悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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星降る夜を見上げている場合ではない

第44話 偽りの部屋

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 馬車はしばらくして止まった。
 私は魔力を無駄に消耗した疲労感があった。
 たぶん、これだけ魔力を使えばなんとなく場所がわかると思う。
 後は私の保護者達に任せるしかない。

 問題は、この後どうやって助けが来るまでの間を持たせるかだ。
 殺すつもりなら私が寝ている間に殺していただろうし、すぐには殺せない理由があると思うのだけど。


 私は人質として本当に使い物になるのだろうか?
 今回の領主戦でわかったことだけれど、父は甘々で過保護な一面ばかりをこれまで私に見せてきたけれど。
 間違いなく、領主としての面をちゃんと持ち合わせていて、ちゃんと自分の想い通りになるように物事が運ぶように動く人物だった。
 私を人質にしての交渉は通るかもしれない、だけど私を返したとたん私を攫った人物はきっと父によって無事ではないだろう。

 とりあえず、私は馬車に慌てて横になり眠っているふりをした。
 ドアが開いた。
「よく眠っているようだな」
「明日までは起きることはないでしょう。ですが、このようなことをされては、後でどうなるか……」
 一人の声は震えていた。
「何を怖気ずいている。もう攫った後だ引き返せない。白の部屋は?」
「はい、海岸に条件を満たした部屋を急ぎ準備いたしましたが……ですが、本当に部屋として機能するかは……」
「できると言っていたではないか!」
「いいましたよ。ですが、半日ほどで白の部屋を作り上げれるとはこちらも申してはおりません。今からでも遅くはありません。レーナ様を家に帰しましょう」
「何を馬鹿なことを、ここまできて帰せというのか!」


「その通りでございます。街をご覧になりましたでしょう。レーナ様を探すために灯りをたき外に出ている民の数を。このような手段がばれてしまえば、領主になれたとしても民はついてきませんよ」
「民意など意味がない。お前もあの出来損ないの方を持つのか!」
 パンっと大きな音がして、どさっと人が倒れる声がした。


 そのとたん頭に激痛が走った。
 乱暴に髪を掴み上げられ上半身を起こされたからだ。
「痛い!?」
 狸寝入りなんかできなくて、痛みで声が上がる。
「こいつには直系であること以外価値はない」
「直系というだけでは、あれだけの民は動かせません。民意です。レーナ様に何かあれば、かならずそれは不穏の芽となります。空っぽの領地では意味がないのがわからないのですか?」
「もう後戻りはできないのだ、早くしろ」
 髪を引っ張られてはたまったものではない。
 踏みとどまることも痛みでできなくて、私は髪を掴まれたまま、引かれるほうに痛みから逃れるために進む。


 ゆらゆらと揺れるランプの灯り。
 以前教会の残党が持っていたのにそっくりなランプに、管理どうなってんのよとついつい悪態が心の中で出てしまう。
 日はとうに落ちていて、後は星の光が差すばかり。
 そして、白い砂浜の上に現れた白い白い四角い明らかな人工物。
 それはクライスト領でジークとの婚約を解消した真っ白な部屋にそっくりだった。
 そして、私は今日白いワンピースをたまたま着用していて。

 
 なんだかわからないけれど、とってもまずいことだけはわかる。
 婚約を解消した時は、ジークもまきぞいで不幸になるがいいわ、ホホホと思っていたけれど。
 あまりにも大きすぎるリスクを背負った状態で、あの部屋に連れ込まれるとなると感じることは全くの別物だった。
 抵抗などほとんどできず、まずいとわかっているのに実にあっさり私は部屋に放り込まれた。


 真っ白な部屋だった。
 地面に強かにうちつけたデリケートな体は、先ほどのむちゃくちゃな連れられ方もしたせいで、ひどく痛む。
 それだけじゃない。
 何かがおかしい。
 以前、クライスト領でジークとの婚約を解消する際に入ったときは何ともなかったのに、ぐるぐると目が回るというか、頭がゆらぐというか、変な感じだった。
 起き上がろうにも身体が持ち上がらない。
 魔力がほとんど切れていたせいでは済ませられない異変だった。
「やはり不完全だったか……」
 ラスティーではない男の声だった。
 男の声が言うように、私の身体は起き上がることができなくなっていた。
 魔子の傍にいた頃よりも、強烈な倦怠感が私を襲う。早くここから出たい、出ないとまずい。


 その時だ。
「ラスティー様、人が……」
 その言葉に、ラスティーは憎々しげに私を睨むと舌打ちをして、ランプの灯りをゆらゆらと揺らして消えた。
 私だけを白の部屋に残して。


 助けが来たんだ。
 間に合ったんだと……ほっとする。
 ほっとすると同時に、ここに助けに入って大丈夫なの? という疑問が出てくる。
 魔防だけは屈指と言われていたその私がこれだ。

「見つけた!」
 声の主はシオンだった。
「気を失っているようだ、早く治療を」
 ジークの声だった。

 入っちゃダメ。
 そう思うのに、声が出ない。
 入口までは目と鼻の先。
 だけど、私を起こすべく部屋に入った二人にはすぐに異変が起こった。
「うっ」と苦し気な声がシオンから上がった。
「未完成の部屋だったか……」
 ジークの声だった。
 その後、なんとか引っ張られる感覚があり、部屋から体の一部はでることはできたけれど、そこでどさっと倒れる音がして。
 その後こちらに戻る足音があった。
 部屋からまだ完全にできっていないせいか、不調が続く。
「……この部屋では直系の移動は出来かねます」
「このままでは……俺は……俺は……。いや、理由があればいいのか……理由としてちょうどいいのがいるじゃないか。土魔法で船を作れ」
 その声を最後に私は意識を手放した。



◇◆◇◆




 頬にあたる風が冷たいと思って目が覚めた私が見たのは満点の星空だった。
「ナニコレ、綺麗……」
 思わずぽつりとつぶやいた。
 体はだるいけど、痛みとかはなさそうっていうか、だるい原因は私の上に何かが乗っていて、それが重いせいだわと珍しくピーンときた。
「どうなっているの?」
 重い原因は何かと思えば、それはシオンだった。
 ぐったりとしたシオンが私の上に乗っていた。


 空には満点の星、聞こえるのは波の音。
 シオンをなんとかおろして体を起こしてみれば。
 はるか遠くに街の灯りがぼんやりとみえた。
 そして360度海、海、海……
 陸地ははるかに遠いのは明らかで、ざらりとした船の上にはオールなどはなかった。

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