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第二部 フロルの神殿生活
女神に試験ってありなの?!
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そんなある日のこと。
「フロル、ちょっといいかい?」
魔道師搭の午後、ライルがフロルを呼んだ。
「実は、ちょっと困ったことになってね」
そう言うライルの顔は、あまり乗り気でないようだ。
「どうしたんですか? ライル様」
「また、パーセル卿から連絡があってね」
そういうライルは困った顔をする。フロルの上司がライルであることを知ってから、どういう訳か、ジェイドはライルにフロルのことで頻繁に連絡をしてくるようになったと言う。
「女神フローリアを信仰する中枢である大神殿から、フロルが本物かどうかを確認したいと言って来たんだ」
ライルが言うには、以前にアンヌが偽女神で大騒動を起こしたことから、大神殿はかなり慎重になっているらしい。
「えっと、となると、また女神様の試験とかそんなものをやるんですか?」
「多分、そんなことになるだろうね。どんな難題を出してくるか、またバルジールが影で操っていることはないとは思うんだけど」
そんなことより、とライルは真顔でフロルに言う。
「それでさ、君は女神様になりたいの?フロル」
うーん、とフロルは考える。改めて、そう聞かれると、本音がぽろりとこぼれた。
「私は別に女神様になりたいって訳じゃないです。神殿はやっぱり居心地が悪いし・・・・・・ギル様も私が女神でなくても別に構わないって言ってくれてますし・・・・・・」
確かに、神殿は豪華だし、女神様となれば、待遇も素敵だ。
けれども、やっぱりフロルには居心地が悪いのだ。リルやエスペランサに囲まれているほうが、ずっと気楽でいい。それに、竜舎の竜たちとも随分と仲良くなったのだ。
「そう。よかった」
ライルがなんだか安心したような顔でにっこり笑う。
小首をかしげると、ライルのつやつやの黒髪がさらりと肩に落ちる。女性のように整った顔の上に、うっとりとするほど綺麗な笑顔を浮かべた。
「ねえ、フロル」
無自覚に無駄な美貌を垂れ流しながら、ライルがこんな風に笑う時には、ロクなことを言い出さないのをフロルはよーく知っている。
「女神の試験に落第したら、またフルタイムで魔道士塔に戻っておいでよ。そうだ。いっそのこと、女神の試験に受からないように影から邪魔してあげようか? ほら、雷を落として不吉な空模様を作るくらいなら、私だって出来るしさ」
「いやあ、ライル様っ。それはいらないと思いますよっ」
などと、恐ろしげなことをライルが言い出すので、フロルは、冷や汗をかきながらも、それは辞退させていただいた。
以前、ライルがお怒りのあまり、魔道士見習いに雷をおとしたことは、ギルからも聞いている。その見習いは、トラウマになって、すぐに城をやめたそうだ。
そんなものを、他国の神官に落としたら、それこそ、国同士の紛争ものである。それに、面接の相手は他国の大神官様のようだ。
「いや、ライル様、絶対に絶対に、変なことしちゃダメですよ!」
「なんだ、せっかく、フロルの手伝いをしてあげようって思ったのに」
ライルは不満げに頬を膨らませる。
「大丈夫ですって。多分、試験に落ちると思いますよ」
妙なことで胸を張るフロルに、ライルはへえ?と意外な顔をする。
「・・・・・・絶対に試験に受かると思ってたんだけどな」
フロルは、先日、ジェイドから聞いたことを、ライルに話した。女神となる人物は過去の記憶がよみがえるそうなのだが、自分には一切、前世の記憶なんてないこと、ネメシア後も(今は)全然、読めないこと。
「だからですけど、多分、試験は落ちるかと思いますっ!」
鼻息荒く断言するフロルに、ライルはほっとした顔を見せた。なんで、試験に落ちると言うと、ライルが嬉しそうな顔をするのか謎だが、とにかく、試験に落ちても、白魔導師の地位は確保されているのだ。
城勤めの高給取りはありがたいのである。
「そう、それで、試験は再来週だって聞いたよ。じゃあ、日時を押さえておくから、試験は適当に手を抜いておいで」
「はいっ。ライル様っ。見事に落第してまいりますっ」
「よし、がんばってこい。魔道士塔は全面的に、フロルの落第を応援する!」
なんだか、変な方向に話が進んでいたのだが、ライルとフロルは、試験に落ちる方向で、盛り上がっていたのだ。
「じゃあ、がんばってきますね」
そういうフロルが立ち去った後、たった今、彼女が出て行った扉を眺めながら、ライルはぽそりと呟く。
「そうだよ。フロル。神殿に行ったら寂しくて仕方がないじゃないか・・・・」
フロルが戻ってきた時のために、白魔導師のシフトを変えておこう、とライルは思い立ち、嬉しそうに書類を机に広げた。
◇
新連載「侍女、ドラゴンスレイヤーになる」始めました。
お城に務め始めた侍女アリサは、城勤めの間に洗練された令嬢になることを夢見る、どちらかというと鈍くさいほうの16才。ただ、アリサはなぜか生まれつきの「不幸体質」で、城に上がっても失敗ばっかり。業を煮やした女官長様から、屋内では働くとどじばっかりするので、森の木の実採取に出されてしまった。名誉挽回!と意気込んだ森の中で、なぜか、瀕死のドラゴンに出くわしてしまう・・・というお話です。
