悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

文字の大きさ
上 下
170 / 171
王子様から逃げている場合ではない

第18話 正しさ

しおりを挟む
 私がリオンに答えると、リオンは珍しく私に向けて珍しく毒づいた。
「同じ言語を話していても、言葉が通じない人種がいて彼女がそうです。レーナ様の時間の無駄になります」
 にこやか~に言い切られてしまったけど、まぁリオンの言う通り。
「私だって穏便に終わりたかったけれど、学園内の風紀が私のせいで乱れているから、逃げ回るわけにはいかなくなったの」
 話す前から、以前の訴えの話し合いを思いだし私もうんざりとしてしまう。


「レーナ様……」
 私に気が付いたマルローネ先生が私の名を呼んだ。
「お久しぶりです、マルローネ先生」
 私はあえてカーテシーをして改まって挨拶を行った。



「マルローネ先生、私の適性の見直しをしてほしいです」
「このようなやり方で意見を通そうとされるのは……」
 先生の意見はやっぱり変わっていないようで、私の申し出にマルローネ先生は、こういう手段をとり自分の意見を通そうとするのは卑怯なのではと言わんばかりだ。


「あなたこそ自分の意見で授業を押し通した結果、生徒がどうなってるかよく振り返るべきです!」
 私が言い返すのも待たずに、リオンがいら立ちの声を上げた。
 私は授業にでていないから実際に見てはいないけれど、怪我人が何人も出ていると聞いた。
 それも魔物と戦闘をした結果の怪我。
 生徒たちが覚えた恐怖は、私がビリーに詰められたときの比ではないことは明らかだ。
 怪我をすれば人間当然うろたえる。


 強くなるためには、その怪我をする状況になれることが絶対必要なのかもしれないけれど。
 そんなことは、初歩の段階で学ぶべきことでは絶対にない。


「マルローネ先生の言う通り、私は魔物を倒したことが確かにございます。何をとまではいうことはできませんが。どうやったと思いますか?」
 特定魔物に指定された、学園都市で水をきれいにしている役割を担っているスライムがいることは秘密だしね。


「レーナ様は緑の魔法属性ですので、植物を急成長させそれで魔物の足止めをしてそれで止めを」
 私は首をゆっくりと横にふると、いつも通り顔は優雅に、心の中ではふんぬうううっと魔力を全力で絞り出して、ゆっくりとその辺に生えた植物をわずかばかりに成長させた。
「何を?」
「マルローネ先生の言う通り魔物の足止めをしようと植物に魔力を送りました。見ての通りこの速度での成長では、動き回る魔物を拘束することはまずできません」
 魔力量は少なくても魔力の扱いさえ上手ければ、先生の言うとおり、さっと伸ばしてさっと拘束ができたかもしれないけれど私の実力ではそれは不可能だ。


「まさか、手を抜いて……」
「レーナ様の身分的にあまり公表することではありませんが。素早く魔力を展開するには、それに見合った魔力を流す回路が必要になります。レーナ様の御身はそのようにはなっておられません」
 やれやれと言わんばかりに額に手をあててあきれるかのようにリオンが言い切る。
「嘘よ。彼女は直系で、ユリウスの子孫よ」
 ここでも、偉大なるご先祖様であるユリウスと、その血をひいて当たり前のように優れてきた血筋か。


「私がそれを一番残念に思っております。では、私はどうやって倒したのでしょうか?」
 私の魔法の実力があれっぽっちであることを目にした先生は明らかにうろたえる。
 それでも間違いなく数多くの魔物を倒している事実をどうやってと頭を巡らせている。

 ただ次期剣聖の彼女にはわからないことがある。
 わからないというか、彼女には必要がなかったのだ。
 膨大な魔力と、繊細な魔力コントロールでの戦闘を一族の中で誰よりもすぐれて苦労することなくできてしまった彼女には……


「この世界では魔法を使えるほどの魔力を持つ人間はほんの一握り。それこそ一定量の魔力を持つものは身分を問わずにここ王立魔法学園で学ぶことが義務ずけられるほど」
 この世界の当たり前の大前提だ。
 学園では明らかに落ちこぼれな私だけれど。
 そんな私でも魔法を使うことができないメイドたちのまえで魔力をほんと絞り出して目に見える魔法を使えば物珍しく見られるほどだ。


「先生に質問です。魔物がでたら平民たちはどうしているでしょう?」
「それは、当然。魔物を倒すことができる人に助けを求めたり」
「誰か助けは本当にどこにいてもすぐにくるのでしょうか? 平民ですら一定以上の魔力があれば学園で囲うほどなのに」
 間ろろーね先生は私の質問に黙り込んでしまった。


 圧倒的な強さを持つことは先生にとって当たり前だったのだと思うし。
 それこそ、先生の目の前で魔物が現れ人々の命が失われそうになった時、その戦況を先生なら実力でひっくり返せるのだろう。


