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人の恋路を応援している場合ではない

第11話 やべぇ

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 エドガーとヒロインは上手くいったかしらなどと思いながら、私はまたも放課後何もすることがないので大人しく学内のカフェで一人お茶をしていた。
 友達どころか知り合いも少ない私は誘う相手などいなくて、一人でのお茶である。
 たまには部屋じゃなくてお店でいただくのもおいしい。
 ここ最近は違約金を払うためにバイトをかけ持ちしてバイト三昧だったから、こうしてゆっくりと座ってお茶をたしなむこの時間のありがたさがよくわかる。
 公爵令嬢レーナよりも、エレーナでいる時間のほうが長かったもの。


 テラスの席は寒いので、中の一番よさげな二人掛けの席を占領し私は紅茶とデザートをいただくことにした。リオンの素朴なお菓子もおいしいけれど、やっぱり学園に出店できる店だけあって見た目も華やかでおいしいのだ。

 はちみつをたっぷり溶かした紅茶を口に運ぶ。ふわりと花の香りがする。きっと添えてある淹れ放題のはちみつもかなり高価な物に違いない。
 『この金食い虫』シオンの言葉が脳裏によぎって首を振った。
 そんなことより、ケーキはまだかしら。


「彼女と同じものを」
 聞きなれた声で言われたセリフに私は紅茶はおいしいという世界から一瞬で帰ってきた。
 ジークは私の了承などとらず、給仕に席を引かれ当然のように私の目の前の席に座った。
「えっ?」
「ごきげんようレーナ。遅くなってすまないね」
 さも待ち合わせしてた体できたぞ。
 ジークのテーブルのセッティングが終わると給仕は去っていった。


「レーナ、君は一体一人で何をしているんだい?」
「お茶です、ここはカフェですから。ジーク様こそ待ち合わせしてました風で来ましたがどうされました?」
「んー、聞き方を変えよう。放課後、君はいったい何をしているんだい? ここ最近あえて私を避けているようだし。注文の品はまだそろってないだろう。たまにはゆっくり話しをしたいと思っていたんだ」
 話を……ってヤバい、どこから漏れた? どの程度知っている?
 フォルトか……シオンか……リオンかはたまた違うルートでスライムを討伐しに水路にこもっていたことがばれたの? それともバイトをかけ持ちしてたこと? さらにさらに私がアルバイト斡旋所でカモにされたことまでばれてるんじゃ……。
 ぎこちない笑顔でジークを見つめる。
 ニコリと久々に黒い笑顔が返ってくる。
 ジークまで私を叱責しようというのか。


 注文をキャンセルして……。給仕を呼ぼうとカップを置いてから、右手を上げようとしたけれど、ジークが私が行動を起こすよりも素早く手を伸ばし私のあげようとしていた手に自らの手を重ねてきた。
 ぱっと見は、カップルがテーブルの上で手を重ねている微笑ましいように見える光景だが。
 諦めずにグッと手を上げようと奮闘する私と、給仕を呼ばれまいと表情は穏やかだけどガッツリ手を抑えこむジーク、これは攻防戦なのだ。
 一人で座るからといつも座る円卓ではなく二人掛けの席だったことがあだとなった。
 どれだけがんばったところで、手は上げられないだろうし、マナー的に大声で給仕を呼ぶわけにもいかない。

 そうこうしてる間にケーキは到着してしまう。
 なるべく早く食べて席を立とう。
「なるべく早く食べ終えて席を立とうなどを思っているようならこちらにも考えがあるから」
 私の心を見透かしたかのように、ジークがそう告げ重ねていた手を離した。


「さて、しばらく会っていなかったけれど。放課後何をしていたんだい?」
「ふぅ、でっ、一体誰から話を聞いたのですか? フォルト? シオン? それともリオンですか?」
 まず情報源はどこかの確認作業からだ。
「なるほど。そちらからも話を聞かれたらまずいことを放課後しているんだね」
 はい、墓穴掘りました。
 じゃあ、一体誰から何を聞いたと言うのか。
「それでは、どなたから何をお聞きになったのですか?」
「これ以上ボロを出さないことを考えるといい質問だ。エドガーだよ。まさか君と知り合いだとは思わなかった。クラスも違うし、君とはタイプの違う人種だと思っていたが……」
 そっちだったかぁ。



