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星降る夜を見上げている場合ではない

第4話 またややこしいことに

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 シオンの言葉に男が詰まった。
「血のつながりは貴族のマナーを守らない理由にはなりません。私の部屋から出て行ってくださる? もう私は14です。部屋に男性が許可なく押し入って有らぬ誤解をされては貴方も困るのではないですか?」
 私がハッキリと拒絶の言葉を言ったことで空気がさらにピリつく。
 私の目の前で男との間に立っているシオンは余計に気が立っていると思う。シオンは普段は私にかなり失礼なことをズケズケ言ってくるけれど常識人なのだ。
 シオンの後ろに立っているだけの私と違って、何かあれば私に手が伸びないようにシオンは動く必要があるのだから……。

「用があったから訪問している」
 私のハッキリとした拒絶になおも男は引かないし、私がこれだけ拒絶の意思を示しているというのに、メイドも護衛も動かない。これが時期領主になるかも知れない人間への態度なのだ。
 普段私によくしてくれるメイド達もあくまでこのアーヴァインの家の使用人。当然家族を持っているからこそもめた場合こいつが次期領主になったときアンバーに住めなくなると困るのだ。
「先に言っておくけど、僕はあんたに引いたこの家の護衛やメイド達と違って家じゃなくて個人に縛られてるから。代替わりしたらアンバーに住めなくなるかもという脅しには屈しないよ。だから害があると判断すれば他はあんたに手だししなくても僕は盟約の名の下守らざるを得ないからたとえアンタがどんな身分だって関係ないから」
 先ほどまでの丁寧な口調とは一転してシオンがハッキリと宣言した。
「本当にアンバーに住めなくなるぞ」
 はっきりとした脅しの言葉、こんな人間が時期領主候補なのかと愕然とする。人格者のフォルトは私を怨むほどに領主教育に縛られていた。目の前の男とフォルトはかなり年が違う。だからこそ余計に厳しかったのかもしれない。
「別に、そしたら僕はクライスト領にでも住むよ。あっちには僕を拒めない理由があるから。それに残念ながら僕はここの出身じゃないんで。観光地楽しむのは、別に今の当主が存命の間だけで十分だよ」
 シオンがそういいきった時、空気がぴりつき私の髪がふわっと逆立つ。この感じって……同じ感じではないけれど知っている。魔法を使うために魔力を貯めている時の前兆かもしれない。ジークが何回か魔法を使った時辺りの温度が一気に下がったもの。

 そう思った時だった。
 私の部屋の温度が一気に下がった。
 私の部屋の扉がゆっくりとあいて、ピリピリする空気の中、平然といつも通りの愛想笑いを顔に張り付けて登場したのはジークだった。
 部屋の温度が一気に下がったから、もしやと思ったらその通りだった。
 アーヴァインの家系は雷魔法の使い手を多く輩出してるから、先ほどの髪の毛がふわっと逆立つ感じはかなりの量の魔力を練り混んだ時に周囲に起こるやつだったのかもとぶるっとする。
「やぁ、レーナごきげんよう」
 この空気の中でジークは実に優雅に挨拶の言葉を私に向けてかけてくる。
「ごきげんよう、ジーク様」
「遅くなってしまったせいで、どうやら悪い虫がいるようだけれど……」
「いえ、久しぶりに帰ってきたレーナに挨拶をしに来ただけです」
 男はジークには丁寧な態度でかえすと、何事もなかったのかのように私の部屋を後にした。


 その途端部屋にこもっていた大量の魔力が拡散したことで、私は張り詰めていたものがとけた。
「遅いよ、ジーク様」
「すまないシオン、私が滞在してる我が家のホテルからレーナの家まで距離があって……これでも急いできたんだ」
 我が家のホテルとか気になることをさらりとジークがいっていたけれど。とりあえず今は緊張から解放されたから一口何か飲みたい。
「それにしても、跡を継ぐジーク様相手にはさすがに引くんだね」
「クライスト領はアンバー領と隣接しているし、私ともめるということは跡を付いたときに外交で困るのは明白だからね。まさかこんなに早く正面突破で公爵家のレーナの部屋に乗り込んでくるとは思わなかったよ。公爵が何としてでも私をアンバーに呼ぶわけだ……。レーナとの婚約を見直してほしい理由は十分に解ったが……本人にその気もないのにどうすればいいんだか。それにしてもフォルトも今回のレーナのアンバー領への滞在は気が気ではないだろうな……」

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