上 下
53 / 185
読書に勤しんでいる場合ではない

第21話 雪は降りますか?

しおりを挟む
「僕がレーナ様を止めるのに明確な理由がいるの?」
 シオンの歩みが止まる。
「わざわざ、止めに来てるのに理由は特にないというほうがおかしな話でしょ?」
 傘からはみ出てしまうから私も止まり隣のシオンを見つめた。
「そっか……」
 シオンの傘を持ってない手が私の頬に触れた。
 なんだ、なんだ。
 口を尖らせ不満顔で見つめ返される。シオンの顔がゆっくりとこちらに寄る。
 キスの一つでもしようというのか彼は……。



 ガンッ



「痛っ!! えっ……頭突き? はっ? どういうこと」
 でこにはしる衝撃。ほんの一瞬キスされるかと思いました。はい、勘違いでした。
 思わず両手ででこを押さえた。
 前回も頬を引っ張られる定番だと思ったら豚鼻でした。そうでした……。



 そして、細やかなことではあるが、頭突きをしたシオンは当然私を害する扱いになったようで眉をしかめていた。


「痛いでしょ。怪我したらもっと痛いよ……」
「そうね……無茶をしないように肝に命じておきます」
 そういって私はでこをさすった。


 寮まで送ってもらった。
 最後に念押しといわんばかりにシオンは言う。
「怪我をしたら痛いよ」と。




 私は相変わらず夜の抜け出し生活となっていた。
 しかし、肝心なところまでは掴めない。また誰がが襲ってきたら……とは思っていたし、私だけでなく私の周りもピリピリしていたが襲撃もなかった。

 平穏な昼間と平穏を維持するための平穏ではない夜が交互にやってくる。そして物事とはいつだって突然に始まるのだ。

 ジークの誕生日である12月25日がせまってきた。ラブラブとはほど遠いとしても、婚約者にプレゼントを渡さないわけにはいかない。ジークが選んでないにしても私の時は一応は貰ってるし。
 25日はゲームの世界ではクリスマスがない、代わりに短い年始末の休みにはいる前の日ということもありダンスパーティーが開かれる。
 そしてパーティの日の前には当然お約束のテストがある。


 さすがの私もテスト前は夜の抜け出しを止めた。ジークのほうは時間があれば相変わらずのようだけれど。
 護衛してるリオンとシオンにもテストが終わるまでは抜け出しませんと宣言した。まぁ、まだまだ通わないとだからテストが終わればまた通うのだけど。


 テストが終わってすぐまたジークからダンスのエスコートの誘いのお手紙が届いた。あの日以来すっかり避けられているようだし、ジークも秘密の部屋に籠ってるのでほとんど会っていないから久々に時間をとることになる。
 婚約者なのにこれでいいのか? と流石に思う。

 誰か代筆が書いたのだろうかまたも定型文だわこの手紙。
 そして、またも荒れた肌をエステだ!
 ドレスだ! ドレスが決まれば髪型だ!
 化粧はどうする? アクセサリーはのコースである。ダンスパーティーは二度目だし、このやり取りも経験済みなのでなんとなく段取りがわかる。


 とりあえず秘密の部屋通いはダンスパーティーが終わってからだわ。
 ほんの少しだけ春から比べて伸びた背。あまり成長を感じられない胸。ドレスのサイズも形も私の成長に合わせて少しずつ変わっていく。

 今回はダンス踊れるようになったから私もイケメン先輩と踊れるかな? とかドレス何色にした? って話題でいつもの三人で盛り上がった。



 学園都市ではあまり雪が降ることはないとはいえ12月末は流石に寒い。
 だから、今回は髪もおろしてふんわりと巻く。巻くといってもレーナお馴染み縦ロールではなくゆるふわって感じだけど。
 高そうな髪飾りをつけて。なんちゃらっていう相変わらず覚えられない人気のデザイナーがデザインした貧相な胸をカバーするドレスを身につけてヒールを履き、出かける直前に口に紅をさした。
 ドレスの上にローブを羽織り、小さなこの鞄に入るように考えて買った誕生日プレゼントを忍ばせる。


 そして、前回とは違いジークが部屋に迎えにやってきた。
 流石に私の部屋の真ん前がジークの部屋だからこれで迎えにこないのはどうかって話だけれど。




「ごきげんよう、レーナ。今日はいつもより綺麗だね」
 相変わらずのいつもの愛想笑いを彼は浮かべる。『いつもより』は余計である。ここは『綺麗だね』だけでいい。
「お久しぶりです、ジーク様。お褒めいただき光栄です。手掛けたメイドも喜びましょう」
 ジークのお世辞をさらりと流し、差し出されたジークの手に自分の手を重ねる。
 ほんの少し会わなかった間に彼の背が伸びたような気がする。まぁ、最終的に180cm越えるのだから伸びて当然なのだろうけれど。


 いつプレゼントを渡そう。今日はなんの話をしよう。あの女の事は聞いてもいいの? 誕生日だから今日はやめておくべき? 久しぶりだからちょっと気まずいとか考える。
 ヒールの私に合わせていつもよりゆっくりとジークが歩く。



 寮から出ると外の風は冷たい。ローブを着てるけれどその下のドレスはノンスリーブやっぱり寒い。晴れててよかったよ、これで雪でも降った日には本当に死ねる。
 真冬にガーデンで結婚式とか何考えてんだよ!? って一瞬以前の懐かしい記憶がよみがえってふふっと懐かしさに笑みがこぼれた。




 二度目のパーティーが始まる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

死ぬ事に比べれば些細な問題です。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:59

第二王女の婚約破棄

恋愛 / 完結 24h.ポイント:126,757pt お気に入り:4,668

夫に浮気されたのですが、いろいろあって今は溺愛されています。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:1,270pt お気に入り:150

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:227pt お気に入り:580

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:759pt お気に入り:1,615

身体の弱い美少女なんて見た事ありませんが【8/31日完結】

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:1,739pt お気に入り:111

お一人サマじゃいられない!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:2

青い鳥は幸福にはなれない。

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:24

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:411pt お気に入り:5,398

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。