持たざる者は世界を外れ

織羽 灯

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雑用のいる冒険者パーティ

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「いやあ、男に生まれて冒険者となったからにはやっぱドラゴンだよなッ! 」
「えー、と? 」
 何か親し気に肩を叩いてくるその男に、
 俺は混乱して曖昧に聞き返した。
 
 いや、だって。
 冒険者の雑用として雇われるという話を聞いてきたのに、
 いきなりドラゴン狩ろうと言われても。

「そいつの言うことは気にしなくていい。
 今日の目標は洞窟大蜥蜴ケイブリザードで、それを大げさに言ってるだけだ」
「ホルクはいつも大げさ……」
 まごまごしている俺に、
 カウンターの前に座っていた他の冒険者達が告げてくる。
「っせえな! 気分だよ気分! 」
 ホルクと呼ばれた目の前の男の返し方から見ても、
 彼らは親しい仲のようだ。

「で……君がギリアさん紹介の雑用か? 」
 彼らの一人……落ち着いた雰囲気の男が確認してきた。
「はい……お待たせしたようですいません」
 肯定しつつ、彼らの方が先に来ていたので遅れたことを謝罪する。
 すると男は笑い、
「礼儀正しいな。だが気にしないでくれ。
 我々は元々朝からここで依頼を選んでいるのだ。
 出発は昼過ぎの予定だったし、
 紹介する雑用は昼頃来る、とギリアさんにも聞いている」
 俺が遅れた訳ではない、と説明した。

「さて、仕事の前にメンバー紹介と行こうか。
 私はディーガ。魔術師だ」
「俺ァホルク! 伝・説・の・剣士だ! 」
 ディーガが名前と職業を言うと、ホルクも親指を立てながらキメ顔で名乗った。
「ただの剣士でしょ。……ボクはリリキナ。……鉄弦士てつげんし
 少し遅れて最後の一人、
 白い手袋をした小柄な少女がホルクに突っ込みを入れつつ自己紹介を終える。

 ……鉄弦士? 
 聞き慣れない職業に疑問を持ったが、
 先にこちらも自己紹介をしよう。
「……タカシです。ディーガさん、ホルクさん、
 リリキナさん、よろしくお願いします」
「かー! お堅いね! 冒険する男がそんなんでどうする! 
 もっとフランクに行こうぜ! 」
 ……俺の自己紹介はホルクにダメ出しされた。
「雑用と言っても、同行する以上は同じパーティの仲間だ。
 と言うか……私はともかく他の二人がそういう態度を嫌うのでね。
 もう少し砕けて貰いたい」
 ディーガにも言われ、リリキナもこくこく頷いて同意を示している。

「ええと……よろしく、ディーガ、ホルク、リリキナ……? 」

「オッケー、よろしく兄弟! 」
「……ん」
「ああ、よろしく頼む」

「仲介するまでもなく勝手に仲良くなったようで、手間が省けて何よりだ。
 お察しの通り、そこのタカシがアンタらの雑用を引き受けてくれるとさ」
 取り敢えずの自己紹介が終わったところで、
 ギリアが皮肉気に声をかけてきた。

「さて、アンタらが受けるのは西の洞窟の洞窟大蜥蜴の間引きだったね。
 受領手続きは終わったからさっさと仕事にかかりな」
「ああ。では行って来る」
 ぞんざいに手を振って追いやろうとするギリアに答え、
 ディーガがギルドを後にする。
 ホルクとリリキナも付いて行き、
 俺も後に続こうとした所でギリアに呼び止められた。

「……あいつらはあれで戦闘特化の冒険者だ。
 ほぼ素人のアンタを守れるだけの力を持っているし、
 ほぼ素人のアンタでも役に立てる余地がある」
 ……ステータスを持たない俺は素の状態では素人以下だ。
 ステータス無視も戦闘以外では、
 人が当たり前にできることを普通にできるようにする程度の使い方しかしていない。
 そんな俺が本当に役に立てるのか、不安もあるが……
 ギリアは、そんな俺の不安を察して声をかけてくれたのだろうか。
 何にせよ、自分でやると決めた仕事だ。
「はい。仕事は果たして見せます」
 決意を込めてそう答え、俺は三人の後を追った。



