上 下
84 / 171
人の恋路を応援している場合ではない

第33話 9匹

しおりを挟む
 私を神輿のように担いだままの状態で動くことなくとどまっていた。
 邪魔になるのかいつの間にか、スライムの魔核の入った袋は私の腹の上に置かれていた。
 揺れるたびに突き破り出てくる気持ちの悪いワームはすでに6匹となっていたのだ。



 氷の魔法でパキパキっとはいかないのだろうか。
 そんなことを考えているとジークが口を開いた。
「……どうしたらいいと思う?」
 まさかのどうしよう宣言。
「こっちには気がついてないみたいだな」
 ジークが話し出したのに攻撃するそぶりを見せないワームにフォルトも話し始める。
「でも、僕たちから攻撃しかけてこっちに来たらお荷物がいるから最悪だよ……」
 シオンがはっきりと私をお荷物宣言する、まぁ現に担がれている……抱えられている? からそうなのだけれど。
「私達のことを見えてないようだし、話しても大丈夫ということは声も感知しないわね。これってなんて魔物なのかしら? 弱点とか4人いるわけだし誰か知らないの?」
 そんなことを話していると、もう1匹現れた。
 これでワームは計7匹となった。

 そして、完全にわれわれは囲まれている。
 


 水路の水はすっかり黒く濁り異臭を放っていた。
「ワーム系の魔物のようだが、妙だ奴らは音で感知するから私達の足音に反応して襲いかかってきてもおかしくないのに、話しているのに襲ってこない。知っている魔物とは違うようだ。フォルトはどうだ?」
「俺もわからない。それにしても強烈な臭いだ。この水の中には絶対に入りたくない」
「水の中に入りたくないのは僕も同感……。なんかの感染症とかもらいそう。足にけがはないけれどできれば入りたくない」
「あっ、いいことを思いつきましたわ。スライムには水の浄化作用があるのですよね。ここにこれだけ魔核があるのですから数匹出して水をきれいにしてもらったらどうでしょう。臭いはマシになるのではないでしょうか」
「……あいつ刺激することになんないそれ?」
 私の思いつきにシオンが冷静に突っ込む。
「でも、ほらこんなに話していても気がつかないですし。ところで魔核からスライムにするのってどうするんですか?」
「絶対止めておいたほうがいい気がするぞ」
 フォルトが強く止める。
「魔核に魔力を込めて、水系の魔物だから水の中に核を入れてやればスライムになると思うが、レーナ今は絶対にやらないように」
 ジークは律儀にやり方を教えてくれるが、教えたくせにやるなという念押しの矛盾である。
 こんなことを聞いたら試してみたくなる。


 そんなことを話している間にさらに2引きのワームが地面を突き破り出てきた。
 魔法省の人達は一体何をしているのだろうか……。
 できる集団なのだからさっさと討伐してしまってほしい。

「6、7,8,……9」
 フォルトが何かに気がついたようでワームを数え始める。
「僕にも9匹に見えるよ」
「私も9匹だと思うわ!」
「……9匹だ。まさかだとは思うが……魔法省がてこずっている理由がこれなら説明がつく」
 ジークとフォルトは何か解ったようだ。
「ちょっと、二人してなんなのさ? 何がわかったの」
 シオンが自分がわからないことが気に入らないようで二人にグイグイと聞く。


「普通のワームなら魔法省の面々がとっくに始末しているのだと思う。ワームの出現している場所も私達を中心にしてそんなに離れてないだろう。おそらく推測だが、この9匹は一つの身体につながっている可能性が高い」
「9つの頭……ってこんな気持ち悪いヒュドラ型の魔物とか誰得……。水蛇じゃなくてどうみてもワーム……」
 ついつい余計なことを私は口走ってしまう。
「レーナ君も何かわかっているじゃないか」
 私の突っ込みにジークが困った顔で肯定した。


