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突然の婚約破棄からそれは始まった
婚約式当日
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「なあ、本当に大丈夫だろうか」
アーロンが少し心配そうな顔をしているので、私は思いっきり笑い飛ばしてあげた。
「ほほほ、アーロン、今更何を心配していらしゃるの? もう賽は投げられたのよ」
ここは宮殿に向かう馬車の中。
宮殿といっても隣国の、ではなく、私の元婚約者様であった王太子マリエルの宮殿である。
隣国の王子が式典に参加するのだ。アーロンの部下である騎士たちも正装をして、馬車の前後を警護しながら進んでいる。
馬車の窓にはカーテンがかかっていて、外から中は見ることはできない。
私はカーテンをそっと開けて、外の様子を眺める。
「すごい人だわね……」
窓から外を見てみると、外国の要人の行列を一目みようと、群衆たちが沿道に出て、好奇の目で私たちを見つめていた。
今日の計画に100%自信がある訳ではないものの、多分、うまくいくだろうという確証はあった。
それなのに、今だに心配そうな顔をしているアーロンに、私はぱんっと扇を広げて言う。
「まな板の上の鯉って言うじゃない。アーロン」
「その言い回しは聞いたことないな」
「もう、じたばたしたって無駄ってことよ」
アーロンは、はあ、とため息をつく。
「エレーヌのその度胸に俺はついていけない時がある」
まあ、万が一に備えて、後ろにはマクナレン公爵家の馬車と従者に偽装した私兵たちを連れてきているしね。一応、大丈夫でしょ。
「だって、私はほら、アーロンの同行者でしょう? だから、よほどのことがなきゃ、逮捕されることはないし。ほら、王妃様もしっかりがんばってこいって励ましてくださった訳だし」
アーロンは自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら、やけくその口調で話していた。
「ああ、くそっ。いざ、戦いになれば、俺がなんとかするが、ほんと、度胸あるな」
公の場では、彼はとても砕けた口調になる。今は、その真っ最中という訳だ。
「ほら、アーロン、御髪が乱れてしまってよ」
私が彼の髪を直してやり、その姿にもう一度目をやる。
今日の彼は国の礼服を着ているのだ。
正装ともあって、詰襟に金の縁取りがある黒の長衣。もちろん、沢山の勲章らしきものや、見事な刺繍も施してあって、どこから見ても、黒髪のカッコいい王子様だ。
そういう私も、彼の国の代理として、ダイヤや真珠のあしらわれた淡いクリーム色のドレスに、王族を示すリボンを肩から掛けている。もちろん、青や淡い紫色の宝石をあしらった銀の台座の首飾り。
これは全部、王妃様からの贈り物。
「濡れ衣を晴らすために、はったりをかましてらっしゃい」
と快く、送り出してくれた。
なんとなく、王妃様に自分と同じ匂いを感じるのは気のせいだろうか。
そんな私とは裏腹に、アーロンが頭を抱えながらうなる。
「母上も母上だ。どうして、こうたきつけるようなことを……」
いえ、王妃様は太っ腹です。あのたおやかで温厚なお顔の裏には、国王陛下まで尻に引いてしまう肝っ玉母さんが潜んでいたとは、私でも想像できなかった。
ま、とにかく、王妃様の全面バックアップは頼もしい限りである。
そうして、馬車は宮殿の正面玄関についた。
従者が静かに馬車の扉を開ける。
さあ、ここからが正念場だ。
宮殿の前には総勢50人の楽隊が賓客を待ち構えており、その後ろには外交官など、国の重鎮たちが出迎えに姿を現していた。
ラッパや、太鼓の音が響き渡る中、まず、アーロンがファンファーレの音とともに馬車から下りて、私に向かて手を差し伸べる。
