女性漫画家いちご先生を復活させたい男性編集者の物語

いちご夢野先生と睦月拓馬

拓馬の決意といちご先生の思い

　拓馬が常連として通っているスナック桜は昼間、喫茶サクラとして営業していた。
　拓馬は野バラ先生として活動を始めた山川若菜と相談した後、日を改めていちご先生こと山川奈緒美と共に喫茶サクラに入った。むろん、今後の事業についての相談をするためであった。だが、拓馬は相談する前に今後についての方針を決めていた。ただ、一方的に決めるのではなく、あくまで仕事相手としての奈緒美と話し合うのが筋であろうと考えた上での相談であった。
「いらっしゃいませ睦月さん。なんだかお仕事大変みたいですね。お母さんから聞きました」
　喫茶サクラで働いているのはスナック桜のママである太田真美の娘の早紀であった。早紀は地元の高校を卒業した短大生であった。将来のことを考えつつ、あちらこちらでバイトしているようであった。早紀が拓馬に近寄って話始めると、店を手伝っている女子たちが聞き耳を立てた。彼女たちは早紀の友人であるということだった。
「まあね、早紀ちゃん。ちょっと仕事上内緒の話をするから、しばらくそっとしといてね」
　拓馬がそう言うと早紀は一歩引き、店員たちにも拓馬の席から離れるよう目で合図した。
「……いちご先生。今の漫画サイトでトラブルがあって、今後どうするか迷ってます」
「お姉ちゃんからなんとなく聞きましたよ編集さん、いえ睦月さん。今のサイトで続けるか、他のサイトに漫画を載せるかっていう話ですよね。私はもう、睦月さんに全部任せますよ」
　奈緒美にそう言われた拓馬は大きくうなずき、深呼吸してから口を開いた。
「僕は、独立しようと思ってます。資金は苦しいけど自分の漫画サイトを作って、経営します」
「いいんじゃないですか。私の過去作品とかもそこに載せてください睦月さん」
「……じゃ！　じゃあお願いしますいちご先生！　ぼ、僕についてきてください！」
　聞きたかった答えを奈緒美から聞いた拓馬は泣きそうになったがこらえた。