「アンバー領では、夏の終わり毎年必ず海に魔物がでるため、それを追い払うために、貴族が魔力を込めた特殊なランタンを飛ばします。そうすると秋が始まるころには海に潜む魔物はいなくなって、観光客が再び安心して海にはいれます」
「夏の終わりにランタンを飛ばすことは知っておりましたが、あれは魔物祓いの儀式だったのですね」



「このように魔物の中には弱点が明らかになった個体がおります。突発的なものはムリですが、例年出ることがわかっていて弱点が明らかだと、平民たちも高い金をだして自分たちでも魔物を倒せる道具を買うことなんかがあるんです」
「そんな道具があるだなんて」
「そういったものは、基本平民が簡単に変える金額ではないので、あくまで安心目的としてという感じで実際に使われることは少ないですが……」


「平民の事情は分かりましたが、それが今のことと何の関係が」
「まだわかりませんか? 平民は買うことができない物を私ならば簡単に買えます」
 そう、こぶし大ほどの熱石をちょろまかしたけれど、特に私は叱られることはなく、いまだに部屋に置いてある。
 それこそ一番広い室内の演習室をあっという間に温めることができるレベルの熱石が私の部屋には、なんとなーく飾られてしまっているのである。


 ようやく意味を理解したマルローネ先生が驚いて自分の口を押えた。
 これはもう一押し。
「平民にとってはいざというときの護身用ですから避けられる場面ではそういった高価な物を使ってまで魔物を討伐することはまずありません。ですが私は違います」

 畳みかけるように私は先生に話を続ける。
「先生が魔物と鉢合わせれば対処するだろうに、私も危険がない範囲であれば、魔物を見逃せば、それは奪わなくていい命をどこかで奪うかもしれないので倒します
 スライムのことだってそうよ。
 次なるカモが現れないように、対処したらあんなことになるだなんて一体誰が想像しただろうか。
 私は少なくとも100%善意で何とかするようにリオン、シオン、フォルトに一匹残らず倒すように言っただけ。
 嘘はついてない、余計なことをいってないだけだもん。


 と思うと、マルローネ以上にリオンが驚いた顔をしていた。
 そういうお考えがあって、あの時……と言いたげだし、リオンがこの表情ってことはとアンナを見ると、アンナはアンナで私が本当に自分のできる範囲でアンナの知らぬところで善行をされてるなんてと感動している様子だった。

 この二人には後でちょっとだけ、訂正しておこう。


「お金のことは、私一人で使う程度であればアーヴァイン家で何とでもなります。ですが、怪我をしたり、失われた命というものはお金で解決できるものではありません!」

 すごくいい雰囲気の話にまとめたけれど、家門の金の力で私は何とかしてただけなんですをすごくいい感じに話しただけである。
「私は……私は」
 マルローネ先生にとっては、金の力で解決なんて想像もしていなかったようで、自身のこれまでに顧みることがあったのだろう。
 へたりとその場に座り込んだ。
しおりを挟む
感想 582

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

子持ち主婦がメイドイビリ好きの悪役令嬢に転生して育児スキルをフル活用したら、乙女ゲームの世界が変わりました

あさひな
ファンタジー
二児の子供がいるワーキングマザーの私。仕事、家事、育児に忙殺され、すっかりくたびれた中年女になり果てていた私は、ある日事故により異世界転生を果たす。 転生先は、前世とは縁遠い公爵令嬢「イザベル・フォン・アルノー」だったが……まさかの乙女ゲームの悪役令嬢!? しかも乙女ゲームの内容が全く思い出せないなんて、あんまりでしょ!! 破滅フラグ(攻略対象者)から逃げるために修道院に逃げ込んだら、子供達の扱いに慣れているからと孤児達の世話役を任命されました。 そりゃあ、前世は二児の母親だったので、育児は身に染み付いてますが、まさかそれがチートになるなんて! しかも育児知識をフル活用していたら、なんだか王太子に気に入られて婚約者に選ばれてしまいました。 攻略対象者から逃げるはずが、こんな事になるなんて……! 「貴女の心は、美しい」 「ベルは、僕だけの義妹」 「この力を、君に捧げる」 王太子や他の攻略対象者から執着されたり溺愛されながら、私は現世の運命に飲み込まれて行くーー。 ※なろう(現在非公開)とカクヨムで一部掲載中

ここは私の邸です。そろそろ出て行ってくれます?

藍川みいな
恋愛
「マリッサ、すまないが婚約は破棄させてもらう。俺は、運命の人を見つけたんだ!」 9年間婚約していた、デリオル様に婚約を破棄されました。運命の人とは、私の義妹のロクサーヌのようです。 そもそもデリオル様に好意を持っていないので、婚約破棄はかまいませんが、あなたには莫大な慰謝料を請求させていただきますし、借金の全額返済もしていただきます。それに、あなたが選んだロクサーヌは、令嬢ではありません。 幼い頃に両親を亡くした私は、8歳で侯爵になった。この国では、爵位を継いだ者には18歳まで後見人が必要で、ロクサーヌの父で私の叔父ドナルドが後見人として侯爵代理になった。 叔父は私を冷遇し、自分が侯爵のように振る舞って来ましたが、もうすぐ私は18歳。全てを返していただきます! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。