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星降る夜を見上げている場合ではない

第45話 告白

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 陸はきっと遠いのだろう。
 だって、灯りの一つも見えないのだから……
 意識を失った後、どうやらこの小船に乗せられずいぶんと流されてしまったようだ。
 見上げると広がる美しい星空とは違い、夜の海はどこまでも暗く暗く不気味だった。
 1人で乗せられていないことに、ちょっとだけ安堵する。

 オールか何かなにかしらと船を探していて気が付いたことがある。
 ザラっとすると思ったけれど、この船は土魔法で作られたものではないかってこと……


 昔話のカチカチ山では泥の船は沈むのだ……
 でも、大丈夫。おちついて、これまでもいろいろあったけど。乗り越えてきたでしょう。
 とりあえず、シオンを起こして、主が危険にさらされ盟約者に位置がわかるようになっている常態になっているかの確認ね。
 なっていなかったら、私がとにかく魔力をつかって、位置をリオンとフォルトにつたえる。
 そうすれば、船が最悪沈んでしまったとしても。
 私の場所はわかるから、助けが間に合うかもしれない。


「シオン、シオン起きて」
 私が揺すると、シオンがゆっくりと身体を起こした。
「怪我はしていない? どうやら、私たち今船の上みたいなの。それでね、船は土? 砂? 泥? とにかく土系の何かでできてて、オールは船に乗っていないの。だから、早いところ盟約でリオンとフォルトに私たちの位置を伝えましょう」
「…………」
 シオンの黒い瞳が私をじっと見つめた。
「……目覚めてすぐに与えられる情報量が無駄に多い」
 シオンはため息をついて、私の頬に右手を伸ばしてそして目を大きく見開いた。


「シオン?」
 様子がおかしくて、思わす私はシオンに聞き返す。
 シオンはもう片方の手で反対側の頬に触れると、今度はブツブツと詠唱を始めた。
 そして、明らかにシオンの瞳が動揺したのを私は見逃さなかった。
「どうかしたの?」
「治癒魔法が発動しない」
 シオンはたまに意地悪をする。だけど、こんな時に悪い冗談を言うタイプではない。
 私はポケットに入れていた、トマトの種に魔力を送り込んでみようとするが。うまくいかない。
「どうなっているの?」
「わかんない。心当たりがあるとしたら、あの変な部屋……」
 意識が無くなる前に入れられた白い部屋での身体の力が抜ける変な感じを思い出して、身に覚えが全くないわけではないことを思い知る。



「前学園にいるときにレーナ様との繋がりが追えなくなったんだけど、今それと同じ状態。だから、レーナ様が魔力を使用したとしても。あの時と同じようにレーナ様の位置がわからないと思う」
 シオンがまっすぐとこちらを見た。
 あの時はたしか、偽物のニコル・マッカートに追われて、図書館の秘密の部屋に逃げ込んだ。そのときシオンが繋がりが消えていたと言っていた。
 よくわからないけれど、血の盟約でも追えなくなることがあって、タイミングの悪いことに、それが今起きていることだけがわかる。



 学園では攫われて塔に閉じ込められたことがあった。
 クライスト領では魔子の近くに言った結果気持ち悪くなって気を失ったこともあった。
 だけど、その時は私の心のどこかで死を強く意識はしなかった。


 だけど、今は違う。
 私は岸まで泳ぎ切るどころか、何時間も足のつかない場所には浮いていられないと思う。
 死が身近に感じて、手が自然と震えた。
「なんて顔支してんのさ」
「ねぇ、シオン。一人だったら船を起点にして陸を探して、陸さえ見つければそこまで泳げるんじゃないかしら?」
 怖くて、不安だ。一人にしないでほしい。
 でも、ここで二人で残るよりかは、そのほうがまだ生存確率があるのではないかと思う。
「……残念。僕泳げないんだよね」
 私の問いに、シオンは困ったように笑った。
 一人にならないことにほっとする反面、このままでは巻き込んでしまうことになんとも言えない気持ちになる。


「シオン、ごめん」
「いちおう聞くけど、どれに対して?」
 思わず出た謝罪の言葉に返ってきた返事は予想外の言葉だった。
 たしかに、どれに対して? と言われるほど謝ることあるかもとか思ってしまった。

 シオンは攻略対象者の一人で、私は彼を教会のしがらみから解放したせいで、救った気になっていた。
 ただ、これじゃぁ場所をかえただけで、むしろ年齢的にゲームよりもずっと早く悲惨な結末になってしまう。
「私皆に言っていなかったことがあるの」
「もう、スライムの件みたいなことは、本当に、ほんとーーーに勘弁してほしいんだけど……」
 ゲっという顔にシオンがなる。

 これまでずっと言っていなかったことを初めて、この世界で口にした。
 ばれてしまったらどうなるんだろうって不安な気持ちがずっとあった。でも学園では私がミスをしないように、アンナとミリーがフォローしてくれて。
 アンバー領では、事件の後だったこともあって、いろんなことが問い詰められることなくそのまま進んじゃってたし。
 私の心が主軸なだけで、レーナの知識や心の部分がまったくなくなったわけではないし、私自身よくわからないことが多い。
 ただ、一つ言えることは。



「――――私はレーナ・アーヴァインじゃない」
「…………………………………………は?」

 その時だ、ぐらっと船が大きく揺れて、船は真っ二つになった。
 砂でできた船は、ぱらぱらとあっという間に崩れていき、暗い海へと吸い込まれた。
 ワンピースは海水を吸い、あっという間に重くなる。

 上へ浮上しなきゃって思うのに、私の目の前に広がったのは、どこまでも続く暗闇だった。
 何も見えない。
 
 おちついて、おちついて、水面に浮上するのよ。
 でも、水面って……どっち?

 怖い、苦しい、私の最後ってこんな終わり方なの?




 その時暗い海に光が降り注いだ。
 
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