悪役令嬢はヒロインを虐めている場合ではない

四宮 あか

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人の恋路を応援している場合ではない

第2話 しがらみが無くなった人

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 久々に私の部屋で開かれたお茶会は、私の『婚約解消しちゃった』という一言でアンナとミリーを固まらせた。
 私から解消をもちかけて、ジークにも納得してもらった上で解消をしたというとさらに驚愕させてしまった。
「まぁ、……まぁまぁ、フリーということは自由に恋愛できますね」
 いち早く立て直したアンナがそういう。
「そうなのです」
「えっとえっと、イケメン情報はより念入りにレーナさまにお知らせします」
 ミリーもそう言って笑う。


 そんなこんなで、解消したけれど普段の生活は何一つ変わったところはなく過ぎていく。

 いつも通りの生活をしていると、数日後ジークが挨拶にやってきた。
 目の治療は無事終わったそうで、明日から学園に通うと報告だった。
 久々にみた、ジークの顔面偏差値の高さに私は愕然としていた。
 ここ最近はいつもの3人でつるむばかりで、フォルト、シオン、リオンともかかわってないこともあってか久々にみた彼の顔面の破壊力に震えた。

 整った顔立ちはもちろんのこと、サラサラと流れる銀髪、包帯が取れたことで現れた碧の瞳はまっすぐと私を見つめる。私に話をしに来たのだから私を見つめるのは当然なんだけれど。
 以前は同じ笑顔でも、もっとこう胡散臭いというか、愛想笑いという感じがしたのに。
 いろんなしがらみがなくなった彼がとても柔らかく笑ってるのをみて、私は自らとんでもない大物をリリースしてしまったということをようやく実感した。


「レーナ? 聞いているかい?」
「ごめんなさい、後半ほぼ聞いてませんでした」
「……また話を聞いていなかったんだね。一体何を考えて話を聞いていないんだか」
 そういって笑う姿はただのさわやかなイケメンとかしていた。


「ジーク様」
「なんだいレーナ?」
いつものやり取りである。
「部屋に帰れ」
「は?」
「部屋に帰れ」
「私は……何か失礼なことを?」
「いいから部屋に帰れ!!!」
 これ以上こんなのが近くにいていいわけがない。うっかり惚れたが最後、もう絶対結婚相手見つからなくなるという危険性を感じ取った私は、なんで突然の拒絶? と意味がわからずキョトンとしているジークの背中を押して、お向かいにあるジークの部屋に押し込んだ。
 あっ、後々何か接触する理由になると困ると、慌てて部屋に引き返した私は、自分の部屋の入り口で意味がわからず立ち尽くしているジークに渡しそびれていた誕生日プレゼントを押しつけてそうそうに退散した。



 私は恐ろしいことに今さら気がついた。
 いくら解消したとはいえ、あの顔が私の傍をちょろちょろしていたのでは実る恋も実らないということ。
 あれが元婚約者であることはずっと変わらない事実だ。
 次私にアプローチを駆けてくるような猛者いるのか? とようやくシオンが散々いっていた意味が今さらながら少しずつ理解して言った。


 とりあえず、今回のことの顛末を本にするからって手紙一つで雑務をリオンに押し付けていたのを思い返した私はこういうモヤモヤした気分のときは、何かやるべきことをして気を紛らわせるべし! ということに切り替えたつもりだった。



 さて、今日の放課後は医務室に行って、本のことがどの程度進展してるか確認しないとね。
 そう思って、やってきた医務室は放課後にも関わらず数人の女子生徒で賑わっていた。リオンはうっとおしそうな顔を隠しもせずに手早く治療らしいものをして、さっさと生徒を帰していた。

 リオンは私に気がつくと軽く会釈をしたんだけど。アレっ、リオンもこんな顔だったっけ?
 大人で体格にも恵まれている彼は私に気がつくと今日もいつもの席でお茶とお菓子を楽しむのだろうと、医務室の扉を開け、いつもの席の椅子を当然のようにスマートな手つきで引きエスコートした。

「本日はお一人なので、クライスト領の件についての訪問ということでよろしいですか?」
 そう話をしながら私の目の前に、まめ皿に乗った一口サイズのタルトが置かれる。話しながら手早くハーブティーの準備を始めている。
 一口サイズのタルトを行儀がわるいけれど、そのままつまんで口に運ぶ。うまい。
 甘めだっと思いつつ、淹れてもらったハーブティーをふぅふぅ冷まして口に運ぶと、こちらはすっきりとした味でバランスが見事取られていた。

