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星降る夜を見上げている場合ではない
第27話 勝たせる
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フォルトが優しい人物であることを私は知っていた。
グスタフとの事件に巻き込まれたときは、私とあまり仲が良くないにも関わらず、私のことをシオンと探してくれたり、協力してくれた。
私が落ち込んでいるときは、ぎこちないながらもパンケーキを食べに行こうと誘ってくれた。
私が婚約者とうまくいっていないことを知った後や、婚約解消後も本当はお金のことで悩んでいたけれど、婚約者がいないことで悩んでいると知った私に、フォルトは私との婚約を前向きに考えてくれた。
水路でのときも、落ちたら絶対に大丈夫じゃないとわかっているくせに、自分が犠牲になってでも私の安全を優先した。
領主教育はそんな優しいフォルトがレーナのことを嫌いになるほど、つらかったはず。
そして、領主になるチャンスを私のせいでフォルトは不意にした。
でも私がジークとの婚約を解消したことは仕方ないじゃない。
だって、私はこの乙女ゲームの悪役令嬢。
ジークの婚約者で居続けたら、ヒロインとジークが恋に落ちたとき、私が断罪されるリスクがあることを知っていて、婚約を続行だなんてできなかった。
私が婚約を解消した余波でフォルトの努力をすべて無にしたり、アンナとミリーだけでなく、二人の家にまでこんな風に迷惑がかかるだなんて考えていなかった。
父がジークに手紙を送りつけてアンバーに呼んだ理由は、ジークと私が再び婚約してほしいからだとわかっていた。
でも、私はそれを自分の今置かれている立場など深く考えもせず突っぱねた。
私のせいだ。
静かに、静かにその場で動かず涙を流すフォルトを私は茫然と見つめていた。
ラスティーもフォルトも領主候補のあくまで一人であり、領主の候補者は二人以外にもいる。
父は上手だった。
父はきっとラスティーがフォルトに勝ったとしても、父の態度からして、別の候補者が領主戦に勝つようにうまく手をまわし動くことだろう。
この領主戦は行われること自体がすでに無意味。
しかし、私が今更ジークと再度婚約しても、意味がない。
一度受けた領主戦を辞退することなどできない。
かといって、今フォルトと婚約したとしても領主戦がなくなるはずもない。
『悔しかったらフォルトを勝たせてみなさい』という父の言葉がよみがえる。
父の言う通り、アンナとミリーの家が咎められることなく、フォルトの努力を今無駄にさせないための道は一つしかない。
一騎打ちでフォルトに勝ってもらうしかない。
そして、フォルトが自分だけの力で勝てないというならば、勝たせるしかないのだ。
私は、自分の両頬を思いっきりひっぱたいた。
パーンっと乾いた音が鳴って。
隣に立っていたジークも、泣いていたフォルトも私をみてポカーンとしていた。
「領主戦はまだ終わってないわ。今からでもやれることをしましょう」
「公爵様の口ぶりからして、レーナ嬢もわかってるだろ。俺じゃぁ、……ラスティーには勝てない」
フォルトは、涙を手で拭いながら私にそう答えた。
「勝てないじゃないの、勝つのよ! 可能性は0じゃないわ」
「レーナ、それ以上考えなしなことを言うのは……領主戦はいつまでも引き延ばせるものじゃない。この春休みが終わる前には、領主戦を執り行わないといけない」
ジークがこれ以上フォルトを追い詰めないでと言わんばかりに私をたしなめる。
「あと一か月ある。実際の領主戦の一騎打ちはフォルト一人で戦わないといけないかもしれないけれど、それまでの期間どうやってフォルトを勝たせるかは、皆で考えましょう」
「少し一人にしてくれないか?」
伸ばした私の手は振り払われフォルトは、私とジークをおいてテラスへと歩き出す。
「フォルト!」
私が名前を呼ぶとフォルトは立ち止まりこちらを振り返った。
「もう、戦う前から勝敗がわかっているのは、他の誰てもない俺が一番理解してる」
そういうと、テラスからフォルトは外に出てしまった。
フォルトを追いかけようとする私にジークが追いかけようとする私をたしなめるように、私の名前を呼んだ。
「レーナ」
「一人にしてほしいは、一人にしないでと同異義語!」
「そんな同異義語、聞いたことがないが……」
「えぇ、ジーク様ほど恋愛小説での読みが浅いお方には、理解できないでしょうとも」
「はぁ、好きにすればいい。私は止めたよ」
ジークはため息をつくと、呆れた顔でソファーに座った。
私もフォルトのあとを追いかけテラスを飛び出した。
庭を見渡すけど、人影はない。
私は胸元のラッキーネックレス様を握りしめた。私には運をも底上げするネックレスがある。
散々な目にあってきたけれど、すべてギリギリで回避できているわ。
