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第二巻刊行記念特別編~フロルの短期留学~

ふうちゃん再び~4

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「エマさん、こっちです」

魔術院の森の中、フロルが絶好調で薬草探しを楽しんでいた。

この森はとにかく薬草の宝庫なのだ。そこかしこに生えている薬草をかたっぱしから摘みまくっても、ふと横を見るとまた薬草があるという感じだ。

「すごいわ、フロル。どうしたらこんなに薬草を見つけられるの?」

普段はこんな風に簡単に薬草は見つからないのだとエマは言うが、フロルにとっては初めての薬草摘みなので、いまいち、ピンとこない。

「これじゃ、先生がびっくりするわね」

二人の籠の中にはすでに沢山の薬草が摘まっている。その中には、とても希少な草もあるのだという。

「あ、ブール草!」

なじみの草を見つけて、フロルの目が輝く。これをリルにもっていって……と、考えた瞬間、リルは王宮にいて、カイに面倒を見てもらっているのだと思い出した。

(リル…どうしてるかな)

もうそろそろ王宮に帰りたい。リルが寂しそうにしているのではないか。

そう思って、遠く王宮の方角の空を眺める。

その瞬間、フロルは思いがけない光景を見つけて、フロルはぴきりと固まった。

「また風船鳥……」

群れがフロルを追って移動してきたのだろうか。木の上には、またびっしりと群れている風船鳥の姿が…。

「フロル、どうしたの?」

エマがそう言いながら近寄ってきて、また空を見上げて固まっている。

「もしかして……」

フロルはちょっと思い当たる節があって、木の上の鳥に声をかけた。

「ふうちゃん、おいでー」

もし、ここにふうちゃんがいるのなら、きっと木の上から舞い降りてくるはずだ。

思った通りだった。

バサバサと羽音を立てて、フロルの前に舞い降りてきたのは、どこから見ても、紛れもなくふうちゃんであった。

「くっくるー、くっくるー」

目を白黒させて、フロルの前で求愛のダンスを踊る。

間違いない、これは、100%確実にふうちゃんである。

「ふうちゃん、ここまで来ちゃったの?」

フロルがそう言って、ふうちゃんと抱き上げると、ふうちゃんは幸せそうにぽんっと膨らんだ。

風船鳥は怒った時とか、嬉しい時にぽんっと膨らむ習性がある。

ふうちゃんが膨らんだ瞬間、ぽんっ、ぽんっ、と木の上の風船鳥も次々に膨らんでいく。風船鳥は意識を共有しているので、一匹が嬉しくなると他の鳥も同じように嬉しくなるのだ。

「あら、まあ、それって」

膨らんだふうちゃんを抱きながら、フロルはふわふわの感触を堪能する。

「これはふうちゃんって言って、毎日、王宮で求愛してくれてる鳥なんです。どうして、こんな所までついてきちゃったのかな?」

「まあ、可愛いのね」

エマもくすくす笑いながら、二人で交代でふうちゃんと撫でてあげると、ふうちゃんはさらに嬉しくなったようで、へらりとしまりのない笑い顔をうかべている。

他の風船鳥も足元に降りてきて、あたりは、もふもふパラダイスと化していたのである。

授業が終わるまでまだ少し時間があるし、もう薬草は十分に摘んだので、二人は思う存分、風船鳥のもふもふを堪能することに決めた。



ちょうどその頃、フロルたちがいた所から少し離れた場所に、攻撃魔法の鍛錬所があった。

そこで、炎の矢を射る練習をしていたのは、先日、フロルをいけ好かない目で眺めていた貴族の子息たち。

「あー、的ばっかり打つの飽きてきたな」

リーダー格のバズが不満げに呟きながら、またもう一つ、炎を矢を放つ。

バシュッ

矢は的のど真ん中を貫いた。矢の腕前はかなりいい。

「よし、なかなか上手だな」

教官助手が満足げに頷いていると、誰かが来て、助手を呼びに来た。なんでも授業につかう備品が見つからないとのことだ。

「俺は少し席を外すから、そのまま練習を続けてくれ」

そう言って、助手が席を外すと、子息の一人であるジェレミーがちょっと思いついたように言った。

「外で矢を射ってみないか? 的ばっかりだと退屈で仕方がない」

「ああ、屋外にいる小動物を狙うのもいいか」

本来は学院内で生き物に攻撃魔法をかけるのは禁止されているのだが、見つからなきゃ構わないだろうと、彼らは考えていた。

強いものが弱いものを搾取する。

貴族であれば、当たり前のことだ。

「そうだな」

バズは顎に手を当てて少し考えてみた。ちょっとくらいなら構わないだろう。

「よし、じゃあ、森の中で狩りをしようぜ」

「決定だ」

子息たちは、それぞれの弓を持ち、鍛錬場の外に出る。ちょうどその頃、薬草学の生徒たちが森の中をうろついているということを彼らは考えてもみなかったのだ。

そうして、獲物をしばらく探していると森の奥から楽しそうな笑い声が聞こえた。

「おい、あっちで人の声がする。行ってみようぜ」

少し歩いた先、木々の間から、フロルと女子学生が風船鳥に囲まれながら楽しそうに笑いあっている姿が見えた。
まんまるに膨らんだ風船鳥が、フロルの周りでそこかしこに求愛のダンスを踊っている。

「おい、あそこにちょうどいい獲物がいるぜ」

バズが意地の悪い笑みを浮かべた。

「ああ、風船鳥か。まあ獲物としては悪くないな」

もう一人の子息がうなずくと、バズはやおら弓を引き出し、炎の矢をつがえるが、矢が向いている方向は明らかに鳥を狙っているのではない。

「おい、どこを狙ってるんだ。それだとあの聴講生に当たるだろ!」

ジェレミーが慌てて声を上げる。

バズは最初から何もかもわかっているかのように、にやりと笑った。

「だから、どうだって言うんだ。一人や二人怪我をしたってかまわないだろ」

「ばかっ、やめろ。人間に向かって矢を射っていい訳ないだろ」

「いいか、俺たちが弓の練習をしていたら、あいつらが急に鍛錬場に入ってきたことにするんだ」

バズはジロりと周囲の子息たちを眺めた。みんなボスに睨まれたら後々面倒なことを知っている。子息たちは気まずそうに地面に視線を落とした。

つまり口裏を合わせろと言うことか。

「炎の矢が人に当たったら、どうなるか見てみたかったんだ」

「ダメだ。よせっ。バズ!」

子息の中で唯一、ジェレミーがバスを止めようと大声を上げるが、バズはそんなことを全く気にする様子ない。
ジェレミーが止める前にバズは矢を素早く弓につがえ、力一杯ひっぱった。

「ああ、もうだめだ」

炎の矢が当たったら、どのくらいの怪我をするのかはわからない。もしかしたら、何か月も療養することになるかもしれない。

ジェレミーは真っ青になりながら、目をつぶった。人が怪我をするような場面は見たくなかったのだ。

バズはにやにやと笑いながら、まっすぐに矢の先にフロルを捕らえていた。

背後にいる彼らに全く気がつかないまま、フロルはふうちゃんを膝の上に乗せて楽しそうに笑っていた。



前回にお話ししたことですが、野良竜二巻、本日発刊ですー。そして、ヒミツのお話でしたが、野良竜二巻には、なんと!大人になったフロルのイラストが載ってるのですよ!! しかも、素敵なドレスを着てですね、ギルのエスコートで祝賀会に行くというお話になってまして!! 大人のフロル、めっちゃ可愛いです。にもし先生、素敵なイラストを本当にありがとうございます!
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