悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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星降る夜を見上げている場合ではない

第35話 出せない魔剣

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 表情を取り繕うようにリオンに言われて、私はリビングルームに降りて、皆と共に飲み物を飲んだ。
 シオンは不機嫌そうな顔で。フォルトは不安げな顔で。リオンは涼しげな顔で。ジークは、相変わらず愛想笑いが張り付いていた。

「さて、レーナ様。魔剣はいかがいたしますか?」
 リオンが、小声で私にそう聞いてきた。
「フォルトに、一時的に貸し出しましょう」
「かしこまりまして」
「はぁ!?」
「ありがとう」
 リアクションは様々だった、リオンは私の決定にあっさりと従い、シオンは不服な声を上げ、フォルトはお礼をいい頭を下げた。



「さて、皆さんは魔剣の主とそうではない者の違いは何かわかりますか?」
 フォルトにリオンが出した質問だけれど、私も考える。というか、私も1本魔剣が体内に入っているのに、魔剣のことをちっとも知らない。

「体に魔剣をしまえるかどうか。違うだろうか?」
 フォルトがおずおずと答える。
「そうです。魔剣を身体にしまえるのは魔剣の主のみです。まぁ、イレギュラーもあったようですが……」
 ちらりとリオンは私のほうを見てから話を続けた。
「では、主ではない者は魔剣を振るうことができるでしょうか?」
 そんなこと考えてもみなかった。
 シオンはぷーっとふくれっ面でソファーでぶーたれているけれど。
「そんなこと考えてもみなかった。興味がある」
 ジークが興味ありと話に入ってきた。


「主にしか使えないんじゃないのか?」
 フォルトの回答に、リオンは首を振った。
「正解は、主でなくても魔剣を振るい力を発揮することは可能です」
「では、私がリオンの魔剣を受け取って、ジーク様をぶっ刺すとジーク様から魔力を吸うことができると?」
「えぇ、可能です」
 ほうほう。これはいいことを聞いたわ。いつもやられっぱなしだけれど、魔剣を使えば、ジークと本当に私が互角にやりあえる日が来るかもしれない。
「なぜ、その引き合いに私を出すんだいレーナ?」
 ニコニコと黒い笑顔でジークが私に微笑んだ。
「ホホホ、女性に刺されても仕方ない心当たりがなければ、先ほどの会話はさらりと流されたのではないでしょうか?」
「まぁ、振るのが君ではかすりもしないから意味がない話だろうけれどね」
 またも、ジークとバチバチやってしまう。

 
「第三者でも魔剣を振るうことができる。だから、主は魔剣を体内にしまうのです。中に入った魔剣は第三者は取り出せませんし。主の了承なしに次の主になることは今回は詳細を割愛しますが非常に難しいのです。ですので、魔剣は貸し出しいたしますが、悪用されぬようにフォルト様の体内に取り込んでもらいます」
「わかった。どうすればいい?」
「服を脱いで背中をこちらに向けてください。今から魔剣をフォルト様に入れます」


 フォルトは、躊躇することなく服をめくりあげた。
 魔剣を体内に取り込むことなどめったに見れるものではないのだろう、ジークはもちろん、先ほどまでふてくされていたシオンも興味津々にフォルトの背中に視線を注いでいたから。

 私は、これ幸いとフォルトの背中を見つめた。
 程よい筋肉の付き方とうっすら浮き上がる背骨のラインと隠す布が無くなったせいであらわになる、細めの腰……
「レーナ様」
「はひ……」
 見つめすぎをたしなめられたと思ったら違った。

 ペタペタとフォルトの背中を触った後、リオンが私にもフォルトの右の肩甲骨の下あたりに触れてみろと言ってきた。
「え? よろしいの?」
 思わず、合法で触れていいのかと確認を取ってしまう。
 確かにフォルトの背中から腰にかけてのラインを食い入るように見つめていたけれど、まさかリオンがこんなセクハラのアシストをしてくるだなんて……
 もしかして、盟約で結ばれていると私の強い意志が透けて見えるのかしらとハッとなる。

 リオンに促されるまま、私はフォルトの背に触れた。
 思ったよりも固いし、ひんやりとしている。
 これで、どうすればいいのかとリオンを見つめる。
「魔力を流してみてください」
「わかりました」
 触れた個所に魔力を送り込む、でも、ここは確かフォルトの苦手な場所ではないはず……


「そこが、一番フォルト様の魔力が安定している場所です。レーナ様が魔力で干渉してもびくともしないことがお分かりいただけましたか?」
 ニコニコとリオンが説明してくるけれど、さっぱりわからなかったとは言えず。私はうなずいた。
 リオンはフォルトの背中にまさかの魔剣で何やら魔法陣のようなもの彫り始める。
 それは、あっという間に完成してしまって。
 フォルトに、今からここに魔剣を突き刺すので、体中の魔力をためて受け止めろという何とも大雑把極まりないことを言い出した。
「そ……そんな大雑把な感じですの?」
 思わずそう問いただす。
「えぇ。そうです。受け止められなかったら器になりえなかっただけのこと。でも大丈夫です。心臓さえ刺し貫かなければ、私とシオンがいるので器になれずとも命は無事でしょう」
 さらりと怖いことを言ってのけた後、リオンは魔剣を取り出すと紫の刀身をフォルトの背中にあてがい一気に刺し貫いた。

 わかっていても、ヒッと声が漏れてしまった。
 でも、刀身はフォルトの身体を貫くほど刺したのに、フォルトの胸から刃先が出ることはない。
「ぐっ」
 フォルトから苦しそうな声が漏れる。
「魔力を吸われることと、体内に異物感がすごいことと思われますが。耐えてください。後私の握りこぶし3つ分ほどですね」
 それからは、一気にではなく、じりじりと剣がフォルトの身体の中に入っていく。

 


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