上 下
87 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第35話 おぞましい

しおりを挟む
 ポンっという音が聞こえた。
 ポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポンポン。
 止まらない謎の音ポンポン。


「ヒッ」
 と息をのんだ誰か。

 バシャーーンと大きな音をたて私の身体が水に入った。

 生きてる、とりあえず即死じゃなかった。
 けれど、落ちた水のあまりの冷たさに全身が一気に凍え刺すような痛みを感じた。

 とりあえず、あの汚水だ目を開けたら大変なことになるぞとギュッと目をつぶる。
 水を飲んでもまずいと口もギュッむすんだ。
 左手は不思議と痛みはないこの冷たさで末端の血流が減ったの?
 爪が剥がれた状態であんな汚い水に落ちたのだ、何か怪しげな感染症にかかったっておかしくないとかいろいろ思うことはあるけど今はとりあえずそれどころじゃない。
 プニっと何かが私に度々ぶつかる。
 目をあけて、あのミミズみたいなのいっぱいいたら私の心が死んでしまう。


 

 このままでは凍えてしまう、とりあえず浮上だと思うのだけど。服が重い、着衣でなんて泳いだことない。
 ましてや、冬物だ。
 右手も肩からやってしまったようで思うように動かない。


 身体は焦る気持ちとは裏腹に動いてくれない。
 もうダメかも。
 口を閉じなきゃと思うのに開いてしまって大事な空気がコポッとでた。
 目だって閉じてないと……そう思うのに開いた視界は黒くなどなく透明で澄んでいてフォルトがはっきりと見えた。


 苦しいの嫌だなぁ。
 意識はまだあるのに身体が動いてくれない。



 先程まで全く動かなかったフォルトがまだ繋いでいた私の手を引き寄せた。
 抱き締めてでもくれるのだろうか? 乙女ゲーだもんなぁと思っていた私の首にフォルトの腕が後ろからがっと絞め技をするかのように回った。
 そして上へと泳ぎだしたのだ。




 これ、ライフセーバーの人が溺れた人につかまられないように救助するやつだ……。
 そうか、フォルトは海のある観光地アンバーの人だった、ちゃんと溺れた人への対応知ってたのか。
 それにしても結構深いところまで着衣のせいで沈んだみたい。
 私はどれだけ手足を動かしてもダメだったけど進むのは泳ぐのが上手いのか身体を強化してるからなのか。
 それでも水面までたどり着かない。
 フォルトの顔も苦しそうと思ったそのとき。

 プニっと何かが私にあたる、それはスライムだった。 
 ポコポコと音が聞こえると思った。
 下からおびただしい数のスライムが現れる、その上に乗っかる形で私たちは浮上した。


 浮上してフォルトは大きく息を吸い込んだ。
スライムどこからこんなに現れた? とかツッコミたいことは沢山あるのに凍えた身体は動かずスライムたちの上で横たわったままだった。

「レーナ嬢」
 名前を呼ばれてるのはわかるし返事をしたいのに声もでない。
 寒い、寒い。
 けれど歯ですらガタガタとならない。
 ぼんやりと目を開けてフォルトを見つめた。


 泣きそうに潤んだフォルトの瞳はレーナと同じ緑色だ。
 フォルトの顔が近づいてくる。


 顎クイからのこれってまさか……。



 触れるか触れないかのとこでフォルトが一瞬躊躇したのか止まり。
 フォルトの瞳が閉じられ私の唇はふさがれ息がおくり込まれる。
 唇はすぐに離れた。だって私呼吸はできてるもんな。
 ただイケメンにキスされただけみたくなった。

「レーナ様は!」
 リオンが駆け寄ってきた。
「自分で呼吸はしてるみたいだ。これは寒さのせいかもしれない」
 人工呼吸は必要ないと判断したフォルトがリオンにそう告げる。


 リオンの手が私とフォルトの頬に触れた。
 温かなものが流れ込んでくる。 
 途端に私を襲う先程とは比べ物にならない寒さとさっきまでは感じなかった左手の激痛。
 右肩から腕にかけての痛みと違和感。

 ガチガチと歯がなる。
 爪が剥がれたことに気づいたようでリオンによって治されたことで手の痛みはなくなる。
 

「水がきれいになったから動きが鈍くなっている仕留めるぞ。アノンは下がって二人の服を直ぐに乾かせ」
「ちっ、かしこまりまして」
「舌打ち聞こえてるからなお前は毎回毎回……」
「ならさっさと倒せばいいでしょ、あんたが一番属性の相性がいいのにチンタラしてるのが悪いんだろ。どうすんだよこの天井始末書何枚書くんだよコレ」

 コミカルな言い合いをしながら男が一人戻ってきた。
「こっちからだな、熱かったらごめんな」
 数秒だったあっという間に服が乾いた、服が乾くと寒さがなくなった。
「ありがとうございます」
 そしてフォルトへとアノンと呼ばれた学園にたっていた糸目の男はうつる。
「君たち……後で調書ね」
「「……はい」」
 そういうとアノンは後を追うようにヒュドラを追って去っていった。


しおりを挟む
感想 582

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。