星月の蝶

碧猫 

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1章 呪いの聖女

5話 ゼロの想いと繋いだ未来

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 天界へ転移したエンジェリア達は、商店街で、買い物をしていた。

「ルーにぃふわふわ飴奢って」

「一個だけだ」

「お土産なの」

「土産?」

「みゅ。人間の女の子にお土産。ついでに、悪魔の男の子と、頭のかったい宰相さんにお土産」

 何回前かは覚えてないが、エンジェリアはかつて、この天界を統べる王だった。裏切りにより、天界を落とされたが、今ではこうして姿を隠さずとも歩いていられる。

 エンジェリアは、好物のふわふわ飴をイールグに三袋買ってもらった。

「ふみゅ。ありがと。これで宮殿に行くの」

 エンジェリアは、ふわふわ飴の失敗作をおまけでもらい、大喜びで宮殿へ向かった。

      **********

 宮殿は慌ただしい。それもそのはずだ。エンジェリアが、元王が突然訪問したとなれば、天族達は、大慌てで、出迎えの準備をする。

「ケクル様、甘いもの探査機を持ってきました!」

「姫、この中をお通りください」

 その理由は、裏切りの件以降、より一層エンジェリアを大事にするようになったからだ。エンジェリアの魔力吸収量を上げてしまう、甘味を絶対に持ち込ませないとする検査機器。たとえエンジェリアが、持ってないと言おうと、必ず通される。なぜか、収納魔法の中にしまっているものでさえ感知できる優れものだ。

「ふみゅ。その前にこのお土産預かって」

「土産?」

「ヨジェドとミュニアとアディグアへのお土産。エレの分は買ってません!ほめて?」

「えらいですね」

 エンジェリアは、天族の青年ケルクに褒めてもらい喜んでいる。

「これで王を」

「エレは、これで王をやれてたの」

 エンジェリアは、お菓子探知機を通り、何も持ってない事を証明する。

「では、応接間でお待ちください。姫を歩かせるわけにはいきませんから」

「ここの住民はエレを良く理解してるようだ。エレの迷子まで理解しているとは」

「ふみゅ。毎回毎回お迎え来てくれただけあるの。エレが何もできない事もよぉっく理解してるの」

 エンジェリアは、胸を張ってそう言った。

「ケルク殿だったか。なぜ、彼女を王と認めてる?いくら宝剣の所持者であろうともっと他にいただろう」

「姫様は、王として不合格でしょう。そのくらい、我々も理解しております。ですが、この方ほど象徴に相応しい方はおりません」

「ぷみゅ。けーき、応接間でゆっくり待ってるから、お仕事優先で良いから」

 エンジェリアは、そう言って、応接間へ向かった。

      **********

 エンジェリア達が応接間で待っていると、目的の人物が来た。

「お久しぶりでございます。姫」

「うん。久しぶり。これお土産」

 エンジェリアは、土産を渡した。

「今、魔物化する人がいっぱい出てるの。その人達を元に戻したいの。だから、このお花を使って、みんなを助けてあげたいの。ふるふるってすれば、元に戻せるから」

「喜んでお受けいたします」

「……ヨジェド、けーきもそうだけど、エレはもう気にしてないよ?だから、エレの前で、そんな申し訳なさそうな顔をしないで?エレ、みんなの笑顔が見たいの」

 エンジェリアは、そう言って笑顔を見せた。

「ミュニアも、ヨジェドおにぃちゃんが笑顔だと嬉しいよね?」

「は、はい!お兄ちゃん、姫が来るといつもこんな感じで、もっと笑ってほしいです!」

「義妹は、こういう事に関わらせたくない。笑顔のままでいさせてやりたいって言ってたのに、こんな事気にされて良いの?そんなに気にしなくても、エレは知ってるから。宮殿でお勉強いやで逃げ出して迷子になった時、みんなが天界中を探し回ってくれた事も、魔族との友好を築きたいってエレのわがままのために、今もずっと友好関係を守り続けてくれてる事も」

 エンジェリアが天界の王であった頃、天族と魔族の仲は悪かった。だが、エンジェリアの願いだけで、今は友好関係を築いている。

「五大種族。人間、魔族、天族、精霊、エリクフィア。今の世界のほとんどはこの種族が占めている。その種族で起きる事は、大きな影響があるから、良い影響が出る事したいってわがままも付き合ってくれた。具体的に何するって言ってないのに」

「ですが、我々は」

「エレは気にしてないって言ってるの。それでも、そうやって気にしてそんな顔をしているっていう事は、自ら犠牲になって魔族と天族を守った彼の想いを無碍にする行為だって分からない?」

 エンジェリアの表情から笑顔が消える。真剣な表情で、そう言った。

「守りたい。みんなが笑っていられる世界を作りたい。そんな願いのためだけに、たった一人、下界に攻めてきた天族達の前に立って、自らの首一つで戦争を止めた。そんな彼の想いに応えてやる事こそが、今のあなた達がやるべき償いなんじゃないの!そんなふうに、暗い顔してるんじゃなくて」

 瞳に溜まった涙がこぼれ落ちる。

 天族の国の宰相を務めるヨジェドが、ハッとした表情を見せた。

「あの日の夜、ゼロは、エレにさようならも言わなかった。いつも通りだった。いつも通りの笑顔で、いつ通りエレを寝かしつけてくれた。部屋を出て、一人で泣いていた。謝ってた。守りたいもののために、国を去った。エレがあそこにいれるようにって、事前に全部準備して。そこまでして、守ってくれたんだよ?また、手を取り合える未来を残してくれたんだよ?」

