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コミカライズ2巻記念

主人を失うその前に

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 血の盟約で主が従僕にできることは多いけれど。
 僕が主にできることは、あまり多くはない。

①主の生死。
 厳密にいえば、契約を結んだ人がいなくなったということはわかるらしい。
 なんか大事な線が切れたような感覚らしい。
 まだなったことないからわかんないけど。

 どこにいるかは、こちらからじゃたどれないけれど、とりあえず生きていることはわかるって感じ。

②主が危機的状況に陥った時のみ、主が呼ばずとも主の位置がわかる。
 主が意図的に場所を悟られたくないと判断すれば、わかんないんだけど。
 まぁ、これはレーナ様には無理な話だから。
 レーナ様が危機的状況に陥れば、問答無用でわかる。

③主を害すると、ペナルティーが発生しその度合いに応じて苦痛を感じるが。
 主だからといって、こちらが一切の危害を加えられないというわけではない。

 まぁ、本来なら。
 そんなことしようものなら、死ねと命令され、その命令にどの程度逆らって正気を保っていられるかって話なんだけど。
 まぁ、これもレーナ様じゃ使いこなせない! から。
 僕がレーナ様の命令で死ぬことは一生ないんだけど。




 あの後、僕が殴った一人は捕縛に成功したものの。
 その後2手に別れられ、学園の隠し通路に逃げ込まれた。
 先輩方は隠し通路の存在を今日初めて知ったも同然。罠があるかもしれないと警戒もしなければいけない中で追うことは難航して。



 どうにかこうにか、もう一人を捕縛し。
 後は相手のスタミナ切れまで数で押すつもりだったんだけど。
 主が魔力切れで倒れているから、その間レーナ様は自身の場所を従僕に知らせないなんてことできるはずもなく。
 どの辺にいるかは変化なかったんだけど。


「ん?」
「どうした、シオン?」
 突然立ち止まった僕に、フォルト様が声をかけてくる。
「ちょっと待って、初めてだからよくわかんないんだけど。待って」
 立ち止まって集中するが、あっちの方向にいるという感覚がない。

――――レーナ様がどこにいるかがわからなくなった。
 ただ、生きていることはわかる。


 それはレーナ様があの意図的な魔力切れから回復したことを示す。
 フォルト様は不安げな症状で今僕の目の前にいる。
 アンナ様とミリー様は先輩方と一緒に捕縛した生徒の見張りや状況を明らかにしたうえで先生への協力を仰いでいるから、レーナ様の傍にはいない。
 

 魔力を回復する回復薬は表立って市場に流通している物じゃない。
 作成するのに、治癒師がいる。それも今の僕では作れなくて、僕が持っていたのもグスタフが作ったものだし……

 治癒師の大半が教会に所属する今、そうそう手に入るものなんかじゃない。
 まぁ、僕とは違ってレーナ様は公爵家だから、そういった回復薬を持っていてもおかしくないんだけれど……
 いくら魔力切れはしんどくてつらいとはいえ、すべてのことが解決した後ならともかく、動き回ってほしくないとつぶした人物になぜこのタイミングで服用させて動くことができるようにする必要があるのか。


 レーナ様がまた危なくなれば位置が再びわかるだろうけれど。
 とにもかくにも、今従僕側からできることはない。
 あれこれ考えてしまって、ついつい無口になってしまう。


 とりあえず一人で抱えるべきことではないと判断した。
「フォルト様、レーナ様がおそらく魔力切れから回復してる」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
「あれ、言ってなかったっけ? 僕レーナ様に血の盟約をしたから。フォルト様はレーナ様ようにって魔力回復薬を預けたりは……」


「預けたりなんかしない。レーナ嬢が攫われたことを考慮して、別の部屋を手配してそこで休んでもらっているくらいだ。レーナ嬢のやる気はわかるが。正直なところ、今この場には参加してほしくない」
 ギュッとフォルト様はそういうとこぶしを握り締めた。



 まだ捕まっていない生徒が二人。一番地下通路に詳しいのは僕。
 取り逃がすことはのちに脅威になる。


 この判断を僕はしばらくして後悔することになる。
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