上 下
109 / 171
星降る夜を見上げている場合ではない

第10話 どたばた

しおりを挟む
 結局リオンの脅威を説いたところで、私に下せるくらいならたいしたことない扱いをされるだろうとの結論になってしまった。
 窓の外は観光地……青い海に白い砂、そして白で統一された美しい建物達……
 観光地に浮かれるいちゃつくカップル、水着姿の若者たち……を私は窓からギリギリと睨みつけていた。

 最初の2,3日は仕方ないよねって気持ちだったけれど、それはだんだんと怒りと苛立ちに切り替わる。
 フォルトからは相変わらず連絡はなく、手紙を送るのは今は控えたほうがいいとジークにハッキリと言われてしまう。
 となると、アンナとミリーをホテルに呼んで部屋で女子会を開催しようと思ったのだけれど、それも跡取り問題でもめていることもあるのか、いい返事は頂けず。

「何で私がこんな目に……」
 私夏休み何をやっているのだろう状態だった。


 ジークのホテルに滞在して5日目の夜。バタバタと廊下が騒がしくて、ランプを片手に夜も遅い時間だというのにドアをそっと開けた。
 24時間代わりばんこに常駐しているメイドが私が部屋から顔をのぞかせると。
「すみません、レーナ様はお部屋に」
 手短にそう言われてひっこめと言われるけれど。何かが起こったのは間違いなくて引っ込んでもいられない。
 メイドとドアの辺りで、押し問答している横をジークが寝巻に羽織をはおった状態で眉間にしわをよせ不機嫌そうに早歩きで私の部屋の前を通る。
 紺色の寝巻姿にも関わらず、ジークは右手に剣を左手にランプを握りすたすたと早足に歩く。
 普通は寝巻姿で外に出るだなんてありえない。
 私とは違い、ジークはきちんとしているので寝間着姿のままでうろうろするようなタイプでもない。
「ジーク様」
 それだけジークが急いでるのはわかっているのだけれど、いったいそんな格好でジークが外に出なければいけないだなんて、何が起こっているのかと思わず声をかけた。
 メイドも流石に、私がジークと会話を試みたことで、扉の前から少しずれる。
「レーナすまないが後にしてくれ」
 ジークはちらりと一瞬だけ私に視線をやると、そう言ってすぐにエレベーターに消えてしまった。


 私達は正直なところ普通は寝巻姿でうろつくなどあり得ない。
 ジークは上に外出用の羽織を寝巻を隠すために急遽軽く羽織っただけだった。
 私の家にジークが長いこと昨年は滞在していたけれど、正直ジークの寝巻の姿などたったの1度も私はみたことがない。

 男女間ではあるけれど、メイドや従者がいるので二人きりにならないので、割と夜中でもリビングであれば私達は行き気することができた。
 たった一度だけ、暇だからと真夜中にジークにカードゲームでも起きていたらしないか? と私の部屋の前に待機しているメイド→ジークの従者→ジークの伝言ゲームで承諾してもらったときは。
 ほんの10分もしない間に、ジークはいつも通りきっちりとした服装でリビングに現れた。

 今日はそのほんの10分の最低限の身だしなみすら整える時間すらジークは惜しかったのだ。
 わかるはずもないけれど、窓の外を自室から眺めてみるけれど。
 見えるはずもなく。
 かといって、眠ることもできずに私は部屋の中をランプを持ちうろうろとしていた。

 2時間もたっただろうか、廊下が再び騒がしくなった。
 ジークが戻ってきたのだろう。
 いてもたってもいられず、私は再びドアをあけて廊下をのぞいた。
 そこには、ジークが先導して、その後ろにジークの従者であるカミルとシオンがフォルトに肩を貸しては入ってきたのだ。
 フォルトに何かあったとみて解った。
「フォルト!」
 私が部屋から出ようとするのをメイドが制止する。
「カミル二人を連れて中に」
 ジークは手短に指示を出すと、私の下にやってくると寝巻の上に羽織っていた上着をぬいで私にかける。
「ジーク様一体何があったのですか?」
「今からきちんと君にも話す、私も含め異性が複数人いるんだ。寝間着姿のままうろつかないでくれ」
 ジークがそういって控えているメイドに目くばせすると、メイドが私の横に来て何やら耳打ちをしてきた。
「レーナ様、そちらの魔具のランプをお持ちになると、寝巻が……」
 メイドがそういって言葉を濁したことで、外商に持ってこさせた新しい寝巻がそういえば魔道具のランプの灯りで透ける厄介な代物だったことを思い出す。
 私の服の秘密を知っているからこそ、ジークは慌てて上着を脱いで駆けてくれたのかもしれない。



 焦る気持ちを抑えて、メイドに手伝ってもらい手早く私は着替えさせてもらう。
いつもハーフアップにしてもらう髪も今日はそのままで。
 部屋を出ると、廊下には灯りがともされていた。

 メイドに先導されて、ジークの部屋を訪問すると、テーブルを囲んで、何やら3人で話しこんでいたようだ。
 ジークも私同様、服を着替えていた。
 私が部屋にはいるとジークの隣が開いていたのでとりあえず腰をおろした。
 シオンは不機嫌な表情でジークも難しい表情をしてるなか、フォルトだけがいつも通りの表情をしている。
 部屋に運び込まれた状態からして、フォルトに何かあったのだと思う。
「こんな夜更けに一体どうしたの?」
 フォルトに向かってそう切り出す。
「レーナ嬢久しぶりだな」
 私の意図はわかっているだろうに、いつものトーンでフォルトが私に挨拶をしてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。