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番外編
書籍化記念SS~マークの受難日~1
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12月21日、レジーナブックスより、「偽りの花嫁」の刊行を記念して、SS小話投稿しました!
概ね3話くらいで終わります。
書籍情報など情報をリアルタイムでご連絡出来るように、中村まり、公式ツイッター開設しました。
著者プロフィールから、公式Twitterアカウントへ移動できます。
◇
── ガルバーニ公爵邸で、ジュリアとジョルジュがお互いの思いを通じあった頃。女王陛下主催の舞踏会の前に、まだ公爵邸にジュリアが滞在している時のお話です─
季節は初夏へと移り変わろうとしている頃。二人はお互いの思いを確かめあい、舞踏会の日まで満ち足りた毎日を送っていた。
ちょうどそんなタイミングで、ガルバーニ公爵領では恒例の精霊祭が催されていた。あちこちで露天や出店が軒を並べている。町の中は綺麗に飾り立てられ、活気に満ちあふれ、華やいだ雰囲気をかもし出していた。
そんな賑やかな町の様子とは裏腹に、その中を怪訝な様子で馬に乗って進む男がいた。マーク・エリオットだ。
突然、公爵領から伝令が送られてきたと思ったら、なんと、ジュリアが外出するために護衛として同行してほしいと言う。
─ 要するに、外に遊びに行きたいから俺につきあえ、と。
突然のジュリアの要請に、マークは怪訝に思いながらも、クレスト伯爵から許可をもらい、言われた通りに公爵領まで遠い道のりをやってきたのだ。途中、宿屋で一泊し、午前中の遅い時間に公爵邸に辿り着いた。
あいつの人使いの荒さは筋金入りだな。
マークは、ため息をつきながら、あきらめ半分で、とぼとぼと馬を公爵邸へと走らせてきたのだ。
それにしても ──
(ガルバーニ公爵領なら、精鋭で名を馳せる騎士団がいるのに、なんで俺がわざわざ呼び出しされるんだろうなあ)
イマイチ、腑に落ちない展開だが、ジュリアに呼び出されたのだから仕方が無い。
公爵邸へと無事に辿り着くと、馬を従者に手渡し、マークは公爵家の扉を叩いた。
すぐに執事が出迎えに来たが、すでに扉の先のホールには、すでに外出の支度をしたジュリアと公爵様がいた。
すでに出かける気満々の二人は、自分の到着を待っていたようだ。
ジュリアと公爵様は、二人とも、庶民の服装をしている。ジュリアは町娘風で、公爵様は裕福な商人風だ。
衣装は完璧だ。
が、しかし、二人とも色々な意味で、一般人のオーラとは全然違う!
ジュリアは武人オーラが全開だし、公爵様は優雅な貴人の雰囲気が全身からあふれ出ている。
(お前ら、全然、仮装になってないじゃないか!)
マークは心の中でツッコミを入れるが、公爵様の前でそれを声に出すなんて恐れ多い。前回公爵邸を訪れた時にも、公爵様の無言の威嚇が、それはそれは恐ろしかったことを思い出し、マークは賢明にも沈黙を貫いた。
そんなマークに公爵様が声をかける。
「やあ。エリオット君。今日は、わざわざ遠い所からありがとう」
「いえ。仕事ですから・・・」
公爵様の整った顔に、笑顔が浮かぶ。それを見た瞬間、マークの背筋になんだか冷たいものが走った。
彼の口元には笑顔が浮かんでいるのに、目の中には、何やら恐ろしげな光は何だ?!
どうしよう・・・彼の笑顔がなんだか怖い。
意味が分からず、思わず挙動不審になりそうな自分をぐっとこらえていると、ジュリアが追うようにして、口を開く。
「マーク。すまないな。遠い所」
・・・ジュリア、お前、男言葉じゃないか!
公爵様の前で、その言葉遣いはマズイだろ!、と焦るマークの前で、ジュリアはふふと笑う。
その笑い方も男っぽくて、騎士団長の姿そのものだ。
何故、ジュリアの振る舞いが地のままなのか。まるで、今のジュリアは武人のようだ。いや、もとから武人なんだが。
そもそも、今のジュリアは、クレスト伯爵夫人を演じているのではなかったのか?!
