悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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王子様から逃げている場合ではない

第18話 正しさ

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 私がリオンに答えると、リオンは珍しく私に向けて珍しく毒づいた。
「同じ言語を話していても、言葉が通じない人種がいて彼女がそうです。レーナ様の時間の無駄になります」
 にこやか~に言い切られてしまったけど、まぁリオンの言う通り。
「私だって穏便に終わりたかったけれど、学園内の風紀が私のせいで乱れているから、逃げ回るわけにはいかなくなったの」
 話す前から、以前の訴えの話し合いを思いだし私もうんざりとしてしまう。


「レーナ様……」
 私に気が付いたマルローネ先生が私の名を呼んだ。
「お久しぶりです、マルローネ先生」
 私はあえてカーテシーをして改まって挨拶を行った。



「マルローネ先生、私の適性の見直しをしてほしいです」
「このようなやり方で意見を通そうとされるのは……」
 先生の意見はやっぱり変わっていないようで、私の申し出にマルローネ先生は、こういう手段をとり自分の意見を通そうとするのは卑怯なのではと言わんばかりだ。


「あなたこそ自分の意見で授業を押し通した結果、生徒がどうなってるかよく振り返るべきです!」
 私が言い返すのも待たずに、リオンがいら立ちの声を上げた。
 私は授業にでていないから実際に見てはいないけれど、怪我人が何人も出ていると聞いた。
 それも魔物と戦闘をした結果の怪我。
 生徒たちが覚えた恐怖は、私がビリーに詰められたときの比ではないことは明らかだ。
 怪我をすれば人間当然うろたえる。


 強くなるためには、その怪我をする状況になれることが絶対必要なのかもしれないけれど。
 そんなことは、初歩の段階で学ぶべきことでは絶対にない。


「マルローネ先生の言う通り、私は魔物を倒したことが確かにございます。何をとまではいうことはできませんが。どうやったと思いますか?」
 特定魔物に指定された、学園都市で水をきれいにしている役割を担っているスライムがいることは秘密だしね。


「レーナ様は緑の魔法属性ですので、植物を急成長させそれで魔物の足止めをしてそれで止めを」
 私は首をゆっくりと横にふると、いつも通り顔は優雅に、心の中ではふんぬうううっと魔力を全力で絞り出して、ゆっくりとその辺に生えた植物をわずかばかりに成長させた。
「何を?」
「マルローネ先生の言う通り魔物の足止めをしようと植物に魔力を送りました。見ての通りこの速度での成長では、動き回る魔物を拘束することはまずできません」
 魔力量は少なくても魔力の扱いさえ上手ければ、先生の言うとおり、さっと伸ばしてさっと拘束ができたかもしれないけれど私の実力ではそれは不可能だ。


「まさか、手を抜いて……」
「レーナ様の身分的にあまり公表することではありませんが。素早く魔力を展開するには、それに見合った魔力を流す回路が必要になります。レーナ様の御身はそのようにはなっておられません」
 やれやれと言わんばかりに額に手をあててあきれるかのようにリオンが言い切る。
「嘘よ。彼女は直系で、ユリウスの子孫よ」
 ここでも、偉大なるご先祖様であるユリウスと、その血をひいて当たり前のように優れてきた血筋か。


「私がそれを一番残念に思っております。では、私はどうやって倒したのでしょうか?」
 私の魔法の実力があれっぽっちであることを目にした先生は明らかにうろたえる。
 それでも間違いなく数多くの魔物を倒している事実をどうやってと頭を巡らせている。

 ただ次期剣聖の彼女にはわからないことがある。
 わからないというか、彼女には必要がなかったのだ。
 膨大な魔力と、繊細な魔力コントロールでの戦闘を一族の中で誰よりもすぐれて苦労することなくできてしまった彼女には……


