126 / 171
星降る夜を見上げている場合ではない
第27話 勝たせる
しおりを挟む
フォルトが優しい人物であることを私は知っていた。
グスタフとの事件に巻き込まれたときは、私とあまり仲が良くないにも関わらず、私のことをシオンと探してくれたり、協力してくれた。
私が落ち込んでいるときは、ぎこちないながらもパンケーキを食べに行こうと誘ってくれた。
私が婚約者とうまくいっていないことを知った後や、婚約解消後も本当はお金のことで悩んでいたけれど、婚約者がいないことで悩んでいると知った私に、フォルトは私との婚約を前向きに考えてくれた。
水路でのときも、落ちたら絶対に大丈夫じゃないとわかっているくせに、自分が犠牲になってでも私の安全を優先した。
領主教育はそんな優しいフォルトがレーナのことを嫌いになるほど、つらかったはず。
そして、領主になるチャンスを私のせいでフォルトは不意にした。
でも私がジークとの婚約を解消したことは仕方ないじゃない。
だって、私はこの乙女ゲームの悪役令嬢。
ジークの婚約者で居続けたら、ヒロインとジークが恋に落ちたとき、私が断罪されるリスクがあることを知っていて、婚約を続行だなんてできなかった。
私が婚約を解消した余波でフォルトの努力をすべて無にしたり、アンナとミリーだけでなく、二人の家にまでこんな風に迷惑がかかるだなんて考えていなかった。
父がジークに手紙を送りつけてアンバーに呼んだ理由は、ジークと私が再び婚約してほしいからだとわかっていた。
でも、私はそれを自分の今置かれている立場など深く考えもせず突っぱねた。
私のせいだ。
静かに、静かにその場で動かず涙を流すフォルトを私は茫然と見つめていた。
ラスティーもフォルトも領主候補のあくまで一人であり、領主の候補者は二人以外にもいる。
父は上手だった。
父はきっとラスティーがフォルトに勝ったとしても、父の態度からして、別の候補者が領主戦に勝つようにうまく手をまわし動くことだろう。
この領主戦は行われること自体がすでに無意味。
しかし、私が今更ジークと再度婚約しても、意味がない。
一度受けた領主戦を辞退することなどできない。
かといって、今フォルトと婚約したとしても領主戦がなくなるはずもない。
『悔しかったらフォルトを勝たせてみなさい』という父の言葉がよみがえる。
父の言う通り、アンナとミリーの家が咎められることなく、フォルトの努力を今無駄にさせないための道は一つしかない。
一騎打ちでフォルトに勝ってもらうしかない。
そして、フォルトが自分だけの力で勝てないというならば、勝たせるしかないのだ。
私は、自分の両頬を思いっきりひっぱたいた。
パーンっと乾いた音が鳴って。
隣に立っていたジークも、泣いていたフォルトも私をみてポカーンとしていた。
「領主戦はまだ終わってないわ。今からでもやれることをしましょう」
「公爵様の口ぶりからして、レーナ嬢もわかってるだろ。俺じゃぁ、……ラスティーには勝てない」
フォルトは、涙を手で拭いながら私にそう答えた。
「勝てないじゃないの、勝つのよ! 可能性は0じゃないわ」
「レーナ、それ以上考えなしなことを言うのは……領主戦はいつまでも引き延ばせるものじゃない。この春休みが終わる前には、領主戦を執り行わないといけない」
ジークがこれ以上フォルトを追い詰めないでと言わんばかりに私をたしなめる。
「あと一か月ある。実際の領主戦の一騎打ちはフォルト一人で戦わないといけないかもしれないけれど、それまでの期間どうやってフォルトを勝たせるかは、皆で考えましょう」
「少し一人にしてくれないか?」
伸ばした私の手は振り払われフォルトは、私とジークをおいてテラスへと歩き出す。
「フォルト!」
私が名前を呼ぶとフォルトは立ち止まりこちらを振り返った。
「もう、戦う前から勝敗がわかっているのは、他の誰てもない俺が一番理解してる」
そういうと、テラスからフォルトは外に出てしまった。
フォルトを追いかけようとする私にジークが追いかけようとする私をたしなめるように、私の名前を呼んだ。
「レーナ」
「一人にしてほしいは、一人にしないでと同異義語!」
「そんな同異義語、聞いたことがないが……」
「えぇ、ジーク様ほど恋愛小説での読みが浅いお方には、理解できないでしょうとも」
「はぁ、好きにすればいい。私は止めたよ」
ジークはため息をつくと、呆れた顔でソファーに座った。
私もフォルトのあとを追いかけテラスを飛び出した。
庭を見渡すけど、人影はない。
私は胸元のラッキーネックレス様を握りしめた。私には運をも底上げするネックレスがある。
散々な目にあってきたけれど、すべてギリギリで回避できているわ。
これまでは、フォルトと会うことを望んだけれど、会えなかった。
でも、会うべき時にはちゃんとこのネックレスは会わせてくれる。
私は勘で、プライベートビーチのほうに降りた。
グスタフとの事件に巻き込まれたときは、私とあまり仲が良くないにも関わらず、私のことをシオンと探してくれたり、協力してくれた。
私が落ち込んでいるときは、ぎこちないながらもパンケーキを食べに行こうと誘ってくれた。
私が婚約者とうまくいっていないことを知った後や、婚約解消後も本当はお金のことで悩んでいたけれど、婚約者がいないことで悩んでいると知った私に、フォルトは私との婚約を前向きに考えてくれた。