「……いや、素人の俺でも役に立てるとは言ってたけどさ」
 俺への励ましの意味もあったかもしれないが、
 ギリアの言葉は嘘ではなかった。

「全員依頼の場所がわからないとか……」

「ハハ、悪ィ」
「すまない」
「……ゴメン」

 彼らは本当に、戦闘特化。
 戦闘以外がまるでダメな冒険者だったのだ。

 ギルドの前で合流した後街門から外に出て、いざ出発という時のことだ。

「さあ……冒険の始まりだ! いざ征かんドラゴン退治ってな! 」
「だから……洞窟大蜥蜴」
 ホルクが調子良く彼方の空を指さして声を上げ、
 リリキナが口上に訂正を入れる。
 それをディーガは静かに笑みを浮かべながら聞いていた。
 
 これが三人のいつもの会話なのだろうな、と思いつつ、
 俺はホルクの言葉に別のツッコミ所を見つけ、
 軽い気持ちで会話に参加した。
「あとホルク、お前が指さしてるのは西じゃないからな。
 行くのは西の洞窟だから」

「…………」

 突然、沈黙が下りた。
 重苦しい空気を纏って、三人が黙り込む。

「え。俺何か、マズい事言ったか? 」
 空気読めてなかっただろうか。
 会話に参加せずにいるべきだったのか? 
 そんな風に俺が戸惑っていると、
 ホルクが頭をかきながらぼそりと言う。

「……西の……ああ、だったな確か。
 西……西って方向なのか? 」
 
 え……そこから? 
 ちょっとした驚愕と共に視線を他の二人に向けると、
 リリキナが首を横に振る。
「一緒にしないで欲しい。
 ボクは西が方向であることは知ってる。
 ……どっちか分からないだけ」

 その言葉にディーガも頷き、
「西とは、地図で言うと左であるらしいが……
 ここからどちらの方かは知らないな」

 聞けば、全員地図も持っていないようだ。
 よく見ると、彼らは武器と身に着けているもの以外、
 殆ど何も持っていない。
 道中の雑用は俺がやるとしても、あまりに荷物が少ない。
「……どうやって今まで仕事を? 」
 依頼の場所へ辿り着けもしないのでは、
 仕事が成り立たないと思うのだが。

「そ、そりゃお前、気合と根性よ! 」
 ホルクがそう答えるが、目は泳いでいる。

 ディールがきまり悪そうに言う。
「実は、それで雑用を雇う事になったんだ。
 私達は戦うのはそこそこ強いと自負しているが……
 他の部分が壊滅的でな。
 そこを補えなければ仕事を紹介できない、と」

 まあ、そりゃそうなるだろう。

「そういうことができるパーティメンバーを増やすのは? 」
「同じ冒険者だとそいつに主導権を取られそうなのがどうも……」
 なるほど、雑用ならば戦闘以外の面を補ってもらっても、
 冒険者としての活動は自分達で主導権を握れるという訳だ。
「ああ、とはいえ別に君の事を下に見ている訳ではない。
 私達三人は幼馴染でな。
 三人で冒険者になることを夢見て、その夢を叶えた。
 だからもう少しの間は、三人で自由にやっていたいんだ
 ……まあ、道に迷わない程度にな」
 そう言って、ディーガはやや悪戯っぽく笑った。

 取り敢えず、まずは改めて準備を整える為、
 街へ戻る事になった。
 最初にギルドへ戻り、ギリアに地図について聞いてみる。
「ほら、早速役に立つ場面があっただろ? 」
 そう言って笑い、彼女は地図を投げてよこした。
 どうやら、ここまで織り込み済みのようだ。

 その後はディーガ達と会う前にも行った雑貨屋に寄る。
 ディーガ達は水筒さえ持っていなかったので、
 店員に任せて必要な物を揃えてもらった。

「さて、じゃあ改めて出発だな」

「おうよ! いざ行かん、ドラゴン退治! 」
「……洞窟大蜥蜴だってば」
 一度目の出発と似たようなやり取り。
 だがホルクの指は、きちんと西を指している。

 どうやら、今度はちゃんと出発できそうだ。



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