ぼちぼちと書いて行きますのでよろしくー。
なろう様、アルファポリス、カクヨム(もうすぐ)で連載開始です。
「フロル、ちょっといいかい?」
魔道師搭の午後、ライルがフロルを呼んだ。
「実は、ちょっと困ったことになってね」
そう言うライルの顔は、あまり乗り気でないようだ。
「どうしたんですか? ライル様」
「また、パーセル卿から連絡があってね」
そういうライルは困った顔をする。フロルの上司がライルであることを知ってから、どういう訳か、ジェイドはライルにフロルのことで頻繁に連絡をしてくるようになったと言う。
「女神フローリアを信仰する中枢である大神殿から、フロルが本物かどうかを確認したいと言って来たんだ」
ライルが言うには、以前にアンヌが偽女神で大騒動を起こしたことから、大神殿はかなり慎重になっているらしい。
「えっと、となると、また女神様の試験とかそんなものをやるんですか?」
「多分、そんなことになるだろうね。どんな難題を出してくるか、またバルジールが影で操っていることはないとは思うんだけど」
そんなことより、とライルは真顔でフロルに言う。
「それでさ、君は女神様になりたいの?フロル」
うーん、とフロルは考える。改めて、そう聞かれると、本音がぽろりとこぼれた。
「私は別に女神様になりたいって訳じゃないです。神殿はやっぱり居心地が悪いし・・・・・・ギル様も私が女神でなくても別に構わないって言ってくれてますし・・・・・・」
確かに、神殿は豪華だし、女神様となれば、待遇も素敵だ。
けれども、やっぱりフロルには居心地が悪いのだ。リルやエスペランサに囲まれているほうが、ずっと気楽でいい。それに、竜舎の竜たちとも随分と仲良くなったのだ。
「そう。よかった」
ライルがなんだか安心したような顔でにっこり笑う。
小首をかしげると、ライルのつやつやの黒髪がさらりと肩に落ちる。女性のように整った顔の上に、うっとりとするほど綺麗な笑顔を浮かべた。
「ねえ、フロル」
無自覚に無駄な美貌を垂れ流しながら、ライルがこんな風に笑う時には、ロクなことを言い出さないのをフロルはよーく知っている。
「女神の試験に落第したら、またフルタイムで魔道士塔に戻っておいでよ。そうだ。いっそのこと、女神の試験に受からないように影から邪魔してあげようか? ほら、雷を落として不吉な空模様を作るくらいなら、私だって出来るしさ」
「いやあ、ライル様っ。それはいらないと思いますよっ」
などと、恐ろしげなことをライルが言い出すので、フロルは、冷や汗をかきながらも、それは辞退させていただいた。
以前、ライルがお怒りのあまり、魔道士見習いに雷をおとしたことは、ギルからも聞いている。その見習いは、トラウマになって、すぐに城をやめたそうだ。
そんなものを、他国の神官に落としたら、それこそ、国同士の紛争ものである。それに、面接の相手は他国の大神官様のようだ。
「いや、ライル様、絶対に絶対に、変なことしちゃダメですよ!」
「なんだ、せっかく、フロルの手伝いをしてあげようって思ったのに」
ライルは不満げに頬を膨らませる。
「大丈夫ですって。多分、試験に落ちると思いますよ」
妙なことで胸を張るフロルに、ライルはへえ?と意外な顔をする。
「・・・・・・絶対に試験に受かると思ってたんだけどな」
フロルは、先日、ジェイドから聞いたことを、ライルに話した。女神となる人物は過去の記憶がよみがえるそうなのだが、自分には一切、前世の記憶なんてないこと、ネメシア後も(今は)全然、読めないこと。
「だからですけど、多分、試験は落ちるかと思いますっ!」
鼻息荒く断言するフロルに、ライルはほっとした顔を見せた。なんで、試験に落ちると言うと、ライルが嬉しそうな顔をするのか謎だが、とにかく、試験に落ちても、白魔導師の地位は確保されているのだ。
城勤めの高給取りはありがたいのである。
「そう、それで、試験は再来週だって聞いたよ。じゃあ、日時を押さえておくから、試験は適当に手を抜いておいで」
「はいっ。ライル様っ。見事に落第してまいりますっ」
「よし、がんばってこい。魔道士塔は全面的に、フロルの落第を応援する!」
なんだか、変な方向に話が進んでいたのだが、ライルとフロルは、試験に落ちる方向で、盛り上がっていたのだ。
「じゃあ、がんばってきますね」
そういうフロルが立ち去った後、たった今、彼女が出て行った扉を眺めながら、ライルはぽそりと呟く。
「そうだよ。フロル。神殿に行ったら寂しくて仕方がないじゃないか・・・・」
フロルが戻ってきた時のために、白魔導師のシフトを変えておこう、とライルは思い立ち、嬉しそうに書類を机に広げた。
◇
新連載「侍女、ドラゴンスレイヤーになる」始めました。
お城に務め始めた侍女アリサは、城勤めの間に洗練された令嬢になることを夢見る、どちらかというと鈍くさいほうの16才。ただ、アリサはなぜか生まれつきの「不幸体質」で、城に上がっても失敗ばっかり。業を煮やした女官長様から、屋内では働くとどじばっかりするので、森の木の実採取に出されてしまった。名誉挽回!と意気込んだ森の中で、なぜか、瀕死のドラゴンに出くわしてしまう・・・というお話です。
ぼちぼちと書いて行きますのでよろしくー。
なろう様、アルファポリス、カクヨム(もうすぐ)で連載開始です。
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