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第一部 最終章
ギルが連行?
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フロルが魔導士塔に居を移してから数日が経つ。ギルは、相変わらず神殿近衛団長の仕事を生真面目に務めていたが、アンヌを極力避けるようにしていた。
現在進行形で、ライルはフロルの部屋に起きた事件を再調査している。ライルより、その結果が出るまでは何食わぬ顔で、いつも通りに務めてくれと頼まれたからだ。その間にも、ギルも神殿内で怪しい動きがないか注意をしていたし、逐一、魔導師たちとの情報共有につとめていた。
そんなふうに、薄氷の上を渡るような日々を過ごしていたのだが、ある日、それは突然に起きた。
自分の執務室で仕事をこなしていたギルは、廊下をばたばたと大勢の人間が歩いてくる音が聞こえた。扉を叩く音と共に入室を許可すると、開いた扉から、大神官やその部下の神官たちが大勢押しかけていた。その背後には、自分の部下である神殿近衛兵がいる。
「それで、これはどういうことだ?」
ギルが怪訝な顔で大勢の訪問者に問うと、大神官がまっすぐにギルの元へと進み出た。そして、「聖剣の騎士様」とあいさつもそこそこに、意気揚々と自分の訪問の意図を告げた。
「巫女が再び神託を受け取ったのです。機は満ち、聖剣の騎士と女神は共に道を歩むべき時が来たと。二人が共に手を取り合えるように、努力することが我々の務めであると」
「それで?」
大神官を見つめるギルの目はいつになく厳しい。ライルのように、冷淡な態度になっていることは自分でもわかっていたが、大神官の意図を確かめたくて、言葉を促す。
「わたくしども、お迎えにあがりました。聖剣の騎士様に、女神様との婚礼の儀を設定させていただきとうございます」
さすがのギルも、不快感を露わにした。アンヌと結婚する話など、一度もしたことがない。あの偽女神はここまで周到に策を練ってきたのか。
「俺は、女神と結婚する気など毛頭ない。くだらない茶番劇などくそくらえだ。大神官殿、悪いが、お引き取りください」
ギルはけんもほろろに言うが、大神官はその言葉に憤慨したようだった。
「何をおっしゃります。リード様、女神様とつがえるなど、これ以上の栄誉はございませんでしょう。まさか、永遠の天国へと続く至福の道を自ら辞退されるおつもりですかな?」
大神官にとっては、女神の配偶者になれるのは、幸運以外の何物でもなく、ましてや、相手が否と言うなど全く想像できなかったらしい。
そんな大神官の様子にギルは腹を据えかねていた。もう限界だった。
「ああ、俺はそのつもりだ。悪いがお引き取り願おう」
大神官の問いかけに冷たく短い言葉で返すと、ギルはデスクから立ち上がると、不愉快な来客を送り出そうと扉まで歩いた時だった。突然、立ち上がったギルの両腕を神殿近衛の自分の部下たちががっしりと掴んだ。
「お前らどういうつもりだ」
部下の一人が青ざめながら前へ進み出た。足はガクガクと震え、今にも射殺さんばかりの上司に向かい合う。
「そうおっしゃるだろうと大神官様がおっしゃられてたので、我々はリード様を部屋に監禁しろと命令されました・・・婚礼の時まで、そこに控えていただくことになります」
大神官がしてやったりと言う顔をする。
「リード様、すでに議会で承認が下りているのですよ。女神と聖剣の騎士との婚姻を認めると」
「議会だって…?」
確かに、神殿の取り決めは議会や元老院で採択されることもある。それでも、ただの一騎士であるギルの将来まで、彼らは決める権利はないはずだ。
「さよう。すでに承認済み。王家からも同意をいただいております」
ギルは憤り、鋭い目を部下に向けると、部下たちは気まずそうに地面に視線をそらした。
これは、アンヌの差し金だろうか。ギルは、そっと剣の柄に手をかける。
部下と一線交えて逃走するか、それとも他に手はないのか考えてみるべきなのか。
ギルと騎士達の間に激しい緊張が走り、お互いが身動きもせず、じっと睨み合っていた。
◇
その頃、
「なんだって? ギルが偽女神と結婚?」
ライルの執務室では、魔道士達の驚いた声が響き渡っていた。
「どういうことなんだ?」
ライルはいつもよりさらに不機嫌さを滲ませながら、グエイドに問う。彼もまた、治療院にいく道すがら従者から聞いたばかりの話だったため、詳細はよくわからなかった。とりあえず、自分の知っていることをライルに伝える。
「その・・・どうも神官から神託が降りたようで、聖剣の騎士と女神との婚礼を速めようという動きがあったようで」
「それで、ギルはどうしたんだ?あいつは今、どこにいる?」
「神殿内部に監禁されているようです」
「・・・なんて、馬鹿なことを」
ライルは忌々し気に口を開く。このニュースをフロルにどう伝えるべきか考えると、ずんっと重い気分が胸をつく。
ギルと結婚したからといって、偽女神の元からない魔力が花開く訳がない。