ジュリアがそう言った瞬間、ドキリ、とマークの鼓動が再び止まりそうになった。
自分に投げかけられた親しげなジュリアの言葉に、公爵様の眉がぴくりと不機嫌そうに反応したのが見えたからだ。
公爵様からどす黒いオーラのようなものが、ごごごっと、自分に向って放射されているのは気のせいか?
・・・あ、もしかして、俺、公爵様から威嚇されてる?
なんで?
どうして?
意味の分からない圧力を受けて、マークの背中につと冷や汗が流れる。
二重の意味でマークは、すでに混乱に陥っていた。ジュリアの男のような振る舞いと、公爵様の意味不明な威嚇だ。
公爵様にジュリアが身分を偽っているとバレたらどうしよう。
マークはいささか、慌てぎみに、口を開く。
まさか、公爵様の前で、男言葉はまずいだろ!と、ジュリアに直球で言う訳にもいかず、遠回し気味に口を開いた。
「あ・・あの、奥様、言葉遣いが少々乱暴なのでは・・・?」
そんなマークの心配など、これっぽっちも理解していないようだ。ジュリアは、へらっと笑っている。
今日のジュリアは何かがおかしい。
「奥様、あの、どこか頭でもぶつけられたのでは?」
マークがそう言うと、ジュリアがむっとした顔で言う。
「失礼な!この私がそんな間抜けだと思うか?」
わあ!また男言葉だ。
ジュリアの言動に焦っていると、背中につ、とまた変な汗が流れる。
俺のシャツは変な冷や汗のせいで、ぐっしょり濡れているんじゃないか。
ジュリアは上機嫌で男言葉だし、公爵様は俺に対して、負のオーラを放出し続けている。
(俺は、今日は護衛をするはずじゃなかったのかっ!)
公爵様の意味不明な威嚇に耐えきれず、やや切れ気味に周囲に目を向けると、公爵の傍らには民間人の服装をした公爵領の騎士、ビクトール・ユーゴが控えていた。
ユーゴの目にちらと自分に対して憐憫の情が浮かぶのが見えた。
どうやら、奴の主が俺に対してあからさまに威嚇しているのが分かるのだろう。
「では、人数も揃ったし、出かけようか」
公爵様が、とてつもなく甘い声でジュリアに声を掛ける。
(へ? 何その声?)
公爵様のギャップが凄い。
自分には凍るようなオーラを向けているくせに、ジュリアには、蕩けるような甘い雰囲気をかもし出している。
そのまま、ジュリアを頭からばりばりと食ってしまいそうなほど、彼女に向ける眼差しは甘い。
ジュリアに対するえこひいき感が凄い・・・。
公爵様、無茶苦茶、器用だな!
公爵様の意外な面を見つけたマークが面食らっているのに、ジュリアは何も感じてないらしい。いや、俺を威嚇している所をジュリアには悟られないように、彼が実に気を遣っているのが見える。
彼が差し出した手をジュリアがごく自然な様子で取ると、公爵様は端整な顔立ちの上に、蕩けるような微笑みをジュリアに向けた。
すごい色気に当てられて、マークもつられて乙女のように頬が赤く染まりそうだ。男にも色気があることをマークは、この時、始めて知った。
「ええ。ジョルジュ、行きましょう」
公爵様の名を呼び捨てにするジュリアに、マークは再び青くなって震え上がった。
ジュリアの声も、いつもとは違う。甘く、まるで恋する乙女のようじゃないか。
(おい、ジュリア、公爵様にそれはないだろう?)
おかしい。今日のジュリアは絶体に変だ。変なものでも食ったか、病気か?
