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読書に勤しんでいる場合ではない

第32話 小さな足跡

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「リオンこっちであってるの?」
 吹雪のせいもあって、視界はかなり悪い。だからこそはぐれないように何度も声に出してリオンが近くにいるか私は確認をした。
「えぇ、間違いありません」


 寒さで凍えるのではと思ったけれど、熱石はいい仕事をしてくれていた。これ一つでかなり暖が取れるわ。
 でかい熱石をかっぱらってきただけあって、雪はすぐに溶ける。魔力を込める必要があるため私がやるよりも魔力量の多いリオンのほうが適任だったので、リオンと先頭を交代してからはペースを上げて歩くことができた。
 どれくらい歩いたのだろうか。視界0だったというのに、急に視界が開けたのだ。


 私はかぶっていたローブから顔を出した。
 目の前に広がっていたのは一面に広がる紫色だった。木々はない、ただ足元に紫の砂が見渡す限りある。
「何これ、こんな砂自然界にあるの?」
 私がそういうと、リオンは屈み、砂を触る。
「おそらくこれは氷の魔力が込められた魔石が砕けたものでしょう」
「これが、魔石……って、見渡す限り一面紫なんだけど。コレ全部?」
「おそらくそうでしょう。同等の魔力をぶつければ相殺できるとジーク様がおっしゃっていましたから。これは推測ですが人ではおいつかないため、魔石も使用して対処していたのでしょうね」
 雪の晴れた先は、それほど不思議な光景だった。
 後ろを振り返れば視界0ってほど吹雪いているというのに、ここは雪も降ってなければ、風もない。
 見渡す限り紫の景色が広がっていた。そういえば、私の家は公爵家にも関わらず、お気に入りの飲み物はぬるかったりした。
「氷の魔石は少ないの?」
「えぇ、術者が少なく、運搬などでも重宝されるので高価なものですが……。この光景をみると本当の流通量が少ない理由は違ったのかもしれませんね」
 だって一面がこうなるのだ、どれだけの魔石がここで砕け散ってきたのだろうか……それは途方もない数なのかもしれない。


 凄くきれいだわ、そう思ってあたりを軽く走ってみると、足跡がついた。
 あっ、これ目印になりそう。あたりを見渡してみると別の足跡を発見した。
「リオンとりあえず、この足跡をたどって行ってみましょう」
 振り返って気がついた。
 リオンはひどく真っ青な顔をしていた。
「リオン?顔色がひどく悪いわ」
 走り寄ってみると、リオンは明らかに万全のコンディションではなさそう。

「大丈夫です、返事が遅れ失礼いたしました」
「そんなことどうだっていいのよ。無理をして進むことはないわ。とりあえずリオンが動けないってことは、動ける人のほうが少ないと思うのよ。だからリオンはここで待ってなさい」
 私はリオンからリュックを奪う。ズシっと重いけれど、背負って歩くしかない。
「レーナ様お待ちください」
 リオンはそういうけれど、身体は付いていかないようだ。いつもなら命令でもしない限りリオンからリュックを奪うこと自体不可能である。
「大丈夫大丈夫。やばくなったら走って戻るわ」
 私はそう告げて、リオンを置いて先へと進んだ。



 とぼとぼと歩いていると、へたり込んでる人を発見した。
 柱と呼ばれている人だろうか、ここにいる人がジークが言っている通りならば魔子の放つ魔力と同等の魔力を放ち相殺する役割を果たしている人のうちの一人だろう。

 へたり込んでいたのは、男だったと思う。銀の髪をしていた。ジークの御親戚だろうか。
 うつろな目で、座り込んでいる。
「大丈夫? 意識はしっかりしている?」
 私は男に話しかける。近くには食糧らしいものや水、そして吐しゃ物なんかが散らばっていたりする。
 しかし返事はない。
 そうだ、私剣を背負っているのだった。


 リオンも具合が悪くなっていたし、私はまだわからないけれど、このあたりには害するような魔力が満ちてるのかもしれない。
 適当な1本を取り出して、鞘から抜き鞘をその辺に放り出し両手で剣を握る。

 へっぴり腰で、適当に空を切った剣は、魔力を切り裂いたのか紫色にきらめいた。光ったということは、よくわかんないけど、この辺りの魔力を吸ったのだろうか……。

 うつろな目をしていた男が顔を上げた。
「あぁ、その髪の色、それに魔剣?  ……ユリウス・アーヴァインが現れたとでも言うのか」
 私の髪は金色である、そして今日はフルアップとなっている。
 一応、胸はないけれどぱっと見で男性に間違われるような容姿ではないと思う。
 となると考えられることは、
「あなた目がよく見えないの?」
 剣を鞘にしまい、男に目線を合わせ頬に触れる。
「ここに長くおりますと、影響が目に強く表れるようなのです」
 そう言うとなんとか立ち上がろうとしている。
「無理に立ち上がらなくてもかまいません。魔子はどっちにいますか?」
「ご案内いたします」
 そうは言ってるけど。目もあまり見えてないようだし、よろよろとしているしとても案内ができるとは思えない。
「方角を指差してくれれば勝手に進みます。あなたは少しここで休んでいて」


