喫茶アジフライ

四宮 あか

文字の大きさ
上 下
3 / 14
家出少女 佐藤こころ

第3話 ハムカツサンドがおいしい理由

しおりを挟む
「まぁ、今日はハムカツサンド食べながら話しましょ。ソースは少なめだから本来のおいしさではないけれど。そこそこ食べれる」
「私こんなところでご飯食べるような余分なお金は……」
「知ってる。こういう時は、そこに座ってる葉山のじいさんが自分の注文したメニューを半分分けてくれるの。あのじいさんの奢りだから、量は少ないけど食べるといいわ」
 葉山のじいさんは少女にヒラヒラと手を振り、少女は軽く会釈した。

 お歳暮でもらったボンレスハム、なんで今日に限っていつものスーパーで買うペラッペラのハムではなく、お歳暮でもらうような上等なハムがあるって知ってたんだか。
 毎回、葉山のじいさんは冷蔵庫の中身を見透かすかのように、一番いいメニューをズバリと選ぶ。私の昼食と夕食用だったのに。
 でも、客が頼めば提供するいわゆるラッキーメニューが今日はハムカツサンドだから頼まれた以上提供せざるを得ない。


 大奮発して2cmほどに切ったハムを卵液にくぐらせ、小麦粉、パン粉の順で準備する下ごしらえが終わるころにはその間に温めておいた油を入れたフライパンがいい温度になっている。
 パン粉の残りをぱらっとおとしてジュワっと音がたったら。
 ハムカツをはねないようにゆっくりといれるとジュワッといい音を立てる。
 揚げている間に、パンにはバターを塗り一度トーストしておく。レタスを2枚飾り程度に挟む用に準備した後はソース作りだ。
 とんかつソースにウスターソース少々を混ぜる。もう一つマヨネーズに辛子を入れて辛しマヨを作る。
 ここまで準備できたら、一度フライパンからハムカツを引き上げて、油の温度を上げ二度上げする。
 カラッとさせるためにはこのめんどくさい工程は外せない。

 トーストの上にカラリと上がった厚切りのハムカツ。その上に特製ソースとマヨネーズをこれでもかとかけて……あっ、いけない。今日はソース少なめだったけどかけちゃったものはしょうがない。
 レタスを2枚乗せでパンでサンドする。
 このカットが一番大事だ。

 ザクっと1回三角になるようにきれば完成である。
 付け合わせのトマトなんかはない。
 ハムカツサンドと頼まれればハムカツサンドだけを提供するのが喫茶アジフライ流なのだ。

 通常の皿ではなく、こんなとき用の普段より小さめの皿に一つずつ盛りつけて、一つを葉山のじいさんに。
 もう一つは今回のお客である少女のテーブルに置く。


 食べながら話をしない主義の私は少女が食べ終わるのを待つ。
 どうせ客なんかこの時間もう他にこないのだから。
「お行儀よくかじらないのがおいしく食べるコツ」
 葉山のじいさんがよけいなことを言う。
 でも、それにならって少女が大きな口をあけてハムカツサンドにかぶりついた。
 ザクっとした音がこちらまで聞こえる。
 指にソースがついてしまったのをなめとって最後の一口まで無言で一気に食べる様は見ていて気持ちがいい。
 お冷を最後に一気に飲み干したのをみて、話を始めることにした。


「このハムカツ代はあそこにいるじいさんがあなたの悩み相談している内容を聞く代金みたいなものだから。ところであなたの名前は?」
 腹が膨れたことで安心したのかもしれない。
 ポツポツと話し始めた。
「佐藤こころです」
「歳は?」
「13歳」
 アジフライのマークが入ったペーパーナプキンにサラサラとその情報を書いていく。

「あなた本当についてるよココによってさ」
「さっきから何なんですか?」
 ムッとした顔と口調に切り替わる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしはいない

白川 朔
ミステリー
少女(白井めぐり)と誘拐犯の日々。 あなたはなぜ少女を誘拐したのか。誘拐から始まった2人の歪な関係。 少女が出会う孤独と優しさ。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

Rotkäppchen und Wolf

しんぐぅじ
ライト文芸
世界から消えようとした少女はお人好しなイケメン達出会った。 人は簡単には変われない… でもあなた達がいれば変われるかな… 根暗赤ずきんを変えるイケメン狼達とちょっと不思議な物語。

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

〖完結〗インディアン・サマー -spring-

月波結
青春
大学生ハルの恋人は、一卵性双生児の母親同士から生まれた従兄弟のアキ、高校3年生。 ハルは悩み事があるけれど、大事な時期であり、年下でもあるアキに悩み事を相談できずにいる。 そんなある日、ハルは家を出て、街でカウンセラーのキョウジという男に助けられる。キョウジは神社の息子だが子供の頃の夢を叶えて今はカウンセラーをしている。 問題解決まで、彼の小さくて古いアパートにいてもいいというキョウジ。 信じてもいいのかな、と思いつつ、素直になれないハル。 放任主義を装うハルの母。 ハルの両親は離婚して、ハルは母親に引き取られた。なんだか馴染まない新しいマンションにいた日々。 心の中のもやもやが溜まる一方だったのだが、キョウジと過ごすうちに⋯⋯。 姉妹編に『インディアン・サマー -autumn-』があります。時系列的にはそちらが先ですが、spring単体でも楽しめると思います。よろしくお願いします。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

婚約破棄された私と、仲の良い友人達のお茶会

もふっとしたクリームパン
ファンタジー
国名や主人公たちの名前も決まってないふわっとした世界観です。書きたいとこだけ書きました。一応、ざまぁものですが、厳しいざまぁではないです。誰も不幸にはなりませんのであしからず。本編は女主人公視点です。*前編+中編+後編の三話と、メモ書き+おまけ、で完結。*カクヨム様にも投稿してます。

処理中です...