの間にか金を盗り終えたアザーズの男が私に向かって片腕をつきだしていた。
 

「おい女。さっき俺に何をした?」

「な、何って、何もしてないけど……」

 男の意図がわからず、困惑顔で見上げる。
 緊急用ボタンで通報はしたけど、こっそり押したし、音も出ないから気づかれたとは思えない。

「まさかお前……!
リーダーたちが気をつけろって言ってた、『メイト』とかいう奴の一味か?」
 
 男の顔が緊張でこわばる。
 一方の私はといえば、混乱しすぎてだんだんイライラしてきた。
 昔から難しい話が大の苦手なのだ。

 
 
 メイトに気をつけるって何のこと?


 アザーズの天敵は、警察――中でも対アザーズ特殊部隊のはず。

 警備部所属の『Counter Others Team』。

 略称『COT』

 コットとか、シーオーティーとか、ヒーローとか、救世主とか呼び名はたくさんあるけれど。
『メイト』とは呼ばない。
 

「そんな名前、聞いたこともないけど」

 私の解答に不満だったらしく、アザーズの男は口元を歪める。

 そして、片腕をこちらに向かって突き出すと――――さっきと同じように手のひらに電気を生み出した。

「ちっ……
あくまでしらばっくれる気か……なら消すまでだッ!!」
 
「だから本当に知らないんだってば!」

「だまれ!!」

 男の手から発せられる放電音が強くなる。
 

 ヤバイ。
 本気で殺す気だ……!

 

…………っ
 

 どうする。
 よける?

 たとえ一回避けられたとしても、『COT』が到着するまで逃げつづけられるの?


――――ううん、ぜったい無理。



 
 走馬灯というやつだろうか。脳裏に弟の顔が浮かんだ。

 いつも慕ってくれて、誰よりも私を認めてくれる存在。
 可愛くて優しくて……大事な存在。

 

ひなた……ごめんね)

 私が死んだら、まだ小学生のあの子はどうなってしまうのだろうか。
 母さんは身体が弱いし、父さんは檻の中。稼ぎ頭の私がいなくなったら、生活するお金がなくなってしまう。
 保護を受けたとしても、きっと今以上につらい思いをさせてしまうだろう。





 ……そんなのいやだ。




 ぜったいにいやだ!!

 陽のためにも、母さんのためにも、いちおう父さんのためにも。
 私はまだ死ぬわけにはいかない。



 
 生きるために、なんとしても攻撃をよけてやる!
 何十回と雷撃に襲われようが、全部かわしてやる!!







 18歳にして一家の運命を背負わされた人間の根性舐めるなよ、この放電野郎!!





 ……よし、覚悟はできた。
 くるなら来い!!



 





……to be continued

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