悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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王子様から逃げている場合ではない

第1話 制服とドレスと縄

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「せ、制服が……」
 学園について驚いたことは、ゲームでおなじみの制服のデザインが変わっていたことだった。
 本来であれば、夏休みの期間は長期休みとなり制服を着用する機会はない。
 だが、今回学園内の大きな水路が陥没したことにより、本来であれば新学期が開始する時期に工事をするために休みに。
 代わりに、本来夏休みとなる時期から学園が開始したのだ。


 じっとりとする暑さで、この制服だと暑そうとは思っていたのだけれど、まさかの制服のデザインが夏にも対応するものにと一新されるとは思わなかった。さすがお貴族様が多く通う学園だ。
 というよりも……制服が変わるとか、ゲームでは明らかになかった展開に大丈夫なのかしら……とほんの少し思ったけれど。
 それを言い出したら、もうすでに多々大丈夫ではないことがあるから、今更ひとつくらい大丈夫かな? が増えても気にしたら負けと私は気にしないことにした。

 
 濃い青色の制服は、夏に着用するものは涼やかな水色と白をベースにした色合いに変わった。
 女子生徒の制服はコルセットで腰元を締め上げるところは変わらないが、一枚でサラリときれるワンピースタイプに。
 しかもくるぶし丈まであったスカートは、まさかのひざ下に。
 生地もひんやりとしたもので実に涼やかになっていた。
 夏用のワンピースは半袖のデザインだけれど、冬は長そでのワンピースの上にポンチョではなくブレザーを羽織るようね。


 制服ってこんなに簡単に変わってしまうものなのねと眺めていると、アンナとミリーがメイドを連れて私の部屋にやってきた。
「レーナさま。制服のデザインが変わっております。これは一大事です!」
 ミリーがものすごく真剣な表情でそういった。
「とりあえず、制服に何をわせるべきかいろいろ持ってまいりました。外商は午後から来るように手配いたしましたので、大まかなイメージを決めて。それから足りないものは発注いたしましょう」
 アンナが合図をすると二人の後ろに控えていたメイド達が私の部屋にあれこれ並べ始める。

 ストッキングに靴下。ストッキングは色も様々、靴下は長さだけではなくレースがあしらってあるものなどデザインがいろいろある。そして、何よりかにより驚いたのが靴。
「今までは、制服のスカート丈が長かったので、あまり見えないと思っていたのですが……。この長さになると靴はしっかりと見えてしまいます。これは何足か準備しなければなりませんよ~!」
 ミリーはそういって、色やデザインの吟味の必要がといつになく真剣だ。
「靴だけじゃだめよミリー。レーナ様は公爵令嬢ですし。他の方のおしゃれの見本でなければなりません。これまでは制服のリボンにブローチを合わせておりましたが。これだけ足元が見えるのですから、足元にも何か装飾品で遊びを加えてはどうでしょうか?」
 学園に到着してそうそう始まってしまった、制服が変わったことでのおしゃれ会議。


「そうね、おしゃれは足元からと言いますものね」
 こうして私は、学園に到着してアンナとミリーと共に、今後の制服の合わせ方を試行錯誤することとなった。
 授業のことを考慮すると動きやすい靴じゃないとダメだわとか。
 足元は授業のことも考えると装飾をするとやはり邪魔になってしまうから、代わりに腕に細身のブレスレットをするかなど。大盛り上がり。


 結局足元はこれまで通りアンナはストッキングにパンプス。
 ミリーは靴下にパンプス。
 私はミリーよりも少し長めのレースをあしらった靴下にパンプスとこれまでとあまり変化はなく。
 代わりに、半袖で腕が出るので、腕に細身のブレスレットをそれぞれするということで、私たちのおしゃれの方向性は統一された。



 そして、あらかた決まると私たちの間で出てくるのはイケメンの話題である。
 私たちはまず卒業してしまった面のいい先輩のことを惜しんだ。
「新しい制服を着られた先輩方が見たかった……」
「「私もですレーナ様」」
「ダンスを一度くらいは先輩と踊ってみたかった……」
 そう、私はいろいろあって、アンナとミリーと違いイケメンの先輩と一度たりとも踊れていないのだ。合法的に手を握り至近距離に近づけるラッキーチャンスを何度も逃している間に、イケメンの先輩は何人か学園を去って行ってしまった。
「かなりの倍率でしたから……私も一度も踊らずにいた方がかなり……」
 アンナは残念な顔でそういった。
「私もですよ~。特に卒業される方は踊り収めということで、通常よりも踊ることを希望する女子生徒が増えますからね」
 ミリーは不服そうに少しだけ頬を膨らませた。
 その後は入学式が終われば、夕方からは新入生を交えたパーティーが行われるので、今回は私もイケメンと踊るわ! とか楽しい会話を新学期が始まる日まで集まって繰り返した。

 入学生を交えての最初のパーティーは私にとってちょっと特別なものとなっていた。
 前回は水路が陥没したせいで、本来なら開かれる学期終わりのパーティーが開かれなかったせいだ。
 そのため、今回の入学生を迎える歓迎の意味も込められたパーティーで、いよいよ私とジークが最初の婚約者同士で踊るダンスを踊らない。


 パーティーのはじめは、婚約者同士で一曲踊るのがルールだ。
 これをすることで、のちのち婚約者がいる人だと知らなかったというのを防ぐためにも、結婚相手を学園で探す貴族たちにとって、意中の相手に婚約者がいるかどうかチェックはすごく大事なのだ。
 いよいよ、1曲目を私はジークと踊らない。
 これによって、ようやく学園内で私とジークが婚約を解消されたことが認知されるというわけだ。
 今年はアンナとミリーと共に、よさげな殿方とパーティーで接近できないかにワクワク胸を焦がすというわけなのよ!!!



