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第二巻刊行記念特別編~フロルの短期留学~
ふうちゃん再び~7
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野リスはたたたっと高い木に登り、木から木へとまるで曲芸師のようにひらりと飛び移り、また先へと進む。
その視界の下では、エマとフロルは薬草摘みに邁進していた。
「ほら、あった!」
またフロルが薬草を見つけると、嬉しそうに笑う。たくさん採れると嬉しいのだ。
「わあ、フロル、すごいわ」
エマが手をぱちぱちと叩き、薬草を入れる籠を差し出すと、フロルはその中へ掴んでいた薬草の束をぽいっと入れる。
「そろそろ、ここから別の場所に移動したほうがいいね」
薬草というのは一気に取りつくすと枯れてしまう。そうならないために、まだ成長の余地があるくらいで収穫を止めるのがコツなのだ。
「そう。じゃあ、他の場所へ行きましょうか」
そう言って、別の場所へ移動しようとする二人を、野リスは気の上からじっと見つめていた。どこかへ行ってしまう風もなく、リスはずっと木の上から離れようとしない。
「きゅう」
野リスは切なげに小さな唇を震わせながら鳴いた。
怪我をして横たわっていたら、そっと優しく抱き上げてくれて、傷を癒してくれた。野リスは、フロルのことが大好きになったのだ。
そんなリスがぴくっと震えたと思ったら、鋭い視線を別の場所へと向けた。
そこには、フロルの後ろ姿を忌々し気に睨んでいた男がいた。
そう、あのバズである。
学校のカリキュラムの都合上、フロルの薬草とバズの攻撃魔術の実習時間は重なっていることのほうが多い。必然的にバズはフロルの姿を目にすることになる。
彼の鼻の怪我はだんだん治ってきているものの、未だに傷は癒えきっていない。そして、相変わらずバズにとっては、今だにフロルは鼻につく存在なのである。(だから、鼻の怪我をしたのであるが)
ちぇっ。楽しそうに薬草摘みかよ。
バズがつまらなさそうに小石を蹴とばす。
「そうだ!」
何かを思い出したように、バズはその小石を拾い、ふっと息を吹きかける。
小石は熱を持ち始め、まるで燃え落ちる隕石のように赤く光る。
「どうだ。このくらいは朝飯前だぜ」
ちょうど、色々なことにムカついていたのだ。
腹いせに、バズはその燃える石を近くの木へと投げつけた。
その石は木に音を立ててぶつかり、木に穴が開く。
「おい、バズ、何遊んでるんだ」
学友に声をかけられたバズは何食わぬ顔をする。
「ああ、ちょっと先に鍛錬場に行っててくれ。俺もすぐ後から行くから」
「わかった。遅れるなよ」
バズの父親は、バルジール派の貴族の一員だった。父からフロルというこまっしゃくれた白魔道師がバルジール派の貴族たちを困った立場に追いやっていたという話は聞いていた。
庶民のくせに白魔道師とは恐れ入ったぜ。
森の中から石を投げたとしても、目撃者さえいなければ誰も俺がやったとはわかるまい。
ちょっとくらい怪我すればいいんだ。
父上に少しくらいはほめてもらえるかもしれない、そんなことを考えながらバズは石を手にフロルの後を追った。
◇
そして、森の中を歩くとすぐにフロルたちの姿を見つけた。
バズは手の中にあった石に魔力を込めると、それは赤い炎を放ち始める。バズの特性は炎だったので、火を使うのが一番やりやすかったのだ。
木陰に隠れながら、そろりそろりとフロルたちとの距離を詰める。
そして、石をフロルに向かって投げつけるために、手を振りかざした瞬間。
ひゅーん
風船鳥がまた一羽、すごい勢いでバズの顔をめがけて突っ込んできた。
「させるか!」
バズは咄嗟に風船鳥にむかって手をかざすと、風船鳥が弾き飛ばされた。
これでも一応、攻撃魔術の使い手なのだ。
前回は、まさか風船鳥が激突してくるなんて考えてもいなかったため、隙をつかれてしまったが、同じ手をくらうほど馬鹿ではない。
「ははっ。ざまあみろ」
バズは仁王立ちになりながら、地面に転がっている風船鳥をあざ笑った。
そして、木の向こうにはフロルがいる。
こっちのことはまるで気づいていないようで、相変わらず熱心に薬草を摘んでいる。
そして、バズがフロルに燃える石を投げつけようと手を振りかざした瞬間、数匹の風船鳥がまたバズ目指してとびかかってきた。
「ちっ。お前らの手はお見通しだぜ」
バズがまたバリアを張ろうとした瞬間。
野リスが飛んだ。
「きゅーん」
野リスは高く高く大きく弧を描きながら、バズの顔面を狙って飛ぶ。
バズは風船鳥にばかり気を取られていて、リスにはまったく注意を払っていなかった。
しめた。
野リスはにやりと笑い、そして、思い通り狙った場所に激突した。
ごっ。
「あ、目が、目が見えない!」
