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最終章 

最終話~10

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エリゼルが難しい顔をして何か考え事をしている間にも、新しく他の貴族達も挙兵したと言う報告が続々と入ってくる。反乱を予想した女王が引きつった顔でその報告を聞いている傍ら、エリゼルは、考え深い目をして、従者に向かい合った。

「母上、反乱と思うのはまだ時期尚早かと。・・・それで、それぞれが目指している方角はどちらだ?」

「それが、実に不思議でして」

従者も戸惑った様子を隠しきれていはいない。

「何じゃ、早く言え」

女王がじれったさそうに言えば、それに少し怯えた従者は声を少し震わせながら口を開いた。

「ガルバーニ騎士団は北北西へ行軍しているようなのです・・・」

まさか。ロベルトもエリゼルと同じ考えにたどり着いた。

「・・・・ザビラだ」

エリゼルが確信したように言った。ガルバーニ公爵はザビラへと行軍しているのだ。

「何?ザビラじゃと?」

「ガルバーニ公爵領の騎士達はザビラへ向っているのですね。ジュリアを救出するために・・・」

ロベルトも同じ考えだった。この前、彼に会った時も、公爵が彼女に向ける執着と愛情は相当のものだと感じた。
あの有能な公爵がジュリアを捕らわれたまま放置しておく訳がないじゃないか。

「確かにマクナムの後見人はガルバーニ公爵じゃが、何故、挙兵してまで彼女を救おうとするのじゃ?」

女王はまだ事態を飲み込めていない様子だったので、エリゼルが女王に向って言った。

「遠征中にマクナムが私に言ったのです。ジョルジュ・ガルバーニ公爵と結婚するつもりだと」

「それで・・・力ずくで彼女を取り返すつもりか?」

「そのようですね」

ロベルトも冷静に肯定した。その話はすでに公爵本人から聞いていたからだ。

「ふ、いくらつながりのある貴族たちと共に挙兵したとしても、あのザビラを落とすほどの兵力ではない。あの男にしては珍しく自殺行為じゃ。迂闊なことよの」

口元に冷たくあざ笑うような笑みを浮かべている女王に別の伝令がきた。

「女王陛下にご報告です」

「隣国で挙兵した貴族達も、全てがザビラへ向って行軍しているようです」

「隣国の貴族もザビラへ向っているのか?」

「ザビラで戦を始める気だろうか?」

「いえ。そうでなく、どうも、隣国との同盟軍を形勢してるようです。信じられないことですが」

「はあ?」

ロベルトが驚いて声を出せば、エリゼルも信じられないような口調で従者に確認する。もし、それが本当であれば、前代見物の出来事だ。オーティス侯爵が反乱分子でもない限り、そんなことはあり得ない。

「我が国の貴族領に属する騎士団と、隣国の王立騎士団が共にザビラを攻略に向ったということか?」

「そういうことになります・・・全く理解出来ない事態ですが」

「・・・・ジョルジュ・ガルバーニ。あの男、隣国の貴族まで手中に収めているのか」

エリゼルが吐き捨てるように言う。まさか、物静かなあの男がこんな力を秘めていただなんて。

「・・・確かに、王都へは向っていないのだな?」

女王が念を押すように確かめれば、従者は、深く頷いた。

「・・・女王陛下」

ロベルトが思い詰めたような顔で、女王を呼んだ。真剣な面持ちで片膝をつき、女王の前に深く跪いた。

「なんだ?」

「クレスト伯爵領騎士団も、この戦いに参加する許可を願います」

彼の顔は真剣そのものだ。

「ならぬ。そなたは王家に忠誠を誓った身。勝手なことは許さぬ」

「それでは、本日をもって、騎士団を辞させていただきたいと思います」

「クレスト、そなたも我が国を裏切る気か?」

「おやめください。母上」

エリゼルは逆ギレした女王を制し、ロベルトに向って言った。扉を顎で示し、鋭い口調でロベルトに命じた。

「行け。ジュリアを救出しろ」

「は。ご命令どおりに」

「戦いが終わったら、五体満足で王立騎士団に戻るように」

ロベルトは、エリゼルの目を見て、すっと立ち上がった。男と男は目を見つめ、ロベルトは自分の盟友に向っていった。

「必ずや、ジュリアの救出に貢献してまいります」

「・・・ああ、武運を祈る。クレスト伯爵」

臣下を見送るエリゼルの眼差しは、部下への信頼に満ちていた。


「・・・お許しください。母上・・・」

母に向いあい、許しを請うが、それでも頑として自分を譲ることのない王太子に女王は胸が熱くなる気持ちを覚えた。息子がこんな顔をする日が来るとは・・・女王は、自分の息子が知らない間に、立派な大人になっていたことを知り、女王の胸は感激に震えた。やっと巣立つ日が来てくれたのだ。

「お前はいつの間にか、我を超える統治者になる日がくるとは思っていたが・・・」

これで、長年の重責から降りることが出来ると確信した女王は、決断した息子に近寄り、肩を抱いた。マクナム伯爵は、きっと無事に救出されるだろう。あの狡猾で、用心深いガルバーニを表舞台に立たせたのだ。

「・・・あの娘はお前達にとって、唯一無二の娘なのだな?」

「ええ。母上。あの娘以上に私が好感を持つ娘はおりませんからね」

「けれど、ガルバーニには叶わなかった・・・」

ぽつりと寂しそうに呟く息子の肩を叩きながら、女王は努めて明るい声をかけた。

「そうじゃの。我との賭にお前は負けたな。隣国の王女との婚姻を進めさせてもらうぞ」

「・・・ええ、母上。そういうお約束でしたね」

きっと、マクナム伯爵は無事で救出されるだろう。あの闇のガルバーニともあろう者が、単純に要塞を攻め落として、娘を奪還するだけという単純なやり方をするはずがない。

あの男はとことん狡猾なのだ。王家の存在を揺るがすほど、油断がならない物静かで狡猾な男。あの男はマクナムを手にするだけで満足してくれるだろうか?

王家に火の粉が降りかからないことを女王は祈ったが、その祈りがかなえられるかどうかは、まったく分からなかった。














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