「おおかた、ギルに横恋慕するアンヌの差し金だろうな」
「ええ、全くです。フロルがこれを聞いたらさぞかし悲しむでしょう」
グエイドも痛々げな顔をする。二人の仲が親密であることをグエイドも知っていたのだ。
がちゃりと扉があく音が聞こえた。そこから、フロルが顔を出していた。
「あ、フロル・・・」
ライルもなんと言っていいものかためらい、一瞬言葉を失っていた。
◇
現在進行形で、ライルはフロルの部屋に起きた事件を再調査している。ライルより、その結果が出るまでは何食わぬ顔で、いつも通りに務めてくれと頼まれたからだ。その間にも、ギルも神殿内で怪しい動きがないか注意をしていたし、逐一、魔導師たちとの情報共有につとめていた。
そんなふうに、薄氷の上を渡るような日々を過ごしていたのだが、ある日、それは突然に起きた。
自分の執務室で仕事をこなしていたギルは、廊下をばたばたと大勢の人間が歩いてくる音が聞こえた。扉を叩く音と共に入室を許可すると、開いた扉から、大神官やその部下の神官たちが大勢押しかけていた。その背後には、自分の部下である神殿近衛兵がいる。
「それで、これはどういうことだ?」
ギルが怪訝な顔で大勢の訪問者に問うと、大神官がまっすぐにギルの元へと進み出た。そして、「聖剣の騎士様」とあいさつもそこそこに、意気揚々と自分の訪問の意図を告げた。
「巫女が再び神託を受け取ったのです。機は満ち、聖剣の騎士と女神は共に道を歩むべき時が来たと。二人が共に手を取り合えるように、努力することが我々の務めであると」
「それで?」
大神官を見つめるギルの目はいつになく厳しい。ライルのように、冷淡な態度になっていることは自分でもわかっていたが、大神官の意図を確かめたくて、言葉を促す。
「わたくしども、お迎えにあがりました。聖剣の騎士様に、女神様との婚礼の儀を設定させていただきとうございます」
さすがのギルも、不快感を露わにした。アンヌと結婚する話など、一度もしたことがない。あの偽女神はここまで周到に策を練ってきたのか。
「俺は、女神と結婚する気など毛頭ない。くだらない茶番劇などくそくらえだ。大神官殿、悪いが、お引き取りください」
ギルはけんもほろろに言うが、大神官はその言葉に憤慨したようだった。
「何をおっしゃります。リード様、女神様とつがえるなど、これ以上の栄誉はございませんでしょう。まさか、永遠の天国へと続く至福の道を自ら辞退されるおつもりですかな?」
大神官にとっては、女神の配偶者になれるのは、幸運以外の何物でもなく、ましてや、相手が否と言うなど全く想像できなかったらしい。
そんな大神官の様子にギルは腹を据えかねていた。もう限界だった。
「ああ、俺はそのつもりだ。悪いがお引き取り願おう」
大神官の問いかけに冷たく短い言葉で返すと、ギルはデスクから立ち上がると、不愉快な来客を送り出そうと扉まで歩いた時だった。突然、立ち上がったギルの両腕を神殿近衛の自分の部下たちががっしりと掴んだ。
「お前らどういうつもりだ」
部下の一人が青ざめながら前へ進み出た。足はガクガクと震え、今にも射殺さんばかりの上司に向かい合う。
「そうおっしゃるだろうと大神官様がおっしゃられてたので、我々はリード様を部屋に監禁しろと命令されました・・・婚礼の時まで、そこに控えていただくことになります」
大神官がしてやったりと言う顔をする。
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「議会だって…?」
確かに、神殿の取り決めは議会や元老院で採択されることもある。それでも、ただの一騎士であるギルの将来まで、彼らは決める権利はないはずだ。
「さよう。すでに承認済み。王家からも同意をいただいております」
ギルは憤り、鋭い目を部下に向けると、部下たちは気まずそうに地面に視線をそらした。
これは、アンヌの差し金だろうか。ギルは、そっと剣の柄に手をかける。
部下と一線交えて逃走するか、それとも他に手はないのか考えてみるべきなのか。
ギルと騎士達の間に激しい緊張が走り、お互いが身動きもせず、じっと睨み合っていた。
◇
その頃、
「なんだって? ギルが偽女神と結婚?」
ライルの執務室では、魔道士達の驚いた声が響き渡っていた。
「どういうことなんだ?」
ライルはいつもよりさらに不機嫌さを滲ませながら、グエイドに問う。彼もまた、治療院にいく道すがら従者から聞いたばかりの話だったため、詳細はよくわからなかった。とりあえず、自分の知っていることをライルに伝える。
「その・・・どうも神官から神託が降りたようで、聖剣の騎士と女神との婚礼を速めようという動きがあったようで」
「それで、ギルはどうしたんだ?あいつは今、どこにいる?」
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がちゃりと扉があく音が聞こえた。そこから、フロルが顔を出していた。
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