喫茶アジフライ

四宮 あか

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オカルトボーイ 寺島 たくと

第1話 オカルトボーイ

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 雨が強く、ゴロゴロと雷が鳴り響く。
 車は大人の人数分あるのが普通のベッドタウンのこの町では、こんな天気の日はバスを利用する客などまずいない。
 打ちつける雨のせいで目の前のバス停が見えなくなるような日は早々に閉店するに限る。

 それでも、15時46分など中途半端な時間には閉めることができないという祖父のころから続いているゲン担ぎのせいで時計が16時を回るのを今か今かと待つことになる。
 鳩がポっとでも鳴いたらすぐに、表にあるOPENになっている札をCLOSEにかえる。

 なのにも関わらず、鳩時計がポッポーと鳴ったちょうどその時、傘をさした葉山のじいさんが現れた。
「ドアを開けてくれてありがとう」
 札をCLOSEにするだけのつもりだったのに、私が開けた扉から葉山のじいさんが店内に入ってきてしまった。
「もう閉店なんですけど」
「残念だったなぁ。まだ札はOPEN。いつもの」
 葉山のじいさんがいつもの時間ではなくこの時間にやってくる日は決まって別のお客さんが来る。

 冷蔵庫でキンキンに冷やしたネスカフェアイスコーヒーに氷を3ついれて、1回それらしくステアする。
 アジフライのシルエットの描かれたコースターの上に置きストローを添える。
 ミルクもガムシロもなしそれが葉山さんのいつものである。

 香りを少し楽しんだ後ストローでいただくのだ。
「うーん」
「いかがいたしました?」
「君の祖父はものすごくまずいコーヒーを出していたのに、気が付いたらこのムカつくほどいつ飲んでも味のばらつきがないようになった。孫娘のしのぶちゃんのコーヒーもいつ飲んでもムカつくほど味のばらつきのない可愛げのない。少しでも違えばいじってやるのに面白みに欠ける」
「優秀なバリスタ監修なので」
 だって、ネスカフェだもの。
 あの大企業が作っているのだ、きっちりと分量さえ守れば、いつものおいしさをご家庭で誰がいれても楽しめるのが売りなのだから。
「優秀なバリスタねぇ。それにしても、有名店のこだわりの味とは全然路線が違うのに、飲むと妙に懐かしい」
 そりゃ、あのネスカフェですから。
 葉山のじいさんの仕事はわからない、でも身につけている物からかなり裕福な家の人物であることがわかる。
 それでも、1966年から日本でも作られるようになったこの製品をどこかで口にした機会はあるだろう。


 葉山のじいさんに続きこんな天候だと言うのに、カランと来店を告げる音が鳴った。
「クリームオレンジ1つ。今度の話しは本物だぞ。ヤバい話だったら上のアイスはハーゲンにしろよ!」
 また厄介なお客様が来た。
「いいともいいとも~。しのぶちゃんが食いつくような本物の話だったら。今日のオレンジジュースの上のアイスはご所望のハーゲンでおじちゃんが奢ってやるよ」
 葉山のじいさんはニカっと笑う。

 黒のランドセルに此処から一番近い小学校の制服をきた彼は、寺島 たくと 10歳である。
 彼との付き合いはかれこれ3年になる。
 こんな天気の日にたまに450円を握り締め、オカルト話を持ってやってくるのである。
 最初はこんな天気の日はあいつが来るんだぞ! だからここにお母さんが迎えに来るまで待つ! という理由だったのだけど。
 その怖い話とやらに葉山のじいさんが、面白がって『その話が本当に幽霊の仕業だったり、しのぶちゃんが食いつくなら。そのメニューにのってるオレンジジュースの上にアイスをのせたオレンジクリームの上のアイスをハーゲンダッツにしておじちゃんが奢ってやる』と言ったのが始まりである。
 なので、ときどき町内や学校で変わった話があると仕入れてきては葉山のじいさんと勝負をするのである。

「全く、どうして決まってこう雨の日に二人揃うんだか」
 ため息を一つつくと。二人がスマホをこちらに見せた。
「「だって、ライン交換したから」」
 なるほど、どうりで二人が見事毎回そろうと思ったらいつの間にか連絡先を交換していたというわけか。


「で? 今日は何?」
「聞いてびっくりするなよ。今日はなんと10個も持ってきたんだぞ10個だぞ」
 ため息をついて、彼の前に着席する。
 どうせこんな日はこの二人しか客はこないのだから。
「今日こそ奢りで特別なオレンジクリームを飲む。まず一つ目からだぞ。怖くて震えあがるんだからな」


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