上 下
115 / 171
星降る夜を見上げている場合ではない

第16話 軽率

しおりを挟む
「私が軽率でした」
 シオンの言葉に反論できることなど何もなくて、私は頭を下げた。
 仲のいい友人ということもあり、冷静な判断ができなくなっていたと思う。

「わかればいいよ」
 シオンはそういってうなづいた。
「アンナのことは、二人の判断に一任します」
「ご留意いただき感謝いたします。」


 いつまでも砂浜にいるわけにいかなくて、私たちはホテルに移動した。
 すっかり暗くなったホテルの前では、ジークが従者を連れて立っていた。
 私たちに気がつくと、ジークが小走りにこちらにやってきた。
「遅かったから心配した。これはいったい何が……いや、ここで話すべきではないな中に入ろう」
 チラリとリオンが抱えたアンナに視線をやると、本当に心配そうな顔をしたジークはそういってホテルの中に入るように促した。
「ジーク様これ、全部レーナ様が軽率だったせいなんで」
 移動中にシオンがすかさずそう言う。


「はぁ、ほんの少しの間にどうしてこうもまぁ……」
 シオンからのチクリをきいて、ジークはため息をつきながらそう言う。
 でも、アンナがいたんだもの。しょうがないじゃないと思ってしまうけど、これまでのこともあって、ジークの言葉に身に覚えのある私は心にサクサクとジークの苦情が突き刺さる。
「毎回だけど、何かあってからじゃまずいんで。もっと、レーナ様の心に響くようにチクチク言ってやってください。これまでも僕が自分の魔力とかできることとか考えろってことで、かなり歯に衣着せずにいってもこのザマなんで」
「ちょっ」
 なんてこと言ってくれてんのよとシオンをにらむけれど。
「事実じゃん……それに、髪と瞳の色を変えるアンクレットを着用してずいぶんと時間がたってるからね。いつ魔力切れになるかわかったもんじゃないんだからね」
 伸びたシオンの手が私の髪に触れる。
 シオンが触れた髪はいつもの金色ではなく、茶色だった。


 そういえばアンクレットをつけっぱなしだった。確かに、もうすでにあたりは暗いし、これだけ長いこと使用したことなどなかった。
 早く取らなきゃ危ない。アンナのことで聞きたいことがいろいろあったものだから、私が外見に魔力を割いていることなどすっかり忘れてしまっていた。
 魔力が切れれば動けなくなるから、本当に危なかった。魔道具ということもあり、一定のペースで吸われているせいか、私に危機感が全然わかなかったことも恐ろしい。


 取り合えず、私はエレベーターに乗ってすぐに、かがんでアンクレットをはずした。
 ふぅ、なんとか魔力切れは回避できたわと一息ついた。
 アンナはジークの部屋のリビングに運ばれ、長椅子に横にされる。
「さて、私がホテルに戻っている間に何があったか聞くとしよう。まず、は?」
 ジークはそういって、ちらりとリオンが長椅子に丁寧においたアンナに視線をやる。
「ジーク様、ではなくです。そうだよね……何この無駄なクオリティって僕も思ったもん。とっさに、誰かわかってほんとよかったよ。僕顔を覚えるの得意なほうでホントよかったよね。この人、信じがたいですがレーナ様のご学友のアンナ様です」
 シオンがジークの言葉を訂正する。
「……すまない。えっと、何がどうなってこうなったかがわからないんだが」
 ジークはお決まりの口元に手をやる考察ポーズをするとそう言った。
「それは、レーナ様しかわかんなくてさ、僕もリオンもどうしてこんなことになってるか聞きたかったんだよね」



「えっとですね。私もよくわからないのですが。発端はフォルトが領主戦を受けたことみたいです。アンナは領主戦が始まったこともあり、家として、静観するように言われたようで私にこれまでのように会うことを避けていたそうです。
 もともと、アンナとミリーは……公爵である父が、私に何か起こらないように見張りという意味合いもあってつけられていたらしくて。アンナは責任感が強いから、私のことが心配になったようで、こんな格好してまで姿を遠目から一目みれたらときてくれたそうです」
「ふむ」
 私の説明にジークがそう言う。


「さて、私もやはり聞かないといけないと思うのです。領主戦とはなんなのか。今フォルトがどういう立場でどうなっているのかを……」
「聞いても君には何もできない。これはフォルトが受けた領主戦だからだ。まだ、行われていないが、いずれ己の力量差を相手に見せるために決闘となるだろう」
「決闘!?」
 さらっと出てきた物騒な言葉に思わず驚いてしまう。
「どちらが領主にふさわしいかを決めるんだ。これが一番はっきりするから周りも納得しやすい。今は落ち着いているが、もし他領と戦うことになったときを皆考えるからね。より強い人物に上に立っていてほしいのさ。そして、周りを納得させる抜群の方法がもつ一つある」

 ジークがまっすぐと私を見つめ口を開いた。
「――――それが、直系である君との結婚だよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜

白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。 舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。 王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。 「ヒナコのノートを汚したな!」 「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」 小説家になろう様でも投稿しています。

婚約破棄?王子様の婚約者は私ではなく檻の中にいますよ?

荷居人(にいと)
恋愛
「貴様とは婚約破棄だ!」 そうかっこつけ王子に言われたのは私でした。しかし、そう言われるのは想定済み……というより、前世の記憶で知ってましたのですでに婚約者は代えてあります。 「殿下、お言葉ですが、貴方の婚約者は私の妹であって私ではありませんよ?」 「妹……?何を言うかと思えば貴様にいるのは兄ひとりだろう!」 「いいえ?実は父が養女にした妹がいるのです。今は檻の中ですから殿下が知らないのも無理はありません」 「は?」 さあ、初めての感動のご対面の日です。婚約破棄するなら勝手にどうぞ?妹は今日のために頑張ってきましたからね、気持ちが変わるかもしれませんし。 荷居人の婚約破棄シリーズ第八弾!今回もギャグ寄りです。個性な作品を目指して今回も完結向けて頑張ります! 第七弾まで完結済み(番外編は生涯連載中)!荷居人タグで検索!どれも繋がりのない短編集となります。 表紙に特に意味はありません。お疲れの方、猫で癒されてねというだけです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。