「この世界では魔法を使えるほどの魔力を持つ人間はほんの一握り。それこそ一定量の魔力を持つものは身分を問わずにここ王立魔法学園で学ぶことが義務ずけられるほど」
 この世界の当たり前の大前提だ。
 学園では明らかに落ちこぼれな私だけれど。
 そんな私でも魔法を使うことができないメイドたちのまえで魔力をほんと絞り出して目に見える魔法を使えば物珍しく見られるほどだ。


「先生に質問です。魔物がでたら平民たちはどうしているでしょう?」
「それは、当然。魔物を倒すことができる人に助けを求めたり」
「誰か助けは本当にどこにいてもすぐにくるのでしょうか? 平民ですら一定以上の魔力があれば学園で囲うほどなのに」
 間ろろーね先生は私の質問に黙り込んでしまった。


 圧倒的な強さを持つことは先生にとって当たり前だったのだと思うし。
 それこそ、先生の目の前で魔物が現れ人々の命が失われそうになった時、その戦況を先生なら実力でひっくり返せるのだろう。


「アンバー領では、夏の終わり毎年必ず海に魔物がでるため、それを追い払うために、貴族が魔力を込めた特殊なランタンを飛ばします。そうすると秋が始まるころには海に潜む魔物はいなくなって、観光客が再び安心して海にはいれます」
「夏の終わりにランタンを飛ばすことは知っておりましたが、あれは魔物祓いの儀式だったのですね」



「このように魔物の中には弱点が明らかになった個体がおります。突発的なものはムリですが、例年出ることがわかっていて弱点が明らかだと、平民たちも高い金をだして自分たちでも魔物を倒せる道具を買うことなんかがあるんです」
「そんな道具があるだなんて」
「そういったものは、基本平民が簡単に変える金額ではないので、あくまで安心目的としてという感じで実際に使われることは少ないですが……」


「平民の事情は分かりましたが、それが今のことと何の関係が」
「まだわかりませんか? 平民は買うことができない物を私ならば簡単に買えます」
 そう、こぶし大ほどの熱石をちょろまかしたけれど、特に私は叱られることはなく、いまだに部屋に置いてある。
 それこそ一番広い室内の演習室をあっという間に温めることができるレベルの熱石が私の部屋には、なんとなーく飾られてしまっているのである。


 ようやく意味を理解したマルローネ先生が驚いて自分の口を押えた。
 これはもう一押し。
「平民にとってはいざというときの護身用ですから避けられる場面ではそういった高価な物を使ってまで魔物を討伐することはまずありません。ですが私は違います」

 畳みかけるように私は先生に話を続ける。
「先生が魔物と鉢合わせれば対処するだろうに、私も危険がない範囲であれば、魔物を見逃せば、それは奪わなくていい命をどこかで奪うかもしれないので倒します
 スライムのことだってそうよ。
 次なるカモが現れないように、対処したらあんなことになるだなんて一体誰が想像しただろうか。
 私は少なくとも100%善意で何とかするようにリオン、シオン、フォルトに一匹残らず倒すように言っただけ。
 嘘はついてない、余計なことをいってないだけだもん。


 と思うと、マルローネ以上にリオンが驚いた顔をしていた。
 そういうお考えがあって、あの時……と言いたげだし、リオンがこの表情ってことはとアンナを見ると、アンナはアンナで私が本当に自分のできる範囲でアンナの知らぬところで善行をされてるなんてと感動している様子だった。

 この二人には後でちょっとだけ、訂正しておこう。


「お金のことは、私一人で使う程度であればアーヴァイン家で何とでもなります。ですが、怪我をしたり、失われた命というものはお金で解決できるものではありません!」

 すごくいい雰囲気の話にまとめたけれど、家門の金の力で私は何とかしてただけなんですをすごくいい感じに話しただけである。
「私は……私は」
 マルローネ先生にとっては、金の力で解決なんて想像もしていなかったようで、自身のこれまでに顧みることがあったのだろう。
 へたりとその場に座り込んだ。
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