「この黒い臭い液は……」
 そうヒュドラといえば毒はセットである。
「おそらく何らかの毒物の可能性がたかいと思う。揮発性のあるものだったら死んでたな」
 フォルトもまじめに答えた。
「まってまって、今私達の横を流れている水って本来飲料水ですよね? このままにしておいて万が一誰か飲むとまずいのでは?」
「こんな臭いの飲まないでしょ。こっちだって喉はからからだけど、絶対にこんなの飲もうとは思わないもん」
 私の疑問はシオンにバッサリとやられる。



「とにかく、このワームがここに突き出してるってことは真下に魔法省の職員がいるんでしょ。いつまでも僕たち此処にいて大丈夫なの?」
「確かに、学生のジークでさえでかい氷を飛ばしていましたものね。あんなかんじで天井に向かって攻撃して崩落でもしたら大変」
 私がそういったのがまるでフラグのように地面が揺れた。先ほどよりも地鳴りのように地面が振動する。
 本当に崩落するかもしれない。

 地面がゆっくりと沈んだのがわかる。
 ジークは怪我をしてるってことが頭に真っ先によぎった。
 私は知っててもシオンとフォルトはそのことを知らない。
 シオンもフォルトも崩落に巻き込まれないように私のことはフォローしてもきっとジークのことはフォローに回らない。

「シオン、ジークを」
「はぁ?」
 真っ先に私を抱えようとしていたシオンの口から何を言っているんだと言わんばかりの声が上がるが、シオンの身体は私の命令に従い私からはなれジークのもとへと移動する。

 シオンが私を抱えないことを理解したフォルトに抱き上げてもらってすぐだった。
 急激に地面が崩落し始めたのだ。
 これはヤバいと魔核の入った袋を落とさないように握りしめ、さらにフォルトにしっかりとしがみついた。
 フォルトの身体が強化され先ほどいた場所から離れ始める。フォルトの背越しにみたのは、ジークが身体強化を使えないことに気付いたシオンが慌ててジークを背負い崩落が始まった場所から離れる姿だった。

 初動が遅れたことと、自分よりも体格のいいジークを抱えることになったので、崩落に巻き込まれないことを優先した結果。
 ジークとシオンは私とフォルトと反対側へと行く形になってしまった。
 最初は5mほどの規模の崩落だったけれど、下の支柱などの関係か次々と崩落していくものだから、最終的には崩落の範囲は広く、姿は見えるけれど、向こう側まで15m……いやもっとありそう。
 途中シオンが振りかえり私のことを視線で殺すんじゃないかくらい睨みつけていたけれど。
 今は二人が向こう岸に立っているのはわかるけれど、表情まではわからない。
 とにかく水路で二人とまた合流することは難しいだろう。
 こんなことなら合流してすぐにジークの怪我を治してもらっておくべきだったと考えても後の祭りだ。



 崩落した個所からは2層の灯りがはいり、先ほどとは比べ物にならない異臭が立ち込めた。
 ぼっかりと空いたそこには、ワームもいなければ、ワームがつながってるだろう本体も魔法省の人も誰もいなかった。

 推測になるけれど、地下で何かあってワームが移動するために、1層に顔を出していたのをすべてひっこめた結果崩落したのかもしれない。

「うっ」
 あまりの臭いに思わず口元を押さえて、フォルトはいい匂いがするんだったと思いだした私は抱えてもらっているフォルトの肩口に顔をうずめた。
「大丈夫か?」
 心配そうにフォルトが私に声をかける。
「大丈夫、ただ臭いが」
「……ごめん。半日以上水路にいたから。俺は鼻が麻痺しててちょっとそのわかってなくて。今すぐに下ろしてやりたいところなんだが。何かあった時にレーナ嬢は身体強化が出来ないから、臭いが気になるかも知れないけれど我慢して……」
 小さな声で恥ずかしそうにフォルトがそう言った。
 いい匂いを補充のつもりで私はフォルトを使ったけれど、フォルトにしたら匂いを嗅がれて臭いと指摘されたと感じたようだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。