そう叫ぶバズの顔全面に野リスが張り付き、そして、ほぼ同じ瞬間に足元に風船鳥が激突する。
「ぐはっ」
視界を突然ふさがれ、バリアを張ることができなかった。
バズは変な声を上げながら後ろ向きに吹っ飛んだ。手にしていた燃える石は主の手を離れ、ぶすぶすと煙をあげながら地面にコロコロと転がった。
「バズっ、おい、どうしたんだ」
バズが来ないことを不審に思った同級生がバズを捜しにやってきたのだ。そして、彼らの目にはいったのは地面に転がっているバズの姿であった。
「ああ、ちくしょう。足が、足が折れた」
バズが呪いの言葉を吐いていると、わらわらと教員を含めた生徒たちが駆け寄ってきた。
「どうしたんだ。バズ、転んだのか?」
「リスが顔に張り付いて視界を遮ってきやがったんだ。そこに風船鳥が…」
「またか? お前、風船鳥に何かしたのか?」
見た目は可愛いが、一度でも風船鳥の恨みを買うと、それはそれは執拗にに狙われることを教官は知っている。
ふと木を見上げると、風船鳥と野リスたちが木の上からバズをじっと見つめていた。
それにしても、野リスの恨みまで買うとは……。
「救護室のハラル教官に担架ももってきてくれと伝えに行ってくれ」
生徒の一人が踵を返し、学校へと戻っていった。
そして、教官はすぐにバズを抱き起した。
「バズ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃありませんよ。先生。ああ、くそっ。なんでまた風船鳥が…・・」
それにしても、と、教官は思う。一体、この生徒の何がそんなに風船鳥や野リスまで怒らせたのだろうか。
「今日の演習は中止したほうがよさそうだな」
何かを感じた教官は生徒を集め、すぐに教室に戻るように伝えた。もう実習どころではなかった。
◇
その頃、薬草を集め終わったフロルたちが教官の元へと集まっていた。
生徒たちが静かに教官の説明を聞いている時、遠くから何か騒がしい声が聞こえてきた。
「あら、またけが人かしら?」
薬草学の教官が手を止めて、森の端から運び出されている生徒をちらりと見た。
「攻撃魔術の訓練で怪我したのね」
エマがフロルの耳元でそっと囁いた。
「攻撃魔術のクラスって危険なんですね」
「さあ、みなさん、こちらに集中して。授業を続けますよ」
森の端で騒いでいる攻撃魔術のクラスの生徒たちを尻目に、教官は再び言葉を続ける。
「今日の一番は、またフロルさんでした」
生徒たちの前でたって、フロルが嬉しそうにニコニコしていると、その後ろを担架に担がれたガスが静かに通り過ぎていった。誰もそんなことに注意を払わず、フロルにぱちぱちと拍手を贈っていた。
その視界の下では、エマとフロルは薬草摘みに邁進していた。
「ほら、あった!」
またフロルが薬草を見つけると、嬉しそうに笑う。たくさん採れると嬉しいのだ。
「わあ、フロル、すごいわ」
エマが手をぱちぱちと叩き、薬草を入れる籠を差し出すと、フロルはその中へ掴んでいた薬草の束をぽいっと入れる。
「そろそろ、ここから別の場所に移動したほうがいいね」
薬草というのは一気に取りつくすと枯れてしまう。そうならないために、まだ成長の余地があるくらいで収穫を止めるのがコツなのだ。
「そう。じゃあ、他の場所へ行きましょうか」
そう言って、別の場所へ移動しようとする二人を、野リスは気の上からじっと見つめていた。どこかへ行ってしまう風もなく、リスはずっと木の上から離れようとしない。
「きゅう」
野リスは切なげに小さな唇を震わせながら鳴いた。
怪我をして横たわっていたら、そっと優しく抱き上げてくれて、傷を癒してくれた。野リスは、フロルのことが大好きになったのだ。
そんなリスがぴくっと震えたと思ったら、鋭い視線を別の場所へと向けた。
そこには、フロルの後ろ姿を忌々し気に睨んでいた男がいた。
そう、あのバズである。
学校のカリキュラムの都合上、フロルの薬草とバズの攻撃魔術の実習時間は重なっていることのほうが多い。必然的にバズはフロルの姿を目にすることになる。
彼の鼻の怪我はだんだん治ってきているものの、未だに傷は癒えきっていない。そして、相変わらずバズにとっては、今だにフロルは鼻につく存在なのである。(だから、鼻の怪我をしたのであるが)
ちぇっ。楽しそうに薬草摘みかよ。
バズがつまらなさそうに小石を蹴とばす。
「そうだ!」
何かを思い出したように、バズはその小石を拾い、ふっと息を吹きかける。
小石は熱を持ち始め、まるで燃え落ちる隕石のように赤く光る。
「どうだ。このくらいは朝飯前だぜ」
ちょうど、色々なことにムカついていたのだ。
腹いせに、バズはその燃える石を近くの木へと投げつけた。
その石は木に音を立ててぶつかり、木に穴が開く。
「おい、バズ、何遊んでるんだ」
学友に声をかけられたバズは何食わぬ顔をする。
「ああ、ちょっと先に鍛錬場に行っててくれ。俺もすぐ後から行くから」
