持たざる者は世界を外れ

織羽 灯

文字の大きさ
上 下
11 / 13

雑用のいる冒険者パーティ

しおりを挟む


「いやあ、男に生まれて冒険者となったからにはやっぱドラゴンだよなッ! 」
「えー、と? 」
 何か親し気に肩を叩いてくるその男に、
 俺は混乱して曖昧に聞き返した。
 
 いや、だって。
 冒険者の雑用として雇われるという話を聞いてきたのに、
 いきなりドラゴン狩ろうと言われても。

「そいつの言うことは気にしなくていい。
 今日の目標は洞窟大蜥蜴ケイブリザードで、それを大げさに言ってるだけだ」
「ホルクはいつも大げさ……」
 まごまごしている俺に、
 カウンターの前に座っていた他の冒険者達が告げてくる。
「っせえな! 気分だよ気分! 」
 ホルクと呼ばれた目の前の男の返し方から見ても、
 彼らは親しい仲のようだ。

「で……君がギリアさん紹介の雑用か? 」
 彼らの一人……落ち着いた雰囲気の男が確認してきた。
「はい……お待たせしたようですいません」
 肯定しつつ、彼らの方が先に来ていたので遅れたことを謝罪する。
 すると男は笑い、
「礼儀正しいな。だが気にしないでくれ。
 我々は元々朝からここで依頼を選んでいるのだ。
 出発は昼過ぎの予定だったし、
 紹介する雑用は昼頃来る、とギリアさんにも聞いている」
 俺が遅れた訳ではない、と説明した。

「さて、仕事の前にメンバー紹介と行こうか。
 私はディーガ。魔術師だ」
「俺ァホルク! 伝・説・の・剣士だ! 」
 ディーガが名前と職業を言うと、ホルクも親指を立てながらキメ顔で名乗った。
「ただの剣士でしょ。……ボクはリリキナ。……鉄弦士てつげんし
 少し遅れて最後の一人、
 白い手袋をした小柄な少女がホルクに突っ込みを入れつつ自己紹介を終える。

 ……鉄弦士? 
 聞き慣れない職業に疑問を持ったが、
 先にこちらも自己紹介をしよう。
「……タカシです。ディーガさん、ホルクさん、
 リリキナさん、よろしくお願いします」
「かー! お堅いね! 冒険する男がそんなんでどうする! 
 もっとフランクに行こうぜ! 」
 ……俺の自己紹介はホルクにダメ出しされた。
「雑用と言っても、同行する以上は同じパーティの仲間だ。
 と言うか……私はともかく他の二人がそういう態度を嫌うのでね。
 もう少し砕けて貰いたい」
 ディーガにも言われ、リリキナもこくこく頷いて同意を示している。

「ええと……よろしく、ディーガ、ホルク、リリキナ……? 」

「オッケー、よろしく兄弟! 」
「……ん」
「ああ、よろしく頼む」

「仲介するまでもなく勝手に仲良くなったようで、手間が省けて何よりだ。
 お察しの通り、そこのタカシがアンタらの雑用を引き受けてくれるとさ」
 取り敢えずの自己紹介が終わったところで、
 ギリアが皮肉気に声をかけてきた。

「さて、アンタらが受けるのは西の洞窟の洞窟大蜥蜴の間引きだったね。
 受領手続きは終わったからさっさと仕事にかかりな」
「ああ。では行って来る」
 ぞんざいに手を振って追いやろうとするギリアに答え、
 ディーガがギルドを後にする。
 ホルクとリリキナも付いて行き、
 俺も後に続こうとした所でギリアに呼び止められた。

「……あいつらはあれで戦闘特化の冒険者だ。
 ほぼ素人のアンタを守れるだけの力を持っているし、
 ほぼ素人のアンタでも役に立てる余地がある」
 ……ステータスを持たない俺は素の状態では素人以下だ。
 ステータス無視も戦闘以外では、
 人が当たり前にできることを普通にできるようにする程度の使い方しかしていない。
 そんな俺が本当に役に立てるのか、不安もあるが……
 ギリアは、そんな俺の不安を察して声をかけてくれたのだろうか。
 何にせよ、自分でやると決めた仕事だ。
「はい。仕事は果たして見せます」
 決意を込めてそう答え、俺は三人の後を追った。



「……いや、素人の俺でも役に立てるとは言ってたけどさ」
 俺への励ましの意味もあったかもしれないが、
 ギリアの言葉は嘘ではなかった。

「全員依頼の場所がわからないとか……」

「ハハ、悪ィ」
「すまない」
「……ゴメン」

 彼らは本当に、戦闘特化。
 戦闘以外がまるでダメな冒険者だったのだ。

 ギルドの前で合流した後街門から外に出て、いざ出発という時のことだ。

「さあ……冒険の始まりだ! いざ征かんドラゴン退治ってな! 」
「だから……洞窟大蜥蜴」
 ホルクが調子良く彼方の空を指さして声を上げ、
 リリキナが口上に訂正を入れる。
 それをディーガは静かに笑みを浮かべながら聞いていた。
 
