悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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人の恋路を応援している場合ではない

第36話 ぶちぬき

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 うごめくスライムはひたすら水を浄化する。
 私が水に落ちた段階ですでに、濁りはわからないほど透き通っていた。だからこそ、このスライムはこの水路にとってとても重要な特定保護魔物だったんだ。


 服が乾いたこと、治癒魔法をかけてもらったことで私は全快していた。
 はぁ、ヤバかった。
 爪もだけど、人を一人支えた肩から腕にかけてが本当にヤバかった。語彙力が低くて申し訳ないけど、ヤバいしか言えないくらいヤバかった。

 私がフォルトを支えられたのはほんのわずかの時間だったけれど、そのほんのわずかの時間があったからこそ。
 水の中に落ちたスライムの魔核はスライムになり、落ちても大丈夫なほど水を浄化してくれたのだ。
 踏ん張った甲斐は一応あったのである。

 
 少なくとも、私がフォルトを助けようとしなければ、魔核の入った袋から中身がこぼれて落ちることなどなかったし。
 本当に時間をさかのぼると、リオンを呼ぶために魔力を使おうと魔核に魔力をたまたまこめたことなどいろんなことが重なって運が良かったのだと思う。

「無茶しないでくれ」
 ぽつりとフォルトがそういった。
「無事でよかったよねお互い」
「そうだな、結果論としては。次は後先考えずに動くのは本当に止めてほしい」
 フォルトは懲りない。
 いや、フォルトにしてみれば私が懲りてないのだろうけれど……。


 それにしても、前は恐ろしい液をかけてきたスライムは私達の下でうごめいているけれど攻撃のそぶりはない。
「なんで攻撃してこないのかしら?」
「魔核に魔力を込めたのはどちらですか?」
 リオンがそう言ってくる。
「私!」
「魔核に魔力が残っている間、軽く隷属扱いなんでしょう。丸一日は人を攻撃しないと思いますよ」
 なるほどである。

 リオンのうんちくをまったりと効いていた時だった。


「伏せて」
 突然リオンがそう言う。
 フォルトが私に覆いかぶさって、フォルトの更に上にリオンが覆いかぶさる。
 まさか、ヒュドラとかいうのがもどってきたの? と思っていたら光が差し込んだ。

 
 二人が私の上からどいて、私も上を見上げた、そこには1層と2層がつながる大穴だけではなく、さらにその上がちょうどぶち抜かれていた。
 泣きそうな顔をしたたぶん学園の生徒が一人が一人見えた。
 ごめん、誰アイツである。
 知り合いではないけれど、おそらく天井をどうにかしたのは泣きそうになってる彼の土魔法なのだと思う。
 派手にあいてる。

 そして、ロープを片手に上から降ってきた……いや飛び降りてきたのはシオンだった。
「シオンよかった、無事だったのね。どうしてここがわかったの!」
 凄くいいタイミング、スライムの魔核はスライムになっちゃったけどあるべき水路に戻ったし、ヒュドラは魔法省の人がたぶん何とかするだろう。
 後は脱出だけが問題だったけど、これでその問題も解決である。

「シオン?」

「アンタが死にそうになったからでしょ!!!!」
 シオンの大きなツッコミが水路にこだました。
 そうでした、すっかり全快になったけれど、水が冷たくてちょっと危なかった。確かに。


 シオンにしてみたら、私の安否がやばくなったらわかるわけで。
 すぐに駆けつけたい、でも水路の迷路は今は崩壊している箇所があるしどうしたらいいのかって中、シオンが出した答えは土魔法を使えるやつを引っ張ってきて位置はわかるから大穴をレーナまで直通で開ければいいじゃんという何とも大胆な選択だった。


 水路の内部はすでにかなりの被害だし、穴も正直今さら一戸増えたっていいだろうというシオンらしい考え。
でも、脅され、この真下に用があるからお前魔法で穴を開けろと言われた生徒はたまったものではない。でも恐怖に負けて魔法を使ってみたというところにつながる。

 結局土魔法を使った生徒は人命救助のためとういうことでおとがめはなかった。


 私は、何時間ぶりか久々に外に出た。
 出るのも大変だった。ロープがあるけれど、プラーンとなっているロープをよじ登れるわけもなく皆様にご迷惑を……、特に一番関係のなかった土魔法の彼には階段を作ってもらったりと多大なるご迷惑をかけました。


 後始末に皆忙しそうだった。リオンは魔法省の皆さまのところに、私とフォルトも来るようにとのことだったけれど、フォルトが俺が行くからレーナ嬢はつかれているだろうから日を改めてほしいと交渉をしてくれたおかげで私は一度部屋に戻れることとなった。

 シオンが私を部屋へと送ることになった。
 それにしても、水路内うろうろしていたけれど、外にでても此処はどこ状態だ。
 シオンは学園までの道がわかるようなのでついていけばよさそうだからよかった。
「ジーク様は大丈夫だった?」
 シオンとの帰り道私は別れた時、骨が折れていたジークがどうなったか気になってシオンにきいた。
「治癒したよ。レーナ様のことを気にしていて、水路内の地図を手に入れてこられて再び水路に入るつもりみたいだったけれど、時間が経過してからの治癒だったから部屋で少し休むように勧めたんだけど、ご納得いただけなかったので、侍女と相談して、多少荒っぽい感じでちょっと眠ってもらった」
 おい、お前さらっとジーク昏倒させた宣言はいってるぞ。
 仲間からの突然の裏切りパターン、かつ本調子でないことに加え最初から昏倒させるつもりのシオンにやられたのか……。

「そう……」
 ちらりと私の歩みに合わせて歩くシオンはシレッと恐ろしいことを言う。
 いつもは饒舌な彼があまり話さない。おそらく私が無茶をしたことを怒っているのだろう。
「怒っていますか?」
「怒ってないよ」
 これ、怒っているけど、怒ってないときの常套句じゃん。
「怒ってるよね?」
「しつこい!」
「ほら、怒ってるじゃない」
 シオンはため息を一つ吐くと。
「よし、ほら目をつぶって歯をくいしばれ」
 めちゃくちゃいい笑顔で私にそう言う。


「絶対嫌」
「ほら、僕もうすぐ誕生日だし。日ごろのうっぷん一発晴らしておこう。許可がないとがいせないし、ほら、ねっ。目をつぶって歯をくいしばれ」
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