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第二部 フロルの神殿生活

それで、結果は?

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カルシス大神殿の神官達は、フロルが本当に女神フローリアの生まれ変わりであるかどうかを確かめるために、はるばる遠くからやって来た。

そして、長旅を経て、彼らもようやく目的地に到着したばかりである。

その神官たちは、平均年齢65才というかなりシニアな方々の集団であった。

荷物を従者にあずけ、巫女からお茶などを出され、丁寧な接待を心地よく受けていた。
やがて、巫女がその場をはずし、部外者がいなくなったのを見届けてから、ようやく本音の混じった会話が交わされていた。

「いやいや、長い旅路でしたが、なかなかに疲れましたの。儂も年じゃ。こう長いと腰によろしくないの」

「いや、ほんに。それにしても、今回は女神様の生まれ変わりであることに、間違いはないのでしょうな」

一人の神官がそう言えば、また別の神官もうんざりしたような顔をしていた。

「前回、バルジールが連れてきた娘は、まがい物でしたからな」

「あれは、神殿の面汚しでしたな。また、いかがわしい娘を選んだのではあるまいな」

「話によれば、白魔道師上がりの小娘だそうで」

神官と魔道師はいわば犬猿の仲であることは間違いない。

ふっと、一人の神官がまた鼻でせせら笑う。

「一度あることは、二度あるのではないだろうか、と儂も懸念しておるのだ」

「また、今度の娘も偽物と仰るのか?」

「白魔道師ですぞ。あの怪しげな魔力と言うものを使って、人々をたぶらかそうとしているのではないか、と儂は思っておる」

「本当に、その通りかもしれませんぞ。試験に受からず、涙交じりで逃げる羽目にならなきゃよいがの」

「なにせ、バルジールも今のフロルとか言う娘のことを、あしざまにこき下ろしていたからの」

「ほお、あのバルジール殿のお眼鏡にかなわなかったのか。まがい物と本物の見分けがつかぬバルジールでさえ、偽物と言い出した娘なのだそうじゃ」

神官達は、お茶を飲みながら、意地悪そうな笑いを浮かべた。

誰にも聞かれていないと思いこみ、年寄りたちは悪口に存分に興じていた。

しかし、壁に耳あり、障子に目あり。

巫女が運んでいた美味しそうなお菓子の匂いに連られて、毛玉がふらふらとその後をついてきただなんて、誰も気づいていなかったのだろう。

カーテンの陰からお菓子をこっそりと狙っていたはずの毛玉だったのだが、今の話を全部聞いてしまったのだ。

黒い毛玉が悔しそうにふるふると震えて、手を固く握りしめていた。

そして、毛玉は、フロルの悪口に興じている老人たちを、怒りのこもった目でじっと眺めていた。その背中には、怒りの炎がメラメラと燃えている。

そんな毛玉に気付くことなく、老人たちは愉快そうに、会話に夢中になっていた。




そして、その翌日、神殿の一室、フロルは大神官の視察団に囲まれていた。その横にいるのは、もちろん、ジェイド・パーセル卿と、王太子だ。

「よろしいですか、女神様。幾つかお伺いしたいことがございます」

試験というよりは、むしろ、面接という感じである。

フロルは、多少緊張してはいたが、ライルと「華々しく試験で打ち砕かれてきます!」という公約(?)があるので、さほどナーバスにもなってはいない。

「では、経典の第三章と第五章の類似点は?」

「わかりませんっ」

自信満々にフロルはマッハの光より早く答えた。経典など、今まで一度も見たことはおろか、触れたことさえない。

「では、ハリエト紀第七章の冒頭部分について、どう思われますか」

「・・・ええっと、知りません!」

「経典を読んだことは?」

「もちろん、ないです!」

堂々と胸を張るフロルの横で、ジェイドが頭を抱えて悶絶している。もっと、ちゃんと準備させておけばよかったと、心の底から後悔していたのだ。

そして、その後の展開も、順調に、フロルが狙った通りに進んでいた。

「知りません!」

「わかりません!」

「それって、美味しいのですか?!」(経典の話)