いつものジュリアと違いすぎて、マークは、さらに心配になる。
「あの・・・奥様、ちょっと出発前にお話が・・・」
公爵様に身元がバレる前に、ジュリアを諫めておかないと。変なものを喰ったかどうかの確認もしておきたい。
そして、もっと嫌な予感がする。
なんだか、今日のジュリアは暴走しそうな気がするのだ。
そう言って、ジュリアの腕をとり、公爵様に聞かれないように壁際に移動しようとした時だった。
「ああ、そうだ。エリオット君」
公爵様が自分に発した声が、氷のように冷たい。その冷酷な響きにマークは震え上がった。
「必要以上に、彼女に接触しないでくれたまえ」
怖い・・・公爵様が笑っているのに、怖い。
「は・・・はい。すみません」
反射的に謝ってしまった。ジュリアに触れるなんて、いつもしてることなのに何故?!
(あ、俺、もしかして、公爵様に恋の敵認定されてる?)
ようやっと、公爵様がブリザードを吹き出している原因に思い至る。
だとしたら、公爵様は俺のことを誤解している!
マークは声を大にして公爵に言いたい。
(お、俺、ジュリアに横恋慕なんてしてませんからねっ!公爵様を的に回すような、恐れ多いこと、絶体に、しませんからねっ)
生憎、横には、強面のユーゴがいるし、今、それを面と向って、彼に言うほどの度胸はマークにはない。
(こ、こいつが好きなら、煮るなり焼くなり、なんでもお好きなようにしてくださって、俺は構いませんよ!)
マークが心の中で、ジュリアをあっさりと公爵様に引き渡していることなど、ジュリアが知る由もない。
ジュリアが、ふふと笑って、マークの肩を気安く叩く。
「マーク、お前、今日はなんだか変だぞ?」
(変なのはお前だっ!)
マークは、そう言い返したかったが、公爵様の視線に固まって、もう何も言えなかった。影の王家とも呼ばれる男の威厳は半端ないのを、マークは身をもって知る。
結局、ジュリアと話すことも出来ないまま、ジュリアとジョルジュは二人で馬車に乗り込み、マークとユーゴは馬でその後に従った。
これから、何が起きるのか、なんだか嫌な予感しかしない。
(はあ、俺、帰りたい・・・)
背中をがっくり落としているマークに、ユーゴが生温い眼差しを向けていることを、マークは、まだ気づいていなかった。
◇
次話に続きます!
概ね3話くらいで終わります。
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◇
── ガルバーニ公爵邸で、ジュリアとジョルジュがお互いの思いを通じあった頃。女王陛下主催の舞踏会の前に、まだ公爵邸にジュリアが滞在している時のお話です─
季節は初夏へと移り変わろうとしている頃。二人はお互いの思いを確かめあい、舞踏会の日まで満ち足りた毎日を送っていた。
ちょうどそんなタイミングで、ガルバーニ公爵領では恒例の精霊祭が催されていた。あちこちで露天や出店が軒を並べている。町の中は綺麗に飾り立てられ、活気に満ちあふれ、華やいだ雰囲気をかもし出していた。
そんな賑やかな町の様子とは裏腹に、その中を怪訝な様子で馬に乗って進む男がいた。マーク・エリオットだ。
突然、公爵領から伝令が送られてきたと思ったら、なんと、ジュリアが外出するために護衛として同行してほしいと言う。
─ 要するに、外に遊びに行きたいから俺につきあえ、と。
突然のジュリアの要請に、マークは怪訝に思いながらも、クレスト伯爵から許可をもらい、言われた通りに公爵領まで遠い道のりをやってきたのだ。途中、宿屋で一泊し、午前中の遅い時間に公爵邸に辿り着いた。
あいつの人使いの荒さは筋金入りだな。
マークは、ため息をつきながら、あきらめ半分で、とぼとぼと馬を公爵邸へと走らせてきたのだ。
それにしても ──
(ガルバーニ公爵領なら、精鋭で名を馳せる騎士団がいるのに、なんで俺がわざわざ呼び出しされるんだろうなあ)
イマイチ、腑に落ちない展開だが、ジュリアに呼び出されたのだから仕方が無い。
公爵邸へと無事に辿り着くと、馬を従者に手渡し、マークは公爵家の扉を叩いた。
すぐに執事が出迎えに来たが、すでに扉の先のホールには、すでに外出の支度をしたジュリアと公爵様がいた。
すでに出かける気満々の二人は、自分の到着を待っていたようだ。
ジュリアと公爵様は、二人とも、庶民の服装をしている。ジュリアは町娘風で、公爵様は裕福な商人風だ。
衣装は完璧だ。
が、しかし、二人とも色々な意味で、一般人のオーラとは全然違う!
