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第3章
第10話 謁見~2
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「皆の者、静かにっ! 女王陛下の御前であるぞ」
女王の側にいた側近であるものが声を荒げたが、その声もざわめきにかき消されていた。書記官は、意外な展開に驚き、大切なことを取り逃すまいと一心不乱に記録を残し、周りのざわめきを驚いたように呆然と見つめるロベルトがいた。
─ 彼はまだ、この現実を飲み込めていないようだ。
ジュリアがロベルト様を見れば、彼は驚きのあまり、随分、ショックを受けているようで、肩で大きく息をしているようだった。
周囲を見つめれば、女王の玉座の側に一人の男がいることに気がついた。
エリゼル殿下・・・
この結婚が無効になるのであれば、彼は激怒するか、なんらかの異議を申し立てるかするはずなのに、当の本人は静かに腕組みをしながらその様子をじっと見つめているのだった。
ふと、彼の視線が動き、ジュリアとばっちり目があった瞬間、彼の表情に浮かんだのは、紛れもない笑顔。
(・・・っ!)
その瞳には熱い視線がこめられていた。ジュリアは、羞恥心を感じて、つと、彼から視線をそらせた。
・・・胸がドキドキと大きな音を立てた。
どうして、彼はそんな顔をするのだろうか。到底説明の出来ない彼の表情にジュリアはどぎまぎとして、戸惑った。
視線を彷徨わせた先でふと視線が止まった先にいたのは、一人の不審者だった。長年、騎士をしているジュリアの目は無意識でも殺意や敵意をもつ人間を見分けることが出来るらしい。
その男は女王様のすぐ近くにいる近衛の男。息は荒く、ひそかな殺気すら漏れ出ている。
─ おかしい
ジュリアはその違和感にすぐに気がついた。なぜなら、その殺気は観衆の中の不審者ではなく、彼の近くにいる女王陛下へと向けられていたからだ。近衛であれば、殺気を向ける相手は主君である女王陛下ではなく、彼女へ刃を向ける暴漢などだろう。男の指はそっと刀の柄にかけられ、今か今かと隙を狙っているようにも見えた。
(この男は・・・もしかして、暗殺者?)
百戦錬磨であるジュリアが殺気を見逃す訳がない。ロベルト様へと視線を向けると、彼は女王陛下の宣言にショックを受けているのか、その刺客へとまで注意が向っていない様子だった。
(確かに、この男、今、自分がいる立ち位置以外からは顔が見えない・・他の近衛兵からも視線がそがれている位置にいる)
だから、その位置に立ったのか。そこからなら、顔が見れないし、しかも、その位置なら陛下が狙いやすい。
男の指がさらに動き、さらに剣の柄へと動いている。
─ 剣を抜くつもりか。
ジュリアの本能ははっきりと彼女に告げていた。
あの男の狙いは女王陛下だ。間違いない。あの男は刺客だ。
そんなジュリアに構うことなく、ロベルト様は女王へと直々に直訴をしていた。
「─ 陛下、少なくとも私は、この結婚に同意しております」
女王陛下は冷たく目の前のクレスト伯を見つめた。決断は覆してはならぬ。
「それでは、改めて、子爵令嬢と婚姻を結び直せばよい」
女王の口調は固く、決断を覆す気はさらさらないようだ。
二人の会話を小耳に挟みつつも、ジュリアは素早く視界を周囲に走らせた。自分とロベルト様は、謁見のため、剣の帯刀は許されていないため丸腰だ。
どうしよう・・・ジュリアは途方にくれた。もし、あの男が剣を抜いた場合、何を武器として使えばいいのか。
悩んでいるジュリアをよそに二人の会話は続く。
「従って、元老院と教会の同意の下、クレスト伯爵ならびにチェルトベリー子爵令嬢の結婚は無効とする。書記官、この事実をしかと書とめ、皆のものに配布してやるがよい」
これで二人の結婚が無効になることが決まった。ジュリアが待ち望んでいた瞬間だった。これで、ジョルジュと、公爵様との結婚が可能になる。
ジョルジュ、
彼の甘い表情を思い出して、ジュリアの胸は甘く疼いた。あの夜に交わした口付けと結婚の約束・・・
そんな思いとは裏腹に、ジュリアは戦える武器がないか、視線を彷徨わせた。男は今にも剣を抜こうとしている。今、声を上げたとしても、もう間に合わないだろう。
使える武器がないか必死になってジュリアが目をこらすと、自分のすぐ側に立っている近衛が腰につけている剣は本物だとわかった。あれでなら対抗できる。
(どうしよう・・・・)
ジュリアは戸惑った。今、自分が剣を抜けば、自分が偽物だとばれてしまう。しかし、今、あの暗殺者に気がついていて、対抗出来るのは自分だけだ。
女王陛下をむざむざと自分の目の前で殺められるようなことがあってはならない。しかし、剣を抜けば、自分が偽物だとばれてしまう。
刺客は息を殺し、女王陛下の隙をうかがいながら、じりじりと剣の塚に自分の指をかけているのが手にとるように分かる。
(どうしよう・・・どうすればいい?)
