公爵令嬢は占いがお好き

四宮 あか

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第16話 二度目の勝負

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 ノアに負けて3日後。
 久しぶりに私は占い師の衣装に身を包んでいた。
 幸い王都から引き上げた家具たちがそのまま保管してあったし、ノアとの勝負で勝った金貨10枚もあったので、突貫工事とはいえそれらしい部屋を作ることはすぐにできた。




 衣装に着替えて天井をみると、四角い天窓から月の光が差し込んでいた。
 天窓も急遽だったわりには上出来の仕上がね……
 でも今回この部屋にはセバスだけがいない。
 他のメイドや従者に私の趣味がばれるわけにはいかない。
 この用意した屋敷までこっそり案内する人材が必要だった。


 
 ゆえにセバスにはノアを屋敷からここまで案内するという大事な役割を任せた。
 私はというと、紹介はしたから我関せずと自室に閉じこもっているという設定だ。



 いつも傍らに猫の姿でいてくれたセバスがいないのは心もとないけれど……腹を決めてやるしかない。
 ノアとの勝負はこれが本当に最後。
 私は彼に顔がばれるわけにはいかない。だから、この勝負も私が勝って終わらせる。
 トランプ勝負では、加護を過信しすぎていた……同じ失敗はしない。


 ベールをかぶり、口元もフェイスベールをつける。
「さぁ、今夜で終わりにしましょう」
 気合いをいれてそう呟いた。



 先に部屋でスタンバイが終わった私は、扉がノックされるのを待つ。
 この屋敷は急遽作ったものだから、認識阻害魔法が掛けられていない。
 そのため、セバスはノアを連れてきた後、おそらく外で他に人が来ないように見張るはず。
 ティア……今までうまくやってきたじゃない、今日もうまくやるだけよ。


 月明かりが差し込み、円卓にのせられた水晶をきらきらと照らした。
 そろそろ時間ね……

 その時、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 私がそういうと、扉がゆっくりと開かれ、ノアが現れた。
 落ち着いて……危ないと思った勝負はうまくそらして乗らない。いいわね……


 その時だ、ノアの横を一匹の黒猫がすり抜ける。
 セバス!?
 黒猫はまっすぐに私のもとにやってくると、ぴょんっとジャンプして私の膝の上に乗った。
 不安な私の気持ちを察して、うまいことやってきてくれたのかもしれない。
 案内さえすめば、帰りは屋敷までどうとでも帰れる、ノアもヴィンセントも護衛は必要じゃないんだから……
 震える手でセバスの背中をなでて、私はいつものセリフを客人であるノアに向かって言う。



「迷える子羊よ、どうぞおかけなさい」


 私がそう声をかけると、ノアはゆっくりと部屋をきょろきょろと眺めながら席に向かって歩いてくる。
 緊張で私の喉がゴクリとなるが悟られるわけにはいかなくて、セバスを何度もなでる。
「やぁ」
 短く私にそういうと、ノアは軽く会釈をして、椅子に座り足を組んだ。
 勝負はすでに始まっている、いかに自分のペースでやれるかが大事。
 だから、私はあの日と同じように、銀のトレーを取り出し、ノアの目の前に差し出した。


「ふむ、今日はいくらだい?」
「本日はご紹介とご予約がありましたから、金貨1枚」
 私がそういうとノアは相変わらず財布などではなく、ポケットをごそごそとあさり始める。
 金貨をなんでポケットにそのまま突っ込んでおくんだか相変わらず信じられない。


 私はノアからトレイを受け取り、金貨を袋にしまう。
「ふむ、確かに。これであなたは正式な私の客です。さて、何を占いましょう」
「前回は、街の一角の占い師が私を知っているとは思ってなくてね……油断したよ。さて、何にしようか」
 くすくすと楽しそうにノアは私に何を占ってもらうか考えているようだ。
 その間私は、セバスの背中をゆっくりとなで続けた。


 大事な勝負だから私に何を占ってもらうか考え練ってきたのだろうけれど、受けて立つわ。
 あいにくと、ノアの資料は暗記してきている。何でも来い。



「私が誰か知っているということは、私の好きな色も、家族のことも調べようと思えば調べつくせてしまうからな。そうだ、君は有名な占い師だった」
 ノアはにんまりと悪い顔で笑った。
 だから、何を言われるのかと身構える。


「マクミラン姫君と君は知り合いだから、知っているだろうが。私は本来であれば、マクミラン領にこれほど長く滞在するつもりはなかったんだ。君ともう一度勝負がしたいという理由はあったが……」
「何が言いたいのかそれではわかりませんが……」
 ノアが言葉尻を濁したから思わずそう言ってしまった。
「まどろっこしいのはダメだね、じゃぁ占い師の君に質問する」



