女性漫画家いちご先生を復活させたい男性編集者の物語

いちご夢野先生と睦月拓馬

先生と二人でランチ

　奈緒美に自分が漫画サイトを作ることを告げた翌日、拓馬は奈緒美を昼食に誘った。
「たまには豪華な店で豪華ランチといきたいんですが、今日は友達の店で。美味いですよ先生。特別なメニュー頼んでますから。たぶん先生が食べたことない味ですよ」
　アパートから三〇分ほど歩き、ラーメン屋の前に着いたときには奈緒美は疲れていた。そもそも体を動かすのが苦手な奈緒美は散々歩いてラーメンなのかという顔を少し見せた。
「チワス！　オーちゃん！　久しぶり。ちょっと遅かったかな？　アレまだある？」
　ラーメン屋に入った拓馬が手を上げて挨拶すると、厨房の奥から体格のいい男が面倒くさそうな表情で客席のほうに出てきた。そして拓馬の顔を見てすぐに奈緒美の顔を見た。
「睦月よお、まかない終わったところで俺を働かせるとはいい度胸だ。そんで？　その女が話してた彼女か？　仕事がらみだろ？　じゃあ彼女の分だけでいいな？」
　男はそれだけ言って厨房に戻り、しばらくして皿に盛った野菜炒めとライスを運んできた。
「うわ、オーちゃん。本当に一人前かよ。まあいいや。先生、ここのまかない飯ですよ」
　拓馬がそう言うと奈緒美は野菜炒めを見つめた。そこでオーちゃんという男がうなずいた。
　奈緒美が恥ずかしそうだったので拓馬は目をそらした。そして奈緒美は野菜炒めを食べた。
「……美味しい！　すごい！　まかない？　お店に出さないんですか？　もったいない」
「余りものでチャチャっと作るもんだからな。睦月は時々食いに来やがってよお。ケチ野郎が」
「まあまあオーちゃん。今の仕事がうまくいったら友達いっぱい連れてくるよ」
　そこで拓馬は席を立ち、奈緒美を伴ってアパートに帰った。
「先生、いいですか？　いよいよ仕事に関して大事な話をしたいんです」
　拓馬は自分の部屋のドアを開け、奈緒美を手招きした。