エレーヌは、大きく息を吸って、馬車から姿を現すと、一瞬、出迎えの人々が息をのんで自分を見つめたような気がする。
エレーヌ、一世一代の大勝負が始まったのである。
アーロンが少し心配そうな顔をしているので、私は思いっきり笑い飛ばしてあげた。
「ほほほ、アーロン、今更何を心配していらしゃるの? もう賽は投げられたのよ」
ここは宮殿に向かう馬車の中。
宮殿といっても隣国の、ではなく、私の元婚約者様であった王太子マリエルの宮殿である。
隣国の王子が式典に参加するのだ。アーロンの部下である騎士たちも正装をして、馬車の前後を警護しながら進んでいる。
馬車の窓にはカーテンがかかっていて、外から中は見ることはできない。
私はカーテンをそっと開けて、外の様子を眺める。
「すごい人だわね……」
窓から外を見てみると、外国の要人の行列を一目みようと、群衆たちが沿道に出て、好奇の目で私たちを見つめていた。
今日の計画に100%自信がある訳ではないものの、多分、うまくいくだろうという確証はあった。
それなのに、今だに心配そうな顔をしているアーロンに、私はぱんっと扇を広げて言う。
「まな板の上の鯉って言うじゃない。アーロン」
「その言い回しは聞いたことないな」
「もう、じたばたしたって無駄ってことよ」
アーロンは、はあ、とため息をつく。
「エレーヌのその度胸に俺はついていけない時がある」
まあ、万が一に備えて、後ろにはマクナレン公爵家の馬車と従者に偽装した私兵たちを連れてきているしね。一応、大丈夫でしょ。
「だって、私はほら、アーロンの同行者でしょう? だから、よほどのことがなきゃ、逮捕されることはないし。ほら、王妃様もしっかりがんばってこいって励ましてくださった訳だし」
アーロンは自分の髪の毛をぐしゃぐしゃにしながら、やけくその口調で話していた。
「ああ、くそっ。いざ、戦いになれば、俺がなんとかするが、ほんと、度胸あるな」
公の場では、彼はとても砕けた口調になる。今は、その真っ最中という訳だ。
「ほら、アーロン、御髪が乱れてしまってよ」
私が彼の髪を直してやり、その姿にもう一度目をやる。
今日の彼は国の礼服を着ているのだ。
正装ともあって、詰襟に金の縁取りがある黒の長衣。もちろん、沢山の勲章らしきものや、見事な刺繍も施してあって、どこから見ても、黒髪のカッコいい王子様だ。
そういう私も、彼の国の代理として、ダイヤや真珠のあしらわれた淡いクリーム色のドレスに、王族を示すリボンを肩から掛けている。もちろん、青や淡い紫色の宝石をあしらった銀の台座の首飾り。
これは全部、王妃様からの贈り物。
「濡れ衣を晴らすために、はったりをかましてらっしゃい」
と快く、送り出してくれた。
なんとなく、王妃様に自分と同じ匂いを感じるのは気のせいだろうか。
そんな私とは裏腹に、アーロンが頭を抱えながらうなる。
「母上も母上だ。どうして、こうたきつけるようなことを……」
いえ、王妃様は太っ腹です。あのたおやかで温厚なお顔の裏には、国王陛下まで尻に引いてしまう肝っ玉母さんが潜んでいたとは、私でも想像できなかった。
ま、とにかく、王妃様の全面バックアップは頼もしい限りである。
そうして、馬車は宮殿の正面玄関についた。
従者が静かに馬車の扉を開ける。
さあ、ここからが正念場だ。
宮殿の前には総勢50人の楽隊が賓客を待ち構えており、その後ろには外交官など、国の重鎮たちが出迎えに姿を現していた。
ラッパや、太鼓の音が響き渡る中、まず、アーロンがファンファーレの音とともに馬車から下りて、私に向かて手を差し伸べる。
エレーヌは、大きく息を吸って、馬車から姿を現すと、一瞬、出迎えの人々が息をのんで自分を見つめたような気がする。
エレーヌ、一世一代の大勝負が始まったのである。
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