悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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短編

ジークへのプレゼント

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 2話の後プレゼントを押し付けられたジーク。


 何か失礼なことをしたのだろうか? と考え直すが、やり取りを思い返してみたがあれほど怒らせるようなことをしたとは思えなくて困惑する。
 突然不機嫌になり、会話を中断し『部屋に帰れ』と、私の背中をこれでもかと押すような会話だっただろうか……。
 一体何だとドアの前で茫然としてると再び扉が開けられて、今度こそ何なんだ? と思えば、半ば強引に何か袋を押し付けられ。レーナは再び扉をバタンと音を立てて閉めて嵐のように去って行った。


 とりあえず、理由はわからないが気分を害して不機嫌になったのはわかる。部屋に押し込んだのも今日はこれ以上会いに来ないでという意味だということもわかる。
 でも、私が今押し付けられたレーナの言動とは結び付かない可愛らしいラッピングをされた袋は何なのか途方に暮れていたが。
 メイドの一人が先ほどのやり取りには全く触れずに、「プレゼント、レーナ様ご用意されていたのですね」と言ったことで渡してなかったと言っていた私への誕生日プレゼントなのかとようやく押し付けられた物の正体がわかった。

 メイドがお預かりいたしますとプレゼントをもって下がった。



 レーナからのプレゼントの封を私が開けないのはいつものことだった。私もいつからかそれが当たり前だったから、レーナからの誕生日プレゼントは同時期に届くプレゼントの山の中にいつも埋もれてしまっていた。



◆◇◆◇

 目を開けたとき、視界に入ったのは見慣れた天井だった。
 やわらかなベッドと不快感のないからだ、従者が風呂私をつっこんだのだろう。
 窓からみた日の高さであれからずいぶんと時間が経過したことがわかる。
 何があった?
 最後私は何をみた、思い出せ。

 レーナを水路に残してきてしまっている。水路内は崩壊箇所が多く合流するには別のところから入ったほうが賢明だろう。
 とりあえず地下水路の地図を手に入れてそれで……。

 名前を呼ばれたのだ。
「ジーク様、少しよろしいですか?」と。
 シオンだ、そこで記憶が途切れている……、従者も散々私が再度水路に入ろうとするのを止めていた。
 タイミングがよすぎるところで記憶が途切れているところをみるとそういうことなのだろう。

 やられた……。
 レーナは私の婚約者ではない。そして、レーナを何としても生かしておきたい理由がもうクライスト領にはない。
 レーナは確かにクライスト領の恩人ではある、だがクライストは長年魔子のせいで、優秀な魔力の使い手の大半を短命で失ってきた。
 私はクラエス家の直系で、だからこそ死というリスクがある場に関わらぬように、従者により今回のことから手を引かせるためにシオンに頼んだというところだろう。


 憤ったところで時間は戻らない。
 レーナの無事は起きた私に従者から告げられた。怪我はなく夜通し動かれたそうなので今は部屋でお休みになっておりますと告げられた。
 いつもであれば、レーナが部屋に戻り次第すぐに私に報告され、だから顔を出しに行くかそれが嫌なら見舞う言葉を手紙にしろすぐにと言われたずっと、ずっとそうだった。婚約を解消したことで、一気に周りがそれを言わなくなり婚約者でない距離を保たせる。

 彼女がこれまで通り傍にいても、大きな一線が目の前に引かれたことをようやく実感した。

 時間がたってから治癒された胸が痛み私もベッドに横になったときサイドテーブルに置かれていた可愛らしくラッピングされた袋が目に入った。


 そう言えば開けていなかった。
 誕生日は毎年憂鬱だった、歳を一つ重ねればそれだけクライストでの地獄の日々にまた一歩近づくと思っていたから。
 形ばかりとはいえ沢山もらうプレゼントはいつもメイドや従者が私から受け取り一か所に詰められ。しばらくして処分するようにと告げると、中身のリストを作ってくれていた。
 だけど、今年のレーナからのプレゼントをもらったのは時期が異なっていたし、私が処分するように言わなかったからずっとここに置かれていたのか。


 もう、歳を重ねても怖くはない。だから、小さい時以来のプレゼントの封を開けた。
 中から出てきたのはシンプルな銀のしおりと、万年筆だった。
 確か、パーティーの時プレゼントをクロークに預けっぱなしだったとか言っていた。そうか、その頃から決めていたのか……。
 確か、レーナへの誕生日プレゼントしてメイドが見つくろったのが銀細工の美しいしおりだったと言っていた気がする。


 誕生日に贈られた物と同じ種類のものをプレゼントに贈り返すのはタブーである。
 食べ物や花ならば違うが。物の場合は同じものを贈るという言葉は別の意味をもつ。
『貴方の気持ちはお受けできません』という断り文句になるからだ。
「そうか、そんな早くから君はもう決めていたのか」
 隅に飾りがはいった銀のしおりの表面を指でなでた。


 君といると、いつの間にか猫を被るのを忘れてしまうほど、思っていることをあけすけにぶつけるようになったのはいつからだろうか。
 友くらいにはなれるかなと思ったが……ハッキリと振られてしまったな。


 レーナがこの世界のタブーであることを知らずジークに同じものを贈り返したことをジークは知る由もなかった。
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