 私がお茶を楽しんでる間に資料をある程度まとめたものをリオンはテーブルに並べる。
 私はいろんなことをそつなくこなすリオンの顔をみて、アレ? アレ? アレ? がいっぱいになっていた。

 ジークのことがあり、改めてじっくりと見たリオンの顔は整っていた。ダンスの講師として私のところに現れた時は、イケメンの大人の講師だったとアンナとミリーと盛り上がったことを私は思い出した。

 今日も生徒が数人来ていたし。
 何より目の前で作業をしている姿はなんだ。深い緑の髪もよく見ると黒ではなく深緑の瞳もなんだ!
 というか、今さらだけどお前はいくつなんだ結構若いんじゃないか? と疑問が出てくる。

「リオン……そういえば貴方いくつなの?」
「えっ?」
 ニコッと曖昧な笑顔を浮かべられるがリオンは答えない。
「なぜそこで黙るの?いくつなの?」
「……23にござます」
 23!? お前、まだ23歳だったのか、魔法省での振る舞いからしてもっと貫禄がある気がしたけど若造じゃないか。
「意外と若いのね」
「あぁ、盟約というのは本当にすごいですね。あの、お嬢さま、一応魔法省のほうでは27歳ということになっておりまして……その、黙ってていただけませんか?」
 えっ? 歳さば読んでるの? どういうことなの? もう一度年齢を聞いたときには盟約の強制力があったのか嘘などつけなかったのかもしれない。


 というか、問題はリオンは本当は何歳なのかとかではない。
 改めて考えてみるとリオンのスペックもなかなか高いのではないかということである。
 歳はおいといて、魔剣の主だし、仕事はできそうだし、料理は上手いし、身長も高く、顔も整っているとかお前何なんだ状態だ。


 私はちょっとイラっとしていた。
 盟約は嘘がつけないのならば……。
「リオン、私には絶対ばれたくない秘密を教えてください」
 そう私はストレスをリオンの秘密を暴くことで晴らすことにしたのだ、軽い気持ちだったのだ。年齢さば読んでましたくらいのがくるかと思った。
 とたんにリオンの顔が青くなる。
 顔色が悪くなるということはリオンは私に対して秘密を隠していて、かつばれたくなくて今命令に背き黙っているのである。

「秘密などありませんよ」
 真っ青な顔色とは反対にいつものトーンでそう言う。
「その顔からして秘密があるのバレバレですよ。私はリオンが真っ青になるのを堪えてまで私に話してくれない秘密を知るまで退席しませんよ」
 ニコっとリオンに笑いかける。


 すぐに秘密をゲロるかなと思ったのに、リオンは全く言わない。
 顔色は相変わらず悪いのに。
「そんなに私に秘密にしておきたいことなのですか? もしや私の父から何か頼まれてるの?」
 私の中には魔剣があり、リオンはいざとなったときのために学園に来たのだ。可能性としてはそれが高い。
「そうです、レーナ様のお父様から……」
 リオンは私の父から、私が危ないことに巻き込まれないか、首をつっこまないか監視すること、報告書を上げるように頼まれていることを暴露した。
 なのにもかかわらず、リオンは真っ青な顔をしている。
 ということは、リオンが真に私にばれたくない秘密は別にあるはずなのだ。



 一向に言わないわね。シオンならもうとっくに暴露しているはずなのに。社会人だからなの?
「リオンはいっぱい我慢ができますのね」
「そのようなことは……」
 リオンの目が伏せられ謙遜の言葉が出てくる。
 さっさと吐けばいいものの、違う話で何とかならないか試したりするあたりかなりヤバいことなのだろうか。
「魔法省の職員は拷問されることになれていますの?」
「簡単に口を割らないための訓練は経験しております。その訓練はある程度、上の立場になれば避けては通れないのですよ レーナ様」
「なるほど、なるほど」
 耐えるリオンとは正反対に私はリオンが淹れてくれたお茶をゆっくりと楽しむ。



 しぶとい、しぶといぞ。
「本当にいっぱいいっぱい我慢できますのね…………」
 リオンに声をかけている途中で私は恐ろしいことを思い出した、すっかり忘れていた彼の性癖に。
 そう思ってみればどうだ、真っ青な顔色をして服をギュッと握っているが、表情に浮かぶものは苦痛だけじゃないような気がする。

「リ……リオンさん」
 思わず『さん』をつけて呼んでしまう。
「レーナ様、私は主に『さん』をつけてもらえる身分ではありませんよ」
「苦しいだけよね?」
 思わず確認をとるかのようにそう問いただしてしまう。
「苦しいですよ」
 そういう彼の深い緑の瞳は命令違反の苦しさからか涙でうるんでいた。

 


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