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第二巻刊行記念特別編~フロルの短期留学~

ふうちゃん再び~3

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そうして、学校が始まり数日が経った。

フロルが最初に思ったより、ずっと毎日を楽しく過ごしていた。誰にいじめられる訳でもなく、平民だからといって差別されることもない。

講習が終わるまで後二週間。

なんとなく無事に過ごせそうだとフロルはほっとしていた。

そして、今日から、上級生のクラスへと移行するのだ。なんでも、これからは白魔道師の専修コースへと入るらしい。

今日は薬草学の授業だ。白魔術師になるためには、薬草の知識なども必要になるのだそうだ。
ライルがフロルをここで学ばせているのも、実は薬草学の勉強をするのがメインだったようで、これからは課外学習が多くなるのだという。

きょろきょろと新しいクラスの生徒を見渡す。

周りの学生は、10代半ばくらいだろうか。一見、年上のクラスに見えるのだが、実はフロルの実年齢に近い。

「ああ、貴女が新しい聴講生ね」

そう声かけをしてきたのは、16,7歳と思しき女子学生。

「先生から貴女の面倒を見るように頼まれてるの。一緒に実習しましょう。よろしくね」

「はいっ。フロルと言います。よろしくお願いします」

フロルがペコリと頭を下げて、お互いに自己紹介をする。このお姉さんはエマという名前なのだそうだ。

薬草学の授業は実際の草花を見て学習するのだという。

「あ、それでね」

エマが遠くを指さすと、別のクラスが何かの授業をしているのが見える。

「あちらは攻撃魔術の練習をしているから近寄っちゃだめよ」

「そうなんですね」

まだ授業が始まるまで間があったので、フロルとエマはその様子をなんとなく眺めていた。

まずは教員がデモンストレーションに使うのだろう。肩に掛けている弓を取り出して生徒に見せていた。

次に、弓を片手にしながら教官が指で示した方向を見ると、そこから軽く20メートルくらい先には、矢を受けるための的が設置してあった。的はなんども使われているせいか、的は古くたくさん穴が開いている。

これから矢をつがえて、あの的を射るつもいなのだろう。

「いいか、みんなよく見ておくんだぞ」

教師は弓を持った手とは反対の手を空中にすっといれると、そこから現れたのは炎の矢。
それを素早く弓につがえ、的に向かって、間欠を入れずに、炎の矢を放つ。

ずしっ。

重い音と同時に、炎の矢は的のど真ん中に突き刺さっていた。

「おおおー」

生徒たちの間からはどよめきの声があがっていた。

「いいか、炎の矢は取り出してから射るまでの時間を短くするのがコツだ。風の魔術と組み合わせることによって、矢の威力は数倍になるから、よく覚えておくんだ」

フロルとエマは、遠くからその様子を眺めていたのだが、エマは攻撃魔法を見たのが初めてだったらしい。

「すごいわね。攻撃魔術ってあんな風に扱うのね」

少し感動している様子だったが、フロルはあんまり、というかほとんど驚きもしなかった。

すでに魔導士塔お勤めのフロルにとっては、決して目新しい光景ではない。

城の魔道師たちの訓練風景はもっと実践的で、今、教官が見せたデモよりもっともっと激しく、氷だの炎だの、時によっては土の塊だとか、いろんな物をぶっ放す。そして、それを防御する魔道師たちもこことは比較にならないくらい防御術にたけている。

そんな様子を見慣れているフロルには大して感動する要素がないのである。

「じゃあ、各自、鍛錬場でグループに分かれて練習するように」

そう言うと、攻撃クラスの生徒たちはグループに分かれて移動し始めた。エマによると、攻撃魔法の訓練は危険なため、少人数で行うことになっており、小さな鍛錬場が敷地内で7,8個あるという。