これまでは、フォルトと会うことを望んだけれど、会えなかった。
でも、会うべき時にはちゃんとこのネックレスは会わせてくれる。
私は勘で、プライベートビーチのほうに降りた。
グスタフとの事件に巻き込まれたときは、私とあまり仲が良くないにも関わらず、私のことをシオンと探してくれたり、協力してくれた。
私が落ち込んでいるときは、ぎこちないながらもパンケーキを食べに行こうと誘ってくれた。
私が婚約者とうまくいっていないことを知った後や、婚約解消後も本当はお金のことで悩んでいたけれど、婚約者がいないことで悩んでいると知った私に、フォルトは私との婚約を前向きに考えてくれた。
水路でのときも、落ちたら絶対に大丈夫じゃないとわかっているくせに、自分が犠牲になってでも私の安全を優先した。
領主教育はそんな優しいフォルトがレーナのことを嫌いになるほど、つらかったはず。
そして、領主になるチャンスを私のせいでフォルトは不意にした。
でも私がジークとの婚約を解消したことは仕方ないじゃない。
だって、私はこの乙女ゲームの悪役令嬢。
ジークの婚約者で居続けたら、ヒロインとジークが恋に落ちたとき、私が断罪されるリスクがあることを知っていて、婚約を続行だなんてできなかった。
私が婚約を解消した余波でフォルトの努力をすべて無にしたり、アンナとミリーだけでなく、二人の家にまでこんな風に迷惑がかかるだなんて考えていなかった。
父がジークに手紙を送りつけてアンバーに呼んだ理由は、ジークと私が再び婚約してほしいからだとわかっていた。
でも、私はそれを自分の今置かれている立場など深く考えもせず突っぱねた。
私のせいだ。
静かに、静かにその場で動かず涙を流すフォルトを私は茫然と見つめていた。
ラスティーもフォルトも領主候補のあくまで一人であり、領主の候補者は二人以外にもいる。
父は上手だった。
父はきっとラスティーがフォルトに勝ったとしても、父の態度からして、別の候補者が領主戦に勝つようにうまく手をまわし動くことだろう。
この領主戦は行われること自体がすでに無意味。
しかし、私が今更ジークと再度婚約しても、意味がない。
一度受けた領主戦を辞退することなどできない。
かといって、今フォルトと婚約したとしても領主戦がなくなるはずもない。
『悔しかったらフォルトを勝たせてみなさい』という父の言葉がよみがえる。
父の言う通り、アンナとミリーの家が咎められることなく、フォルトの努力を今無駄にさせないための道は一つしかない。
一騎打ちでフォルトに勝ってもらうしかない。
そして、フォルトが自分だけの力で勝てないというならば、勝たせるしかないのだ。
私は、自分の両頬を思いっきりひっぱたいた。
パーンっと乾いた音が鳴って。
隣に立っていたジークも、泣いていたフォルトも私をみてポカーンとしていた。
「領主戦はまだ終わってないわ。今からでもやれることをしましょう」
「公爵様の口ぶりからして、レーナ嬢もわかってるだろ。俺じゃぁ、……ラスティーには勝てない」
フォルトは、涙を手で拭いながら私にそう答えた。
「勝てないじゃないの、勝つのよ! 可能性は0じゃないわ」
「レーナ、それ以上考えなしなことを言うのは……領主戦はいつまでも引き延ばせるものじゃない。この春休みが終わる前には、領主戦を執り行わないといけない」
ジークがこれ以上フォルトを追い詰めないでと言わんばかりに私をたしなめる。
「あと一か月ある。実際の領主戦の一騎打ちはフォルト一人で戦わないといけないかもしれないけれど、それまでの期間どうやってフォルトを勝たせるかは、皆で考えましょう」
「少し一人にしてくれないか?」
伸ばした私の手は振り払われフォルトは、私とジークをおいてテラスへと歩き出す。
「フォルト!」
私が名前を呼ぶとフォルトは立ち止まりこちらを振り返った。
「もう、戦う前から勝敗がわかっているのは、他の誰てもない俺が一番理解してる」
そういうと、テラスからフォルトは外に出てしまった。
フォルトを追いかけようとする私にジークが追いかけようとする私をたしなめるように、私の名前を呼んだ。
「レーナ」
「一人にしてほしいは、一人にしないでと同異義語!」
「そんな同異義語、聞いたことがないが……」
「えぇ、ジーク様ほど恋愛小説での読みが浅いお方には、理解できないでしょうとも」
「はぁ、好きにすればいい。私は止めたよ」
ジークはため息をつくと、呆れた顔でソファーに座った。
私もフォルトのあとを追いかけテラスを飛び出した。
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散々な目にあってきたけれど、すべてギリギリで回避できているわ。
これまでは、フォルトと会うことを望んだけれど、会えなかった。
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