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短編
書籍化記念SS シオン
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ゲームが始まるその前に シオン
僕個人の荷物なんてものは、本当に少ない。
せいぜい身につける物くらいで、娯楽品なんて一つもない。
それでも、今目の前に並べられた制服も教科書も、学園生活に必要な物すべてが僕のものだ。
教会の神官として、王立魔法学園に入れだなんて明らかにきな臭い命令。
それでも、あそこにいたころより待遇自体はかなりましになった。
甘ったれな、いいとこのボンボンと嬢ちゃんだらけの学校。
容姿がちょっと整ってる僕にとって笑ってさえいれば、うまくいくから居心地が良かった。
一人部屋に、金さえ出せば食べれる満足な食事に。温かな寝床。
夜に襲われる心配もなく、ゆっくりと眠れたのはいつぶりだったっけ?
休みになれば、教会の信者を増やす目的として、神官の十字架を見えるように胸元につけて、傷を治す。
治したお金は、孤児院に送られる。
僕を学園に入れるだなんて、きな臭い命令の真の理由をしるまでは。
「シオン~、あんたに探してほしい人物がいるの」
顔を隠した男のくせに女言葉で話す、これが僕の上司グスタフ様。
「かしこまりました~。一体どんな人物ですか?」
にっこりと、表向きの顔を作って受け答えする。
「身分は高くなくて、下級貴族や庶民として入学した生徒……あっ、――――男の子……ね。私もどの子かわからないの。でもこれだけはわかるわ、目障りな王家が大事に大事に隠し育ててきた龍の子――お う じ さ ま」
大人が入り込めず、入り込めたとしても満足に動くことが困難な学園―――魔力が高い僕を神官として学園にねじ込んだ理由。
見つけたらどうするのか……そりゃ、穏便にってわけにいかないことが探す前からわかる。
それでも、探し出してどうするのか? だなんて、聞けない。
「学園生活は長いの~。悟られたら台無しなの――わかるわよね?」
僕が学園都市で治癒魔法を使って稼いだお金をジャラジャラと鳴らしながらそういう。
それだけで、意味がわかる。
僕が持ってきたこのお金は孤児院に行くべきお金だ。
教会の信者は沢山いる。
僕にとっては大したことない格下でも、魔力を持たない孤児院の子供や園長にとっては十分脅威となる。
「はい。グスタフ様の仰せのままに」
不本意でも、にっこりを笑顔を浮かべる。
協会が好む金の瞳と白の髪を、わざわざ魔力を大量に割いて維持して馬鹿らしい。
それでも、僕が守りたいものを守るためには上が望むように動かないといけないのだ。
「まったく、その邪魔らしい髪を切りなさいよ。せっかくの顔に半分かかっているじゃない」
僕の髪に触れようとグスタフの手が伸びてきて、反射的に1歩後ろに下がった。
目にかかっても髪を切らないのは僕が許されている数少ない反抗なのだ。
にっこりと笑みを浮かべていると、グスタフのほうがため息をついて引いた。
王子様を見つけたら、僕は一体どうなるんだろう。
それでも、逆らうことはできない。
僕は大事な物を人質に取られているし、たった一人でどうこうできるはずもない。
むしゃくしゃする。むしゃくしゃする。むしゃくしゃする。
◆◇◆◇
休日は、ゆっくり休むことはできない。学園街に降りて、治癒をして、寮に帰る。
疲れた、少し休んだらまた探さなきゃ。
人の少ない場所を選んで歩く。休日まで愛想を振りまくなんてうんざりだし。
そんな時だ、同じクラスの悩みなんて何もなさそうなボンボンが女の子と一緒にいたのだ。
椅子に座って、寄り添ってなんだかいい感じなのがむかつく。
そうだ……邪魔してやろう。
ただの気まぐれだった。邪魔をして僕のこのイライラをほんの少しでも発散しようと思ったんだ。
これが、僕の運命を変える出会いになるだなんてあの時ちっとも思ってもなかった。
「フォルト様、今日も女性とご一緒とはやりますね。僕にもそちらの女性を紹介してくださいよ~」
「連日女性を連れているわけではありません。誤解を招くようなことを言わないでもらえますか?」
僕の掛けた言葉にすぐに否定を入れてくる。
でも残念、彼女が疑問にもてばそれでいいんだよ。
「これは失礼いたしました~」
さて、どうでるかと、にこにこと引く。
でも、女子生徒はフォルト様に何か言うわけでもなく、目をハンカチで押えたまま僕たちの会話にも割り込まない。
クソっ、不発だったかな。
「シオンは神官ということは、癒しの魔法も使えるよな?」
「えぇ、簡単なものなら可能ですが……。なにぶんまだ未熟ですので」
ゲェ……不仲にさせる作戦が不発どころか。治癒魔法使えってか?