そんな説明を淡々と聞いていると、エマが言葉を止めてフロルを驚いたように見た。

「あんまり驚かないのね? 攻撃魔法は、普通、初めてみるとちょっとびっくりするものだけど」

「あはは、あの、ああいうのは、魔導士塔でしょっちゅう見ているから……」

うん、もっと激しいやつをね。と思ったがフロルは賢明にも言わなかった。

それを聞いたエマは、ようやくフロルが王宮ですでに働いていたことを思い出す。

「ああ、そうだったわね。フロルはもう白魔道師として働いていたのだったわね」

「ええ」

「そんなに小さいのに、もう白魔道師なんてすごいわ」

フロルの実年齢は17歳である。ちょっと恥ずかしいような気がして、フロルはえへへと笑う。

「いやあ、成り行きでこうなっちゃっただけで……」

フロルが言葉を濁していると、タイミングよく薬草学の教官が姿を現した。

「みんな、ここに集まって」

教官の姿を認めると、薬草学を学んでいる生徒たちがわらわらと集まってきた。

教官は白いプラチナの髪の女性で、どことなくグエイドに似ている。白魔道師はこんな感じの人が多い。

「じゃあ、今日の授業を説明するわね」

教官の説明によると、今日は、薬草図鑑を見ながら、森の中に生えている薬草を見つける実習だという。

こういう授業はフロルは大の得意である。何しろ、ダーマ亭にいた頃から、フロルはブール草取り名人なのだ。

教官が一通り説明した後で、再び生徒に向き合う。

「じゃあ、ペアを組んで、二人ずつ練習を始めなさい」

「フロル、今の説明わかった?」

「もちろん!」

フロルが元気よく返事をすると、エマは明るい顔でフロルを見る。エマはこの授業が一番好きなのだと言う。

「じゃあ、森の中へ入ろうか」

「はい」

二人がちょうど森の中へ入ろうとした時、頭の上からバサバサと羽音と共に、なんだか変な視線を感じた。

(ん? 鳥の音?)

それも一匹や二匹ではなく、なんだか沢山の群れに囲まれているような……。

そうして、空を見上げて、フロルは驚きのあまりゴクリと唾を飲み込んだ。

風船鳥の群れが木の高い所に留まり、フロルたちを見下ろしていたのだ。それも見たことがないほど大量の風船鳥だ。

「あ、風船鳥だ」

フロルが呟くと他の子たちも気づいたようだ。

「すごい数。沢山いるわね」

あまりにも数が多すぎるので、まるで木に風船鳥がなっているかのように見える。

「うわあ、すごい数。一体、どうしちゃったのかしらね」

エマが呟く傍らで、フロルもなんとなく既視感を覚えて、風船鳥たちを眺めていた。

(あれっ? なんか見覚えがあるような……)

風船鳥はどれも似たり寄ったりの外見なのだが、よくよく見ると一匹ずつ顔つきとか、羽の模様とかが微妙に違うのだ。その中に一匹だけ、なんだかよく見慣れた鳥がいるような気がした。

「あれってまさか……」

そう、毎朝、魔導士塔の窓から求愛してくれる風船鳥、通称「ふうちゃん」によく似た鳥が、木の上から自分を見つめているような気がする。

(……あれ、もしかして、ふうちゃん? いやいや、ふうちゃんがここまで追いかけて来る訳ないし)

「フロル、何してるの? 早く行くわよ」

エマに呼ばれて、フロルは我に返る。

きっと、ふうちゃんがいるなんて、絶対気のせいだ。ふうちゃんがわざわざここまで追いかけてくる訳ないじゃないか。

「あ、待って。エマさん」

フロルは少し先を歩いていたエマを小走りで追う。

そして、少し森に入った所で、二人は本格的に薬草探しを始めることにした。



注)ふうちゃんにピンとこない人は、風船鳥事件1~3を参照くださいませ♪

さて、野良竜拾ったら、女神として覚醒しそうになりました(涙 第二巻、明日、2月24日刊行予定です☆
今回も、書き下ろし部分を大増量しております! 二巻あらすじは大体こんな感じ。

~アルファポリス、今後の刊行予定~第二巻あらすじ部分から抜粋~

子竜を拾ったことをきっかけに、王都で白魔道師見習いとして働くことになったフロル。晴れて見習いから正式に魔道師に昇格し、これからますます頑張ろうと気合を新たにしたのだけれど、彼女の毎日は相変わらず波乱万丈! チンピラっぽい騎士に逆恨みされたり、聖剣探しの旅に同行することになったり、あげく不思議な力でまたも大人の姿になってしまったりと大忙しで!? 悪人も、魔物も、愛されチートと可愛い子竜の力で一網打尽! 元平民少女の、うっかりサクセスファンタジー、待望の第2弾!

今回は、リルちゃんも大活躍します。そして、ああ、これ言いたい!言いたいんだけど、刊行日までちょっとヒミツなこともあるので、次回、更新した時にでもお話させていただきますねー。
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