ジュリアは武人オーラが全開だし、公爵様は優雅な貴人の雰囲気が全身からあふれ出ている。
(お前ら、全然、仮装になってないじゃないか!)
マークは心の中でツッコミを入れるが、公爵様の前でそれを声に出すなんて恐れ多い。前回公爵邸を訪れた時にも、公爵様の無言の威嚇が、それはそれは恐ろしかったことを思い出し、マークは賢明にも沈黙を貫いた。
そんなマークに公爵様が声をかける。
「やあ。エリオット君。今日は、わざわざ遠い所からありがとう」
「いえ。仕事ですから・・・」
公爵様の整った顔に、笑顔が浮かぶ。それを見た瞬間、マークの背筋になんだか冷たいものが走った。
彼の口元には笑顔が浮かんでいるのに、目の中には、何やら恐ろしげな光は何だ?!
どうしよう・・・彼の笑顔がなんだか怖い。
意味が分からず、思わず挙動不審になりそうな自分をぐっとこらえていると、ジュリアが追うようにして、口を開く。
「マーク。すまないな。遠い所」
・・・ジュリア、お前、男言葉じゃないか!
公爵様の前で、その言葉遣いはマズイだろ!、と焦るマークの前で、ジュリアはふふと笑う。
その笑い方も男っぽくて、騎士団長の姿そのものだ。
何故、ジュリアの振る舞いが地のままなのか。まるで、今のジュリアは武人のようだ。いや、もとから武人なんだが。
そもそも、今のジュリアは、クレスト伯爵夫人を演じているのではなかったのか?!
ジュリアがそう言った瞬間、ドキリ、とマークの鼓動が再び止まりそうになった。
自分に投げかけられた親しげなジュリアの言葉に、公爵様の眉がぴくりと不機嫌そうに反応したのが見えたからだ。
公爵様からどす黒いオーラのようなものが、ごごごっと、自分に向って放射されているのは気のせいか?
・・・あ、もしかして、俺、公爵様から威嚇されてる?
なんで?
どうして?
意味の分からない圧力を受けて、マークの背中につと冷や汗が流れる。
二重の意味でマークは、すでに混乱に陥っていた。ジュリアの男のような振る舞いと、公爵様の意味不明な威嚇だ。
公爵様にジュリアが身分を偽っているとバレたらどうしよう。
マークはいささか、慌てぎみに、口を開く。
まさか、公爵様の前で、男言葉はまずいだろ!と、ジュリアに直球で言う訳にもいかず、遠回し気味に口を開いた。
「あ・・あの、奥様、言葉遣いが少々乱暴なのでは・・・?」
そんなマークの心配など、これっぽっちも理解していないようだ。ジュリアは、へらっと笑っている。
今日のジュリアは何かがおかしい。
「奥様、あの、どこか頭でもぶつけられたのでは?」
マークがそう言うと、ジュリアがむっとした顔で言う。
「失礼な!この私がそんな間抜けだと思うか?」
わあ!また男言葉だ。
ジュリアの言動に焦っていると、背中につ、とまた変な汗が流れる。
俺のシャツは変な冷や汗のせいで、ぐっしょり濡れているんじゃないか。
ジュリアは上機嫌で男言葉だし、公爵様は俺に対して、負のオーラを放出し続けている。
(俺は、今日は護衛をするはずじゃなかったのかっ!)