冗談じゃないとやんわりと断る雰囲気にしてみる物のだめだった。
これだから、貴族のぼんぼんは嫌なんだよ。
「えぇ、かまいませんよ。ただ……、少し痛みを伴うかもしれませんね」
だから、ちょっとくらいこの女の子のほうに意地悪してやろうって思ったんだ。
ひどい目の腫れで噴き出しそうになったけれど、グッと耐える。
なんだよ、この顔。全力で笑わせに来んな。
あっさりと、瞼に触れることができた。
そして、悪意をもって、魔力を少女の瞼に流した。ゆっくり ゆっくりと。
さて、すぐに痛みに声を上げるはずというのは裏切られた。
涼しい顔のままだからだ。
信じられなかった。ちょっと魔力を流せば、大の男も声をあげた。さらに強い魔力にしても、それは変わらず、確認しても『痛みは特にない』と言われてしまう。
向きになって全力で流しても全然彼女の顔色は変わらなかった。
チッと心の中で舌打ちをして、これ以上は不自然だと切りあげた。
腫れが引いたのをみて、フォルト様のはとこのお嬢さまのレーナ様だとすぐにわかった。
ただ働きさせやがってと思ったけれど。
彼女が貴族らしく、お礼を払うべくポケットをあさりだしたから、まぁ許すことにした。
問題はそこからだ。
銀貨5枚もの大金をポンっと僕の手に乗せたのはどうでもいい。
彼女はこういった。
「シオン様、これよかったら、孤児院のたしに」と。
神官であることは公表していても孤児院のことは当然僕が協会に金を差し出してでも保護してることなど公表されてない。
意表をつかれたことを言われて絶句してしまった。
フォルト様に話しかけられてはっとした。
「いえ……、なんでもありません。私のような未熟な術にこんなに沢山頂いてしまってすみません」
そういってにっこりと笑みを浮かべて頭を下げてると真顔になってしまった。
にっこりと再び笑顔を浮かべて顔をあげた僕が見たのは、表情を取り繕ってるつもりだけれど、明らかに『僕に』おびえている彼女だった。
僕に対して、明らかに失言をしたと気付いたというのが正しいだろうか。
レーナ様に対しては、フォルト様のほうがひどい扱いをしていた。なのになぜ、今日会ったばかりの僕におびえる?
どうして?
笑顔を浮かべてレーナ様を見送って、レーナ様とフォルト様の会話を思い出す。
鞄を持っていなかった。ということは、一度絶対寮に戻る。早く先回りしなきゃ。
彼女は明らかに僕におびえる弱者だった。
絶対に彼女に出し抜かれないと思っていた。
その時までは。
「形勢逆転ですわね。シオン様?」
ありえなかった。信じられなかった、魔力量が乏しいことも、能力に優れていないことも、魔力線に魔力を流した僕にはわかる。
それでも、出し抜かれたのだ。
次は、彼女に利用される?
孤児院はどうなるの?
「あなたが今血眼になって探し殺そうとしてる相手はこの国の第二王子です。だからこのままでは上手くいってもいかなくても、遅かれ早かれあなたごと切られるでしょう。あなたが大事にしてるもの全部私が守ってあげる。これでも、一応公爵令嬢よ」
彼女がいったことは僕が一番欲しい言葉だった。
助けてほしかった、つらかった、手なんて汚したくなかった。
王子を見つけてどうするのかなんて、言われなくてもなんとなくわかっていた。
誰も、僕のことを救ってなんかくれないって思ってた。
だから、思いもよらない言葉を受けて、言葉が出てこない。
「だから……神官を辞めて私のものになりなさい。私にはあなたが必要なの。ほら……パーティーには回復役絶対いるでしょ! ちょっと、聞いてるの?」
真っ暗だった僕の前に光が差し込んだ。
僕より、ちっとも強くなくて、地位だけ高くて、態度がちょっと偉そうな女の子。
信じたかった。
すべてのしがらみから解放されたかった。
だから、僕はレーナ様の指を噛み血を舐め、心から彼女へ服従を誓った。
これが、僕がレーナ様に差し出せる、精一杯の誠意だったから。
治癒師として生を受けた、不本意だけど沢山の人を癒してきた。
治癒師として人を癒すこの手で誰かを殺めたりなんかしたくない。
『だから、お願い。どうか僕を、助けてレーナ様』
僕個人の荷物なんてものは、本当に少ない。
せいぜい身につける物くらいで、娯楽品なんて一つもない。
それでも、今目の前に並べられた制服も教科書も、学園生活に必要な物すべてが僕のものだ。
教会の神官として、王立魔法学園に入れだなんて明らかにきな臭い命令。
それでも、あそこにいたころより待遇自体はかなりましになった。
甘ったれな、いいとこのボンボンと嬢ちゃんだらけの学校。
容姿がちょっと整ってる僕にとって笑ってさえいれば、うまくいくから居心地が良かった。
一人部屋に、金さえ出せば食べれる満足な食事に。温かな寝床。
夜に襲われる心配もなく、ゆっくりと眠れたのはいつぶりだったっけ?