 というわけで、婚約を解消したことでエスコート役がいなくなった私は、アンナとミリーに迎えにきてもらって一緒に行く手はずとなっている。
 今回のパーティードレスは、私も新しい婚約者探しということで、かなり念を入れた。

 ミリーが淡いグリーン、アンナがオレンジなので、仲いいメンバーで色かぶりしないように、またもやなんたらという貧相な胸をカバーし素敵に見せるという職人が作った青色のドレスなのである。

 今日は私にとって決戦の日とメイド達に告げると、緩く巻かれた髪にはキラキラと小さな粒の宝石がちりばめられるという豪華仕様、その数全部で30個。
 遠目からみたら、髪の動きに合わせて宝石がキラキラと光を反射するそう。
 しかし、一粒でも落としたら大損と思うと妙に緊張してしまう。 




 婚約解消が明らかになる大事なパーティーへと向かうのだけれど。
 迎えにきた二人はパーティーに向かうため華やかなドレス姿なのだけれど、どことなく二人がそわそわしている。

「二人ともどうかしまして?」
「レーナ様椅子に座って目を閉じていただけませんか?」
 アンナがそういった。
 も、も、もしかしてこれは何らかの『サプライズ!?』
 いそいそと椅子に座って、目を閉じると何やら想像していない感触が。

「あの私の腰元にまかれているこれは……」
 目を閉じたままそう聞き返す。
「え~、なんでもないですよ。なんでも……別に縄とか」
「ミリー!?」
 縄というミリーの失言に私は目を開けた。


 しかし、時すでに遅く私は椅子にやっぱり縄で縛られていた。
「こ、これは……」
「「申し訳ございません。レーナ様」」
 私の問いかけに、アンナとミリーが申し訳ない顔をした。
 完全に二人を信用しきっていた私は、しっかりと縛り上げられてしまった。


「あの、準備が整いました」
 アンナがそういうと、見慣れた面々が続々と私の部屋へと入ってきた。
 シオン、フォルト、リオンと私の知っている人勢ぞろい。
「何、何、何!? 何事!!」
 縛り上げられた状態で全く意味がわからない。


「単刀直入に言うねレーナ様。お願い今日のパーティー……30分ばかし遅刻して」
 シオンが一歩前にでると、両手でかわいらしくお願いのポーズをしてそういった。
「いやいやいや、お願いって言葉と状況あってなくない?」


「すまない。レーナ嬢が今夜のパーティーを楽しみにしている気持ちは聞いていたんだが、皆で相談を重ねたけれど。もうこれしか思いつかなかったんだ」
 フォルトはそういって深く頭を下げた。
「私たちも……レーナ様が本日のパーティーを楽しみにしていたお気持ちはわかるのですが。ねぇ、ミリー……」
「そうね、アンナ。私たちにとってレーナ様の安全に勝るものはございません」
 アンナとミリーがそういって、縛られた私の手にすみませんと言いながら左右の手をとり謝罪した。

「一応これは、公爵様にも話をしており。レーナ様を守りたいと考えた者の相違だと諦めてください」
 リオンがとどめのようにそういった。
「私が遅刻することと、私の安全って何が繋がっているの!?」

「あ~っと遅刻するのはレーナ様だけじゃないよ。ちゃんと相手にも了承してもらってるからさ。あっ、ジーク様、こっち話つきました~入ってOKです~」
「待ってちょうだい、シオン。私の質問を普通にスルーしないで、私一応ご主人様なんだけれど……。そして話ついてない。ついてないわよ!」
 椅子にすでに縛り上げられた身、声を張り上げるくらいしかできることはない。

 シオンがそういうとメイドによってドアが開けられ、いつもは下ろされた前髪が今回はオールバックにセットされたジークがパーティー用の装いで現れた。
「こんばんは、それにしても。どういった話し合いをすれば、そうなるのか実に興味深いことになっているね……」
 ジークはそういって、縛り上げられた私を憐れむような眼で見つめた。
 心の友だと思っていた人間に裏切られた私にその目やめろ。
「んじゃ。僕たちそろそろ向かわないと遅刻すると困るんで。ジーク様、後お願いします~」
 シオンが爽やかにそういうと、それぞれが皆縛り上げられた私に頭を下げて去って行った。


 私の自室には椅子に縛り上げられた私とジークだけが残った。



 私レーナ・アーヴァインは、仲間だと思っていた人間に拘束されるという新学期の始まりを迎えたのであった。

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