公爵様の意味不明な威嚇に耐えきれず、やや切れ気味に周囲に目を向けると、公爵の傍らには民間人の服装をした公爵領の騎士、ビクトール・ユーゴが控えていた。
ユーゴの目にちらと自分に対して憐憫の情が浮かぶのが見えた。
どうやら、奴の主が俺に対してあからさまに威嚇しているのが分かるのだろう。
「では、人数も揃ったし、出かけようか」
公爵様が、とてつもなく甘い声でジュリアに声を掛ける。
(へ? 何その声?)
公爵様のギャップが凄い。
自分には凍るようなオーラを向けているくせに、ジュリアには、蕩けるような甘い雰囲気をかもし出している。
そのまま、ジュリアを頭からばりばりと食ってしまいそうなほど、彼女に向ける眼差しは甘い。
ジュリアに対するえこひいき感が凄い・・・。
公爵様、無茶苦茶、器用だな!
公爵様の意外な面を見つけたマークが面食らっているのに、ジュリアは何も感じてないらしい。いや、俺を威嚇している所をジュリアには悟られないように、彼が実に気を遣っているのが見える。
彼が差し出した手をジュリアがごく自然な様子で取ると、公爵様は端整な顔立ちの上に、蕩けるような微笑みをジュリアに向けた。
すごい色気に当てられて、マークもつられて乙女のように頬が赤く染まりそうだ。男にも色気があることをマークは、この時、始めて知った。
「ええ。ジョルジュ、行きましょう」
公爵様の名を呼び捨てにするジュリアに、マークは再び青くなって震え上がった。
ジュリアの声も、いつもとは違う。甘く、まるで恋する乙女のようじゃないか。
(おい、ジュリア、公爵様にそれはないだろう?)
おかしい。今日のジュリアは絶体に変だ。変なものでも食ったか、病気か?
いつものジュリアと違いすぎて、マークは、さらに心配になる。
「あの・・・奥様、ちょっと出発前にお話が・・・」
公爵様に身元がバレる前に、ジュリアを諫めておかないと。変なものを喰ったかどうかの確認もしておきたい。
そして、もっと嫌な予感がする。
なんだか、今日のジュリアは暴走しそうな気がするのだ。
そう言って、ジュリアの腕をとり、公爵様に聞かれないように壁際に移動しようとした時だった。
「ああ、そうだ。エリオット君」
公爵様が自分に発した声が、氷のように冷たい。その冷酷な響きにマークは震え上がった。
「必要以上に、彼女に接触しないでくれたまえ」
怖い・・・公爵様が笑っているのに、怖い。
「は・・・はい。すみません」
反射的に謝ってしまった。ジュリアに触れるなんて、いつもしてることなのに何故?!
(あ、俺、もしかして、公爵様に恋の敵認定されてる?)
ようやっと、公爵様がブリザードを吹き出している原因に思い至る。
だとしたら、公爵様は俺のことを誤解している!
マークは声を大にして公爵に言いたい。
(お、俺、ジュリアに横恋慕なんてしてませんからねっ!公爵様を的に回すような、恐れ多いこと、絶体に、しませんからねっ)
生憎、横には、強面のユーゴがいるし、今、それを面と向って、彼に言うほどの度胸はマークにはない。
(こ、こいつが好きなら、煮るなり焼くなり、なんでもお好きなようにしてくださって、俺は構いませんよ!)
マークが心の中で、ジュリアをあっさりと公爵様に引き渡していることなど、ジュリアが知る由もない。
ジュリアが、ふふと笑って、マークの肩を気安く叩く。
「マーク、お前、今日はなんだか変だぞ?」
(変なのはお前だっ!)
マークは、そう言い返したかったが、公爵様の視線に固まって、もう何も言えなかった。影の王家とも呼ばれる男の威厳は半端ないのを、マークは身をもって知る。
結局、ジュリアと話すことも出来ないまま、ジュリアとジョルジュは二人で馬車に乗り込み、マークとユーゴは馬でその後に従った。
これから、何が起きるのか、なんだか嫌な予感しかしない。
(はあ、俺、帰りたい・・・)
背中をがっくり落としているマークに、ユーゴが生温い眼差しを向けていることを、マークは、まだ気づいていなかった。
◇
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