休みになれば、教会の信者を増やす目的として、神官の十字架を見えるように胸元につけて、傷を治す。
治したお金は、孤児院に送られる。
僕を学園に入れるだなんて、きな臭い命令の真の理由をしるまでは。
「シオン~、あんたに探してほしい人物がいるの」
顔を隠した男のくせに女言葉で話す、これが僕の上司グスタフ様。
「かしこまりました~。一体どんな人物ですか?」
にっこりと、表向きの顔を作って受け答えする。
「身分は高くなくて、下級貴族や庶民として入学した生徒……あっ、――――男の子……ね。私もどの子かわからないの。でもこれだけはわかるわ、目障りな王家が大事に大事に隠し育ててきた龍の子――お う じ さ ま」
大人が入り込めず、入り込めたとしても満足に動くことが困難な学園―――魔力が高い僕を神官として学園にねじ込んだ理由。
見つけたらどうするのか……そりゃ、穏便にってわけにいかないことが探す前からわかる。
それでも、探し出してどうするのか? だなんて、聞けない。
「学園生活は長いの~。悟られたら台無しなの――わかるわよね?」
僕が学園都市で治癒魔法を使って稼いだお金をジャラジャラと鳴らしながらそういう。
それだけで、意味がわかる。
僕が持ってきたこのお金は孤児院に行くべきお金だ。
教会の信者は沢山いる。
僕にとっては大したことない格下でも、魔力を持たない孤児院の子供や園長にとっては十分脅威となる。
「はい。グスタフ様の仰せのままに」
不本意でも、にっこりを笑顔を浮かべる。
協会が好む金の瞳と白の髪を、わざわざ魔力を大量に割いて維持して馬鹿らしい。
それでも、僕が守りたいものを守るためには上が望むように動かないといけないのだ。
「まったく、その邪魔らしい髪を切りなさいよ。せっかくの顔に半分かかっているじゃない」
僕の髪に触れようとグスタフの手が伸びてきて、反射的に1歩後ろに下がった。
目にかかっても髪を切らないのは僕が許されている数少ない反抗なのだ。
にっこりと笑みを浮かべていると、グスタフのほうがため息をついて引いた。
王子様を見つけたら、僕は一体どうなるんだろう。
それでも、逆らうことはできない。
僕は大事な物を人質に取られているし、たった一人でどうこうできるはずもない。
むしゃくしゃする。むしゃくしゃする。むしゃくしゃする。
◆◇◆◇
休日は、ゆっくり休むことはできない。学園街に降りて、治癒をして、寮に帰る。
疲れた、少し休んだらまた探さなきゃ。
人の少ない場所を選んで歩く。休日まで愛想を振りまくなんてうんざりだし。
そんな時だ、同じクラスの悩みなんて何もなさそうなボンボンが女の子と一緒にいたのだ。
椅子に座って、寄り添ってなんだかいい感じなのがむかつく。
そうだ……邪魔してやろう。
ただの気まぐれだった。邪魔をして僕のこのイライラをほんの少しでも発散しようと思ったんだ。
これが、僕の運命を変える出会いになるだなんてあの時ちっとも思ってもなかった。
「フォルト様、今日も女性とご一緒とはやりますね。僕にもそちらの女性を紹介してくださいよ~」
「連日女性を連れているわけではありません。誤解を招くようなことを言わないでもらえますか?」
僕の掛けた言葉にすぐに否定を入れてくる。
でも残念、彼女が疑問にもてばそれでいいんだよ。
「これは失礼いたしました~」
さて、どうでるかと、にこにこと引く。
でも、女子生徒はフォルト様に何か言うわけでもなく、目をハンカチで押えたまま僕たちの会話にも割り込まない。
クソっ、不発だったかな。
「シオンは神官ということは、癒しの魔法も使えるよな?」
「えぇ、簡単なものなら可能ですが……。なにぶんまだ未熟ですので」
ゲェ……不仲にさせる作戦が不発どころか。治癒魔法使えってか?
