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変転する盗賊事件
しおりを挟む「やあやあやあ!我らこそは、いずれ天下に名を残す旅芸人集団!
パルパパーン遊劇団なりイッ!」
白髪を逆立て、カイゼル髭のムキムキオヤジを三頭身にしたような燕尾服の男が見得を切る。
「今日の君達はとってもラッキー!僕らの素敵な芸を、なんと無料でッ!
お見せしちゃうよ!」
金の長髪を後ろで結んだ軽装の男が、笑顔で声を張り上げる。
「……拒否権はない」
ピエロのような恰好をした新緑の髪の猫耳少女が、最後にぽつりと宣言する。
楽器を手に持ち、馬車を取り囲む派手な格好の集団。
その中でも一際目を引く三人が、集団から一歩前に出てそれぞれポーズを取り、名乗りを上げていた。
「……何コレ」
遠目に見て、盗賊か何かに襲われているのかと近付いた俺は、
想像していたのと違う状況に思わず立ちすくんだ。
盗賊じゃなくて芸人?
最後の少女の発言から、何か無理やり芸を見せようとしているように見えるが、
大した害はなさそうだし助けに入る必要も……
そう考えた辺りで状況が動いた。
馬車を取り囲む集団と対峙する、護衛と思しき人物達。
そのうちの一人が、馬車に向かって声をかけたのだ。
「ヒャッハー! 新しい商品が自分から来てくれたぜェー! 」
馬車の中から数人の男女が飛び出してくる。
「おおッ! とっ捕まえて奴隷にして売り飛ばしてやる! 」
「あの金髪の優男、あたしがちょっと味見しても構わねえよなあー! 」
直後、そいつらは全員武器を抜き、目の前の芸人集団に襲い掛かった。
「……って馬車が襲う側かよッ!」
またも予想外の展開に呆然としかけたが、そんな場合でもない。
先程よりはまだわかりやすい展開になったのを幸いとばかりに、
俺は駆け出した。
――まずは、敏捷のステータスを無視する。
芸人集団を襲う為に曲刀を振り上げた男との距離を瞬時に詰め、
そのままの勢いで殴り掛かった。
「ヘブッ! 痛……くねえ?ああッ、何だてめえこらあ! 」
「あ、やばッ」
本来なら力のステータスを無視して攻撃するはずだったが、
タイミングを外してしまい間に合わなかった。
今は自動で出現しないようにしているあのログが出ていれば、
『盗賊にダメージを与えられなかった』
とか出ていることだろう。
突然割り込んだ俺に気付いた男は、曲刀をこちらに向けて振り下ろしてくる。
――感覚のステータスを無視
男を含めた周りの動きがスローなものに見え始める。
ステータスを無視するこの力は、発動の際の意識によってある程度性質や加減を変えられる。
感覚というステータスが司る範疇で、
遠くを見たり、速く動く物を見たり、用途によって効果を変えられるのだ。
それは同時に、意識しない部分はステータス無視が働かないということでもあるが。
スローになった世界の中で、俺は振り下ろされる曲刀をかわし、それを握る男の腕を掴む。
――力のステータスを無視
そのまま掴んだ腕を振り回し、男を投げ飛ばした。
「ぐげあッ! 」
宙を舞って地面に叩き付けられた男は気を失い、動かなくなる。
「次! 」
再び敏捷ステータスを無視して、ナイフを持った女に肉迫する。
「うおおッ!? 」
驚いて反射的にナイフを突き出してくる女に対し、
――器用さのステータスを無視
ナイフをいなし、体勢を崩した相手の勢いを利用して投げる。
俺の足元に転がった女はすぐに立ち上がろうとするが、
投げる際に奪ったナイフを突きつけると大人しくなった。
「さて……」
女に警戒しながら周囲を見渡すと、
襲い掛かった盗賊の大半は芸人集団に返り討ちにされていた。
彼らが手にした楽器でボコられたり、燕尾服の筋肉男の拳に殴り飛ばされたり……
これなら、もともと助けに入る必要はなかったかもしれないな。
そう思いながら、目の前に座り込んでいる女を拘束する手段のない俺は、
そのまま状況が収束するのを待つことにした。
殴って気絶させる、ということも考えたが、気絶するように程良く加減できる自信はなかった。
最初はあまり考えなしに殴り掛かったが、人間の顔面を弾け飛ばすのはちょっと怖い。
「しかし、把握した能力の実験をしてみたはいいが……」
やはり、まだ完全に使いこなせているとは言い難い。
この力は、意識していない部分には働かず、
使用するのに強く意識する必要があるという特性上、
同時に二つ以上のステータスに対して発動すると意識のベクトルがぶれて不安定になる。
もっと慣れればある程度安定しそうだが、
今の所はある例外を除いて一度に一つ、ごく短時間しか発動できない。
だからさっき曲刀の男を殴った時のように、
タイミングを外してノーダメージという事態があり得るのだ。
「要練習だな……と」
反省している間に、盗賊連中は全員のされたようだ。
芸人集団は芸を見せようとしていただけだが、
盗賊を叩きのめす戦闘能力があり、俺に対して友好的とも限らない。
あまり深く考えずに飛び込んでおいて今更だが、俺は気を引き締めて身構えた。
「いやあ! 感動したぞ少年! 盗賊に襲われている我らを助けに飛び込んでくるとは! 」
「こんな世の中で見た一抹の優しさ! ちょっと涙が出ちゃったね僕ぁ! 」
「……お人好し。いつか騙されて死ぬよ」
先程前に出て口上を述べつつポーズを決めていた三人がこちらへ近付き、話しかけてきた。
どうやら、この三人が一団の代表的人物らしい。
「……ええと。貴方達は? 」
どういう態度で接するか決めかねて、とりあえず誰何してみる。
「おお!自己紹介が遅れたな! 我はパルパパーン!
このパルパパーン遊劇団を率いる団長を務めているッ!
そしてこの二人が我ら遊劇団の二枚看板ッ! 」
大げさにいちいちポーズをとりながら、真ん中にいた三頭身のムキムキ髭オヤジが両脇の二人を示す。
「混沌の世界に舞い降りたエンジェーッ! アルティノだよ! よろしく! 」
金髪で線の細い、美形の青年が、こちらに手を差し伸べるようなポーズでハイテンションに自己紹介を決め、
「……ルイシャ」
新緑の髪の猫耳少女がぺこりとお辞儀した。
直後、ジャジャーーン! と大きな音が鳴り響く。
どうやら後ろにいる団員達が、それぞれ手に持った楽器を鳴らしたらしい。
「……石間 高志です」
ルイシャと名乗った少女はともかく、他の奴らのテンションはちょっと付いて行けない。
大いに引きつつ、一応礼儀として名を名乗る。
「で、その……パルパパーンさん? 」
「何かなッ! イシマタカシ君ッ! 」
「……タカシでいいです。実は俺、今街へ行きたいんですけど……
このまま歩いてどれくらいで着きますかね? 」
気合の入った大声で喋るパルパパーンに、
ひきつった笑顔で街までの距離を尋ねてみた。
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街まで我らとともに行こうではないかッ! 」
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「いや、ちょっと待っ」
「さあ行こうッ! 今夜は新たな旅の友との出会いを祝って宴を開くッ! 」
我らの芸もとくと見せてやろうッ! ガハハハハ! 」
「……まあいいか」
ぐいぐいと俺の腕を掴み、強引に引っ張っていくパルパパーン。
今からこのテンションを相手に説得を始めるのも嫌だった俺は、
街に着くまでの辛抱と抗議するのを諦めた。
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