水路でのときも、落ちたら絶対に大丈夫じゃないとわかっているくせに、自分が犠牲になってでも私の安全を優先した。
領主教育はそんな優しいフォルトがレーナのことを嫌いになるほど、つらかったはず。
そして、領主になるチャンスを私のせいでフォルトは不意にした。
でも私がジークとの婚約を解消したことは仕方ないじゃない。
だって、私はこの乙女ゲームの悪役令嬢。
ジークの婚約者で居続けたら、ヒロインとジークが恋に落ちたとき、私が断罪されるリスクがあることを知っていて、婚約を続行だなんてできなかった。
私が婚約を解消した余波でフォルトの努力をすべて無にしたり、アンナとミリーだけでなく、二人の家にまでこんな風に迷惑がかかるだなんて考えていなかった。
父がジークに手紙を送りつけてアンバーに呼んだ理由は、ジークと私が再び婚約してほしいからだとわかっていた。
でも、私はそれを自分の今置かれている立場など深く考えもせず突っぱねた。
私のせいだ。
静かに、静かにその場で動かず涙を流すフォルトを私は茫然と見つめていた。
ラスティーもフォルトも領主候補のあくまで一人であり、領主の候補者は二人以外にもいる。
父は上手だった。
父はきっとラスティーがフォルトに勝ったとしても、父の態度からして、別の候補者が領主戦に勝つようにうまく手をまわし動くことだろう。
この領主戦は行われること自体がすでに無意味。
しかし、私が今更ジークと再度婚約しても、意味がない。
一度受けた領主戦を辞退することなどできない。
かといって、今フォルトと婚約したとしても領主戦がなくなるはずもない。
『悔しかったらフォルトを勝たせてみなさい』という父の言葉がよみがえる。
父の言う通り、アンナとミリーの家が咎められることなく、フォルトの努力を今無駄にさせないための道は一つしかない。
一騎打ちでフォルトに勝ってもらうしかない。
そして、フォルトが自分だけの力で勝てないというならば、勝たせるしかないのだ。
私は、自分の両頬を思いっきりひっぱたいた。
パーンっと乾いた音が鳴って。
隣に立っていたジークも、泣いていたフォルトも私をみてポカーンとしていた。
「領主戦はまだ終わってないわ。今からでもやれることをしましょう」
「公爵様の口ぶりからして、レーナ嬢もわかってるだろ。俺じゃぁ、……ラスティーには勝てない」
フォルトは、涙を手で拭いながら私にそう答えた。
「勝てないじゃないの、勝つのよ! 可能性は0じゃないわ」
「レーナ、それ以上考えなしなことを言うのは……領主戦はいつまでも引き延ばせるものじゃない。この春休みが終わる前には、領主戦を執り行わないといけない」
ジークがこれ以上フォルトを追い詰めないでと言わんばかりに私をたしなめる。
「あと一か月ある。実際の領主戦の一騎打ちはフォルト一人で戦わないといけないかもしれないけれど、それまでの期間どうやってフォルトを勝たせるかは、皆で考えましょう」
「少し一人にしてくれないか?」
伸ばした私の手は振り払われフォルトは、私とジークをおいてテラスへと歩き出す。
「フォルト!」
私が名前を呼ぶとフォルトは立ち止まりこちらを振り返った。
「もう、戦う前から勝敗がわかっているのは、他の誰てもない俺が一番理解してる」
そういうと、テラスからフォルトは外に出てしまった。
フォルトを追いかけようとする私にジークが追いかけようとする私をたしなめるように、私の名前を呼んだ。
「レーナ」
「一人にしてほしいは、一人にしないでと同異義語!」
「そんな同異義語、聞いたことがないが……」
「えぇ、ジーク様ほど恋愛小説での読みが浅いお方には、理解できないでしょうとも」
「はぁ、好きにすればいい。私は止めたよ」
ジークはため息をつくと、呆れた顔でソファーに座った。
私もフォルトのあとを追いかけテラスを飛び出した。
庭を見渡すけど、人影はない。
私は胸元のラッキーネックレス様を握りしめた。私には運をも底上げするネックレスがある。
散々な目にあってきたけれど、すべてギリギリで回避できているわ。
これまでは、フォルトと会うことを望んだけれど、会えなかった。
でも、会うべき時にはちゃんとこのネックレスは会わせてくれる。
私は勘で、プライベートビーチのほうに降りた。
136
お気に入りに追加
13,574
あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

小説主人公の悪役令嬢の姉に転生しました
みかん桜(蜜柑桜)
恋愛
第一王子と妹が並んでいる姿を見て前世を思い出したリリーナ。
ここは小説の世界だ。
乙女ゲームの悪役令嬢が主役で、悪役にならず幸せを掴む、そんな内容の話で私はその主人公の姉。しかもゲーム内で妹が悪役令嬢になってしまう原因の1つが姉である私だったはず。
とはいえ私は所謂モブ。
この世界のルールから逸脱しないように無難に生きていこうと決意するも、なぜか第一王子に執着されている。
そういえば、元々姉の婚約者を奪っていたとか設定されていたような…?
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。