「わかった。遅れるなよ」
バズの父親は、バルジール派の貴族の一員だった。父からフロルというこまっしゃくれた白魔道師がバルジール派の貴族たちを困った立場に追いやっていたという話は聞いていた。
庶民のくせに白魔道師とは恐れ入ったぜ。
森の中から石を投げたとしても、目撃者さえいなければ誰も俺がやったとはわかるまい。
ちょっとくらい怪我すればいいんだ。
父上に少しくらいはほめてもらえるかもしれない、そんなことを考えながらバズは石を手にフロルの後を追った。
◇
そして、森の中を歩くとすぐにフロルたちの姿を見つけた。
バズは手の中にあった石に魔力を込めると、それは赤い炎を放ち始める。バズの特性は炎だったので、火を使うのが一番やりやすかったのだ。
木陰に隠れながら、そろりそろりとフロルたちとの距離を詰める。
そして、石をフロルに向かって投げつけるために、手を振りかざした瞬間。
ひゅーん
風船鳥がまた一羽、すごい勢いでバズの顔をめがけて突っ込んできた。
「させるか!」
バズは咄嗟に風船鳥にむかって手をかざすと、風船鳥が弾き飛ばされた。
これでも一応、攻撃魔術の使い手なのだ。
前回は、まさか風船鳥が激突してくるなんて考えてもいなかったため、隙をつかれてしまったが、同じ手をくらうほど馬鹿ではない。
「ははっ。ざまあみろ」
バズは仁王立ちになりながら、地面に転がっている風船鳥をあざ笑った。
そして、木の向こうにはフロルがいる。
こっちのことはまるで気づいていないようで、相変わらず熱心に薬草を摘んでいる。
そして、バズがフロルに燃える石を投げつけようと手を振りかざした瞬間、数匹の風船鳥がまたバズ目指してとびかかってきた。
「ちっ。お前らの手はお見通しだぜ」
バズがまたバリアを張ろうとした瞬間。
野リスが飛んだ。
「きゅーん」
野リスは高く高く大きく弧を描きながら、バズの顔面を狙って飛ぶ。
バズは風船鳥にばかり気を取られていて、リスにはまったく注意を払っていなかった。
しめた。
野リスはにやりと笑い、そして、思い通り狙った場所に激突した。
ごっ。
「あ、目が、目が見えない!」
そう叫ぶバズの顔全面に野リスが張り付き、そして、ほぼ同じ瞬間に足元に風船鳥が激突する。
「ぐはっ」
視界を突然ふさがれ、バリアを張ることができなかった。
バズは変な声を上げながら後ろ向きに吹っ飛んだ。手にしていた燃える石は主の手を離れ、ぶすぶすと煙をあげながら地面にコロコロと転がった。
「バズっ、おい、どうしたんだ」
バズが来ないことを不審に思った同級生がバズを捜しにやってきたのだ。そして、彼らの目にはいったのは地面に転がっているバズの姿であった。
「ああ、ちくしょう。足が、足が折れた」
バズが呪いの言葉を吐いていると、わらわらと教員を含めた生徒たちが駆け寄ってきた。
「どうしたんだ。バズ、転んだのか?」
「リスが顔に張り付いて視界を遮ってきやがったんだ。そこに風船鳥が…」
「またか? お前、風船鳥に何かしたのか?」
見た目は可愛いが、一度でも風船鳥の恨みを買うと、それはそれは執拗にに狙われることを教官は知っている。
ふと木を見上げると、風船鳥と野リスたちが木の上からバズをじっと見つめていた。
それにしても、野リスの恨みまで買うとは……。
「救護室のハラル教官に担架ももってきてくれと伝えに行ってくれ」
生徒の一人が踵を返し、学校へと戻っていった。
そして、教官はすぐにバズを抱き起した。
「バズ、大丈夫か?」
「大丈夫じゃありませんよ。先生。ああ、くそっ。なんでまた風船鳥が…・・」
それにしても、と、教官は思う。一体、この生徒の何がそんなに風船鳥や野リスまで怒らせたのだろうか。
「今日の演習は中止したほうがよさそうだな」
何かを感じた教官は生徒を集め、すぐに教室に戻るように伝えた。もう実習どころではなかった。
◇
その頃、薬草を集め終わったフロルたちが教官の元へと集まっていた。
生徒たちが静かに教官の説明を聞いている時、遠くから何か騒がしい声が聞こえてきた。
「あら、またけが人かしら?」
薬草学の教官が手を止めて、森の端から運び出されている生徒をちらりと見た。
「攻撃魔術の訓練で怪我したのね」
エマがフロルの耳元でそっと囁いた。
「攻撃魔術のクラスって危険なんですね」
「さあ、みなさん、こちらに集中して。授業を続けますよ」
森の端で騒いでいる攻撃魔術のクラスの生徒たちを尻目に、教官は再び言葉を続ける。
「今日の一番は、またフロルさんでした」
生徒たちの前でたって、フロルが嬉しそうにニコニコしていると、その後ろを担架に担がれたガスが静かに通り過ぎていった。誰もそんなことに注意を払わず、フロルにぱちぱちと拍手を贈っていた。
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