 ゼーシェリオンが、たった一人で天族を止めに行かなければ、戦争になり、もう友好関係など築けなかっただろう。
 今はなかっただろう。

 ゼーシェリオンがした事は、あの頃のエンジェリアに生きる希望をなくす事。だが、未来を残す事でもあった。

「エレのわがままって分かってる。でも、エレを想うなら、ゼロのために笑って!エレにそんな顔ばかりしないで!」

「……申し訳、ありません……いえ、ありがとうございます。姫、その魔物化を治すという話、ぜひ、我々にやらせてください。姫がなんの憂いもないよう、全員救ってきます」

 ヨジェドがそう言って笑顔を見せた。これが、ヨジェドの答えだろう。

「うん。ありがと」

「姫、おれも手伝います。姫の事もありますが、殿下のお役に立ちたいんです。おれがミュニアと出会えたのは、殿下のおかげですから」

「わたしも。アディグアについていくくらいしかできないかもだけど、手伝う」

「うん。ミュニア、良い人に出会えて良かったね。これからも、アディグアをいっぱい頼って幸せに」

「はい!」

「ぷにゅ。それと、原初の樹に会いに行ってくる。一応、報告だけ」

 原初の樹は、その世界の象徴とも言えるもの。原初の樹のある国が管理している。

 エンジェリアは、無断で行っても良いのだが、一応断りを得る事にした。

「姫でしたら、いくらでも行ってください」

「みゅ。ありがと。ゼム、ルーにぃ。行こ」

 エンジェリアは、宮殿を出て、原初の樹の元へ向かった。宮殿を出る時、ヨジェド達が、笑顔で見送ってくれた。

      **********

 原初の樹がある場所は、特殊な結界の中で、道を開かなければ行く事ができない。多くの原初の樹がそうなっているが、中には、荒天候で守られている場所もある。

「ふみゅ。結界の中に入れたの。エレは顔パスだから」

「流石は原初の樹に愛される姫だ」

「みゅ。でも、良く迷子になって、ゼロに連れてってもらうの……ふりじゃないよ⁉︎本当に迷子になってるんだよ⁉︎」

「……嘘だろう」

「ぷみゃ⁉︎なんでばれたの⁉︎」

 エンジェリアは、天族の王として天界へいた頃、ゼーシェリオンとフォルの気を引こうと、わざと迷子になる事があった。

 ゼーシェリオンとフォルは、エンジェリアが、わざと迷子になっている事に気づいていながら、いつも付き合ってくれていた。

 エンジェリアは、その頃を懐かしみながら歩いた。

「そういえば、宝剣の事を聞きたいんだった。忘れる前に二人に言っておくの」

 エンジェリアが忘れていたとしても、ゼムレーグとイールグは忘れないだろうと、思い出した時に頼んでおく。

「宝剣って大丈夫なの?」

「そっか。ゼムは宝剣の事知ってるんだったね。宝剣ミディリシェル。破壊兵器ミディリシェルに与えられた武器。でも、それは使い方次第だと思うの。エレも使い方次第で、こんなにも可愛くなるんだから」

「危険なほど可愛いの間違いだと思う」

「みゅ⁉︎ゼムがそんな冗談言うなんて珍しいの。冗談じゃないかも……ふみゅ。エレ、いつの間にかゼムまでだいすきにさせちゃってたの」

 エンジェリアは、冗談っぽくそう言うが、それが冗談でないという事は、ゼムレーグなら理解してくれるだろう。ゼムレーグの言葉が冗談でないと理解しているエンジェリアのように。

「エレをだいすきなゼムには、エレが良いように洗脳しちゃうの。何も気にしなくて良いよ。ゼロは、いつも守ってくれる。強いゼムおにぃちゃんがだいすきだったから。エレも、ゼムが楽しく魔法使ってる時がだいすきだった。だから、ゼムはエレに洗脳されちゃって、魔法使っちゃうの」

 何かあった時、ゼムレーグに使いたくない魔法を使う事を強いる可能性がある。その時のために、エンジェリアの洗脳を口実に使ってもらうように仕向ける。

「……大丈夫だよ。エレ、オレは、エレを守るためなら、洗脳なんてされてなくても魔法を使う。ゼロを守るためなら、喜んで魔法を使う。ゼロに兄らしい事をしたいから。少しでも、ゼロの強さに応えたいから」

 ヨジェドとの会話が、ゼムレーグに前を向かせるきっかけにでもなっていたのだろう。

 ――迷ってないの。やっぱり、まっすぐなゼムだいすき。エレとゼロのおにぃちゃんって感じがするの。

「みゅ。頼りにしてるの。ゼムの魔法は、繊細できれいで、とっても強いから」

 世界全てを凍らせる事ができるほどに。エンジェリアは、その事を良く知っている。

 ゼムレーグが、笑顔を見せるエンジェリアの頬に口付けをした。

「ゼロのようにはいかないけど、オレも魔力を食べれるから。それに、氷の加護でエレを守れる」

 そう言って、ゼムレーグが、エンジェリアに、笑顔を返した。
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