 これが三人のいつもの会話なのだろうな、と思いつつ、
 俺はホルクの言葉に別のツッコミ所を見つけ、
 軽い気持ちで会話に参加した。
「あとホルク、お前が指さしてるのは西じゃないからな。
 行くのは西の洞窟だから」

「…………」

 突然、沈黙が下りた。
 重苦しい空気を纏って、三人が黙り込む。

「え。俺何か、マズい事言ったか? 」
 空気読めてなかっただろうか。
 会話に参加せずにいるべきだったのか? 
 そんな風に俺が戸惑っていると、
 ホルクが頭をかきながらぼそりと言う。

「……西の……ああ、だったな確か。
 西……西って方向なのか? 」
 
 え……そこから? 
 ちょっとした驚愕と共に視線を他の二人に向けると、
 リリキナが首を横に振る。
「一緒にしないで欲しい。
 ボクは西が方向であることは知ってる。
 ……どっちか分からないだけ」

 その言葉にディーガも頷き、
「西とは、地図で言うと左であるらしいが……
 ここからどちらの方かは知らないな」

 聞けば、全員地図も持っていないようだ。
 よく見ると、彼らは武器と身に着けているもの以外、
 殆ど何も持っていない。
 道中の雑用は俺がやるとしても、あまりに荷物が少ない。
「……どうやって今まで仕事を? 」
 依頼の場所へ辿り着けもしないのでは、
 仕事が成り立たないと思うのだが。

「そ、そりゃお前、気合と根性よ! 」
 ホルクがそう答えるが、目は泳いでいる。

 ディールがきまり悪そうに言う。
「実は、それで雑用を雇う事になったんだ。
 私達は戦うのはそこそこ強いと自負しているが……
 他の部分が壊滅的でな。
 そこを補えなければ仕事を紹介できない、と」

 まあ、そりゃそうなるだろう。

「そういうことができるパーティメンバーを増やすのは? 」
「同じ冒険者だとそいつに主導権を取られそうなのがどうも……」
 なるほど、雑用ならば戦闘以外の面を補ってもらっても、
 冒険者としての活動は自分達で主導権を握れるという訳だ。
「ああ、とはいえ別に君の事を下に見ている訳ではない。
 私達三人は幼馴染でな。
 三人で冒険者になることを夢見て、その夢を叶えた。
 だからもう少しの間は、三人で自由にやっていたいんだ
 ……まあ、道に迷わない程度にな」
 そう言って、ディーガはやや悪戯っぽく笑った。

 取り敢えず、まずは改めて準備を整える為、
 街へ戻る事になった。
 最初にギルドへ戻り、ギリアに地図について聞いてみる。
「ほら、早速役に立つ場面があっただろ? 」
 そう言って笑い、彼女は地図を投げてよこした。
 どうやら、ここまで織り込み済みのようだ。

 その後はディーガ達と会う前にも行った雑貨屋に寄る。
 ディーガ達は水筒さえ持っていなかったので、
 店員に任せて必要な物を揃えてもらった。

「さて、じゃあ改めて出発だな」

「おうよ! いざ行かん、ドラゴン退治! 」
「……洞窟大蜥蜴だってば」
 一度目の出発と似たようなやり取り。
 だがホルクの指は、きちんと西を指している。

 どうやら、今度はちゃんと出発できそうだ。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ブギーマンと悪霊のカーニバル

結城芙由奈 
ファンタジー
年に一度のカーニバルに血に飢えたブギーマンが蘇る― 謎に包まれた神官と旅を続ける私。彼の目的は唯一つ。ブギーマンを倒すこと。とある町に辿り着いた時…悪霊と共に血に飢えたブギーマンとの死闘が始まる― ※【ブギーマンに魅入られた記憶喪失の青年神官】の続編です 別サイトでも掲載中

(完結)私は家政婦だったのですか?(全5話)

青空一夏
恋愛
夫の母親を5年介護していた私に子供はいない。お義母様が亡くなってすぐに夫に告げられた言葉は「わたしには6歳になる子供がいるんだよ。だから離婚してくれ」だった。 ありがちなテーマをさくっと書きたくて、短いお話しにしてみました。 さくっと因果応報物語です。ショートショートの全5話。1話ごとの字数には偏りがあります。3話目が多分1番長いかも。 青空異世界のゆるふわ設定ご都合主義です。現代的表現や現代的感覚、現代的機器など出てくる場合あります。貴族がいるヨーロッパ風の社会ですが、作者独自の世界です。

処理中です...