冗談じゃないとやんわりと断る雰囲気にしてみる物のだめだった。
これだから、貴族のぼんぼんは嫌なんだよ。
「えぇ、かまいませんよ。ただ……、少し痛みを伴うかもしれませんね」
だから、ちょっとくらいこの女の子のほうに意地悪してやろうって思ったんだ。
ひどい目の腫れで噴き出しそうになったけれど、グッと耐える。
なんだよ、この顔。全力で笑わせに来んな。
あっさりと、瞼に触れることができた。
そして、悪意をもって、魔力を少女の瞼に流した。ゆっくり ゆっくりと。
さて、すぐに痛みに声を上げるはずというのは裏切られた。
涼しい顔のままだからだ。
信じられなかった。ちょっと魔力を流せば、大の男も声をあげた。さらに強い魔力にしても、それは変わらず、確認しても『痛みは特にない』と言われてしまう。
向きになって全力で流しても全然彼女の顔色は変わらなかった。
チッと心の中で舌打ちをして、これ以上は不自然だと切りあげた。
腫れが引いたのをみて、フォルト様のはとこのお嬢さまのレーナ様だとすぐにわかった。
ただ働きさせやがってと思ったけれど。
彼女が貴族らしく、お礼を払うべくポケットをあさりだしたから、まぁ許すことにした。
問題はそこからだ。
銀貨5枚もの大金をポンっと僕の手に乗せたのはどうでもいい。
彼女はこういった。
「シオン様、これよかったら、孤児院のたしに」と。
神官であることは公表していても孤児院のことは当然僕が協会に金を差し出してでも保護してることなど公表されてない。
意表をつかれたことを言われて絶句してしまった。
フォルト様に話しかけられてはっとした。
「いえ……、なんでもありません。私のような未熟な術にこんなに沢山頂いてしまってすみません」
そういってにっこりと笑みを浮かべて頭を下げてると真顔になってしまった。
にっこりと再び笑顔を浮かべて顔をあげた僕が見たのは、表情を取り繕ってるつもりだけれど、明らかに『僕に』おびえている彼女だった。
僕に対して、明らかに失言をしたと気付いたというのが正しいだろうか。
レーナ様に対しては、フォルト様のほうがひどい扱いをしていた。なのになぜ、今日会ったばかりの僕におびえる?
どうして?
笑顔を浮かべてレーナ様を見送って、レーナ様とフォルト様の会話を思い出す。
鞄を持っていなかった。ということは、一度絶対寮に戻る。早く先回りしなきゃ。
彼女は明らかに僕におびえる弱者だった。
絶対に彼女に出し抜かれないと思っていた。
その時までは。
「形勢逆転ですわね。シオン様?」
ありえなかった。信じられなかった、魔力量が乏しいことも、能力に優れていないことも、魔力線に魔力を流した僕にはわかる。
それでも、出し抜かれたのだ。
次は、彼女に利用される?
孤児院はどうなるの?
「あなたが今血眼になって探し殺そうとしてる相手はこの国の第二王子です。だからこのままでは上手くいってもいかなくても、遅かれ早かれあなたごと切られるでしょう。あなたが大事にしてるもの全部私が守ってあげる。これでも、一応公爵令嬢よ」
彼女がいったことは僕が一番欲しい言葉だった。
助けてほしかった、つらかった、手なんて汚したくなかった。
王子を見つけてどうするのかなんて、言われなくてもなんとなくわかっていた。
誰も、僕のことを救ってなんかくれないって思ってた。
だから、思いもよらない言葉を受けて、言葉が出てこない。
「だから……神官を辞めて私のものになりなさい。私にはあなたが必要なの。ほら……パーティーには回復役絶対いるでしょ! ちょっと、聞いてるの?」
真っ暗だった僕の前に光が差し込んだ。
僕より、ちっとも強くなくて、地位だけ高くて、態度がちょっと偉そうな女の子。
信じたかった。
すべてのしがらみから解放されたかった。
だから、僕はレーナ様の指を噛み血を舐め、心から彼女へ服従を誓った。
これが、僕がレーナ様に差し出せる、精一杯の誠意だったから。
治癒師として生を受けた、不本意だけど沢山の人を癒してきた。
治癒師として人を癒すこの手で誰かを殺めたりなんかしたくない。
『だから、お願い。どうか僕を、助けてレーナ様』
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