ジュリアは、それを目の前にして、どうすべきか迷っていた。首から冷たい汗がどっと噴き出しているのがわかった。
女王の側にいた側近であるものが声を荒げたが、その声もざわめきにかき消されていた。書記官は、意外な展開に驚き、大切なことを取り逃すまいと一心不乱に記録を残し、周りのざわめきを驚いたように呆然と見つめるロベルトがいた。
─ 彼はまだ、この現実を飲み込めていないようだ。
ジュリアがロベルト様を見れば、彼は驚きのあまり、随分、ショックを受けているようで、肩で大きく息をしているようだった。
周囲を見つめれば、女王の玉座の側に一人の男がいることに気がついた。
エリゼル殿下・・・
この結婚が無効になるのであれば、彼は激怒するか、なんらかの異議を申し立てるかするはずなのに、当の本人は静かに腕組みをしながらその様子をじっと見つめているのだった。
ふと、彼の視線が動き、ジュリアとばっちり目があった瞬間、彼の表情に浮かんだのは、紛れもない笑顔。
(・・・っ!)
その瞳には熱い視線がこめられていた。ジュリアは、羞恥心を感じて、つと、彼から視線をそらせた。
・・・胸がドキドキと大きな音を立てた。
どうして、彼はそんな顔をするのだろうか。到底説明の出来ない彼の表情にジュリアはどぎまぎとして、戸惑った。
視線を彷徨わせた先でふと視線が止まった先にいたのは、一人の不審者だった。長年、騎士をしているジュリアの目は無意識でも殺意や敵意をもつ人間を見分けることが出来るらしい。
その男は女王様のすぐ近くにいる近衛の男。息は荒く、ひそかな殺気すら漏れ出ている。
─ おかしい
ジュリアはその違和感にすぐに気がついた。なぜなら、その殺気は観衆の中の不審者ではなく、彼の近くにいる女王陛下へと向けられていたからだ。近衛であれば、殺気を向ける相手は主君である女王陛下ではなく、彼女へ刃を向ける暴漢などだろう。男の指はそっと刀の柄にかけられ、今か今かと隙を狙っているようにも見えた。
(この男は・・・もしかして、暗殺者?)
百戦錬磨であるジュリアが殺気を見逃す訳がない。ロベルト様へと視線を向けると、彼は女王陛下の宣言にショックを受けているのか、その刺客へとまで注意が向っていない様子だった。
(確かに、この男、今、自分がいる立ち位置以外からは顔が見えない・・他の近衛兵からも視線がそがれている位置にいる)
だから、その位置に立ったのか。そこからなら、顔が見れないし、しかも、その位置なら陛下が狙いやすい。
男の指がさらに動き、さらに剣の柄へと動いている。
─ 剣を抜くつもりか。
ジュリアの本能ははっきりと彼女に告げていた。
あの男の狙いは女王陛下だ。間違いない。あの男は刺客だ。
そんなジュリアに構うことなく、ロベルト様は女王へと直々に直訴をしていた。
「─ 陛下、少なくとも私は、この結婚に同意しております」
女王陛下は冷たく目の前のクレスト伯を見つめた。決断は覆してはならぬ。
「それでは、改めて、子爵令嬢と婚姻を結び直せばよい」
女王の口調は固く、決断を覆す気はさらさらないようだ。
二人の会話を小耳に挟みつつも、ジュリアは素早く視界を周囲に走らせた。自分とロベルト様は、謁見のため、剣の帯刀は許されていないため丸腰だ。
どうしよう・・・ジュリアは途方にくれた。もし、あの男が剣を抜いた場合、何を武器として使えばいいのか。
悩んでいるジュリアをよそに二人の会話は続く。
「従って、元老院と教会の同意の下、クレスト伯爵ならびにチェルトベリー子爵令嬢の結婚は無効とする。書記官、この事実をしかと書とめ、皆のものに配布してやるがよい」
これで二人の結婚が無効になることが決まった。ジュリアが待ち望んでいた瞬間だった。これで、ジョルジュと、公爵様との結婚が可能になる。
ジョルジュ、
彼の甘い表情を思い出して、ジュリアの胸は甘く疼いた。あの夜に交わした口付けと結婚の約束・・・
そんな思いとは裏腹に、ジュリアは戦える武器がないか、視線を彷徨わせた。男は今にも剣を抜こうとしている。今、声を上げたとしても、もう間に合わないだろう。
使える武器がないか必死になってジュリアが目をこらすと、自分のすぐ側に立っている近衛が腰につけている剣は本物だとわかった。あれでなら対抗できる。
(どうしよう・・・・)
ジュリアは戸惑った。今、自分が剣を抜けば、自分が偽物だとばれてしまう。しかし、今、あの暗殺者に気がついていて、対抗出来るのは自分だけだ。
女王陛下をむざむざと自分の目の前で殺められるようなことがあってはならない。しかし、剣を抜けば、自分が偽物だとばれてしまう。
刺客は息を殺し、女王陛下の隙をうかがいながら、じりじりと剣の塚に自分の指をかけているのが手にとるように分かる。
(どうしよう・・・どうすればいい?)
ジュリアは、それを目の前にして、どうすべきか迷っていた。首から冷たい汗がどっと噴き出しているのがわかった。
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