上 下
88 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第36話 ぶちぬき

しおりを挟む
 うごめくスライムはひたすら水を浄化する。
 私が水に落ちた段階ですでに、濁りはわからないほど透き通っていた。だからこそ、このスライムはこの水路にとってとても重要な特定保護魔物だったんだ。


 服が乾いたこと、治癒魔法をかけてもらったことで私は全快していた。
 はぁ、ヤバかった。
 爪もだけど、人を一人支えた肩から腕にかけてが本当にヤバかった。語彙力が低くて申し訳ないけど、ヤバいしか言えないくらいヤバかった。

 私がフォルトを支えられたのはほんのわずかの時間だったけれど、そのほんのわずかの時間があったからこそ。
 水の中に落ちたスライムの魔核はスライムになり、落ちても大丈夫なほど水を浄化してくれたのだ。
 踏ん張った甲斐は一応あったのである。

 
 少なくとも、私がフォルトを助けようとしなければ、魔核の入った袋から中身がこぼれて落ちることなどなかったし。
 本当に時間をさかのぼると、リオンを呼ぶために魔力を使おうと魔核に魔力をたまたまこめたことなどいろんなことが重なって運が良かったのだと思う。

「無茶しないでくれ」
 ぽつりとフォルトがそういった。
「無事でよかったよねお互い」
「そうだな、結果論としては。次は後先考えずに動くのは本当に止めてほしい」
 フォルトは懲りない。
 いや、フォルトにしてみれば私が懲りてないのだろうけれど……。


 それにしても、前は恐ろしい液をかけてきたスライムは私達の下でうごめいているけれど攻撃のそぶりはない。
「なんで攻撃してこないのかしら?」
「魔核に魔力を込めたのはどちらですか?」
 リオンがそう言ってくる。
「私!」
「魔核に魔力が残っている間、軽く隷属扱いなんでしょう。丸一日は人を攻撃しないと思いますよ」
 なるほどである。

 リオンのうんちくをまったりと効いていた時だった。


「伏せて」
 突然リオンがそう言う。
 フォルトが私に覆いかぶさって、フォルトの更に上にリオンが覆いかぶさる。
 まさか、ヒュドラとかいうのがもどってきたの? と思っていたら光が差し込んだ。

 
 二人が私の上からどいて、私も上を見上げた、そこには1層と2層がつながる大穴だけではなく、さらにその上がちょうどぶち抜かれていた。
 泣きそうな顔をしたたぶん学園の生徒が一人が一人見えた。
 ごめん、誰アイツである。
 知り合いではないけれど、おそらく天井をどうにかしたのは泣きそうになってる彼の土魔法なのだと思う。
 派手にあいてる。

 そして、ロープを片手に上から降ってきた……いや飛び降りてきたのはシオンだった。
「シオンよかった、無事だったのね。どうしてここがわかったの!」
 凄くいいタイミング、スライムの魔核はスライムになっちゃったけどあるべき水路に戻ったし、ヒュドラは魔法省の人がたぶん何とかするだろう。
 後は脱出だけが問題だったけど、これでその問題も解決である。

「シオン?」

「アンタが死にそうになったからでしょ!!!!」
 シオンの大きなツッコミが水路にこだました。
 そうでした、すっかり全快になったけれど、水が冷たくてちょっと危なかった。確かに。


 シオンにしてみたら、私の安否がやばくなったらわかるわけで。
 すぐに駆けつけたい、でも水路の迷路は今は崩壊している箇所があるしどうしたらいいのかって中、シオンが出した答えは土魔法を使えるやつを引っ張ってきて位置はわかるから大穴をレーナまで直通で開ければいいじゃんという何とも大胆な選択だった。


 水路の内部はすでにかなりの被害だし、穴も正直今さら一戸増えたっていいだろうというシオンらしい考え。
でも、脅され、この真下に用があるからお前魔法で穴を開けろと言われた生徒はたまったものではない。でも恐怖に負けて魔法を使ってみたというところにつながる。

 結局土魔法を使った生徒は人命救助のためとういうことでおとがめはなかった。


 私は、何時間ぶりか久々に外に出た。
 出るのも大変だった。ロープがあるけれど、プラーンとなっているロープをよじ登れるわけもなく皆様にご迷惑を……、特に一番関係のなかった土魔法の彼には階段を作ってもらったりと多大なるご迷惑をかけました。


 後始末に皆忙しそうだった。リオンは魔法省の皆さまのところに、私とフォルトも来るようにとのことだったけれど、フォルトが俺が行くからレーナ嬢はつかれているだろうから日を改めてほしいと交渉をしてくれたおかげで私は一度部屋に戻れることとなった。

 シオンが私を部屋へと送ることになった。
 それにしても、水路内うろうろしていたけれど、外にでても此処はどこ状態だ。
 シオンは学園までの道がわかるようなのでついていけばよさそうだからよかった。
「ジーク様は大丈夫だった?」
 シオンとの帰り道私は別れた時、骨が折れていたジークがどうなったか気になってシオンにきいた。
「治癒したよ。レーナ様のことを気にしていて、水路内の地図を手に入れてこられて再び水路に入るつもりみたいだったけれど、時間が経過してからの治癒だったから部屋で少し休むように勧めたんだけど、ご納得いただけなかったので、侍女と相談して、多少荒っぽい感じでちょっと眠ってもらった」
 おい、お前さらっとジーク昏倒させた宣言はいってるぞ。
 仲間からの突然の裏切りパターン、かつ本調子でないことに加え最初から昏倒させるつもりのシオンにやられたのか……。

「そう……」
 ちらりと私の歩みに合わせて歩くシオンはシレッと恐ろしいことを言う。
 いつもは饒舌な彼があまり話さない。おそらく私が無茶をしたことを怒っているのだろう。
「怒っていますか?」
「怒ってないよ」
 これ、怒っているけど、怒ってないときの常套句じゃん。
「怒ってるよね?」
「しつこい!」
「ほら、怒ってるじゃない」
 シオンはため息を一つ吐くと。
「よし、ほら目をつぶって歯をくいしばれ」
 めちゃくちゃいい笑顔で私にそう言う。


「絶対嫌」
「ほら、僕もうすぐ誕生日だし。日ごろのうっぷん一発晴らしておこう。許可がないとがいせないし、ほら、ねっ。目をつぶって歯をくいしばれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。