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人の恋路を応援している場合ではない

第16話 ストーカー

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「レーナ様少しよろしいでしょうか?」
 今日も今日とて、物陰からマリアとエドガーの恋の行方を応援……、真実としては小説のジレジレでは物足りなくなってリアルの恋模様を観察していた私に不安げな顔でマリアが話しかけてきた。
 よそいき用の公爵令嬢の顔で私はマリアに優雅にほほ笑みダミーように広げていた本を閉じる。

「そのような顔をしていったいどうかしまして?」
 私がマリアの話を聞く姿勢を見せると、ほっとした表情を見せた後、マリアはあたりをキョロキョロと見回した。

「あの、一体本当にどうしたの?」
「レーナ様、そのどこか場所を変えたいのですが……」
「えぇ、かまいませんわ。込み入ったお話ですわね」
 恋愛の進展状況の相談かしら。ここ最近はたまにお話するようになったから、マリアの中で私はお友達……いや、これはないな。恋の相談をすることができる恋愛の先輩……これもないな。
 他に相談できる人がいないから、私に相談してるに違いないくらいにしておきましょう。友達だと思って友達きどって、友達じゃないって言われたらものすごく傷ついてしまうから。


 早速私はフォルトから教えてもらった、込み入ったお話ができそうなカフェの2階を使えないか交渉した。
 店員は私の顔をみると、ニッコリほほ笑んで2階に案内してくれた。

 ここの個室便利すぎるわ。医務室の通称リオンカフェはタダだしお茶もお菓子もおいしいのだけれど、やはり会話は聞かれちゃうし。お父様に報告する任務を受けているとあってはうかつなことはリオンの前では話したくはない。


 どこに座っていいかわからずおろおろとするマリアに声をかける。
「あまりマナーのことは言いたくはないけれど。知っておいて損はないから。身分の低い者は入ってきた扉の近くに座るのが無難ですわ。私も悩んだらあまり高くなさそうな位置に座りますの。身分の低いものが勝手に上に座るのはいろいろ言われますが、高いものが下に座ることに対しては謙遜してるととらえられているので、多少順番を間違えても何も言われないのです」
 アンナとミリーがいるとレーナ様はこちらと正しい席につねに案内されるし、悩ましい時は少し下の席にすわりましょうとリードしてくれるので今のところ間違えたことはないけれど。ヒロインは間違えては大変である。
 こういう間違いからいちゃもんをつけられたりしては可哀想だ。

「なるほど、ということは。この場合ですと、私はこちらの席でレーナ様は奥の席」
「正解です。あまり言いたくはないですが、身分差がかなりあるので私が座るのを見届けてから座るのといいですわ。中には煩いことを言ってくる方がいらっしゃるので」
 まぁ、私はあまり気にしないタイプだし、私より先に席に座れる人物はこの学年だと王子様とジークくらいだけれど。
 ややこしいレベルのお家ですと、あっちが上とかこっちが上とかで座り順のことでもめたりするそうだ。


 マリアはこういったお茶は初めてのようだ。そういえば、エドガーも先日は凄く緊張していた。それに甘いものを食べる余裕がとか言っていた。

 私もゲームのプレイ状況を思い返すと、装備品を買うために節約節約で一切無駄な物は買わないスタイルだった。価格帯がもしかしたらこのカフェも庶民にはかなり高価なものかもしれない。

 私達が席に着いたのを見届けて、給仕は私、マリアの順にメニューを渡す。
 チラリとマリアの様子を見る。
 ヤバい、高い。どうしようって顔に書いてある。奢られる前提で気にせず食べるシオンとは違い、マリアは自分の食べたものは自分で払うつもりのようだ。

「マリア様は何になさいますか?」
「えーっと私はこのお茶で」
 案の定、タダである水の次に安いハーブティーを指さしている。これは、アレだ金ないけど何も頼まないわけにはだ。わかるわかるぞ……。

「もしよろしければですが、今日は私のお勧めに付き合ってくださる? このカフェもおいしいお茶が沢山あるのですが、2種類を一人で頼むとお腹がお茶だけで膨れてしまいます。私が2種類選びますのでご一緒に楽しんでくれると助かりますわ」
 どうしよう半分払えないかもとマリアの顔に書いてあるけれど。お茶2種類と大きめのリンゴのタルトを注文する。
 リンゴは生ではなくてちょっと強めのお酒もいれられたコンポートのだけどなかなかうまいのだこれが。やっぱりちょっぴりグルメになってきてる私。


 給仕が下がった後、マリアは不安そうな顔で心配事よりも先に今からいただく物のお支払のことを気にしていた。
「今日は無理やり私の食べたいものに合わせてしまってごめんなさいね。でもとてもおいしいのよ。今日はごちそうさせて頂戴ね」
 お会計は持つから気にしないでねと念を押しておく。


 マリアは始終かしこまっていたのが面白い。このくらいの少女を値段が高めの店に連れてきてしまうと借りてきた猫のようになるのか。
 タルトを切り分けてもらい、お茶をそれぞれに注いでもらうと、給仕に退出してもらった。


 マリアは緊張しすぎて味が全く分かってなさそう。
「ところでお話とはなんです?」
「あっ、はい。その気のせいかもしれないのですが。最近私のことを誰かが見張っているようなのです」
 あっ、それ私じゃない? 犯人目の前にいる。自首したほうがいいのだろうかとダラダラと変な汗が流れる。
「そ……それは怖いわね」
 しらじらしく会話に合わせてみる。
「はい、なぜこんなことになったのかわからないのですが……。やはり不気味で。どう見ても学生という年齢ではなさそうですし」
 私じゃなかったセーフ、ヤバかった。



 とにかくマリアをストーカーしている私以外の怪しい輩がいる。そう思うと同時に、なぜそういう相談をエドガーではなく、ポジション的に悪役令嬢である私にしてしまうのか。
 相談相手を間違えている。大幅に間違えている。
『そんなことをしているから、一向に恋愛らしい進展が望めないのよ!?』
 という言葉を私はグッと呑み込む。

 マリアはかなり怯えているようだった。
 実害こそでてはいないものの、自分の周りをちょろちょろされては怖いのだろう。
 寮の部屋も庶民のマリアは一階という防犯上よろしくないところ。
 この寮5階でも窓から出入りできる人いるからなぁ。メイドが部屋にいるわけでもないマリアは人に踏み込まれたらと思うとさぞかし怖かろう。


 私は戦闘はからっきしだし、相談されたけれど。どうしたものかしら。
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