悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

文字の大きさ
上 下
111 / 171
星降る夜を見上げている場合ではない

第12話 手際がいい

しおりを挟む
 フォルトは次の日、私が起きるよりも先に帰ったとジークがいっていた。
 結局私はそれ以上フォルトに聞くことはしなかったけれど。
 シオンに盟約を使って半ば脅して聞きとりをしないとは言っていない。

 でも、シオンも私が盟約を使えることを知っているものだから一向に、聞きだせそうなチャンスは与えてくれない。
 意図的に私と二人きりになるのを避けられてしまっている。
 あの夜からたった3日後。シオンのかき氷屋さんはオープンした。

 白い砂浜の上にグランピングのような大きなテントが張られ、その中にかき氷のお店は作られた。
 テントの中はジークが空調も兼ねているようでなかなか快適である。
 炎天下の砂浜の上で長時間の勤務は辛いと思っていたので、作業現場がひんやりとしているのはありがたい。
 テントの周辺には、地面に棒を4本突き刺し布を縛っただけの簡易なこじんまりとした天幕がいくつかと、椅子とテーブルが用意されていた。



 江戸切子のような彫り細工がされた美しいガラスの器。
 5色のガラスでできた口当たりのいいスプーン。
 大きな透明のガラス瓶に中が見えるように入れられた色とりどりのシロップ。
 飾り切りされたフルーツ達。

 めっちゃ手際よくフルーツを飾り切りしているリオン……私の下僕なのに普通に私抜きで借りだされてしまっているし。
 集中するためなのか、空調も兼ねてしまっているせいか珍しく笑顔がなく、氷をバラの形にする宴会芸を無駄に会得してしまったジーク。
 久しく見ていなかった天使モードのシオンがそこにはいた。


 可愛らしい白地の木でできた看板には、1杯銀貨3枚というかなりのぼったくり価格。
「この価格帯では庶民層に売れないのでは?」
 とジークが助言していたけれど。
「安い値段で何杯も作るとか大変じゃん、僕たちのかき氷が食べたい人からお金もらったほうが楽じゃん。その分数を出すつもりがあるなら別に僕は値段を下げてもかまいませんけど」
 の一言で、ジークは口をつぐんだ。


 本当に、シオンの学費が捻出できるだけ販売されるのかジークは心配しているようだったけれど、それは余計な心配だった。

 私はというと、アンクレットを久々につけて、茶色の髪と瞳のエレーナに久々になっていた。

 完全に見世物状態のジークがオーダーが入れば、女性の目の前で美しいバラの形のこぶし大の氷を作りだす。
 そして、容器の上に移動させると、パラパラと細かくまでしてくれる。
 氷が美しく細工されるまで1分にもみたないが、自分のためだけに美しい氷細工を作ってくれることを軽く考えていた。
 ぼったくり価格だというのに、すぐに列ができた。

 リオンの笑顔はぎこちないけど、シオンはしっかり商売人だった。
 かき氷を女性に手渡した後、その手にわざわざもう一度手を添えるサービスを行っていた。
「落とさないでね、食べ終わった器は悪いけど、ここまで返却に来てね」
 
 銀貨3枚もの価格帯にも関わらず、かき氷は飛ぶように売れた。
 そのせいで、ジークは結局氷細工を500個近くつくるハメとなり。
 飾り切り担当のリオンもかなりの数のめんどうな飾り切りを休憩をはさむ暇もなくつくるはめとなり。
 シロップと盛りつけかかりの私もてんやわんやだった。


 
「お母さんあたしも食べたい……」
 泣きだす子供、でもかき氷は気軽に買える値段ではない。
「シオン、ああいうのはどうするの?」
「正規の客だけでパンク寸前なのに対応できるわけないじゃん。あれは親が対応すればいいの、レーナ様対応できる余力があるならしたら?」
「私が今対応は無理ってことはみたらわかるわよね?」
 3つのかき氷を現在同時進行でフルーツ盛りつけている私にその余力などない。
 今にも店先で泣きだしそうな子供……どうするとリオンをみると、サッと目線をそらされる。
 ジークをみると、バラの形の氷細工を出した後ため息を軽くついた後に、子供のほうに人差し指を向けた。
 子供の顔の前に2cmほどのハートの形の氷が現れる。
 女の子はぽーっとした顔でジークに手を振って親に引っ張られてかえっていった。
 ジークに新しい小ネタが誕生した。



 その後客足は途絶えることはなく、こちらのシロップとフルーツが尽きたことで、我々はようやく解放された。
 いくら儲かったのか……ただ、たっぷりもうかったことだけはわかる。
 そして、きっと、私がへろへろで尋問できないことも思惑どおりなのだと思う。


 リオンが来ているのも、おそらく私の護衛を考えると一番適任だったから傍に連れてくるために、無理やりかき氷計画に巻き込まれたと推測される。
「もう、これだけ売れたら学費たまったんじゃなくって?」
「レーナ様、お金ってないと困るけど、あっても困ることってないんだよ。明日も朝からよろしくお願いします」
「嘘でしょ、無理無理」
しおりを挟む
感想 582

あなたにおすすめの小説

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?

いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、 たまたま付き人と、 「婚約者のことが好きなわけじゃないー 王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」 と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。 私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、 「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」 なんで執着するんてすか?? 策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー 基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。