「ノア・ヴィスコッティは、ティア・マクミラン姫君に好意を持っているかどうか」
 はい? 思いもよらないことを質問されて思わず固まってしまう。
 セバスがニャーっと鳴いた。
「おや、黒猫君も気になるのかな」
 ノアは楽しそうに笑うと、私の膝の上にのるセバスに楽しそうに話しかける。
 集中よ集中……それで済むの。
 加護を使って質問するだけでいいのだもの。


「あなたは、ティア・マクミランに好意を持っているのですか?」
「それを君が当てるんだろ? マクミラン姫君とのことは社交界の噂にもまだなっていないし、私の心の中にだけ答えがあるのだからその質問を選んだんだ。さぁ、答えてくれ、占い師」


「当てます。だから、私の瞳をみて、私の質問に答えてください。それは本当でも嘘でもかまいません。もう一度聞きます。はティア・マクミランに好意を寄せていますか?」
「――いいえ」
 ノアは少し間をおいてそう答えた。

 ノアの言葉が宙にふわふわと浮かぶ。
『――いいえ』ホント、ホント、ホント。


 毎晩と言っていいほど、ノアは私の部屋の真下の客室でヴィンセントと反省会をしていた。
 真正面からきかなくてもわかっていたことだった。
 ノアとのやりとりは、出し抜かれてたまるまいと奮闘するノアを出し抜くのが楽しかった。
 長い間滞在してくれて、本当に婚約したらどうする気なのかと思っていた。
 でも、答えはやはりそうなのだ。


 私じゃ、彼には釣り合わない。


「わかりました」
「もうわかったのかい? それで答えは」
「あなたはマクミラン姫君に好意を寄せておりません」
「なぜ、そう思う?」
「それはお答えできませんが、あなたがマクミラン姫君に好意を寄せてないことは間違いないことはわかりますので、賭けはまた私の勝ち。どうぞご退出ください」
「理由をきかないと納得できない」
「理由は教える気はありませんが、あなたがマクミラン姫君に好意を持っているかどうかはご自分でわかるのではありませんか?」
 私が強くそういうと、ノアが椅子から立ち上がる。



 これはまずいかも……そう思った時。
 セバスが再びニャーっと鳴いたのだ。
 すると、ノアはひとつため息をつくと。
「これは失礼した。これにて失礼させてもらう」
 そういって、立ち上がり、退出したのだ。


 扉が完全に閉まり、窓からノアが屋敷から離れていく様子をみてから、私はせいだいにため息をひとつついた。
「終わったわね……」
 ニャーっとセバスが鳴いた。

「思ったよりもあっさりと引いてくれて助かったわ、ごねられても加護のことは言うわけにはいかなかったし。とにかくかなり迂回したルートでここまで案内したから、屋敷に戻るまで時間がまだあるだろうし、私たちもさっさと着替えて屋敷に先回りしないと……」
 こうしちゃいられないと、セバスがいるけれど、セバスに背を向けて着替えを始める。
 ベールをはずして、フェイスベールも外す。
 しかし、背中のファスナーが焦ってしまったせいで、噛んでしまったのか下がらない。
「セバス、ファスナーが。お説教は後で聞くから早くおろしてちょうだい。もう何してるの早く!」
 コツコツとこちらに向かって歩く音がした。
 私のスミレ色の髪が絡まらないように持ち上げられ、前に回されてから、ファスナーがほんの少しだけ下げられた。


「セバス、ありが……」
 ゆっくりと後ろを振り返ってお礼を言おうとしたけれど、振り返ったときに視線にはいったセバスが私のほうを極力見ないように視線をそらせていたから、私はアレっと疑問がわいた。
 セバスは私が小さい時からの護衛で、こんな風な事態は今日が初めてではない、もう少し淑女らしくといさめ小言を言うようなことはあっても、こんな風にまるで見てはいけないものを見ないように視線をそらすだなんておかしい……
「セバス」
 思わず名前を呼んでから加護を使ってしまった。

「はい、お嬢様」
『はい』の部分に浮かぶウソ、ウソ、ウソの文字。

 齢50すぎで、護衛としては曲がり角を過ぎたセバスが、直系跡取りである私の護衛を現役でできるのは、変身術を使える貴重な使い手だからだ。
 人から人への変身術を使える人物はごくまれにいるが、こんな風に人から人ではない生き物に変身できる人物となるとそうそういない。
 ただ、あくまで、そうそういないというだけで0ではない。


「ウ……ソでしょ……」
 思わず私の口からそう出てしまった。
「いかがいたしましたか。お嬢様」
 セバスはいつも通り心配そうな顔で様子のおかしい私に話しかけてくる。


 人から人ではない生き物に変身できる人物に私はいまだかつてセバスの他に出会ったことはなかった……

 見慣れた顔のセバスを前にしてゴクリと緊張から喉が鳴る。
 それでも、事実を確認せずにはいられない。
 私の口から言葉がようやく出た。
「……ノア」
 と。
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