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人の恋路を応援している場合ではない

第34話 私かフォルトか

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 2層で派手にやっているせいか地面の崩壊は止まらなかった。
 ゆっくりゆっくりとその範囲を広げる。
 先ほどまでは振り返れば見えたのに、ジークとシオンの姿はすっかり見えなくなっていた。


 後ろに引き返すことが叶わないので、私達は前に進むしかない。
 二人は大丈夫だろう、きっと怪我さえなおればジークのことだ、これまで歩いてきた道を覚えてるだろうから引き返して落ちた穴から出ればいいのだ。
 問題は私とフォルトだ。
 のどが渇いたと私は思ったのだ。

「フォルト、喉の渇きは大丈夫?」
「大丈夫だ」
 嘘だと思う、先ほどからかなりの距離を移動したにもかかわらずフォルトは汗をかいてない。
 シオンだって喉がからからだと言っていた。
 二人は私達よりずいぶん前からここに入っている。
 脱水症状にならないか心配だ。



 何とかしなきゃ。ヒュドラを魔法省の方々が倒せばとりあえず終わるのだけど、すぐに倒せる敵ならばこんなに時間がかかってないわけで長期化が予想される。
 人間っていつまで水分をとらなくても大丈夫なのだろうか。
 ましてや、フォルトは足手まといの私を抱えているのだから。
 

 フォルトに下ろすようにいったけれど、おろしてくれず。巻き込まれないようにただ進む。

 ガクっと下がったのがわかる。
 フォルトの反応が遅れた。
 見上げた顔がしまったと語る。


 下はあの落ちたらタダでは済まない水が流れている。
 落ちたらまずい。
 フォルトは私を投げた。
 地面に転がされた私はフォルトどうなったとすぐに後ろを振り返った。崩れたがれきに捕まる手が見えた。


 フォルト落ちてなかったセーフ。
「自分で上がれる?」
 絶対無理そうだけど念の為フォルトに聞いてみる。
「これだけ身体が落ちてたら無理だ。身体強化しても掴んでる部分を間違って砕いてしまいそうだ」
 わかったぞ、なら私が引き上げなきゃ。
 迷うことなく、フォルトの手を両手で掴み持ち上げようとしてみるがちっとも上がらない。
 身体を強化できない私では、自分の身体より体格のいいフォルトを引き上げられない。



 下に見える水はドロリと黒い。
 広場のようになってるようで、本来のきれいな水ならば落ちても大丈夫そうだが、この毒かもしれない水たっぷりのところに落ちたらタダではすまないだろう。
「誰か!!! 魔法省の方!!!」
 私じゃ引き上げれられないと判断した私は、下に魔法省の人がいるのではと声を張り上げる。
「助けてください! 落ちそうです」


 必死に呼んでみる。
 あっ、リオンが水路にいるんだ。こういう緊急事態のときは、魔力を使う。目にはいったスライムの魔核がはいった袋を握り締め魔力をこめてみる。
「何をしてるんだ?」
「魔力を急激に使えば私の居場所を隷属側から探知できるようになるの」
「また崩れるかもしれない。そのときレーナが動けなかったらどうする」
 魔力を込めていた私をフォルトが叱責した。

 いつまでもぶら下がれないことを知ってるし、私ではフォルトを引き上げられないこともわかってる。
 だから、次崩れるまでかフォルトが捕まるのが限界に達するまでに人が来なければフォルトはどうなるのか。


 ズズズっと下のほうから嫌な音がした。
「今の音何?」
「レーナ嬢。危ないからとりあえず離れてろ」
 フォルトはそういって笑った。
 離れてろって、もし崩れちゃったらフォルトどうするのさと思って私はその場を動けない。


「頼むから……」
 フォルトが縋るように懇願してきた。
「嫌」


 ズズズっという音がどんどん大きくなる、こちらに近づいてきているのがわかった。
 フォルトが私の顔を見上げた。
 じーっと私を見つめる顔つきが一瞬変わったのだ。


 フォルトが手を離したのだ。
 私は慌てて身を乗り出す。
 届け!
 抱えていたスライムの魔核がザラっとこぼれ黒い水に落ちていく。


 私の右手がフォルトの手を掴んだ。
 左手で必死に落ちないように崩れて凹凸のあるがれきを掴む。
 漫画なんかだと、あっさりを手を掴むけど、人一人の体重を支えるだなんて並大抵じゃない。
 私の右手は悲鳴を上げたし。
 フォルトを支えるためには、私の口から声がこぼれた。
「ぐぅううう…………」
「お前何考えてるんだ!」
 よもや手を掴まれると思わなかったフォルトがそう声を上げた。

 踏ん張るために、歯を食いしばっている私は声を発する余裕すらない。
 重さに負けてじりじりと身体が少しずつ前のめりになるのを、なんとか少しでももたせようと必死なのだ。


 腕が、肩が焼けるように痛い。でも私が諦めた瞬間フォルトが落ちるというのがなんとか離すまいと頑張らせる。

「お前まで落ちる。離せ。ちょっと水に落ちるだけだから大丈夫だから」
 フォルトが優しくそういう。
 アンバーの皆はうそつきだ。そういって、私に優しい対応をして皆で私を蚊帳の外にするのだ。
「い……や!」
 なんとか声を絞る。


 下手に動けば私もろとも落ちるとフォルトは判断したようで暴れなくてほっとした。
「誰か!」
 フォルトが声を上げた。
 ズズっと私の身体が前へと下がっていく。


「レーナ様!」
 リオンの声がした。
「リオン!」
 これで助かると安堵したのだ。安堵はなんとか踏ん張れという緊張感をもっていた私をほっとさせてしまったのだ。

 一気に前のめりになる。
「馬鹿」
 フォルトの叱責が飛ぶ。
 とりあえずリオンがいれば治癒できる。
 生きてさえいれば何とかなるかも知れない……。

「フォルト……」
「なんだ?」
「ごめん」
 左手の爪が2本ばかし剥がれたのがわかった。指先が焼けるように熱い。ズルリと私の身体ごと落ちた。


 リオンが言葉にならない叫び声をあげたのが聞こえた。
 私は後は何もできることはないしと無駄に魔力を使ってみた。運がよければ私の魔力が届く範囲に葉っぱがあれば育って私を助けてくれるかもしれない。




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