 私は男を一人残して、指さされた方向に進む。途中で2人の男と1人の女が倒れていて、その周辺で剣を適当に振った。
 私が周辺で剣を振りまわすと、周りにある害のある魔力が剣に吸われ一時的かもしれないけれど楽になるようだ。
 途中で1本の剣が折れるというか、木っ端みじんに砕けて魔石同様紫の砂となった。



 もしかしたら深いエリアに達したのかもしれない。途中までは全然平気だった私も進めば進むほど足取りは重くなり、気分の悪さを感じていた。
 重い荷物を持ってるせいだと思ったけれど、吐き気を感じたことで、私の身体が悲鳴を上げ始めていることにようやく気付いた。けれど、ここで引き返すわけにはいかない。




◇◆◇◆



「どこだ、魔子はどこにいる?」
 レーナの父は声を荒げた。
「行っても無駄だ。アーシュお前はみたところ、魔防がそれほど高くはない。あそこに入れる資格がお前にはない。でも心配するな、向こうには少ないが人はいる。たどり着けているとすれば吹雪さえ落ち着けば誰かが連れ帰ってくる。あそこは本来人が来ない場所だからな」
「資格が私にはない……」
「そうだ、お前はユリウスの子孫ではあるが、彼の魔防は受け継がれなかったんだな」
 レーナの父が立ちあがり、私の父に1発入れようとするのを、シオンが間に入って止める。
「お二人とも落ち着いてください、今は二人で言い争っている場合じゃないでしょ」
 レーナの父は万全じゃないんだろう、身体強化すらしてなかったこぶしはあっさりとシオンに止められる。




 私は部屋から飛び出した。レーナの父には資格はなくても、私は次期柱、あそこに入れるだけの適性がある。
 熱石をいくつかもち、ローブをはおり飛び出した。


 道中は吹雪いていた。視界はほぼ0。
 こんな中を進んだというのか……無謀だ。
 でも、進むほどわかる嫌悪感から方角はなんとなく掴める。
 熱の魔石を使い私はこれまで避け足を運ばなかった場所を目指す。


 近づけば近づくほど嫌悪を感じる。
 終わりのないかのように思えた雪は突然止んだ。
 台風と同じで中心部は魔力は渦巻いていても雪は降らない。
 寒さこそあるものの進んでいた方角は間違っていなかった。

 視界が急激に開けたそこは、どこまでも続く紫の平原だった。
 足元にはキラキラと紫の砂が散らばる、これら総てが氷の魔石がくだけ散ったものなのだ。
 いったいいくつの魔石がこれまでここで役割を終え砂となったのだろうか。


 入ってすぐ座り込む男に見覚えがあり私は駆けよった。
「リオン! レーナは」
 私が名前を呼ぶと男は青白い顔を上げた。
「ジーク様。申し訳ありません。止めることが叶いませんでした」
 そういって、リオンは頭を下げた。


 リオンは適正不足だったのだろう、見た感じ何度か吐いているようだし、ここに滞在するのでギリギリのようだ。レーナが奥へと入って行ったとしてもこの状態の彼では追いかけることは叶わないだろう。

 紫の砂に場違いの小さな足跡が続いていた。
 小さな足跡を目印に、私は奥へと進む。

 少しずつ前に進むたびに漂う魔力のせいで気分の悪さが強くなる。歩けないことはないがここで座ってしまいたくなる。
 それでも、私は前に進まなければいけない。この先に私が頼んだせいでレーナがおそらくいるから。

 魔力量が万全の今でこれだ、ここで魔力を使い魔子の力を分散させる柱となるものの苦痛はどれ程のものだろう。
 こんなところで、彼らは大人になってからの大半を家族が身代わりにならないために過ごしてきたのだ。


 すると柱となっていた人がいた。会うのが怖かった人物だ。倒れていた、死んでいるのか?
 魔力が減ればその分、魔防が劣ってくる。彼はどれ程苦しいのだろう。
 ここに長期的にとどまらせるための食料の入った袋がそこにあった。

 不思議と男の周りだけ少し楽になる。足跡も沢山あるからここで何かあったはずである。
「おい、大丈夫か? ここに誰か人が来なかったか?」
 私がそういうと、男は生きていたようでゆっくりと顔を上げた。
「女が単身で魔子の場所をきき進んで行きました」
「どんな女だった?」
「すみません、私は目が今あまり見えません。ユリウス・アーヴァインのような金の髪に、おそらく魔剣を所持していました」
 容姿はともかく、魔剣を所持していた? アンバーの物をもってきたのか? レーナの父がきていたから、ユリウスの所持していた魔剣でもかっぱらってきたのか……それが彼女の魔子討伐のための秘策だとでも言うのか。

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