 でも、私とエドガーは、ヒロインであるマリアを助けに入った時にしか接点などない。
 クラスも違うし。むしろエドガーは私のこと知ってたんだって思うくらい何にもこれまで接点などなかったのだ。
 パーティーではエドガーもきっと女子に囲まれもみくちゃになっていただろうし。
 攻防戦のパーティーメンバーに確かエドガーは入ってたと聞いたから、おそらくジークは放課後一緒に練習してる時の雑談として私の話を聞いたのかもしれない。私の話題は他のメンバー皆に通じるから……。
 ならたいした話ではないだろう。


「それで、エドガー様は私のことをなんと?」
「魔力量はあまりないとのことでしたが、目の前の見過ごせない事態があれば、複数人に向かって声高らかに飛び出せる勇気のある女性だと褒めていたよ。それで、複数人に向かってなぜ飛び出して行ったのか気になってしまってね……。エドガーにも聞いたのだが、『ご本人が話していないということは、そういった一面をジーク様に見せるのが恥ずかしいのかもしませんね。的確な指示を出し終された後、役目は終わったと判断されたのかすぐに去っていかれましたし』と言われてしまってはそれ以上聞ける雰囲気ではなくてね」

 はい、変に話を抜粋して話すのはやめよう。

 勇気を出して飛び出しましたのは本当だけれど、そんな風にいわれると確かに私今度は何に首を突っ込んでるんだ状態である。

「た……たいしたことではございませんのよ。ホホホ」
「君は都合が悪くなると、その変な笑い方でごまかすときがあるね」
 話をそらすことを許してはくれない。


 いじめの現場を止めに入ったと言ってしまっていいものだろうか。また余計なことに首をとかならないだろうか。
 とにかく話題をそらすためには、ジークがこれ以上追求しにくいようにしなければいけない。
 私はケーキを優雅にほおばり笑顔を浮かべながら必死に考える。
「どうしてもお聞きになりたいと?」
「実に興味深いことだからね」
「わかりました。私がジーク様との婚約を解消することを決めた原因となった方ですし、できれば私の口から話したくはなかったのですが……」
「はっ?」
 優雅な笑顔を浮かべたまま、ジークの口からそう漏れた。
 よし、私のペースになったいけるぞ。

「何を今さらのリアクションを……。あれだけ私がいるときもご優先されていたではありませんか。自由恋愛になったので早速お声をかけに行くために情報を私からいただきたいのでしょう? エドガー様からは聞けなかったから」
 淡々と言う。
 ジークは優雅な笑顔を保っているが、明らかに目が動揺している。
 グスタフも私の瞳孔が開いていることで、私の感情を読み取ったし。目は口ほどに物を言うのである。
「数人の女子生徒に囲まれて魔法で危害を加えられそうだったので見かねて飛び出したところ、エドガー様と遭遇したのです。後のことはエドガー様に任せましたが……。姫を救う王子様は、私なんかとお茶をするよりもやるべきことが他にあるんじゃございませんこと?」
「レーナ、少し誤解が」

 そう、私はジークがヒロインと仲良くしていたのは、そうすることでしつこいレーナの矛先をヒロインへの嫉妬に向けて自分が楽になるためだと知っている。
 でも、あえて今そのことをわざと掘り起こして言っているのだから。

「これまで、ジーク様といい関係でいれるように私なりにいろいろ頑張ってみたりしておりました。ジーク様は顔は非常に整っておられますし、勉強も魔法も非常に優秀でしたが……」





「私の婚約者としては最低でした」
 ジークに助けられたことに関しては感謝していたし、彼といて楽しいと思ったこともあった。けれど、コケにされていたことへのうっぷんが全くなかったわけではない。
 自分でもびっくりするほど、冷たい声でその事実をジークにとうとう告げた。

 最後の一口を口に放り込み。お茶を飲んでから、ジークの横をすり抜けようとする。
 案の定ジークが私を引きとめようと手を伸ばしてきた。
 伸ばしてくる可能性があるとあらかじめ考えていた私は、その手をあっさりと払いのけた。
 どうせ、貴族だからこそ、公の場で私を引き止めるためにジークが私に触れられる個所など限りがある。
 手が延ばされる場所さえ分かれば払いのける難易度が低くなる。
「もうそのような間柄ではないので、きやすく触れるのもどうかと思います。それでは、お二人の仲がうまくいきますようにお祈り申し上げます」




 お会計を見事ジークに押し付け、お叱りも回避し、婚活しようとしている私の周りをあの顔がうろちょろすることすらも防げる。
 一石二鳥どころか、三鳥だわ。
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