女性漫画家いちご先生を復活させたい男性編集者の物語

いちご夢野先生と睦月拓馬

先生のお父さんと対決

　山川寅雄は背の高い男であった。若菜や奈緒美も比較的背が高い女性であったため、拓馬は寅雄を見たときに遺伝というものを感じた。そして寅雄の顔を見たとき、老けてはいてもハンサムであると思った。そこもまた遺伝で、若菜も奈緒美も美人として成長したのだろうと思った。
　拓馬が事情を説明する前に、若菜が父の寅雄に対してあれこれと説明していた。
「……どうもなあ、話は半分くらい分かった。俺の酒を勝手に飲んだこと以外は別にいいだろう。問題はこれからどうするかだ。なあ睦月さんよ、考えを言ってみろ」
　凄みのある寅雄の顔と声に迫られ、酔いも眠気も消えた拓馬は真剣に答えようと決めた。
「僕は編集プロダクションを設立します。資本金は少ないですが、漫画家さんと契約して漫画を描いてもらいます。そして電子書籍の配信会社と提携して漫画の配信サービスを始めます。そこから出た利益を漫画家さんに還元しつつ、事業を継続する予定です」
　自分の説明が十分だとは思わなかったが、拓馬は寅雄の目をまっすぐに見て語った。
　寅雄はそばにいる若菜と奈緒美の顔をちらりと見て、射貫くような目つきで拓馬の顔を見た。
「漫画の仕事に関してはよくわからん。でも奈緒美がまた稼ぐようになるならいいかもしれん。正直言って奈緒美が前に稼いだ金は俺が使っちまったからな。でもな、俺はそこからあれこれ仕事をやって稼いだからこの家に戻ってきたんだ。これからは真潮と農業をやる」
　寅雄がそこまで言ったとき、部屋の外でじっと話を聞いていた真潮が泣き始めた。
「……お父さん！　本当に？　本当にオラと農業やってくれるのか？」
「おう任せろ！　今度こそ真面目に農業やるぞ真潮。若菜も手伝えよ。奈緒美もな」
　寅雄と真潮が思わず抱き合ったとき、若菜はそっと立って部屋を出た。そこで手招きされた拓馬も部屋を出たが、奈緒美はぼんやりと両親を見ていた。