と、ニコニコと微笑みながら、破壊力のあるコメントを繰り出し、周囲にいた王太子を始め、巫女たちも、頭を垂れながら、「フローリア様……」

とがっくり項垂れる始末。

周囲には、ジェイドが思った通り、失望の空気がじわじわと重みを増してきた。その場を取り繕おうと、なんとか言葉をひねりだすので精一杯だった。

「・・・女神様、我々はここまで、そのフローリア様が白紙の状態だったとは思いもよらなかったので・・・申し訳ありません」

試験官である老人たちに、そう告げるだけで、精一杯である。

「それでも、これが女神の生まれ変わりとは、随分、お粗末ですな。パーセル副大神官殿」

老人の嫌味はまだまだ続く。我々がわざわざここまで来た甲斐はありませんでしたな。に、続き、儂らも決して閑職にある訳ではないからの、などなど。

その一つ一つが、丁寧なのだが、嫌みったらしくてこの上ない。

バルジールも嫌味だったが、彼はまだ真っ直ぐに激高するだけで、この老人のようにあてこすりのような遠回しな嫌味はかなりメンドクサイ。

フロルはうんざりしながら、早く竜舎に戻りたいと思っていた。もう試験に落第なのは、明らかだし、もうすぐ、リルのご飯の時間なのだ。

「あの、まだ質問は続きますか?」

一刻も早く、この場から開放してくれないかなと、フロルはじりじりしていたのだ。

また遅くなるとリルが拗ねる。最近は、少し大人になってきたせいか、拗ね方もまたしつこくなった。
リルを拗ねさせると大変なのだ。

そんなフロルの側でジェイドが、なんとかこの場をやりすごそうと、冷や汗をかきながら口を開く。

「皆さん・・・その、女神様はまだ色々落ち着かれておりませんし、ここに来るまで、色々と事情がおありになったことを考えますと、まだ少し彼女には時間が必要なのではないかと存じます」

ジェイドが控え目に口を開くと、確かに、と頷く面々もいたことはいた。

その中で、一番、偉そうな神官がフロルに向かって訊ねた。

「フローリア様が女神としての前世の記憶がまだ戻られていないとお伺いしましたが?」

「はい! 全く、生まれる前の過去の記憶はありません」

元気よく言うと、ジェイドががっくりと頭を垂れた。ジェイドの必死の努力を破壊しているのは、紛れもなくフロル本人である。

使節団の神官たちは顔を寄せ集めて、ひそひそと何やら会話をしていたが、フロルには全く聞き取れない。

そこで、ようやく、フロルは開放されることとなった。

「それでは、今回の試験はこれまでと言うことにしましょうぞ。結果は後ほど、連絡させていただこう。それでよいですな? パーセル卿」

ジェイドは、とりあえず、愛想のよい笑顔を浮かべ、わかりました。と頷く。

「後で、私の意見を述べさせていただいてもよろしいでしょうか?」

ジェイドがなんとか次につなごうと、精一杯の笑顔で言うと、神官達は、鷹揚に頷いてみせた。

「では、私は失礼させていただきます」

フロルは、なんとなく、すっきりした顔で、椅子から立ち上がり、外に出て扉を閉めようと振り返った瞬間、ドアの隙間から、思いがけないものが目に入る。

(あれは?!なんで?どうして??)

フロルの緑色の瞳が驚きで、かすかに見開かれた。

問題は神官達が座っている椅子のすぐ後ろにあった梁の上。

数匹の毛玉たちがそこにいたのだ。どういう訳か、そこに黒い毛玉ばかりが集まっていた。

そして、毛玉たちは神官の頭の上で、なみなみと聖水をたたえた杯をプルプルと震えながら持ち上げている。神殿の祭壇の横に置いてある大きな水の杯だ。

(えっ?なんで、そんなもの持ってるの?!)

毛玉は今にも盃をひっくり返しそうだ。そんなことになったら、一体、どうなるのか。

フロルは驚きのあまり、一瞬、息をつめて、その様子を見つめた。



人気の婚約破棄もの、突然、書いてみたくなったので、見切り発車します! 多分、短編で終わる予定。

「たった今、王子様から婚約破棄されて、地下牢に送られました」

第一話、投稿しました!


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